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セブール
44.本日の成果とウルフ飯
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「遅いよ! 何度も電話したのに、何で出ないのさ?」
借りた宿の部屋に戻って早々、腕を組みし仁王立ちした怒りMAXな妹と下僕達にお説教を受けている。
下手に言い訳をして怒りを買うよりも、素直に謝った方がグチグチ責められないと判断した。
私は、その場で勢いよく土下座しましたとも。
「申し訳ありませでした!」
「言い訳せず謝ったから嫌がらせ飯は勘弁したるわ。で、何でこんなにも遅いご帰宅なのかなぁ? 私らご飯食べずに待っていたんだけど?」
ああ、なるほど。
お腹が減っていたから、殺気立ってたのね。
「結論だけ言うと、遅くなった原因は二つ。一つ、悪運様のお陰でひっきりなしにモンスターと戦闘する羽目になった。一つ、HP・MPポーションのスクロールが高かったから身体で払ってきた」
私の言葉に、容子の眉がピクリと動く。
「因みに幾ら?」
「正規の値段で金貨200枚。払えない額じゃないけど、大金を容子達に断りもなく使うのは気が引けたから、値引きして貰う代わりにポーション作ってた。ポーションを作る間は、MPポーションタダで飲みまくれるしね」
そう返すと、物凄く微妙な顔をされた。
「その心意気は嬉しいけど、手間を時間で買えるなら金払えよ」
「スクロールを読み込んでも、一発で良質のポーションが作れるわけないじゃん。練習台も兼ねて、沢山作ってきたのさ」
ドヤァァと胸を張る私に対し、容子の反応は薄かった。
「ハイハイ、凄いですねぇ。取り合えず、自宅に戻らね? お腹が空いてしょうがない」
<腹減った>
<酒盛りじゃ~>
<お腹減ったですの~>
意思疎通出来ない楽白は、フリフリと前足を挙げて謎ダンスを披露している。
うん、全然分からん。
「つか、自宅の鍵持っているんだから容子達だけでも先に戻れるんじゃね?」
「!!!」
私の指摘に、目から鱗が落ちたと言わんばかりに吃驚している。
「皆で囲むご飯の方が、美味しいから待っていたんだから感謝してよね!」
アハハハハと笑って誤魔化そうとする妹に、私はハァと大きな溜息を吐いた。
ここで言い争っても不毛だし、何よりお腹が空いている。
自宅に戻り、容子は夕飯作りのため台所に籠り、下僕達はリビングを這いまわって好き勝手している。
「今まで疑問に思ってこなかったんだけど、何で普通に容子のスマホが使えんの? 向こうとこっちでは、時差があるでしょう。どこかでタイムロスが生じてもおかしくないと思うんだけど」
私が常々思っていたことをポロッと口に出したら、容子は手を止めて思いっきり残念な物を見るような目で私を見て言った。
「このスマホの名義、誰か覚えてる?」
「うん、私だね」
「家と保険以外は、全部宥子名義で統一しているでしょう。神様に願ったことを思い出してみなよ」
そう言われて、私はハッとした顔で容子を見た。
「私名義だから普通に使えるってこと?」
「宥子の持ち物だから、時間の干渉は全くないわけじゃないと思うけど、極僅かなんじゃないかな。割と大雑把だし。神様にとって、時間の概念が存在しないというパターンも考えられるけどね」
「でも、容子は向こうの文字は読んだり書いたり出来ないよね? 何で会話が成立しているの?」
「そりゃ、宥子と契約したからでしょう。向こうに活動拠点を置くなら、私も文字が読めるようになりたいから何とかしてくれよ」
今回みたいに容子が、勝手にサイエスに乗り込んでこないとも限らない。
文字が読めないとなると、不利になる状況が出来上がるのは想像に容易い。
「了解。全言語能力最適化の取得出来るポイントを振るから、自分で取得しておいて」
「ありがとう」
容子に1000pt振って、魔物の素材をチェックに勤しんだ。
容子達もモンスター狩りをしたはずなのだが、表示されている素材が想像よりも少ない。
まさかと思い、容子のフォルダを除くとちゃっかりネコババしてやがった。
「容子、モンスターを狩るのは良いけどさ。素材を何食わぬ顔でネコババすんの止めろ」
私の指摘に、容子はバツの悪そうな顔をして口笛を吹いている。
「誤魔化さない!」
「ちょっとくらい良いじゃん。ケチ」
「お前にだけは、言われたくないわ! どれも売れば、良い値で買い取って貰える素材ばっかりを何でネコババするかな?」
「未知の素材だよ! 自前の防具を揃えれば、お金が掛からなくて済むでしょう。大体、あっちの世界の防具って、クソダサイじゃん。もっとお洒落かつ機能的で快適な奴が欲しいんだよ」
冒険者にお洒落を追い求めるな。
愚妹は、頭のネジがどこか外れている。
お洒落を取るか、性能の良い防具を取るかと問われれば、容子は間違いなく前者を選ぶだろう。
「お前、全世界の鍛冶職人を敵に回したぞ。そういう発言は、店で売られている物より効果の高い防具や武器を作れるようになってから言え! まずは、安価な素材で高性能な防具を作る。これが出来なきゃ、高い素材使っても意味がないでしょう。私だって、ポーションの為にタダ働きしてきたんだから」
スキルを無理矢理上げて、失敗を極限まで減らしたのは内緒だけどな!
