琴陵姉妹の異世界日記

もっけさん

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ハルモニア王国 王都

96.Crema、店を構える

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 オンラインショップとは別の電話番号を取得して、求人募集を掛けたら応募が殺到した。
 電話応募は、回線が早々にパンクしたのでWEB応募か履歴書送付の申し込みに切り替えた。
 残念なことに一階から四階の改装工事が、完全に終わっていない。
 最終面接は、住居である五階で行われることになった。
 厳選した人物以外は、全員サイエスの自宅に移って貰うことになる。
 受付員にワウル・キャロル・マリー・ジョン・ニック・イーリンの六人。
 面接官は私、ルーシー・アンナ・楽白。
 覆面面接官は、紅白・赤白・サクラだ。
 面接場所は、リビングとダイニングに急遽仕切りを作り会議室っぽくしてみた。。
 面接者は、声が掛かるまでダイニングキッチンで待機して貰う。
「面接の流れは、こんな感じだね。何かあったら念話で随時相談でOK?」
 ザッと面接の流れを説明していると、容子まさこが不満顔で異議を唱えて来た。
「私も面接官したい!! 何で私は面接官じゃないの? 一応、副社長なんですけど」
「お前、副社長(笑)じゃん。お飾り面接官は、要りません。はい、この話はお終い」
 パンッと手を叩いて強制的に話を終わらした。
「酷い!!」
 容子まさこが、面接官やりたいと駄々を捏ねる。
「物作りしか興味がない奴に面接が務まるとは思えないから却下」
「新事業でアパレルとアクセサリーの部門作るんでしょう! 私の部下になるってことじゃん。自分の部下は、自分で決める」
 床を転がり、泣きながら直訴してくる容子まさこに正直ドン引きだ。
 大きな溜息を一つ漏らし、仕方がなく容子まさこを面接官に加えた。
 容子まさこは、その場でぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいる。
 大喜びする様は、25歳にもなったババアがすることではないと思うが口には出さなかった。
「選抜したメンバー以外は、サイエスで待機。待機中は、休憩時間になるから羽伸ばて良いよ。ただし、勝手にダンジョンや冒険者の依頼を受注しないように! 指名された者は仕事になるが、特別手当が出るので頑張ってね」
「因みにその特別手当は、私も出るんだよね?」
 シュパッと挙手しながら特別手当について、容子まさこがクレクレをかましてきた。
 アンナの眉間に皺が寄ったが、それはそれ。
 これは、これである。
「休日返上で働くんだから、休日手当とは別に出す!」
「じゃあ、残業代も!」
 すかさず残業代の話の流れを作った容子まさこに、私はGJグッジョブと親指を立てた。
「寝言は寝てから言って下さい。お二人に残業代支払ったら、資本金が足りなくなります。会社が軌道に乗るまでは、無理です」
とアンナが容赦なく遮って、残業代について一刀両断した。
「じゃあ、アンナも残業代なし!」
「私は役職手当を頂いておりませんので、残業手当は正当な権利です」
「私にだって権利はあるのにぃぃい!!」
 おんおんと泣く容子まさこを横目に見ながら、実際残業代を払うとなれば、沢山の人を雇用できる。
 タダ同然で働かせることが出来る貴重な人材に、くれてやる金はない。
 残業代は出せないとなると、役職手当の増額が妥協だろう。
「役職手当の増額する代わりに残業代は無しでどう? アンナも頭ごなしに却下されたら、働く気力が削がれる」
 私の妥協案に、アンナも馬鹿正直に残業代を支払うよりは安いと考えたのか頷いた。
「役職手当を30万円固定にする代わりに、残業代なしです。それで構いませんか?」
 役職手当が、一気に20万円以上が裏がありそうだ。
 そんな事を考えずに、容子まさこは二つ返事でOKしている。
「分かった。それなら文句ないわ。宥子ひろこも同じ条件なんだよね?」
 ギロッと睨みながら釘を刺された。
 チッ、感の良い妹だ。
