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セブール
48.プレゼンは完璧です
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冒険者ギルドでのデモストレーションは大成功したので、今は商業ギルドに来ています。
容子率いる契約チームは、商談の邪魔なので一旦宿に戻り置いてきました。
いやね、一緒にいるのは楽しいけどさ。
商談中に念話されると困るのよ。
切実に。
冒険者ギルドでも、表面上は大人しくしてたけど念話では五月蠅かった。
気が散るので、契約カルテットは容子に押し付けました。
基礎化粧品+シャンプーなどの布教活動をするため商業ギルドに来ているのだ。
冒険者ギルドだけだと、他のギルドに恨まれる。
薬師ギルドも回る予定だが、生産ギルドには行かない。
行った方が良いのだろうが、あそこは容子の領分だろう。
職人気質な相手と、上手く商売の話が出来る気がしない。
中身より器について、根掘り葉掘り聞かれそうだ。
そういうのは、容子の方が合っていると思う。
持ち込んでも、入れ物に興味を示し中身には興味ないだろう。
その為、生産ギルドが持ち込んだ商品に興味を示すとは思えないと判断した。
容子が良い例だしね。
『化粧水とか付けません。面倒臭いからオールインワンジェルで済ませます』っていう人間には向かない代物だ。
正直に言うと、デパートのコスメもドラッグストアのコスメも効果は余り変わらない。
以前、某デパートのコスメ売り場で肌年齢テストを受けたら実年齢と同じだった。
それから洗顔と基礎化粧は欠かさず行ったが、グラフは横一列なんだよね……。
サイエスに来て、自分でポーションや化粧水など作るようになってから、劇的に肌が若返った。
清掃だけだと肌は若返らないが、併用してこそ若々しさが保てるのだ。
今度デパートに行って、肌年齢チェックをしてみよう。
勿論、容子も引きずって行こう!
多分、肌年齢が若返っていると分かればスキンケアに力を入れてくれるだろう。
なんて事を考えていたら、商業ギルドを危うく通り過ぎるところだった。
危ない危ない。
「済みません。ヒロコと申します。アンナさんは、いらっしゃいますか?」
受付カウンターにいるお姉さんに聞いてみたら、丁度商談中とのこと。
時間が掛かるなら、先に薬師ギルドに寄った方が良いかな?
「時間が掛かるなら別の日に……」
と言いかけたところで、止められた。
それも食い気味に。
「いえ、大丈夫です。アンナは無理ですが、今なら私の手が空いてますので是非対応させて頂きます」
「あ、はぁ。宜しくお願いします」
「クレハと申します。宜しくお願いします」
何か日本人に居そうな名前だ。
「あ、はい。宜しくお願いします」
「こちらへどうぞ」
通されたのは、先日と同じ部屋だった。
「本日の商材は、この間と同じものでしょうか?」
「いえ、別の物です」
と答えると、外れを引いたみたいな顔をされた。
商人としては、駄目なタイプだ。
前回は大きな取引をしたが、あくまで担当はアンナである。
クレハは、私がアンナから鞍替えするとでも思ったのだろうか。
そうだとしたら、それはそれで不快だ。
しかし、こちらも時間がない。
今回は、クレハで良いか。
どうせ、モニターしてもらいたいだけだからね。
「今日は、こちらを持ってきました」
拡張空間ホームから、基礎化粧品と洗髪セットをテーブルに並べる。
見たこともない商品に、どうやら戸惑いを隠せないようで頭に? マークが飛んでいる。
「これは一体……」
「基礎化粧品セットで中身は、化粧水・乳液・美容液・石鹸になります。こちらは、洗髪セットでシャンプーとリンスになります」
「石鹸は分かりますが、それ以外がどのような用途で使われるものなのでしょうか?」
「基礎化粧品セットは、美肌の魔法薬です。洗髪セットは、美髪の魔法薬です」
はい、嘘!