「へいへい、分かりました。夕飯出来たし、ご飯にしよう」
容子は納得はしていないものの、これ以上私に楯突いても無駄と判断したのかテーブルの上に夕飯を並べている。
ご飯の言葉に部屋を徘徊していた下僕達が、テーブルの上に集まって来た。
「今日は、ウルフ肉のステーキとオニオンサラダ、ジャガイモの冷菜ポタージュスープだよ」
「何で肉が魔物? そこは、冒険せずに普通の肉で良いじゃん」
ウゲェと顔を顰める私に対して、容子はあっけらかんとした顔で宣った。
「そりゃ、食べてみたいからに決まってるじゃん。異世界の食材が、調理したらどうなるか気になるでしょう。食事を作る度に、一々スーパーに買いに戻るとか面倒臭いじゃん」
仰る通り、ぐうの音も出ない。
「一度宿で食事したけど美味しいとは言い難かったなぁ。ミードエールが、クソ不味かった記憶しかないわ」
始まりの町を出る前に食べた宿の食事を思い出して、うんざりとした顔になる。
「ミードエールって何さ。蜂蜜ビールって不味いに決まってるじゃん。チャレンジャーだな」
「悪かったな。好奇心に勝てなかったんだよ!」
あの時、所持金が日本円で約3000円くらいしか持ってなかったのだ。
水も一杯900円くらいしたから、手頃な値段の酒を頼んだら不味かったというオチである。
「調味料や調理方法によって、美味しくなるんだからさ。グダグダ言わずに食え」
容子の脅しに屈した私は、意を決してウルフ肉を一切れ口の中に放り込んだ。
モグモグと租借すると、ちょっと獣臭いが肉は柔らかく塩胡椒というシンプルな味付けだが、ほのかな甘みと肉汁の旨みが口いっぱいに広がって美味しい。
「独特な臭みはあるけど、想像していたよりも美味しい! どんな魔法を使ったのさ?」
「普通に焼くと肉が硬くなって美味しくなかったから、肉を叩いてから甘酒に漬けた。副菜とスープを作り終えてから、ウルフ肉を焼いて塩胡椒で味付けしただけ。少し甘味があるのは、甘酒に漬けたからだよ」
肉を叩くことで筋を切り甘酒の麹に浸すことで、タンパク質の分解を促進させたわけか。
通りで肉が柔らかいわけだよ。
「このレシピ、売れるんじゃない? 特許制度もあるし、売れば良いお金になるかもよ」
私は何の気なしに提案してみると、容子は少し唸った後に顔を横に振った。
「面倒臭いから今は良いや。それより、宥子が作ったポーションについてだよ! 中級と上級のポーションは作れるようになったんだよね?」
ジト目でこっちを睨む容子に、私は小さく肩を竦める。
「中級ポーションは作れるようになったけど、上級ポーションはAランクにならないダメだってさ。スクロールも、王都の薬師ギルドに行かないと手に入らないんだって」
「昇級の条件は聞いてきたの?」
「聞くの忘れた。中級でも良質のポーションが作れるし、下手な上級ポーションよりも効果はあると思う。魔物除け薬の品質は、特効まで作れるようになったのだよ」
フフンと鼻をを膨らませながらドヤ顔をする私に対し、容子はハイハイとスルーしている。
「ちょっと、これって結構凄いことなんだからね! ちゃんと聞きなよ」
「へー、凄い凄い」
「本気で適当だな、オイ! 中級ポーションで良品が作れたから、化粧品関連も高品質が作れるかもと思って試しに作ってみら、品質は極上が出来たのさ。凄くない?」
「本気で!? 試作品をはよ!」
ガタガタと椅子を倒して興奮気味に立ち上がる容子を手で制し、
「まずは、ご飯を食べてからな」
と言い聞かせた。
容子に急かされるようにご飯を掻きこみ、テーブルを片付けて本日作った基礎化粧品を並べた。
借りた宿の部屋に戻って早々、腕を組みし仁王立ちした怒りMAXな妹と下僕達にお説教を受けている。
下手に言い訳をして怒りを買うよりも、素直に謝った方がグチグチ責められないと判断した。
私は、その場で勢いよく土下座しましたとも。
「申し訳ありませでした!」
「言い訳せず謝ったから嫌がらせ飯は勘弁したるわ。で、何でこんなにも遅いご帰宅なのかなぁ? 私らご飯食べずに待っていたんだけど?」
ああ、なるほど。
お腹が減っていたから、殺気立ってたのね。
「結論だけ言うと、遅くなった原因は二つ。一つ、悪運様のお陰でひっきりなしにモンスターと戦闘する羽目になった。一つ、HP・MPポーションのスクロールが高かったから身体で払ってきた」
