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始まりの町
9.迷子は一生治りません
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索敵を展開したまま、Let’s薬師ギルド!
HPとMPポーションは必需品だ。
いざとなれば自宅へ逃げ帰ることもできる。
それが戦闘中となれば、確実に逃げられるとは言い難い。
もし仮に逃げ帰れたとしても、そんな事をしたら容子に指さされてpgrされるのが容易に想像出来る。
地図が視界の右上に表示されているのが、何だか違和感を覚えるが慣れるしかあるまい。
目的地にはアイコンが付いていて、自分の位置は●で表示されている。
移動する度にその●も動いた。
スマホの地図アプリを見ているようだ。
薬師ギルドは、雑貨屋から少し離れた場所にあった。
幸い薬師ギルドと生産ギルドは、比較的同じ区画にあり探す時間を削られずに助かった。
薬師ギルドは、冒険者ギルドよりもこじんまりとした佇まいだ。
緑の屋根に薬瓶らしき看板が掲げられている。
そう言えば、冒険者ギルドは剣と盾が描かれた看板だったな。
気を取り直して薬師ギルドに入ると、閑散としており誰も居ない。
「すみませーん! ポーションが欲しいんですけどー」
誰も居ない受付カウンターに向かって声を張り上げた。
が、誰も出てこない。
おいおい、やる気あるのか?
こんな時、店員呼び出しのボタンを押すチーンってなるアレが欲しい。
仕方がないので、アイテムボックスからカラオケマイクを取り出し、大きく息を吸って叫んだ。
「ポーション買いに来たんですけどぉー!!」
すると皺くちゃの婆が、ドスドスと足音を立て怒りながら二階から降りてきた。
「誰だい!! こんな昼間から、五月蠅い。昼寝の迷惑だよ」
マイクを鞄にそっと仕舞い、何食わぬ顔でポーション買いに来ましたと言ってみる。
「ポーション? 今は、品切れだよ。最近、平野でワーウルフが出没するってんで薬草積んでくる奴が減ったんだ。物がなけりゃ作れないし、帰んな」
婆は、シッシッと犬猫を追い払うかのように手をぷらぷらさせて追い出そうとする。
本当にやる気がない。
「ワーウルフは討伐されたみたいですけど。薬草採取の依頼を冒険者ギルドに出されてないんですか?」
「何で冒険者ギルドに採取依頼しなきゃならないんだ。仲介料やら手数料を取られてマイナスさ。薬草は、薬師ギルドに持ち込むのが常識だ。覚えておきな」
「すみません。田舎から出てきたばかりで何も知らなかったので」
日本人の必殺技『取り敢えず謝っておこう』が発動された。
「ふんっ。冒険者ギルドに持っていっても二束三文にしかならないから、きちんと薬草は薬師ギルドに納品するんだよ。分かったね」
「はい」
何やら冒険者ギルドと確執がありそうな予感がする。
極力その辺りは突っ込まないでおこう。
「薬草を持ち込めばポーションを作って頂けるという事ですね?」
「ああ、今はポーションの在庫も薬草もないからね。薬草の買取からポーション代を引いた物が、あんたの取り分になる」
見分けるのは鑑定様を使えば良いが、採取の仕方で価値が下がるのは避けたい。
「薬草の見分け方や取り方とかあるんですか?」
「この葉先が鋭く尖って小さなギザギザがある奴が体力ポーションの材料になる。黄色味がかった丸い葉っぱが魔力ポーションの材料だ。葉っぱの裏を見ると小さな斑点があるから、比較的見分けがつきやすい。どちらも似た雑草があるから、よく観察して採取する必要がある。根っこを含めて土がついた状態で持って帰って来て貰えると高く買い取りするよ。葉の部分だけだと鮮度が落ちて、ポーションの質も落ちちまうからね」
なるほど、良い事聞いた。
明日は、ポーションの採取をしよう。
ワーウルフの出現地が元々の採取場所だったなら、あの辺りに群生地帯がある。
「材料を採取してくるので、ポーションを作って貰えますか?」
「ああ、持ってきてくれるならね。ワーウルフが倒されたなら、これから忙しくなるねぇ。ヒッヒヒッ」
悪どい笑みを浮かべる婆に顔を引きつらせながら、若干引き気味になりながら薬師ギルドを後にした。
次は商業ギルドで塩などを売りさばく予定だったが、そんな気も失せて宿に戻ることにした。
宿に戻ると、看板娘にクエストは受けなかったのかと聞かれた。
「お帰りなさい。今日は、クエスト受けなかったんですか?」
「まあ、冒険者ギルドの登録だけしてきました。初日なので色々と揃えておくものもあったので」
ハハハハッと乾いた笑みを浮かべて誤魔化す。
ポーションが無いからなんて言えない。
身代わり人形があるから最悪な展開にはならないけど、金額が高いのでそう易々と使えない。
身代わり人形は最後の切り札だし、使うことになったらHP30%の状態で再戦闘する事になる。
回復の手段がなければ、確実に詰む。
初級魔法は全属性使えるから回復も使えるんだろう。
回復ばかりにMPを使用していたら、魔力枯渇で詰む。
今は物理で攻撃で倒しているが、物理攻撃が効かない敵もいるだろう。
MPやHPの管理は大事。
命大切がモットーだ。
あの自称神をこの手で始末しないと、目的は達成できくなる!