大嘘ぶっこきました。
魔法薬なんかじゃありません。
そんなものがあったら、私がお金を出して買いたいわ。
どれも使い方を間違えなければ、美肌・美髪が手に入るのは検証済の代物だ。
とはいえ、被験者が少ないのでモニターをしてくれる人を捜しに来ている。
勿論、売り込みも今回の目的である。
「わたくし共のところでは、百聞は一見に如かずという諺があります。実際口で説明するより体験して頂くのが一番です。髪が洗える場所はありますか?」
「ギルド員専用の浴室がありますので、そちらをご案内致します」
戸惑いながらも、ギルドが所有している住居スペースの浴室に案内してくれた。
流石商業ギルドは、冒険者ギルドよりも広くて大きい!
お風呂も沸いているし、お湯は使いたい放題だ。
お水もちゃんと出る。
いつでも利用できるようにしているところを見ると、福利厚生がしっかりしている。
お金掛けているなぁ。
私もこんな浴室があったら、毎日足を伸ばして寛げるのに。
羨まけしからん!
いかん、いかん。
変な妄想をしてしまった。
「では、洗髪から始めます」
ポンチョの合羽を着て貰い、並べたローテーブルの上に寝転がって貰う。私も合羽+素足です。
頭はテーブルからはみ出しているが。首には、ちゃんとビニール袋に入れたエア枕を挟んでいますので痛くない!
顔には手ぬぐいを掛けた。
お湯の入った桶をいくつも用意し、準備万端だ!
「では、髪の毛濡らします。動くと濡れるので動かないでくださいね」
髪を濡らし、軽くマッサージしながら汚れを落としていく。
二度、お湯を掛けて全体を濡らす。
冒険者ギルドと異なり、比較的汚れが少ない。
シャンプーを手に取り、手で泡立ててから髪を洗う。
が、やっぱりというか案の定というべきなのか一度では汚れが取れなかった。
二度目で泡立ち、シャンプーは終了。
水を軽く切ってからリンスを馴染ませる。
使い捨てのナイロンキャップを頭に被せて、手ぬぐいを首元に撒いて貰う。
今度は洗顔と基礎化粧品の使い方を説明して、最後にリンスを洗い流し髪を乾かしたら完成だ。
所要時間1時間。
めっちゃ疲れた。
そして、元の部屋に戻って商談の続きに入った。
「体験して頂いたように、これを使うと美肌・美髪になれます。ただ、個人差がありますので合う方と合わない方がいらっしゃいます。こればかりは、改良を重ねるしかありません。今は、この商品のみになります。如何でしょう? 売れそうでしょうか?」
「勿論です!! 肌も明るく白くなって髪もサラサラ艶々ですよ。しかも良い匂いがしますし。絶対売れます」
掴みは上々だ!
モニターを募って、購買意欲を煽ればアンナが販路を作ってくれるだろう。
「ありがとう御座います。ただ、販売するにしても知名度がありません。石鹸は大丈夫でしょうが、それ以外は知らない方の方が多いのではないでしょうか」
「そうですね。確かに、いくら良品でも知らない物を買おうとはしませんね」
模範解答ありがとう。
これを待っていたのだよ。
「そこで、商業ギルドの方に協力をお願いしたいのですが、10名にこの商品を使って貰い使い心地やその後の経過を確認させて頂きたいのです。商業ギルドであれば、各地から商人が訪れます。美肌・美髪のギルド員が居たら、何故そんなに綺麗になれるのか疑問に思うと思います。そこで、この商品を案内して貰えれば認知度は上がると思います」
そう言い切ったところで、ドアがノックされた。
何だろうと思ったら、
「失礼します」
との声と同時に、アンナが部屋の中に入ってきた。
「ヒロコ様、お待たせして申し訳ありません。クレハさん、私が対応しますので退室して構いませんよ」
笑顔で退室を迫るアンナさんが、黒い笑顔を浮かべている。
目が笑ってなくて超怖い。
しかし、今クレハを退室されると困る!
