琴陵姉妹の異世界日記

もっけさん

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ハルモニア王国 王都

70.サイエス飯は美味しくない

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 無事に商談が終わった。
 容子まさこが、お前らは鬼だと叫んでいたが無視スルーだ。
 生産系と嘆く愚妹よ、自分の行動を顧みろ。
 一体どこを指して生産系だと言い張る気だ。
 どう見ても前衛物理特化型だろう。
 出会うモンスターをボコボコにしている奴が、言って良いことではない。
「自称生産系は放っておいて、外食しようよ。お腹減った」
 頭使うとお腹が減るのだよ。
 私の提案に、容子まさこの意識がご飯に向いた。
「人気のお店で食事キボンヌ! 王都なら、きっと美味しい物があるに違いない!」
「人気店ですね。それでしたらカンテサンスは如何でしょう? 貴族や豪商向けのお店です」
 ドレスコードはクリアできると思うが、富裕層向けの店か。
 値段も高そう。
「アンナは、そこで食事したことあるの?」
「一度だけ利用したことがあります」
「他には? もっと気軽に入れるお店で美味しいところはないの?」
 堅苦しいのは嫌だと容子まさこが言うと、
「ククルという食堂は、安くて美味しかったです」
と答えた。
 過去形なのが気になるが、彼女が美味しいというなら外れはないだろう。
「ククル食堂でご飯にしよう」
 セブールの宿の飯は、不味かった。
 叶うならば、値段と同じくらい美味しいものが出たら良いな。
「賛成! いざ行かん、美味なる世界へ」
 アンナを急かして、私達はククリ食堂へと向かった。