「部屋に戻りますね」
「じゃあ、鍵をどうぞ」
鍵を受け取り、あてがわれた部屋に戻った。
しっかり施錠した上で、アイテムボックスから自宅を出し家に戻る。
「宥子、何で用意した武器を持って行かなかった! 死ぬ気か? このアホんだらぁぁああっ」
玄関で待ち構えていた容子に、腰をがっちりホールドされて海老反りになった。
デジャブですか?
「痛い、痛いからっ! 姉ちゃんの腰を労わってっ」
バシバシと容子の背中を叩き、引っぺがす。
いやね、本当腰にくるんですよ。
元々腰痛持ちで整形外科に長年通院しているのに、悪化させるような体勢を取らせないで欲しい。
「リビングに移動させてくれ、容子よ」
腰をさすりながら、ヨロヨロとリビングへ移動。
お気に入りのソファーに寝ころび、一息つく。
「たった一日でどんな武器を用意したんだよ。今のところ万能包丁とゴキスプレーで対応出来てるから出番ないと思うけど」
なんせ『始まりの町』だしね。
本当に初心者向けの町だから、敵のレベルも最高で30前後だ。
無茶をしなければ死ぬことはないだろう。
ワーウルフがエリアボスみたいだし、当分リポップされることはないはず。
「これ、お土産」
異世界コケシもとい身代わり人形を手渡したら、
「宥子、いくら何でもコレは無い。何時の間に趣味が悪くなったの?」
と罵られた。
「私の趣味じゃないから。地球で効くかは分からないけど、身代わり人形なんだって。瀕死状態から一度だけ守ってくれる代物だよ。体力は30%しか戻らないけど」
「即死は免れるけど、あんまり意味ないね。身代わり人形+HPポーションで体力を回復させて使うって感じかな。てか、宥子が向こうに渡っている間、こっちの世界では1週間くらいは経っているんだけど」
「……はあ? 何それ!? 一週間???」
そんなに時間が経っていたとは思わなかった。
「赤白と紅白の世話は、ちゃんとしたんだろうね?」
「第一声がそれ? ご飯はちゃんと食べてるし、お掃除もこまめにしてる。元気だよ」
ほら、とゲージを指さしている。
ゲージを確認すると赤白は水入れの近くで寝そべっているし、紅白は素焼きのお家に引きこもっている。
二匹が元気ならそれで良いか。
「瓶詰していた調味料は売れたの?」
「売ってない。町に入る時、憲兵が開拓民と間違えられたから売りさばくのは止めた。設定が、村が魔物に襲われて逃げて出稼ぎにきたことにしてあるから。調味料とか売ったら、逆に不自然で目を付けられるでしょう。色々なところを巡ってから、ちょっとずつ下ろそうと思ってる」
「そっかー、じゃあしょうがないね。向こうのお金は手に入ったの?」
「うん。金貨までは手に入れた。日本円にすると、青銅貨が10円、銅貨100円、銀貨1000円、金貨10000円くらいかな。こっちで金貨がどれくらいで買い取って貰えるか、質屋に出してみてよ」
テーブルに貨幣を並べると、容子は手に取って色んな角度から眺めている。
今は金の価値が上がっているから、金の保有率によっては高く買い取って貰えるかもしれない。
「偽造可能なレベルの細工だね。偽造出来ないように魔法とか掛かっているのかな?」
「ちょっ、偽造とか物騒なこと言わんで!!」
何気にサラッと犯罪を仄めかす容子に慄く。
「それくらい技術が遅れてるって事。細工の凝ったキュービックジルコニアの指輪とか、向こうじゃ高く売れるんじゃない? こっちにある鉱物も、確認されたし。そっちにしかない鉱物もあるかもしれないから、向こうで買ったものは必ず一つはサンプルで置いて行ってね」
物凄い良い笑顔を浮かべて追いはぎ宣言する容子に、私は小さく「はい」と脱力しながら是と答えた。
HPとMPポーションは必需品だ。
いざとなれば自宅へ逃げ帰ることもできる。
それが戦闘中となれば、確実に逃げられるとは言い難い。
もし仮に逃げ帰れたとしても、そんな事をしたら容子に指さされてpgrされるのが容易に想像出来る。
地図が視界の右上に表示されているのが、何だか違和感を覚えるが慣れるしかあるまい。
目的地にはアイコンが付いていて、自分の位置は●で表示されている。
移動する度にその●も動いた。
スマホの地図アプリを見ているようだ。
薬師ギルドは、雑貨屋から少し離れた場所にあった。
幸い薬師ギルドと生産ギルドは、比較的同じ区画にあり探す時間を削られずに助かった。
薬師ギルドは、冒険者ギルドよりもこじんまりとした佇まいだ。
緑の屋根に薬瓶らしき看板が掲げられている。
そう言えば、冒険者ギルドは剣と盾が描かれた看板だったな。
気を取り直して薬師ギルドに入ると、閑散としており誰も居ない。
「すみませーん! ポーションが欲しいんですけどー」
誰も居ない受付カウンターに向かって声を張り上げた。
が、誰も出てこない。
おいおい、やる気あるのか?