また、一からやり直しになってしまうので残って貰うことにした。
「いえ、同席して下さい。クレハさんに体験して貰ったのですが、基礎化粧品セットと洗髪セットを売りたいと思っています。簡単に申しますと、基礎化粧品セットは肌のお手入れをするものです。美肌が手に入ります。洗髪セットは、美髪にするためのものになります。品は良くても、認知度がありません。現状では、売り出せない。そこで、商業ギルドの方に試して貰いたく持ち込みました。クレハさんとアンナさん、後八名はアンナさんが決めて下さい。出来れば女性で人と顔を合わせる仕事をなさっている方が好ましい」
アンナは、クレハを凝視して成程と小さく頷いた。
「良い匂いがしますね。それに髪に艶があります。肌の色が明かるく、色白になってますね」
アンナさん、凄い人やわ~。
見ただけで分かるんだね。
髪はともかく、肌まではちゃんと見ないと分からないと思うんだけど。
「クレハさん、化粧はどうなさったのかしら?」
しっかり見てらっしゃる。
顔が、オコから激オコに変わったね。
ごめんねクレハさんと、心の中で謝っておくよ。
「私の商品を試すために落として貰いました。叱らないであげて下さい」
「ヒロコ様がそう仰るのであれば、仕方ありませんね」
「使い方などは、クレハさんに確認をお願いします。白粉や口紅などの開発もしております。試作品が出来次第持ち込ませて頂きます。その際は、またモニターを募集したいのですが宜しいでしょうか?」
「ええ、是非わたくしにお願いします」
強く念押しされちゃったよ。
これは、あれだね。
クライアントを横取りされそうになって、オコなのね。
「分かりました。アンナさんが、商談中の場合は別の方にお願いすることがあるかもしれませんが……」
「いえ、商談中でもヒロコ様を優先させます。だから、大丈夫ですわ」
何か凄いVIPな扱いを受けている気がする。
初っ端でやらかしたもんな、私。
主に調味料で!
大口顧客を取られたくないんだろうね。
受付嬢も大変だ。
一種の営業なんだろうか?
「分かりました。では、今後わたしが来た時は、商談中でもアンナさんが対応して下さるように職員の皆様に通達をお願いします」
話が通ってないと待たされることになるからね。
「承知しております」
と良い笑顔で返された。
試作品を置いて商業ギルドを後にし、薬師ギルドで同じように話を持ち掛けたらレシピ教えろと迫られて困った。
レシピは教えられないが、知名度が上がれば販路を確保して商業ギルドを通じて販売するとだけ返して逃げた。
一時間ほどで帰ると宣言したのに、結局宿に戻ってこれたのは三時間後だった。
宿に戻ってきたら、契約チームから説教食らっている真っ最中。
<1時間で帰ってくるって言ったやん! 嘘つき>
<嘘つき! 腹減った。前も同じことしたやんかー>
<サクラ待ちくたびれたのですぅ~。今回は、あるじが悪いので庇えませ~ん>
赤白・紅白・サクラの順番で文句を言われ、〆とばかりに楽白が謎の踊りを披露している。
楽白、それはオコなポーズですか?
