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第三百三十三話 クリス、終生のライバルを見つける その3

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「・・・・・・すまん。今の言葉は忘れてくれ」

 アマラントが自分の発言を撤回しようとしたのには理由があった。それは、クリスに誰かを指導する才能が欠片も備わっていない事を、身を以て体験していたからだ。
 アマラントがセバスチャンに頼まれてクリスと行動を共にしていた時、彼のパーティ全員でクリスに剣を教わろうという話になったことがある。
 当時、既にAランクにはなっていたものの、それ以上を目指すには色々と足りないという事もわかっていたアマラント達は、今以上に成長する為、戦う事に関しては天才的で、既に自分達が束になっても敵わない実力を持つクリスに剣術を教わろうと頭を下げたのだ。

「いいよ」

 世話になっている事もあってクリスはこれを快諾。早速翌日から始める事になったのだが、ここで問題が起きた。
 クリスは人に教えた事も、教わった事もない。従って指導方法は手合わせのみで、それが終わっても何かアドバイスをくれるという事もなかったのだ。  
 それでも何か掴もうと何度も手合わせを行ったが、反射神経や動体視力に若干の向上が見られただけで、他に得たものは怪我と、自分達がクリスの領域に足を踏み入れる事はないだろうという、悲しい確信だけだったのである。
 
「・・・・・・成程。その手があったか」

 だからクリスがそう答えて立ち上がった時は耳を疑った。
 自分達では逆立ちしても勝てないようなリザードマンエンペラーを群れごと一人で倒した事を誇りもせず、それどれころかつまらない作業だったと言い切るような天才の目に適うような存在。そんなものが都合よく見つかる訳が無いと思ったからだ。
 もし運良く見つかったとしても、クリスの指導を受けたら大成する前に心を折られるのは間違いないだろう、とも。

「・・・・・・参考までに聞きたいんだが、目ぼしい相手はいるのか?」

 妙にうきうきした様子から、クリスが既に当たりを付けているのだと察したアマラントは、信じられない気持ちで冒険者ギルドを出て行くクリスの後を追いかける。

「旅の仲間の魔法使いだ。『大賢者』って言えばわかるか?」
「ここ最近、よく聞くようになった通り名だな。確か、尋常ではない威力と範囲の魔法で、魔物の群れを何度も殲滅したと聞くが・・・・・・」

 今の今まで半信半疑だったアマラントは、彼の言葉を聞いてニヤリと笑ったクリスの様子から、噂が事実だという事を悟る。と同時に、『大賢者』なる人物にも俄然、興味が湧いてきた。
 
「お、いたいた」

 やがてクリスが立ち止まったのは、王都の裏路地の中にぽっかりと空いた空間。そこでアマラントが目にした人物は、猫に囲まれて幸せそうな顔をしている一人の少年だった。
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