こんな時、店員呼び出しのボタンを押すチーンってなるアレが欲しい。
仕方がないので、アイテムボックスからカラオケマイクを取り出し、大きく息を吸って叫んだ。
「ポーション買いに来たんですけどぉー!!」
すると皺くちゃの婆が、ドスドスと足音を立て怒りながら二階から降りてきた。
「誰だい!! こんな昼間から、五月蠅い。昼寝の迷惑だよ」
マイクを鞄にそっと仕舞い、何食わぬ顔でポーション買いに来ましたと言ってみる。
「ポーション? 今は、品切れだよ。最近、平野でワーウルフが出没するってんで薬草積んでくる奴が減ったんだ。物がなけりゃ作れないし、帰んな」
婆は、シッシッと犬猫を追い払うかのように手をぷらぷらさせて追い出そうとする。
本当にやる気がない。
「ワーウルフは討伐されたみたいですけど。薬草採取の依頼を冒険者ギルドに出されてないんですか?」
「何で冒険者ギルドに採取依頼しなきゃならないんだ。仲介料やら手数料を取られてマイナスさ。薬草は、薬師ギルドに持ち込むのが常識だ。覚えておきな」
「すみません。田舎から出てきたばかりで何も知らなかったので」
日本人の必殺技『取り敢えず謝っておこう』が発動された。
「ふんっ。冒険者ギルドに持っていっても二束三文にしかならないから、きちんと薬草は薬師ギルドに納品するんだよ。分かったね」
「はい」
何やら冒険者ギルドと確執がありそうな予感がする。
極力その辺りは突っ込まないでおこう。
「薬草を持ち込めばポーションを作って頂けるという事ですね?」
「ああ、今はポーションの在庫も薬草もないからね。薬草の買取からポーション代を引いた物が、あんたの取り分になる」
見分けるのは鑑定様を使えば良いが、採取の仕方で価値が下がるのは避けたい。
「薬草の見分け方や取り方とかあるんですか?」
「この葉先が鋭く尖って小さなギザギザがある奴が体力ポーションの材料になる。黄色味がかった丸い葉っぱが魔力ポーションの材料だ。葉っぱの裏を見ると小さな斑点があるから、比較的見分けがつきやすい。どちらも似た雑草があるから、よく観察して採取する必要がある。根っこを含めて土がついた状態で持って帰って来て貰えると高く買い取りするよ。葉の部分だけだと鮮度が落ちて、ポーションの質も落ちちまうからね」
なるほど、良い事聞いた。
明日は、ポーションの採取をしよう。
ワーウルフの出現地が元々の採取場所だったなら、あの辺りに群生地帯がある。
「材料を採取してくるので、ポーションを作って貰えますか?」
「ああ、持ってきてくれるならね。ワーウルフが倒されたなら、これから忙しくなるねぇ。ヒッヒヒッ」
悪どい笑みを浮かべる婆に顔を引きつらせながら、若干引き気味になりながら薬師ギルドを後にした。
次は商業ギルドで塩などを売りさばく予定だったが、そんな気も失せて宿に戻ることにした。
宿に戻ると、看板娘にクエストは受けなかったのかと聞かれた。
「お帰りなさい。今日は、クエスト受けなかったんですか?」
「まあ、冒険者ギルドの登録だけしてきました。初日なので色々と揃えておくものもあったので」
ハハハハッと乾いた笑みを浮かべて誤魔化す。
ポーションが無いからなんて言えない。
身代わり人形があるから最悪な展開にはならないけど、金額が高いのでそう易々と使えない。
身代わり人形は最後の切り札だし、使うことになったらHP30%の状態で再戦闘する事になる。
回復の手段がなければ、確実に詰む。
初級魔法は全属性使えるから回復も使えるんだろう。
回復ばかりにMPを使用していたら、魔力枯渇で詰む。
今は物理で攻撃で倒しているが、物理攻撃が効かない敵もいるだろう。
MPやHPの管理は大事。
命大切がモットーだ。
あの自称神をこの手で始末しないと、目的は達成できくなる!
