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一章 始まりの街

6 謎の少女

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 鳥の囀りで、朝目が覚める。ベッドの上で冊子が放られているのを見るに、どうやらオレは寝落ちしたようだ。
 窓を開け、外を見ると多くの人が活動を始めていた。太陽の位置からおおよその時間を確認するに、まだ8時程だ。この世界の住人は朝が早いらしい。

 それもそのはず、この世界に娯楽は非常に少ない。そのうえ明かりもライトなどある筈がなく、蝋燭などが大半だ。
 貴族などは魔導具と呼ばれる魔法の効果がある道具を使って明かりを保持している。しかしそれも少数だ。暗い中活動出来ないのだから朝が早くなるのは当然だろう。

 考え事をしている内に、ドアからノックが鳴った。

「エノクさん、起きてますか?朝食の時間です」
「ありがとうございます、直ぐに向かいますね」

 オレはそう言って手早く着替えると、一階へ降り、席に着いた。
 すると待たずして、朝食が運ばれてくる。

「今朝は遅いお目覚めですね。昨日は疲れたんですか?」
「ええ、ダルメアノの街に着いたばかりだったもので」
「なるほど」

 受付の少女と一言二言交した後、食事に手を付ける。
 薄味のスープと前日と同様のパン、そして水だ。

 スープは野菜そのものの甘味と旨味が出ていて美味しかったが、パンはやはり固くボソボソとしていた。試しにスープにつけてみたらいくらかマシになったが、やはり不味い。
 だがまあ我慢だ、素早くかき込み食べきる。

 食べ終わった食器を下げ、宿を出る。向かう先は冒険者ギルドだ。早く依頼を達成してカザドの剣の借金を返さねば。


 冒険者ギルドに着くと、他の冒険者からすれば遅い時間帯だからか、ギルド内に残っている者も少なかった。中に入り、一目散に依頼が貼り付けられている掲示板へ向かう。
 オレのランクはFランクなので、その依頼を探さねば。
 大雑把に内容を読んでいく。割合が良いと感じたものだけをピックアップしていった。

―――

ファイ薬草採取
一束 銅貨五枚
※品質により誤差あり
常設依頼

―――

―――

ゴブリン討伐
一体 大銅貨一枚
常設依頼

―――

 常設依頼とは常に掲示板に貼られている依頼のことだ。受付で依頼を通さずとも達成報告だけで済ませることができる。
 この依頼はギルドが出しているため、信頼性は高い。冊子を昨日読んで学んでおいて良かった。

 ちなみにファイ薬草とは、傷薬の原材料だ。そこら中に生えているらしい。その傷薬はものの数日、早ければ一日で治ってしまうほどの効果らしい。流石ファンタジー。
 そのためか、いつでも何処でも需要があるそうだ。多く存在するので、そこまで価値は高くないが。

 割合も良いので、依頼内容を覚えたら早速ギルドから出て門を目指す。

 この街に入ったときと同様の門兵が検問を行っていた。
 人もあまり並んでおらず、冒険者ギルドの証を出すと、問題なく通ることが出来た。

「さて、昨日の平原へ向かうか」

 MAPを確認したら、その方向へ歩き出す。
 門兵が見えなくなる距離を見計らって『疾走』を発動させ素早く向かう。





◇◆◇◆◇




 MAPには、この平原の名はメドウ平原と書かれている。
『敵察知』を活用しつつ、ゴブリンの位置を把握する。その際、薬草を探す事も忘れない。

【『探知』Ⅰを獲得】

「おっ」

 便利そうなスキルが手に入った。早速レベルをⅩまで上げる。
 『探知』を発動すると、劇的な変化が現れた。

 視界のあちらこちらで、▼のマークが浮かび上がった。その場所まで行くと、どうやら探していたファイ薬草を指し示していた。他のところも見てみると、同様にファイ薬草が生えている。
 一先ず一本ちぎってみる。根に土が付いた状態のまま引っこ抜かれた。

