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一章 始まりの街

17 魔法薬を作ろう:Ⅰ

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 朝、気分が高まり、朝早くに目が覚める。
 今日は薬草を採取し、魔法薬を制作せねば。傷の付いた革鎧は付けず、いつもの格好へ着替えた。

 裏の井戸で顔を洗うと、食堂へ向かう。
 受付の少女がこちらに気付くと、話し掛けてきた。

「あ、エノクさん。おはようございます!今日は早いですね!」
「おはようございます、受付さん」

 にっこりと、笑顔で返す。だが、少女の顔は不満気だ。頬を膨らませ、人差し指を立てながら訂正を求めてくる。

「受付さん、ではありませんよ!私はハーリナです!」
「それは申し訳ありませんでした、ハーリナさん」

 そう言うと、満足そうに頷いた。可愛らしい人だ。

 いつも通り朝食を取ると、オレはもう一週間分の宿の延長をして、木枯らし亭を出た。ちなみに弁当は貰っていない。今日はある事を試すからだ。

 その後、ギルドへと向かい報告と薬草の調査をした。


 結果からして、防具の制作の件だが、思いの外軽く受け入れてもらえた。何でも、この迷宮攻略の件は火急の要件ではなかったらしい。
 前々から出現していたモノだが、定期的に高ランク冒険者を派遣する事でモンスターが溢れ出ることを防いでいた。しかし、定期的に雇うにもそれ相応の額が掛かるので、この際やってしまおうと考えたらしい。
 そのため、一月ほどなら問題はないそうだ。

 ならばと、オレは準備をより入念に整える事に切り替える。
 そして、薬草の方だが、こちらも収穫は上々だった。

 知らなかった『流花草』と『白芽粉』だが、どちらもメジャーな物だった。採取依頼としても張り出されていた。
 流花草は水色の花が特徴的で、川や水場の近くに群生しているらしく、採取も容易であること。また白芽粉の原料である白芽花も、草原に生えていることが多いらしい。

 そして何よりの収穫が、毒草や危険な植物類を確認する事ができた事だ。その中には、モンスターへの効果も期待できそうな物が多くあった。
 これはやるしかない。

 という訳で、今オレは東の草原へ向かっている。実に数日振りだ。
 レベルも上がり、『疾走』スキルも加わって、大分早くに到着する事ができた。早速視界に広がる限り、『探知』を全力で発動させる。

 すると、大量に発見された。オレは気分上々に、それらを『採取』スキルで丁寧に刈り取っていく。
 無論、毒草なども同様にだ。

 刈り取っては、ストレージへ入れるを繰り返していく。無心となって行っていった。


【『無心』Ⅰを獲得】
【経験値を獲得】
【解析完了】
【『棒術』Ⅰを獲得】
【『体術』Ⅰを獲得】
【『無心』Ⅰ→Ⅲ】





 延々と作業を繰り返す内に、いつの間にかスキルまで習得していた。
 時々、ゴブリンが襲ってくることもあったが、直ぐさま撃退し、何ら問題はなかった。

 そんな訳で、大体の素材が集まった。後は作るのみだ。と、そう思ったのだが……。

――ぐぅぅぅ。

 腹の虫がなったので、一先ずそれはお預けになった。MAPを見て敵が居ないことを確認する。

 どうやら居ないようなので、安心して草原に胡座をかいて座った。視界にメニューを広げ、ショップを開いた。
 そこから、アウトドア用のガスコンロとカセットボンベを数本購入する。また、食器や箸やスプーン、フォークも数セット購入した。
 他にも包丁やまな板などの調理道具も用意する。

 そして食材である牛肉、洗わなくて済むサラダなどなど。そして何より、米を買った。
 久し振りの米だ。気分も上がるのも仕方が無いだろう。そのため炊飯セットも買う。
 それに付け加え調味料類や小さめの机も買った。

 全部合わせても銀貨四枚ほどだろうか。この世界では格安も良いところだろう。

 さあ、準備は整った。料理を開始しようか。オレは早速先程購入した物を取り出し、調理を開始した。

 周りの草に引火しないよう気をつけながら、ガスコンロを付ける。そこに金網を敷き、温まるまで待つ。

 その間に机を置き、まな板を敷いて下準備を始めた。その上に取り出した牛肉に、筋を無くすために細かな切り込みを入れる。そこに塩胡椒を塗りこんだ。

 そうこうしている内に、金網が温まってきたので牛肉を乗せる。

――ジュゥゥゥウウ!

 肉の焼ける音と共に、食欲を増幅させる良い匂いが溢れ出た。焼き目を慎重に確認しながら、その間に米を研ぐ。
 ペットボトルの水を使い、簡単に研いだ。

 肉はそろそろ食べ頃だろうか?いい感じに焼けてきた。お皿に取り分けると、一先ずストレージに収納する。
 本来なら米を先に炊くべきだが、今はストレージという便利な物がある。ならば、取り分け順番を変えても何ら問題はない。

 肉を焼いていた金網を外し、炊飯セットを取り付ける。そこに研いだ米を入れて、待つこと数十分。頃合いを見計らって、中を確認すると、いい感じに炊けていたのでそのまま取り出す。
 熱くて思わず落とすといった愚行は犯さない。