「プッ、自業自得」
止めに、容子に嗤われた。
「君たちが、馬鹿すか食べるからお金が掛かるの! それを補うために色々とコネ作ったり売り込んだり、営業マンみたいに働く私に対して労いの言葉は無いの? 労わりがない! 私だってお腹空いたし、営業みたいなことしたくないのに、働きたくないでござると言ったら往復ビンタをしたのは誰だ? お前だろう容子! あの時、一瞬意識が飛んで逝ったかと思ったもん」
ガーッと文句を言ったら、
「ごめんって、宥子に頼り過ぎたよね。ネズミの国のチケット代や交通費は、私が払うから機嫌治してよ」
「……しょうがないなぁ。ネズミの国で心身癒して、会社設立だ!」
「前半は分かるけど、後半は意味が分からん。説明求む」
「その辺は、日本に戻ってからするよ」
私達は、癒しを求めて日本へと戻ることにした。
容子率いる契約チームは、商談の邪魔なので一旦宿に戻り置いてきました。
いやね、一緒にいるのは楽しいけどさ。
商談中に念話されると困るのよ。
切実に。
冒険者ギルドでも、表面上は大人しくしてたけど念話では五月蠅かった。
気が散るので、契約カルテットは容子に押し付けました。
基礎化粧品+シャンプーなどの布教活動をするため商業ギルドに来ているのだ。
冒険者ギルドだけだと、他のギルドに恨まれる。
薬師ギルドも回る予定だが、生産ギルドには行かない。
行った方が良いのだろうが、あそこは容子の領分だろう。
職人気質な相手と、上手く商売の話が出来る気がしない。
中身より器について、根掘り葉掘り聞かれそうだ。
そういうのは、容子の方が合っていると思う。
持ち込んでも、入れ物に興味を示し中身には興味ないだろう。
その為、生産ギルドが持ち込んだ商品に興味を示すとは思えないと判断した。
容子が良い例だしね。
『化粧水とか付けません。面倒臭いからオールインワンジェルで済ませます』っていう人間には向かない代物だ。
正直に言うと、デパートのコスメもドラッグストアのコスメも効果は余り変わらない。
以前、某デパートのコスメ売り場で肌年齢テストを受けたら実年齢と同じだった。
それから洗顔と基礎化粧は欠かさず行ったが、グラフは横一列なんだよね……。
サイエスに来て、自分でポーションや化粧水など作るようになってから、劇的に肌が若返った。
清掃だけだと肌は若返らないが、併用してこそ若々しさが保てるのだ。
今度デパートに行って、肌年齢チェックをしてみよう。
勿論、容子も引きずって行こう!
多分、肌年齢が若返っていると分かればスキンケアに力を入れてくれるだろう。
なんて事を考えていたら、商業ギルドを危うく通り過ぎるところだった。
危ない危ない。
「済みません。ヒロコと申します。アンナさんは、いらっしゃいますか?」
受付カウンターにいるお姉さんに聞いてみたら、丁度商談中とのこと。
時間が掛かるなら、先に薬師ギルドに寄った方が良いかな?
「時間が掛かるなら別の日に……」
と言いかけたところで、止められた。
それも食い気味に。
「いえ、大丈夫です。アンナは無理ですが、今なら私の手が空いてますので是非対応させて頂きます」
「あ、はぁ。宜しくお願いします」
「クレハと申します。宜しくお願いします」
何か日本人に居そうな名前だ。
「あ、はい。宜しくお願いします」
「こちらへどうぞ」
通されたのは、先日と同じ部屋だった。
「本日の商材は、この間と同じものでしょうか?」
「いえ、別の物です」
と答えると、外れを引いたみたいな顔をされた。
商人としては、駄目なタイプだ。
前回は大きな取引をしたが、あくまで担当はアンナである。
クレハは、私がアンナから鞍替えするとでも思ったのだろうか。
そうだとしたら、それはそれで不快だ。
しかし、こちらも時間がない。
今回は、クレハで良いか。
どうせ、モニターしてもらいたいだけだからね。
「今日は、こちらを持ってきました」
拡張空間ホームから、基礎化粧品と洗髪セットをテーブルに並べる。
見たこともない商品に、どうやら戸惑いを隠せないようで頭に? マークが飛んでいる。
「これは一体……」
「基礎化粧品セットで中身は、化粧水・乳液・美容液・石鹸になります。こちらは、洗髪セットでシャンプーとリンスになります」
「石鹸は分かりますが、それ以外がどのような用途で使われるものなのでしょうか?」
「基礎化粧品セットは、美肌の魔法薬です。洗髪セットは、美髪の魔法薬です」
はい、嘘!
