琴陵姉妹の異世界日記

もっけさん

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始まりの町

16.情報収集は基本です

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 正直、ギルドランク上げの推薦状貰っても嬉しくない。
 有名になると、色々縛られそう。
 というか、権力者に囲まれそうで嫌なんだよね。
 何事もほどほどが一番。
 最終目的は、あの邪神を消滅させることだし。
 それ以外は、本気マジでどうでも良い。
 容子まさこは、サイエスを通してお金儲けを企んでいるようだけど。
 日本で就職できない無職ニートを養い、税金や保険料などを払うために容子まさこの稼ぎだけでは無理がある。
 お金は必要だ。
 老後の心配もあるし、稼げるだけ稼ぐって魂胆なんだろうな。
 冒険者ギルドを出た後、その足で宿へ向かった。
 だって、やる事がないんだよね。
 ポーションは明日にならないと手に入らない。
 一週間分の食料を渡されているから、その間は帰宅するなって事なのだろう。
 宿のご飯を食べてながら情報収集してみるか。


 宿に着いたら、心配してましたと言わんばかりの勢いで駆け寄ってくる看板娘。
 今、一番忙しい時間帯だろうに。
 そっちの方が大丈夫なのか、とは言わないでおく。
「お帰りなさい。大丈夫でしたか?」
「特に絡まれることはなかったよ。今日は、宿で食事を取りたいんだけど良いかな?」
「はい、大丈夫です! 食堂があるので、そこで注文して貰えれば配膳しますよ」
「そう、分かった」
 併設されている食堂に顔を出すと、結構人が入っている。
 長い木のテーブルが、均等に並べられてある。
 ここでは、相席が普通なのか。
 お品書きが書かれた紙が壁に貼ってあり、思わず「どこの居酒屋だよ」と心の中でツッコミを入れてしまった。
 ザッと見たが、料理名が書かれているが、どんな料理か想像出来ない。
 仕方がないので、『シェフのお勧め』を頼むことにした。
「すみません。シェフのお勧めを下さい。後、ミードエールもお願いします」
 トレイを持って厨房にいるシェフに注文をすると、
「銅貨9枚だ」
と言われ、ミニ財布から銅貨9枚を取り出して支払った。
 シェフは、私を一瞥して少し待ってろと言い残し奥に引っ込んだ。
 ものの数分で出てきたのは、パンとスープ、何かのお肉を焼いたものと付け合わせのサラダ、ミードエールが入ったコップだ。
「水が欲しいなら1杯8青銅貨だ」
 これで900円……高いね。
 やっぱり、水もお金取るんだ。
 日本じゃ考えられない!
 それだけ水は貴重なんだろう。
 出されたものを受取り、声を掛けやすそうな人の隣を探してみる。
 鑑定を発動させると、膨大な情報量が頭に流れ込んでくる。
 船酔い? 車酔い? そんな感じで気持ち悪い。
 個々に鑑定すれば鑑定酔いなんてしなかったんだろうが、後の祭りである。
 取敢えずどこでも良いやと、座った場所が良かった。
「すみません。相席良いですか?」
「良いぜ。てか、嬢ちゃん顔色悪いが大丈夫か?」
「ちょっと、人酔いしただけなんで……」
「ここの飯は旨いからな! 飯だけ食べにくる奴もいるくらいだ。これだけ居たら酔うのも仕方ないか」
 ハハハハッと笑う男をこっそり鑑定したら、Bランクの冒険者だった。
 何でBランクの冒険者がここにいるのだろうか。
 そう思ったが、今はこの世界の情勢などを聞くのが先だ。
「田舎から出てきたばかりなんです。冒険者になり立てなんで、節約の日々ですよ。今日初めてこの宿で食事する事にしたんです。どれが良いか分からなかったので、無難にシェフのお勧めにしておきました」
「初見なら、外れがない料理だから安心だぜ」
 外れは引かなかったみたいだ。
 料理を鑑定すると、レッドボアのジャジャ焼きとある。
 食べてみると生姜焼きもどきだった。
 不味くはないけど、称賛するほどのものでもない。
 肉の臭みが隠しきれてないため美味しいとも言い難い。
 一縷の望みを掛けて、パンと一緒ならマシになるかもと齧ってみるが硬くて歯が折れるかと思った。
「パンは、スープに付けてふやかしてから食べるんだ」
 彼は、食事に四苦八苦している私を見て助け舟を出してくれる。 良い人や。
