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第三百二十七話 カズキ、勇者にブチギレる その1

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「お前達なら心配はいらないだろうが、気をつけるんだぞ!」

 夜陰に乗じてアークバ王国に密入国したカズキ、クリス、エルザの三人は、ここまで船で送ってくれたアーネストに礼を言うと、勇者に占領されたという町、ロベールへ向けて歩き出した。
 アークバ王国の海の玄関口を避けて密入国した理由は、交易が途絶えている状況で他国の、それも漁船が入港するのは不自然すぎるからである。

「今夜はここまでにましょう。流石に三日三晩、船に乗りっぱなしだったのは疲れたわ」

 エルザがそう言ったのは、歩き始めてから30分も経っていない頃。どこにでもいるゴブリンの襲撃を撃退した後の事だった。

「そうだな。まだ足元がグラグラ揺れている感じがするし」
「・・・・・・うん」

 ランスリードの港町リーザからアークバ王国の港町レンドンへは、最も速度のある軍船を使っても20日は掛かる。
 そこをカズキとアーネストの魔法を使って強引に移動してきた結果、三人の身体には疲労がたまっていた。
 メインで魔法を使っていたカズキは言うに及ばず、ただ運搬されていただけのクリスとエルザも、慣れない船上では満足に休むことが出来なかった(カズキから【次元ハウス+ニャン】の中で休むよう提案されたが、流石に悪いと断った)のだ。
 
「見えて来たわ。あれがロベールね」

 そして翌日。昼過ぎまでゆっくり休んだ三人は、2時間程歩いてロベールの城壁を目視できる距離まで来ていた。

「街門は閉じていて、城壁の上に一応だが門番がいま・・・・・いる。数は二人。まともに仕事しないで酒盛りをしている。身なりは兵士や騎士のように統一されていない。パッと見は盗賊か山賊っぽい」
「勇者の子分でしょうね。きっと、人が逃げ出さないように監視しているんだわ」

 魔法で様子を見ているカズキのへんてこな言葉遣いに笑いを堪えながら、エルザが自分の見解を示す。

「中の様子はわかるか? 出来れば勇者の居場所が知りたい」
「やってみま・・・みる」

 続くクリスの疑問に応えるべく、カズキは視点を町の中央部へと動かしていく。その場所には立派な館が建っているので、勇者がいるならそこだと思ったのだ。

「・・・・・・勇者かどれかはわかりませんが、破落戸が中央の館に10人。元からいた館のメイドらしき人たちが5人。彼女たちは例外なく痩せていて、所々怪我をしています」
「ちっ、クズ共が」

 話を聞いたクリスが吐き捨てる。カズキも全く同感だったが、傍で激昂している人間がいるせいか、却って冷静に町の様子を見る事が出来た。

「・・・・・・あれは!」

 だが、カズキが冷静でいられたのも数秒の間だけだった。
 他の場所を見ようと視点を移動させた際、彼は見てしまったのだ。老若男女問わず、ガリガリに痩せている住人たちがノロノロと農作業をしている様と、何日も食事をしていないのか、やはりガリガリに痩せた母親と思しき猫が横たわる傍らにいる、動きが弱々しい仔猫の姿を。
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