大嘘ぶっこきました。
魔法薬なんかじゃありません。
そんなものがあったら、私がお金を出して買いたいわ。
どれも使い方を間違えなければ、美肌・美髪が手に入るのは検証済の代物だ。
とはいえ、被験者が少ないのでモニターをしてくれる人を捜しに来ている。
勿論、売り込みも今回の目的である。
「わたくし共のところでは、百聞は一見に如かずという諺があります。実際口で説明するより体験して頂くのが一番です。髪が洗える場所はありますか?」
「ギルド員専用の浴室がありますので、そちらをご案内致します」
戸惑いながらも、ギルドが所有している住居スペースの浴室に案内してくれた。
流石商業ギルドは、冒険者ギルドよりも広くて大きい!
お風呂も沸いているし、お湯は使いたい放題だ。
お水もちゃんと出る。
いつでも利用できるようにしているところを見ると、福利厚生がしっかりしている。
お金掛けているなぁ。
私もこんな浴室があったら、毎日足を伸ばして寛げるのに。
羨まけしからん!
いかん、いかん。
変な妄想をしてしまった。
「では、洗髪から始めます」
ポンチョの合羽を着て貰い、並べたローテーブルの上に寝転がって貰う。私も合羽+素足です。
頭はテーブルからはみ出しているが。首には、ちゃんとビニール袋に入れたエア枕を挟んでいますので痛くない!
顔には手ぬぐいを掛けた。
お湯の入った桶をいくつも用意し、準備万端だ!
「では、髪の毛濡らします。動くと濡れるので動かないでくださいね」
髪を濡らし、軽くマッサージしながら汚れを落としていく。
二度、お湯を掛けて全体を濡らす。
冒険者ギルドと異なり、比較的汚れが少ない。
シャンプーを手に取り、手で泡立ててから髪を洗う。
が、やっぱりというか案の定というべきなのか一度では汚れが取れなかった。
二度目で泡立ち、シャンプーは終了。
水を軽く切ってからリンスを馴染ませる。
使い捨てのナイロンキャップを頭に被せて、手ぬぐいを首元に撒いて貰う。
今度は洗顔と基礎化粧品の使い方を説明して、最後にリンスを洗い流し髪を乾かしたら完成だ。
所要時間1時間。
めっちゃ疲れた。
そして、元の部屋に戻って商談の続きに入った。
「体験して頂いたように、これを使うと美肌・美髪になれます。ただ、個人差がありますので合う方と合わない方がいらっしゃいます。こればかりは、改良を重ねるしかありません。今は、この商品のみになります。如何でしょう? 売れそうでしょうか?」
「勿論です!! 肌も明るく白くなって髪もサラサラ艶々ですよ。しかも良い匂いがしますし。絶対売れます」
掴みは上々だ!
モニターを募って、購買意欲を煽ればアンナが販路を作ってくれるだろう。
「ありがとう御座います。ただ、販売するにしても知名度がありません。石鹸は大丈夫でしょうが、それ以外は知らない方の方が多いのではないでしょうか」
「そうですね。確かに、いくら良品でも知らない物を買おうとはしませんね」
模範解答ありがとう。
これを待っていたのだよ。
「そこで、商業ギルドの方に協力をお願いしたいのですが、10名にこの商品を使って貰い使い心地やその後の経過を確認させて頂きたいのです。商業ギルドであれば、各地から商人が訪れます。美肌・美髪のギルド員が居たら、何故そんなに綺麗になれるのか疑問に思うと思います。そこで、この商品を案内して貰えれば認知度は上がると思います」
そう言い切ったところで、ドアがノックされた。
何だろうと思ったら、
「失礼します」
との声と同時に、アンナが部屋の中に入ってきた。
「ヒロコ様、お待たせして申し訳ありません。クレハさん、私が対応しますので退室して構いませんよ」
笑顔で退室を迫るアンナさんが、黒い笑顔を浮かべている。
目が笑ってなくて超怖い。
しかし、今クレハを退室されると困る!