私の言葉に、容子の眉がピクリと動く。
「因みに幾ら?」
「正規の値段で金貨200枚。払えない額じゃないけど、大金を容子達に断りもなく使うのは気が引けたから、値引きして貰う代わりにポーション作ってた。ポーションを作る間は、MPポーションタダで飲みまくれるしね」
そう返すと、物凄く微妙な顔をされた。
「その心意気は嬉しいけど、手間を時間で買えるなら金払えよ」
「スクロールを読み込んでも、一発で良質のポーションが作れるわけないじゃん。練習台も兼ねて、沢山作ってきたのさ」
ドヤァァと胸を張る私に対し、容子の反応は薄かった。
「ハイハイ、凄いですねぇ。取り合えず、自宅に戻らね? お腹が空いてしょうがない」
<腹減った>
<酒盛りじゃ~>
<お腹減ったですの~>
意思疎通出来ない楽白は、フリフリと前足を挙げて謎ダンスを披露している。
うん、全然分からん。
「つか、自宅の鍵持っているんだから容子達だけでも先に戻れるんじゃね?」
「!!!」
私の指摘に、目から鱗が落ちたと言わんばかりに吃驚している。
「皆で囲むご飯の方が、美味しいから待っていたんだから感謝してよね!」
アハハハハと笑って誤魔化そうとする妹に、私はハァと大きな溜息を吐いた。
ここで言い争っても不毛だし、何よりお腹が空いている。
自宅に戻り、容子は夕飯作りのため台所に籠り、下僕達はリビングを這いまわって好き勝手している。
「今まで疑問に思ってこなかったんだけど、何で普通に容子のスマホが使えんの? 向こうとこっちでは、時差があるでしょう。どこかでタイムロスが生じてもおかしくないと思うんだけど」
私が常々思っていたことをポロッと口に出したら、容子は手を止めて思いっきり残念な物を見るような目で私を見て言った。
「このスマホの名義、誰か覚えてる?」
「うん、私だね」
「家と保険以外は、全部宥子名義で統一しているでしょう。神様に願ったことを思い出してみなよ」
そう言われて、私はハッとした顔で容子を見た。
「私名義だから普通に使えるってこと?」
「宥子の持ち物だから、時間の干渉は全くないわけじゃないと思うけど、極僅かなんじゃないかな。割と大雑把だし。神様にとって、時間の概念が存在しないというパターンも考えられるけどね」
「でも、容子は向こうの文字は読んだり書いたり出来ないよね? 何で会話が成立しているの?」
「そりゃ、宥子と契約したからでしょう。向こうに活動拠点を置くなら、私も文字が読めるようになりたいから何とかしてくれよ」
今回みたいに容子が、勝手にサイエスに乗り込んでこないとも限らない。
文字が読めないとなると、不利になる状況が出来上がるのは想像に容易い。
「了解。全言語能力最適化の取得出来るポイントを振るから、自分で取得しておいて」
「ありがとう」
容子に1000pt振って、魔物の素材をチェックに勤しんだ。
容子達もモンスター狩りをしたはずなのだが、表示されている素材が想像よりも少ない。
まさかと思い、容子のフォルダを除くとちゃっかりネコババしてやがった。
「容子、モンスターを狩るのは良いけどさ。素材を何食わぬ顔でネコババすんの止めろ」
私の指摘に、容子はバツの悪そうな顔をして口笛を吹いている。
「誤魔化さない!」
「ちょっとくらい良いじゃん。ケチ」
「お前にだけは、言われたくないわ! どれも売れば、良い値で買い取って貰える素材ばっかりを何でネコババするかな?」
「未知の素材だよ! 自前の防具を揃えれば、お金が掛からなくて済むでしょう。大体、あっちの世界の防具って、クソダサイじゃん。もっとお洒落かつ機能的で快適な奴が欲しいんだよ」
冒険者にお洒落を追い求めるな。
愚妹は、頭のネジがどこか外れている。
お洒落を取るか、性能の良い防具を取るかと問われれば、容子は間違いなく前者を選ぶだろう。
「お前、全世界の鍛冶職人を敵に回したぞ。そういう発言は、店で売られている物より効果の高い防具や武器を作れるようになってから言え! まずは、安価な素材で高性能な防具を作る。これが出来なきゃ、高い素材使っても意味がないでしょう。私だって、ポーションの為にタダ働きしてきたんだから」
スキルを無理矢理上げて、失敗を極限まで減らしたのは内緒だけどな!