「ハイハイ、私も同じ条件ですよ! だから、これ以上文句言うなよ」
「了解」
 容子まさこは、ブーたれた顔をしたが最終的には納得したので良しとしよう。
「じゃあ、面接の準備するから指名した人とカルテットは残ってね。それ以外は解散」
 エレベーターの玄関を私が押して開けると、サイエスの自宅の玄関に繋がっている。
 指定した人以外全員をサイエスへ送り返した後、リビングで面接について説明を始める。
「よし、じゃあ面接について説明するよ。まずは、この場所で赤白・紅白・サクラは身を隠しながら面接に来た人の様子を監視。変な奴が居たら報告。特にサクラ、見つからないようにな!! それから、受付はワウル・キャロル・マリー・ジョン・ニック・イーリンで交代で回すこと。ちゃんと休憩は取るように。面接の予約の電話対応、面接に来た人から履歴書の回収とお茶出し係が主な仕事になる。マニュアルは目を通して頭に叩き込んでおくこと。ルーシーは、面接に来た人の顔と名前を憶え頂戴。楽白は、虚偽がないか教えてね。採用の可否は、アンナと私で決める。合否は、後日メールを送る。容子まさこは、鑑定持っているんやから良さそうな人が居たらキープでチェックした後に、私かアンナに報告すること。今回の募集で落ちても、千葉の工場で働いてくれる人の人員確保したい。千葉の工場が完成するまでの間は、在宅で仕事してもらい給与は歩合制にする。実際に完成したら、引っ越しして貰って住込みで働いて貰うのが条件だけどね。引っ越し代は、全額会社持ちになるので、慎重に選ぶように」
「OK。宥子ひろこ、市場調査したいからキャロル達を借りて良い?」
「良いけど、面接前には戻るように」
「了解」
 ミーティングは終了し、WEB応募のリストを抽出して手分けして電話を掛け捲る。
 出ない奴には、伝言に吹き込みして折り返しを待つ。
 掛かってきた電話は、随時手の空いている者が受ける体制を取った。
 掲載一週間で結構な人数の応募があった。
 百人を軽く超えた辺りから覚えていない。
 実際に面接日を指定したりと忙しかった。
 電話だけでお腹いっぱいになったわ。
 そして、面接開始日から地獄を見た。
 分刻みのスケジュールで、本当に色々な人が来た。
 虚偽の履歴書だったり、自慢話ばかりする中身のない人だったり、自己アピールが矛盾していたりと酷い。
 面接のチェック項目を作り、パソコンで採点するシステムを作った。
 犯罪歴や窃盗癖のある人は勿論却下。
 人格優先で募集すると、やっぱりスキルが足りないんだよね。
 全員の面接を終えるのに三週間かかった。
 その間、着工で来た親方と打ち合わせするのに席を外したりと仕事に忙殺された。
 容子まさこが欲しがった人員も確保出来たし、結果オーライだろう。
「一階を優先的に着工して貰ったから、直ぐにオープンする事は出来るけど……。接客スキルが足りないし、経験も足りない人ばかりだからなぁ」
「完全に丸投げは無理ですね」
 アンナに痛いところを突かれて撃沈した。
 新卒・中途採用含めて募集を掛けたが、面接時の履歴書に鑑定で見えたスキルをメモしていた。
 接客の経験はあっても、殆どがヒラなのだ。
 マネージャークラスの人は居なかった。
 これは、非常に不味い。
 唸る私に対し、容子まさこは呆気らかんと言い放った。
「最悪オープン日を延ばして、教育すれば良いじゃん。アンナが教育すれば無問題♪」
 確かに、商業ギルドでもそれなりの地位に居た。
 接客のノウハウを教えるなら、それはそれでアリだと思う。
「アンナ、暫く彼らが使い物になるまで任せて良い?」
「良いですけど、特別手当出ますよね?」
「……はい、出します」
 流石金の亡者。
 しっかり特別手当を要求してきた。
 特別手当の金額を交渉して、一月30万円で決着がついた。
 本当は、もっと安く済ませたかったのに……とは口が裂けても言えない。
 アンナ指導での社員教育がスタートし、その一ヶ月後に株式会社Cremaクリマの新店舗がオープンした。
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