また、一からやり直しになってしまうので残って貰うことにした。
「いえ、同席して下さい。クレハさんに体験して貰ったのですが、基礎化粧品セットと洗髪セットを売りたいと思っています。簡単に申しますと、基礎化粧品セットは肌のお手入れをするものです。美肌が手に入ります。洗髪セットは、美髪にするためのものになります。品は良くても、認知度がありません。現状では、売り出せない。そこで、商業ギルドの方に試して貰いたく持ち込みました。クレハさんとアンナさん、後八名はアンナさんが決めて下さい。出来れば女性で人と顔を合わせる仕事をなさっている方が好ましい」
アンナは、クレハを凝視して成程と小さく頷いた。
「良い匂いがしますね。それに髪に艶があります。肌の色が明かるく、色白になってますね」
アンナさん、凄い人やわ~。
見ただけで分かるんだね。
髪はともかく、肌まではちゃんと見ないと分からないと思うんだけど。
「クレハさん、化粧はどうなさったのかしら?」
しっかり見てらっしゃる。
顔が、オコから激オコに変わったね。
ごめんねクレハさんと、心の中で謝っておくよ。
「私の商品を試すために落として貰いました。叱らないであげて下さい」
「ヒロコ様がそう仰るのであれば、仕方ありませんね」
「使い方などは、クレハさんに確認をお願いします。白粉や口紅などの開発もしております。試作品が出来次第持ち込ませて頂きます。その際は、またモニターを募集したいのですが宜しいでしょうか?」
「ええ、是非わたくしにお願いします」
強く念押しされちゃったよ。
これは、あれだね。
クライアントを横取りされそうになって、オコなのね。
「分かりました。アンナさんが、商談中の場合は別の方にお願いすることがあるかもしれませんが……」
「いえ、商談中でもヒロコ様を優先させます。だから、大丈夫ですわ」
何か凄いVIPな扱いを受けている気がする。
初っ端でやらかしたもんな、私。
主に調味料で!
大口顧客を取られたくないんだろうね。
受付嬢も大変だ。
一種の営業なんだろうか?
「分かりました。では、今後わたしが来た時は、商談中でもアンナさんが対応して下さるように職員の皆様に通達をお願いします」
話が通ってないと待たされることになるからね。
「承知しております」
と良い笑顔で返された。
試作品を置いて商業ギルドを後にし、薬師ギルドで同じように話を持ち掛けたらレシピ教えろと迫られて困った。
レシピは教えられないが、知名度が上がれば販路を確保して商業ギルドを通じて販売するとだけ返して逃げた。
一時間ほどで帰ると宣言したのに、結局宿に戻ってこれたのは三時間後だった。
宿に戻ってきたら、契約チームから説教食らっている真っ最中。
<1時間で帰ってくるって言ったやん! 嘘つき>
<嘘つき! 腹減った。前も同じことしたやんかー>
<サクラ待ちくたびれたのですぅ~。今回は、あるじが悪いので庇えませ~ん>
赤白・紅白・サクラの順番で文句を言われ、〆とばかりに楽白が謎の踊りを披露している。
楽白、それはオコなポーズですか?
「プッ、自業自得」
止めに、容子に嗤われた。
「君たちが、馬鹿すか食べるからお金が掛かるの! それを補うために色々とコネ作ったり売り込んだり、営業マンみたいに働く私に対して労いの言葉は無いの? 労わりがない! 私だってお腹空いたし、営業みたいなことしたくないのに、働きたくないでござると言ったら往復ビンタをしたのは誰だ? お前だろう容子! あの時、一瞬意識が飛んで逝ったかと思ったもん」
ガーッと文句を言ったら、
「ごめんって、宥子に頼り過ぎたよね。ネズミの国のチケット代や交通費は、私が払うから機嫌治してよ」
「……しょうがないなぁ。ネズミの国で心身癒して、会社設立だ!」
「前半は分かるけど、後半は意味が分からん。説明求む」
「その辺は、日本に戻ってからするよ」
私達は、癒しを求めて日本へと戻ることにした。
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