「へいへい、分かりました。夕飯出来たし、ご飯にしよう」
容子は納得はしていないものの、これ以上私に楯突いても無駄と判断したのかテーブルの上に夕飯を並べている。
ご飯の言葉に部屋を徘徊していた下僕達が、テーブルの上に集まって来た。
「今日は、ウルフ肉のステーキとオニオンサラダ、ジャガイモの冷菜ポタージュスープだよ」
「何で肉が魔物? そこは、冒険せずに普通の肉で良いじゃん」
ウゲェと顔を顰める私に対して、容子はあっけらかんとした顔で宣った。
「そりゃ、食べてみたいからに決まってるじゃん。異世界の食材が、調理したらどうなるか気になるでしょう。食事を作る度に、一々スーパーに買いに戻るとか面倒臭いじゃん」
仰る通り、ぐうの音も出ない。
「一度宿で食事したけど美味しいとは言い難かったなぁ。ミードエールが、クソ不味かった記憶しかないわ」
始まりの町を出る前に食べた宿の食事を思い出して、うんざりとした顔になる。
「ミードエールって何さ。蜂蜜ビールって不味いに決まってるじゃん。チャレンジャーだな」
「悪かったな。好奇心に勝てなかったんだよ!」
あの時、所持金が日本円で約3000円くらいしか持ってなかったのだ。
水も一杯900円くらいしたから、手頃な値段の酒を頼んだら不味かったというオチである。
「調味料や調理方法によって、美味しくなるんだからさ。グダグダ言わずに食え」
容子の脅しに屈した私は、意を決してウルフ肉を一切れ口の中に放り込んだ。
モグモグと租借すると、ちょっと獣臭いが肉は柔らかく塩胡椒というシンプルな味付けだが、ほのかな甘みと肉汁の旨みが口いっぱいに広がって美味しい。
「独特な臭みはあるけど、想像していたよりも美味しい! どんな魔法を使ったのさ?」
「普通に焼くと肉が硬くなって美味しくなかったから、肉を叩いてから甘酒に漬けた。副菜とスープを作り終えてから、ウルフ肉を焼いて塩胡椒で味付けしただけ。少し甘味があるのは、甘酒に漬けたからだよ」
肉を叩くことで筋を切り甘酒の麹に浸すことで、タンパク質の分解を促進させたわけか。
通りで肉が柔らかいわけだよ。
「このレシピ、売れるんじゃない? 特許制度もあるし、売れば良いお金になるかもよ」
私は何の気なしに提案してみると、容子は少し唸った後に顔を横に振った。
「面倒臭いから今は良いや。それより、宥子が作ったポーションについてだよ! 中級と上級のポーションは作れるようになったんだよね?」
ジト目でこっちを睨む容子に、私は小さく肩を竦める。
「中級ポーションは作れるようになったけど、上級ポーションはAランクにならないダメだってさ。スクロールも、王都の薬師ギルドに行かないと手に入らないんだって」
「昇級の条件は聞いてきたの?」
「聞くの忘れた。中級でも良質のポーションが作れるし、下手な上級ポーションよりも効果はあると思う。魔物除け薬の品質は、特効まで作れるようになったのだよ」
フフンと鼻をを膨らませながらドヤ顔をする私に対し、容子はハイハイとスルーしている。
「ちょっと、これって結構凄いことなんだからね! ちゃんと聞きなよ」
「へー、凄い凄い」
「本気で適当だな、オイ! 中級ポーションで良品が作れたから、化粧品関連も高品質が作れるかもと思って試しに作ってみら、品質は極上が出来たのさ。凄くない?」
「本気で!? 試作品をはよ!」
ガタガタと椅子を倒して興奮気味に立ち上がる容子を手で制し、
「まずは、ご飯を食べてからな」
と言い聞かせた。
容子に急かされるようにご飯を掻きこみ、テーブルを片付けて本日作った基礎化粧品を並べた。
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