琴陵姉妹の異世界日記

もっけさん

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容子の追憶と暗躍

133.姉失踪事件

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 姉・琴陵ことおか宥子ひろこの名前が、SNSにトレンド入りしたことで私はその事実を知った。
 自殺を図った男の子を助ける代わりに、線路に落っこちるとは馬鹿だ。
 その現場に居合わせていた人達は、さぞ凄惨な光景を目の当たりをしたのだろうと思い込んでいた。
 しかし、その実は宥子ひろこの遺体が無く、忽然と姿を消した事実だけである。
 一体何が起きているのだろう。
 焦る気持ちを押さえながら、その時の状況を知る為に事故現場となった駅に押し掛け監視カメラの映像を見せて欲しいと頼み込んだが、許可されることはなかった。
 弁護士を雇うお金もない。
 姉は、一体どこへ行ったのだろうか。
 一日、二日と時間が経つにつれて、焦燥感だけが胸の中に燻る。
 極力頼りたくなかったが、私はとある人物に会いに行った。
 付き合いは、高校時代からで彼此かれこれ十年ほどになる。
 久世くせ苧環おだまき、私達の師であり、巨額の金を払えば動く霊能力者だ。
 彼女が拠点にしているマンションに足を運び、私はチャイムを連打した。
 ピンポンピンポンと、けたたましい音が響く。
 近隣住民の迷惑を気にしている余裕はない。
「突然な訪問やな。相変わらず、辛気臭い成りをしとるなぁ。ああ、皆まで言わなくても分かってるから説明は要らん。宥子ひろこのことで来たんやろう? 上がりなんし。そこでチャイム鳴らし続けられるんは、近所迷惑や」
 足の踏み場もないゴミ屋敷に、容子まさこは眉を顰める。
久世くせ師匠も、相も変わらず部屋が汚いっすね」
「いけずなこと言いなさんな。ちょっと仕事が立て込んでて、掃除が出てきてなかっただけや。宥子ひろこ、一躍時の有名人になっとるな」
宥子ひろこの遺体がない。飛び込み自殺した男の子を庇ってホームに落ちたところを多くの人が目撃してる。でも、遺体が見つからない」
 私の言葉に、久世くせは黒く艶やかな髪を指に絡ませながら言った。
「そんなに心配しなくても、容子まさこは戻ってくるで。正確な日時までは特定出来んけど、二、三日以内には自宅に戻るやろうから安心しい」
 何か視えているのか、久世くせの言葉に私はホッと安堵の息を吐いた。
「……神隠し的な感じですか?」
「神隠し…上手いこと言うねぇ。そやね、言葉にするんなら神隠しが一番近いなぁ。今後、容子まさこの行動次第でそれに関わる事になるやろう。情報代は、掃除で勘弁したるわ」
「……ちっ」
 お金を巻き上げられなかっただけ良しとするべきか。
 私は、丸一日かけて汚部屋をピカピカに掃除して自宅に帰った。
 久世くせの言葉通り、宥子ひろこは失踪から三日目に戻ってきた。
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