「ありがとう御座います。パンがここまで硬いとは思わなくて……」
「パンは堅いもんだろう?」
 男の反応に、私は動揺してしまう。
 サイエスでは、固いパンしか流通してないのか?
 もし、それが本当なら酵母という概念もない。
 パンに関するレシピを売れば、お金になるかもしれない。
 レシピについては、追々容子まさこに相談しよう。
「家で作っていたパンは、柔らかかったので驚きました。そちら様は、見たところ冒険者さんですよね? 色んなところを旅されているんですか?」
「ああ、俺の出身地がこの町だからな。時々こうして戻ってくるんだ。里帰りって奴さ。丁度セブール居たんだが、ワーウルフが出没したから来てくれって連絡があって来てみたら討伐された後。しかもギルド登録前の女の子が1人でだぜ。昨日は、Cランクのパーティーを1人でボコボコにしたらしいし。それだけ実力があるなら是非とも仲間にしたいぜ」
 はい、それ私です!
 結構噂になっているのね。
 あれだけやらかせば、噂なんてあっと言う間に回るか。
 小さい町だもの。
 唯一の救いは、彼が私だと特定出来てないところかな。
「そんな人もいるんですね。ワーウルフって、そんなに危険なんですか?」
「Cランクパーティーなら普通に倒せるが、始まりの町って名前だけあってレベルが上がると次の町に流れちまうから、この町にいるのはF~Dランクの奴が多い。Cランクはほんの一握りで依頼を受けてたら、そっちが優先される。一度討伐したら暫くは大丈夫だが、時間が経てば出没する。だから、見かけたら即討伐するんだ」
 ゲームでいうリポップ現象だな。
 ワーウルフをレベル1のソロで倒した私。
 今思い返しても、よく生き残れたものだわ。
 その後にカツアゲしてきたCランク冒険者は、憲兵に捉えられてドナドナされて行ったけど。
 身包みを剥がしておけば良かったと、今更ながらに後悔している。
「じゃあ、その女の子に倒されて仕事がなくなったんですね。別のクエストを受けるんですか?」
「多少金はあるから暫く滞在するつもりだ。お前さんは、どうなんだ?」
「セブールに行く予定です。用事があるので。セブールってどんな街ですか?」
 ランク上げの試験受けに行くだけだが。
「ここよりも都会だな。要塞都市と言われるだけあって、モンスターに怯えることもないくらい強固な壁で覆われたところだ。武器が充実しているな。騎士団もいて治安が良い。ただ、入る時に税を取られるがな」
「冒険者になると街に入る時に税は取られないって聞きましたけど」
「そりゃ、町ごとによるんだ。建前上取らないスタンスだが、セブールは滞在税として何日滞在するかで税が変わるんだ。そこは、領主の采配だな」
 セブールはここら辺では都会の部類らしく、物流もそこそこ良いのだろう。
 治安を維持するための費用に滞在税を支払わせるか。
 ヤシュナ村は別領地らしい。
 今から行くセブールは、ファレル領の中心部だ。
 セブールに行くまでにいくつかの村を経由しなければならない。
 モンスターの生体も知っておきたいし、容子まさこから雑誌の付録おたからを売りさばけと言われている。
「途路銀を稼ぎながらセブールに行かないとダメですね。教えて下さりありがとう御座います」
「良いって。それより、ちゃんと護衛雇って行った方が良いからな」
「お気遣いありがとう御座います」
 雇える金なんてあったら貯めろと言われるな、容子まさこに。
 取り敢えず情報もそこそこ聞けたので良かった良かった。
 食事を再開し美味しいとは言いがたいご飯を平らげ、異世界初のエールを煽った。
「うっんっつつ!!」
 何これ、まっっっずいんですけど!
 生ぬるい炭酸が抜けた発泡酒にハチミツ入れただけじゃん。
「お、ミードエールか。俺は、その甘ったるさが苦手でな。女性には人気の酒なんだぜ」
「……そうなんですね」
 女じゃないです。喪女ですから!
 女の皮を被った中身はおっさんですから!!
 くっそ不味いわ。
 口が裂けても言わないけど。
 久しくなかった会社の飲み会。
 いや若かりし頃の合コンを思い出せ!
 私は淑女(笑)だ。
 お上品にこの激マズエールを飲み干すのだ。
 有益な情報は得られたが、精神を抉る食事に私は撃沈したのだった。
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