【『採取』Ⅰを獲得】

 すぐさまスキルレベルを上げると、頭の中に薬草の採取の方法が浮かび上がってきた。この知識によると、どうやら根は採らないほうが良いらしい。
 ファイ薬草は効能があるのは葉だけなので、根本近くにある茎から採ればまた生えてくるようだ。

 また近くにあるファイ薬草を採取してみる。今度は茎を折りながら捩じ切るように採った。

「よし、上手くできた」

 問題なくスキルのアシストも借りて上手く出来たようだ。この調子でどんどん採取していく。採取したものは片っ端からストレージへ仕舞っていった。


 暫くの間、ファイ薬草を採取しているとMAPに向かって来る赤い光点があった。
 そちらの方向を向き、『遠見』を発動させる。
 どうやら三体のゴブリンが彷徨いているようだ。『解析眼』で確認してもステータス的には問題なさそうに思える。

 オレはストレージから先日買った白い小太刀と、黒いダガーを取り出す。
 今日は盾と剣を付けず、この小太刀とダガーの二刀流で行くつもりだ。

 腰に鞘を取り付け帯剣する。いくらか振って使い心地を確認する。右手には小太刀、左手にはダガーという形だ。

【『刀術』Ⅰを獲得】

 スキルレベルを上げ、もう一度装備を点検してから『疾走』を使って素早くゴブリンへ向かった。念の為『精神苦痛耐性』をONにしておく。
 ぐんぐん速度を上げていった。
 ゴブリンの集団もそれに気づいたのか、各々粗悪ながらも武器を構えた。

「ッッッは!」

 一番近くに居た短剣を持つゴブリンを、『疾走』の勢いを使って右手に持つ小太刀で首を切り裂く。
 何ら抵抗なくゴブリンの首は切り落とされた。首から血が吹き出す。

【経験値を獲得】

 ログで止めがさせた事を確認しつつも、体全身を使って急ブレーキをかける。
 ゴブリンは仲間が一人瞬時に殺された事に動揺しつつも、一体は手にした棍棒で殴り掛かって来た。
 それを左手に逆手に持ち替えたダガーで受け止める。

【解析完了】
【『杖術』Ⅰを獲得】

 スキルが手に入ったのならこのゴブリンに興味は無い。
 上体を戻す勢いを使って小太刀で相手の体に向かって袈裟斬りを放つ。

【経験値を獲得】

 血や臓物が飛び散った。最後のゴブリンは怯えて背を向け、走って逃げようとする。

 だがそれは悪手だ。オレはダガーを投擲し、ゴブリンの背中に突き刺した。

「グギャァァ……」

 胸にダガーを生やしたゴブリンは、そのまま倒れ込む。

【経験値を獲得】
【レベル2→3UP!】
【『二刀流(亜種)』Ⅰを獲得】
【『投擲』Ⅰを獲得】

「ふううぅぅ……」

 肺から息を吐き出した。緊張が解けていく。
 とりあえず上がったステータスを確認して、獲得したスキルレベルも上げておく。
 ついでにゴブリンの討伐証明部位をダガーで切り取っておいた。ゴブリンの討伐証明部位は右耳だ。そして、討伐証明部位では無いがどのモンスターでも買い取って貰える共通のモノがある。心臓にある魔石だ。
 この魔石は、モンスターの強さによって階級が異なり、それぞれの階級によって保有魔力が異なる。
 これらは魔導具と呼ばれる魔法の機能を取り入れた道具の原動力として使われるようだ。そのためかどれも需要が高い、討伐証明とは別に買い取って貰えるらしい。
 冊子にそう書いてあった。

 ちなみにだが、ゴブリンの魔石は10等級と呼ばれ、階級が上がるほど数字は小さくなっていく。
 とはいえ、ゴブリンの魔石はMP―この世界では魔力と呼ばれているようだが、それは20程しか入らないらしい。それでも一般人と総量と同等程度だというのだ。オレのステータスはやはり異常なのだろうか?