「部屋に戻りますね」
「じゃあ、鍵をどうぞ」
鍵を受け取り、あてがわれた部屋に戻った。
しっかり施錠した上で、アイテムボックスから自宅を出し家に戻る。
「宥子、何で用意した武器を持って行かなかった! 死ぬ気か? このアホんだらぁぁああっ」
玄関で待ち構えていた容子に、腰をがっちりホールドされて海老反りになった。
デジャブですか?
「痛い、痛いからっ! 姉ちゃんの腰を労わってっ」
バシバシと容子の背中を叩き、引っぺがす。
いやね、本当腰にくるんですよ。
元々腰痛持ちで整形外科に長年通院しているのに、悪化させるような体勢を取らせないで欲しい。
「リビングに移動させてくれ、容子よ」
腰をさすりながら、ヨロヨロとリビングへ移動。
お気に入りのソファーに寝ころび、一息つく。
「たった一日でどんな武器を用意したんだよ。今のところ万能包丁とゴキスプレーで対応出来てるから出番ないと思うけど」
なんせ『始まりの町』だしね。
本当に初心者向けの町だから、敵のレベルも最高で30前後だ。
無茶をしなければ死ぬことはないだろう。
ワーウルフがエリアボスみたいだし、当分リポップされることはないはず。
「これ、お土産」
異世界コケシもとい身代わり人形を手渡したら、
「宥子、いくら何でもコレは無い。何時の間に趣味が悪くなったの?」
と罵られた。
「私の趣味じゃないから。地球で効くかは分からないけど、身代わり人形なんだって。瀕死状態から一度だけ守ってくれる代物だよ。体力は30%しか戻らないけど」
「即死は免れるけど、あんまり意味ないね。身代わり人形+HPポーションで体力を回復させて使うって感じかな。てか、宥子が向こうに渡っている間、こっちの世界では1週間くらいは経っているんだけど」
「……はあ? 何それ!? 一週間???」
そんなに時間が経っていたとは思わなかった。
「赤白と紅白の世話は、ちゃんとしたんだろうね?」
「第一声がそれ? ご飯はちゃんと食べてるし、お掃除もこまめにしてる。元気だよ」
ほら、とゲージを指さしている。
ゲージを確認すると赤白は水入れの近くで寝そべっているし、紅白は素焼きのお家に引きこもっている。
二匹が元気ならそれで良いか。
「瓶詰していた調味料は売れたの?」
「売ってない。町に入る時、憲兵が開拓民と間違えられたから売りさばくのは止めた。設定が、村が魔物に襲われて逃げて出稼ぎにきたことにしてあるから。調味料とか売ったら、逆に不自然で目を付けられるでしょう。色々なところを巡ってから、ちょっとずつ下ろそうと思ってる」
「そっかー、じゃあしょうがないね。向こうのお金は手に入ったの?」
「うん。金貨までは手に入れた。日本円にすると、青銅貨が10円、銅貨100円、銀貨1000円、金貨10000円くらいかな。こっちで金貨がどれくらいで買い取って貰えるか、質屋に出してみてよ」
テーブルに貨幣を並べると、容子は手に取って色んな角度から眺めている。
今は金の価値が上がっているから、金の保有率によっては高く買い取って貰えるかもしれない。
「偽造可能なレベルの細工だね。偽造出来ないように魔法とか掛かっているのかな?」
「ちょっ、偽造とか物騒なこと言わんで!!」
何気にサラッと犯罪を仄めかす容子に慄く。
「それくらい技術が遅れてるって事。細工の凝ったキュービックジルコニアの指輪とか、向こうじゃ高く売れるんじゃない? こっちにある鉱物も、確認されたし。そっちにしかない鉱物もあるかもしれないから、向こうで買ったものは必ず一つはサンプルで置いて行ってね」
物凄い良い笑顔を浮かべて追いはぎ宣言する容子に、私は小さく「はい」と脱力しながら是と答えた。
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