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第三百二十四話 カズキ、冒険者になる その2

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「ちょっと待て。ギルドに行く前に、カズキには直してもらわないといけない事がある」

 今にも飛び出していきそうなクリスとカズキを、ジュリアンが制止する。

「直さないといけない所ですか?」

 ジュリアンが何を言っているのかわからないカズキが答えを求めて傍らのクリスを見上げると、彼には心当たりがあるのか頻りに頷いていた。

「私もそれは気になっていたわ。もう姉弟の間柄なのに、いつまで経っても直らないんだもの」
「え? え?」

 エルザにまでそう言われたが、カズキには全くと言っていい程、心当たりがない。そうなると残る手段は一つである。そう、心当たりがないのなら、直接話を聞き、至らない点があれば直していけばいい。地球にいた頃の親戚とは違い、ここにはカズキの話を聞いて、アドバイスしてくれる人が沢山いるのだから。

「・・・・・・ごめんなさい。僕では皆さんが言っている事が全くわからないんです。至らない点があれば直したいと思いますので、どうかお教え願いませんでしょうか?」
「「「それだ(よ)」」」
「え? え?」

 『それ』と言われても何のことかわからず、カズキは目を白黒させる。だから『それ』が何なのかを聞こうと口を開きかけたところで、黙っていたソフィアが先に口を開いた。

「あなた達。話が進まないから、ちゃんと説明なさい。カズキが困ってるでしょ」
「「「すいません」」」
「全く・・・・・・。それで? 誰が説明するの?」
「では私が」

 そう言って進み出たジュリアンが説明するところによると、どうやら三人はカズキに敬語を止めて欲しかったらしい。

「俺たちはもう仲間だ。仲間に敬語とかおかしいだろ?」

 とクリスが言えば、

「姉弟で敬語使うって、距離取られているみたいで嫌なのよね」

 とエルザ。

「冒険者は荒くれ者が多い。そんなところに行って冒険者相手に敬語を使うなんて真似をしたら、あからさまに下に見られてしまう。だから嘘でも太々しい態度を心がけるんだ。わかったか?」

 最後のジュリアンはクリスの意見に同意しつつ、冒険者という人種について語った。なお、これが当てはまるのは低ランクの冒険者で、高ランクの場合は実力を見抜くから余計な騒ぎは起こさないという事は敢えて黙っている。どこにでも例外はあるからだ。

「は、はい・・・・・・」
「そこは『はい』じゃなくて『ああ』とか『わかった』だろう。とはいえ、いきなりというのも難しいだろうから追々直してくれればいい」
「兄貴の言う通りだな。まあ、これから行く冒険者ギルドでは、敬語は一切禁止だが」
「い、いきなりハードルが高くないですか?」
「・・・・・・」
「は、ハードルが高くないか?」
「そうか? まあ最悪、黙ってればいいだろ」
 
 追々で良いとのジュリアンの言葉に同意した癖に、クリスは敬語に反応しなかったので、カズキは仕方なく口調を改める。
 どうやら冒険者ギルドへ行った時の予行演習は既に始まっているらしかった。
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