 剥ぎ取りは『精神苦痛耐性』のおかげか、忌避感も無い。
 余ったゴブリンの死体を右耳と分けてストレージに収納しておく。武器を収納しておくのも忘れない。こんな鉄屑なような物でも、収集癖が集めようと囁いてくるからだ。上限もないのだから、よりそれを助長させている。

 今日はこの調子でやって行こう。MAPを確認し、モンスターのいる方向を確かめる。
 その行く先にあるファイ薬草を採取しながら、オレは歩き出した。


【経験値を獲得】
【解析完了】
【『槍術』Ⅰを獲得】
【『短槍術』Ⅰを獲得】
【『弓術』Ⅰを獲得】
【レベル3→5UP!】
【『気配隠蔽』Ⅰを獲得】
【『急所感知』Ⅰを獲得】





 気付いた頃には、もう夕方だった。
 空が朱色に染まっている。そろそろ日も完全に落ちるだろう。
 昼は昼食を忘れ、帰るのが勿体なかったので、ストレージに入っている保存食を齧った。
 『疾走』を使って素早く帰る。その間に本日の戦績を思い出していた。

 ファイ薬草計36束、ゴブリン11体、一角兎2体。一角兎とは額に角が生えている少し大きめの兎の事だ。突進攻撃をして来る。ちなみに討伐証明部位は角だ。
 あれから狩りを続けていると、『二刀流(亜種)』を獲得してからは少しズレがあった両手での扱いも完璧に修正されていた。やはりスキルの恩恵は強力なモノだと改めて実感する。
 他にも体制を低くして、気付かれぬ内に石を急所に向け『投擲』してモンスターを殺したら便利なスキルも獲得することが出来た。
 まずまずの戦果だろう。しかし残念ながら望んでいた魔法を使うモンスターと出会うことは叶わなかった。
 明日に期待する他ない。





 門に着くと、冒険者の風貌をした者が結構並んでいた。背負っている鞄には今日の戦利品らしき物が詰め込まれている。無論オレもそれに便乗して、先日買った鞄を身に着けていた。
 中には薬草と討伐証明部位が詰めてある。

 問題なく街の中に入ると、大通りを伝って冒険者ギルドを目指した。屋台が店仕舞いを始めているのが目に付く。

 その中で、たまたま目に付いた露店に目が離せなくなった。
 一人の少女らしき人物は、紺色のローブを目深く被り、手には水晶玉らしき物を持っている。
 下に敷いているシートには何も並べておらず、ただ静かに座っているだけだ。
 その異様な光景に、街の人々は誰も目に止めない。それこそが異常と言えた。

 オレだけが彼女の存在に気づいている。
 少女はオレの存在に気付いたのか、手招きをして来る。オレは鼓動を早めつつも、しっかりとした足取りで歩み寄る。

「どうしたのかな?」
「そう警戒するでない」

 オレは子供に話しかけるように言ったが、少女には警戒していたのが丸分かりだったようだ。
 少女の口調は、老成した老婆のような重みがあった。

「可哀想な魂よ、運命神に因果を操られ弄ばれた人生を送ったようじゃな。そしてまたお主が愛した人物もまた……」
「ッッな!おい待て!それは一体どういう事だ!?」

 オレは少女に掴み掛かるような勢いで問い詰める。得意な『偽表情ポーカーフェイス』も意味を成さなかった。
 心臓が早く鼓動を繰り返す。なぜこの少女がアイツ・・・を知っているのか、疑問が尽きない。
 息が荒くなり、脳が酸素を欲している。頭に熱を帯ているようだ。

 少女は怯えるような雰囲気を一切見せず、オレの質問も聞こえていないように見えた。

「そしてまた今世も――、いやよそう。儂にもその祝福呪いを解くことはできない」
「お前は一体ッ――」

 オレはその言葉を遮るしか出来なかった。少女は懐から取り出した面をオレの顔に取り付けたからだ。

「しかし監視の目からは逃してやることはできる。それをどう使うかはお主次第じゃ。せいぜい運命神に逆らってみよ」

 オレが仮面を引き剥がしたとき、その言葉を残して少女は霞のように消えていた。

「何だったんだ……一体……」

 残された仮面を手に、オレは一人呆然とするしかなかった。




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