琴陵姉妹の異世界日記

もっけさん

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ハルモニア王国 王都

82.琴陵式ブートキャンプ 後編

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「ウガーッ!! 嫌だ~嫌過ぎる~。こんなおっさんばっかりのパーティーなんて酷い! 潤いがないよ」
 私は、琴陵ことおか容子まさこ
 宥子ひろこに命じられて、ボブ・イスパハン・ジョンの男衆を引き連れて絶賛パワーレベリング中である。
 むさ苦しいおっさんパーティで、唯一の癒しが楽白だけとは鬼畜の所業だ。
 私の髪の中でうごうごしているので、何か怪し可愛い踊りでも踊っているんだろうか。
 気楽で良いね、お前は。
「さて、駄々を捏ねたところでレベルは上がらない。仕方がないので、サクサクモンスターを倒しに行くよ~」
 原付バイク二台を拡張空間ホームから出し、三人に指示を出す。
「ボブとイスパハンは、そっちの原付に乗れ。ジョンは、私の後ろな」
「あの、乗り方が分からないんですが」
 困ったような顔をする二人と、原付バイクに興味津々で嘗め回すような目で見ている者が一名。
 反応は、様々だ。
「イスパハン、バラしたら半殺しな」
「わ、分かった」
 念のため釘を刺しておくと、イスパハンの顔が少し青くなり冷や汗を流していた。
 こいつ、解体する気満々だったな。
 乗り方を口頭説明するよりも、実践で体験した方が覚えるだろう。
 エンジンの掛け方、減速・加速の仕方、停止方法を教えた。
 入れ替わり立ち代わりで一時間も乗れば慣れてきたのか、それなりにみれる形にはなったと思う。
「時間も限られてから、さっさと森の奥を目指すよ」
 索敵使って森の最深部を目指す。
 森の最深部は、数は少ないが強いモンスターがいる。
 こいつらのレベル上げには、丁度良いだろう。
 原付バイクに引き殺されたモンスター多数。
 サクラの聖域sanctuaryが無くても、中層部までは車体が少し傷つく程度で済んでいた。
 王都周辺のモンスターは、弱いのか?
 宥子ひろこ曰く、RPGゲームを模倣した世界らしいので、街を移動すればモンスターのレベルも上がると思っていた。
 現実は、違ってガッカリだ。
 引き殺したモンスターは、その都度バイクを停止して、ドロップ品を回収している。
 原付バイクで森の最深部手前まで来て、原付バイクから降りた。
「こっからは、実践訓練です。一応、死なないように各種ポーションもたんまりあるから大丈夫。武器は、これ使って良いよ」
 拡張空間ホームから武器出して、三人をジャイアントアントの群れの中に放り込んだ。
「イヤリングがある限り、余程のことがない限り死なないから安心してね。私も後方支援する(予定だ)から頑張れ」
と言ったら、
「ギャーッ!!」
「ちょっ、死ぬ死ぬ死ぬ!」
「助けておかあちゃーん」
なとど、男衆が腑抜けた事をほざいた。
 私は無言で結界を張って、その場でお茶セットを取り出し、観戦することにした。
 別にイラッとしたからじゃないよ?
 根性なし共め、少しは男気見せて戦えっつーの。
 武器を滅茶苦茶に振り回しても、ちゃんと体のどこかに当たる命中率。
 ああ、素晴らしきかな。
 流石、カルテットが人の素材をくすねて制作した武器だ。
 あいつら、人の目を盗んで勝手にチートアイテム作るから売るに売れないと宥子ひろこが嘆いていた。
 箪笥の肥やしになっていた物が、奴隷達の手に渡り日の目を見た事で武器も本望だろう。
 正直、売れない武器を量産するのは止めて欲しい。
 それで怒られるのは、何故か私のは理不尽だ。
 宥子ひろこに幾らカルテットが勝手に作ったと言っても、返ってくる言葉は決まって「監督不行き届き」の一言である。
 思い出しただけでムカついてきた。
「頭狙え。一撃で死ぬよ~」
「「「もっと早く言えぇえ!!」」」
 着実にモンスターの数を減らしてきているところで、アドバイスしてあげたら何故か怒られた。
 理不尽だ!
 ジャイアント殲滅戦も収束し、私達はドロップアイテムを回収した後、次の狩場へと移動した。
 ブチブチ文句を言われたが、無視スルーだ。
「お前ら、レベル80になるまで休憩はなし」
 別に腹いせで言っているわけじゃないよ!
 これも、レベル上げには必要な工程なのだ。
 レッドボアやアースドラゴンなど縄張りに彼らを放り込んでは、悠々自適に戦闘観戦しつつ、時々アドバイスを送る。
 鬼だ悪魔だと言われたが、パワーレベリングしても実践してなければ意味がない。
 チートな武器持っているんだ。
 死にはしないと何度言えば、そのスカスカな頭に届くのだろうか。
 宥子ひろこお手製のHP・MPポーションもあるので、彼らの腹がタプタプになるまで飲ませて戦わせた。
 最後は、死んだ魚のような目をしながら無言で原付バイクに乗って集合場所へと戻った。


 琴陵ことおか姉妹による鬼畜ブートキャンプとは違い、アンナチームは緩い感じで戦闘をしていた。
 サクラの張った結界内から、ただ魔法を打つだけの単純作業をルーシー・キャロル・マリーの三人は延々と繰り返している。
「基本は頭を狙って窒息死させるか、首と胴体を切り離します。飛ぶ魔物は羽を狙って攻撃して下さい。足を狙って動けなくするのもありですよ」
と、えげつない戦術をアンナは教えていた。
「「「は、はい……」」」
 怖くて口答え出来ないと、三人はアイコンタクトをし合い言われた通りに魔法を放つ。
 魔力はあっても、魔力操作や熟練度が足りないので明後日の方向に飛んだり、魔法が不発に終わったりと様々だ。
「慣れれば出来ますから、焦らずゆっくりやりましょう。あれは、単なる的です。結界から出なければ、怪我したりしませんから」
 ホホホッと上品に笑いながら、見本と称して上級魔法をぶっ放すアンナに、三人とも顔が引きつっている。
 琴陵ことおか姉妹のようなブートキャンプにはならなかったが、アンナも格上の敵を見つけては指示を出して攻撃させて強制戦闘をさせている。
「キャロルは、土魔法で相手の足場を崩して! ルーシーさんは、青い炎が出るまで魔力を練ってダイアウルフの顔面にぶつける!! マリーさんは、ウィンドカッターで首と胴体を切断を意識して下さい!」
 ガンガンとサクラの結界を破ろうと結界に体当たりをするダイアウルフに、一斉に魔法攻撃が炸裂する。
 敵イコール的という考えを持って攻撃しろ、と激を飛ばすアンナに対し、三人は涙目になりながら攻撃を続けた。
 スタボロなダイアウルフは、あと一歩のところで逃亡した。
「チッ、逃がしてしまいましたか」
 柄悪く舌打ちするアンナに、誰も声を出せないでいる。
「大分精度も上がってきたことですし、一度皆と落ち合いましょう」
 アンナ式ブートキャンプは、こうして幕を閉じたのだった。
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