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第三百三十話 カズキ、勇者にブチギレる その4

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「出てこい。生きているのはわかってるんだ」

 御者にロベールの町を解放した事を伝え、馬と共に避難するよう促したカズキは、大破した馬車の中から様子を伺っているへ声を掛けた。

「・・・・・・ぐっ、なんだ貴様は。俺たちが勇者だと知ってての所業か?」

 カズキの確信を持った声に誤魔化せない事を悟ったのか、二人の男が馬車の残骸から這い出て来る。
 二人共にあちこち傷を負っているが、何故か重傷と言えるほどの傷はない。

「成程。仲間を盾にして魔法を防いだのか」

 その理由は、カズキが言った通りのものだった。

「仲間? 奴らはいると便利だから傍に置いていただけだ。勇者である我らと対等なわけがないだろう」
「その通り。何しろ我々には、邪神を倒すという崇高な使命があるのだからな!」

 勇者二人は何が面白いのか、そう言って高笑いを上げる。不意打ちを受けた事で不覚を取りはしたが、目の前にいるのは少年ただ一人。
 若い見た目に反して魔法の威力も高かったが、そういう人間が現れるのもこの世界ではよくある事だと彼らは知っている。
 自分達勇者に恨みを持つ人間が、自らの命を省みる事無く魔力切れによるリバウンドで強引に魔力を増やし、彼らに復讐に来るというのはよく聞く話だ。
 この類の人間は身体能力で勇者に敵わない事を知っているので、皆が皆、魔法によって自分達を倒そうと考えるのも特徴である。
 故に彼らの感想としては、そういった有象無象の中の一人が復讐に来たのだと思ってしまったのも無理はなかったのだ。

「街や村を襲い、守らなければならない人々や猫達から搾取しておいて使命? 害虫の間違いじゃないのか?」

 だから、カズキから侮蔑の言葉を投げつけられても勇者たちはニタニタと笑うばかりだった。
 自分達が圧倒的に強者だと知っている彼らにとって、それ以外の人間の言葉など聞くに値しない。稀に聞く事があっても、それは殺す前に相手の絶望の表情を楽しむためという、極めて質の悪い理由からである。そして今回彼らの琴線に触れたのは、カズキが人と猫を同列に扱った事だった。

「おい」
「ああ」

 故に二人の勇者は、カズキが大事そうに抱っこしている猫を攫うべくアイコンタクトを躱すと、同時にカズキに襲い掛かる。勿論、攫った後は目の前で嬲るように傷つけ、自分の無力に絶望的な表情を浮かべるのを堪能するつもりであった。

「ギャアアアアアア!」
「グハッ!」
「・・・・・・お前ら、今何をしようとした?」

 誤算だったのは、カズキが魔術師でありながら彼ら以上の身体能力を持っていた事。そして、ナンシーを狙われた事でブチギレたカズキが、自分達以上に残酷で冷酷だった事。
 哀れ、カズキの力を見誤った勇者二人は、自分達の両手両足が先端から少しづつ焼かれ、砕かれ、切り刻まれるという光景を見せつけられ、最終的には発狂する事で苦痛から逃れる事が出来たのであった。
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