 レトロな外観だが、店内はどこもピカピカに磨かれている。
 調度品も品があって、食堂と言うよりもレストランに近い。
 アンナがウエイターに告げると、
「個室でお願いします」
「こちらで御座います」
と綺麗な仕草で案内された。
「ここまで丁寧な接客されるとは、ちょっと想定外だよ」
「食堂というより、レストランだよね」
 ボソボソと容子まさこと話ながら、個室に入る。
 料金は割高になるが、今後の事も話し合いたいので、人目を気にせず料理を楽しむと思えば安い出費である。
 アンナが適当に注文した後、容子まさこがテーブルにペットボトルのお茶を出した。
「何でお茶? 飲み物頼めば良いじゃん」
「お水だけで銅貨5枚は、ちょっと無いわ。酒の方が安いって、どんだけよ」
 文句を言いたい気持ちは分かるが、堂々と飲料を持ち込むのはどうかと思う。
「お茶好きなん選んで良えで」
<カルテットはこっちな>
 カルテットには選択権が無いのかは、問答無用で皿にミネラルウォーターが注がれている。
 私は可哀そうだとは思ったが、口を挟むと嫌がらせ飯になるので突っ込まないでおく。
<ふわぁ~やっと一息吐けるわぁ>
<せやせや、アンナと宥子ひろこがタッグ組んだら怖いわぁ。あのおっさん涙目やで!>
<どこぞの追い剥ぎみたいでしたのぉ~>
「キシュッシャー」
 カルテットの毒舌に、私は最近慣れた気がする。
 四匹揃うと姦しさが増す。
 楽白だけは、未だに念話が通じないのは何故だろう。
 念話レベルは上がっているのに、やはり進化しないと念話が使えないとか?
 可愛いけど、テーブルの上で変なダンスは止めてくれ。
 気が抜けるから。
<あんた等の飯は無いで。>
 容子まさこの指摘に、四匹はガーンッ肩を落とした。
 そんな絶望した顔で、こちらを見てくるな。
 サクラと楽白に至っては、涙をボロボロと流している。
 楽しみにしていたんかい!!
 逆に紅白と赤白は、果敢にも容子まさこに食ってかかっていた。
<そんな酷いわぁ! 鬼やで!!>
<せや! 折角お店に来たんやから何か食べさせてーな!>
 ギャンギャンと猛抗議している二匹は、念話だが五月蠅い。
 念話を切ろうかと思ったが、勝手に切って容子まさことカルテットの間で変な約束とかさせられたら困るので我慢だ。
「駄目です。嫌です。許しません。食べ物の恨みは恐ろしいと身をもって知るが良い。あれだけ食い散らかした報いを受けろ。餌が食べられるだけマシと思え!」
 容子まさこが何を考えているか、手に取るように分かるよ。
 流石に可哀そうに思ったのか、アンナが容子まさこに提案した。
「まぁまぁ、容子まさこ様。王都に来たんですし、後に彼等にも沢山頑張って働いて貰う事になるのですから食事ぐらい大目にみましょう」
 カルテットに助け船を出した。
 アンナは、カルテットに恩を売った方が何等かのメリットがあると考えたのだろう。
 アンナを挟んで容子まさこが睨んでくるが、私はソッと目を反らした。
「商談が成功したんだから、今日くらい良いんじゃない?」
「そうですよ。お祝い事は皆でした方が良いと思いますよ」
 私とアンナの言葉に、容子まさこは大きな溜息を吐いて渋々許可を出した。
「……今日だけだからね。明日からは乾パンとマウスだからな!!」
 許したが、やっぱり容子まさこ
 釘を刺すのは、忘れない。
 丁度良い所で食事が配膳されたので、取り皿に四匹分の料理を乗せ、皆の席に料理が行きわたったので頂きますをする。
「「「頂きます」」」
「キシャッシャー♪」
<<<頂きます(ですの~)>>>
 食事の挨拶を合図に、カルテットがガツガツと食事を開始した。
 そんなに嫌か、マウスと乾パン生活。
 分かるわぁ。
 嫌がらせ飯が続いた日には、食欲が急激に落ちるもの。
「んー……容子まさこの料理の方が美味しい。セブールの食堂よりは美味いかな」
「アンナが過去形で言った理由が、何となく分かった気がする」
 不味いとは言わないが、手放しで称賛出来るほどの旨さではない。
 それは容子まさこも思ったみたいで、拡張空間ホームから調味料一式を出している。
 各々好き勝手に調味料を足して何とか完食した。
「この調味料、商品化すれば売れますね。売りに出す気は、ありませんか?」
 平常運転なアンナに、容子まさこがドン引きしている。
 アンナの商根逞しさは、通常搭載されているものだと、いい加減慣れろ妹よ。
容子まさこのお手製だから、量産するんはちょっと難しいかな」
 流石に調味料まで手を出すと、キリがない。
 ストップを掛けてみたら、正論で反撃された。
「調理レシピを売れば良いんです! 容子まさこ様が作ってくれた料理のレシピも、絶対に売れます。抱き合わせ販売なんてどうでしょう?」
 うふふ、と綺麗に笑うアンナさんにヒィッと小さな悲鳴を上げる容子まさこを見て、私は小さな溜息を吐いた。
 言い出したら聞かないアンナを相手に、真向から立ち向かう勇気はない。
 アンナがお金になると断言するなら、それに乗っかるのは悪くない。
 むしろ商機だ!
「いやぁ、それは無理があると言うか……。私の手料理なんて底が知れてるって!」
「いえいえ、本当に美味しいですよ。此方は調味料も少ないですし、料理のレパートリーも多くありません」
「良いんじゃない? レシピを売れば、お金にもなるし美味しい物が食べられるようになると思うよ」
「ドワーフの洞窟で素材集めをするにしても、色々お金がかかりますので稼げる時に稼がないと」
 容子まさこは、アンナの言葉にぐぬぬぬと考えいる。
「もう一声!」
「素材の制限を一部開放するってどうよ?」
「分かった。それで手を打つよ」
 負担が大き過ぎるとぼやいている容子まさこに対し、ニッコリと笑みを浮かべたら沈黙した。
 食堂を出る頃には、次の商品についてアンナと話し合い、容子まさこだけが一人会話に入れず置いてきぼりになっていたのは言うまでもない。
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