 サラダと先程仕舞った肉を取り出して、食卓の準備を終えた。今回は炊飯用の縦長の箱のまま食べる事にする。量は一合ほどだ。

 箸も取り出して、合掌する。

「いただきます」

 久し振りにそう言って、食事を始めた。
 先ずは塩胡椒で焼いた牛肉からだ。箸で一口サイズへ切ると、肉汁が溢れ出して来る。

 それを零さぬまま、口へと頬張った。味付けは簡単な物だが、脂と上手く絡み合い非常に美味しい。切り込みを入れたお陰で、噛めば抵抗なく切れていく。
 そのままオレは本能に従うままに、白米をかき込む。
 仄かな甘みと、米特有の旨さが肉に非常に合う。

 もう止まらない。久し振りの米に、我を忘れているようだ。やはり、米はおかずに合う。
 合間合間に、サラダも食べ口の中はさっぱりだ。水もなしに、最後まで食べ切る。

「ぷはっ!ごちそうさまでした」

 そしてまたしても合掌。やはり食材への礼儀は重要だと、改めて思い知る。
 水で洗い流して、適当に乾かしたらストレージへと収納する。残るは今回の目的である魔法薬の制作のみだ。

 さて、もう一頑張りと行きますか。





◇◆◇◆◇





 ストレージから薬研に試験管に水にボウルを取り出す。
 次に集めた植物だが、前提としてファイ薬草、白芽花、流花草に、毒薬用でパラルシ草、目眩や腹痛を引き起こすヴェレーノ草、睡眠薬の材料であるソンノ草などなど。

 それぞれ非常に多く集めた。毒薬で言えば、森の方がもっとあっただろうが、それは明日へ期待する。

「よしっ、始めるか」

 そう言うと、オレは先ず薬を作り始めた。
 薬研の上に、白芽花を乗せ、ゴリゴリと粉末状へ釣り潰しだした。段々と粉末状になったら、また白芽花を付け足していき、そこそこの量の白芽粉が出来上がった。

 売るわけでもないので、品質を一定にする必要は無いが、念の為作っておいても構わないだろう。

 全て白芽粉に出来上がったので、他の物もすり潰し始める。だが、白芽花のように、完璧に磨り潰すのでは無く、少し繊維を残した状態を保つように心掛ける。

 大体終わったので、次は調合だ。
 まずボウルに、綺麗な水、ファイ薬草の粉を入れよくかき混ぜる。この時に残しておいた繊維をよくすり潰した。

【『調薬』Ⅰを獲得】

 それを一本の試験管に分けて、鑑定を行う。

『下級体力回復薬』
HPが60回復と少なく、瞬時に回復はしない。魔法薬へ必要な工程が飛ばされている。だが、製法は新しく、効能は他の物と比べ高い。
材料:ファイ薬草 非常に綺麗な水

 む?何やら思っていた物と別の物が出来上がったようだ。魔法薬に必要な工程?
 しかしそれ以外は合っている、というよりかは製作が可能だったようだ。効能が比較的高いということは、直感で行ったのが正しかったようだな。

 それにしてもペットボトルに入った水って非常に綺麗な水に分類されるのか。そりゃ現代科学の濾過を用いればこの世界の水なんて汚いだろうが。

 んー、問題は魔法薬に必要な工程か。一体どんな物だ?魔法薬というのだから、魔力が関係しているのか?

 悩んだ末、もうひと工夫してから魔力を込めてみる事にした。
 試験管を、先程昼飯で使ったガスコンロで熱っして煮てみる。弱火でじっくり煮ていると、中身が最初から3/4ほどまで減ると、中の色が驚くほど綺麗に澄んだ。綺麗な薄いエメラルドグリーンだ。
 すぐさま加熱を止め、その液体に魔力MPを注ぐ。『魔力操作』のお陰で魔力の動かし方は何となくわかった。

【『魔力感知』Ⅰを獲得】

 魔力を注がれた下級体力回復薬は、みるみる内に色が鮮やかになっていく。

【『錬金術』Ⅰを獲得】

 100ほど注いだ頃だろうか。魔力が限界を迎え、これ以上入らなくなっている。

「ん?もう限界か?」

 オレのMPのゲージは減った分をすぐさま回復して行った。消費分は二十秒で回復するので、次の魔法薬を作っていれば十分に回復される。
 これは……半永久的に製作が可能だな。

 オレはそう思ってしまった。

 ……まあ、そこまで作り続けるつもりは無いので、作りたいだけ作る事ができると思い直す事にする。
 早速オレは、ひと手間加えた薬を解析してみた。

『下級体力回復魔法薬(特殊)』
下級でありながら、HPを320回復させる脅威の回復量を誇る。簡単な傷を瞬時に治す力があり、軽度の状態異常も治すことができる。特殊な製法で作られており、回復量は他の物の比ではない。
材料:ファイ薬草 非常に綺麗な水

――ピキッ!

 体が固まった。解析結果に目を疑う。

 先日買った魔法薬は、下級で150、中級ですら400だ。流石に回復量が多過ぎでは無かろうか?
 しかし、思い当たる節はある。魔法薬を製作時に独自の製法を用いた事。これはまだ許容範囲内だろう。

 だが、魔力を込め過ぎたのが拙かった。一般人の魔力保有量は平均して20ほど。魔法薬を作る専門の人物でも100へ行くかすら怪しい。

 それほどの量をこの魔法薬へぶち込んだのだ。効能がこうなるのは当然である。魔法薬を作る者とて、全魔力を一本ごとに注ぐわけではないのだ。それではコストがかかり過ぎて、店の運営などではない。

 これほどの物を、間違えて人前に晒してみろ。必ず出処を疑われる。それがもしオレだと分かれば、金のなる木として権力者たちに目を付けられる事は、目に見えている。

 人前で使うときは、十分注意しよう。そう思ったオレだった。




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