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第三百十一話 カズキ、初めての野営をする その2

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 クリスが食料調達すると言って飛び出していった直後の事。

「さあエルザさ――」
「お姉ちゃん」
「――お姉ちゃん。クリスさんの言う通り、テントを建てましょう!」
「いやよ」
「えっ・・・・・・?」

 初の野営とあってカズキは張り切っていた。日本にいた時にキャンプなどした経験など勿論なかったので(カズキを引き取った親戚は、彼を置き去りにして毎年海へ山へと楽しんでいたが)、実は密かに楽しみにしていたのである。
 だが、エルザにとってはそうではない。この世界では野営などありふれたものなのだ。
 野生動物や魔物に襲われないように見張りは必須だし、そうなると必然的に一人当たりの睡眠時間は短くなる。その上、魔物や動物が襲撃してきたら見張りに容赦なくたたき起こされるし、それを免れたとしても、最低限の装備を付けたまま寝るので疲れなど当然取れない。
 他にも体の汚れを落とす事とか、トイレとか焚火とか虫とか色々な問題があるので、出来れば御免被りたいというのがエルザの主張だった。

「なにより、そんな環境でナンシーがゆっくりと休めると思う?」
「言われてみればそうですね」

 ナンシーを出しに使われたカズキは、魔物や動物に襲われて飛び起きる自分と、それにつられて目を覚ましてしまうナンシーの事を想像。その結果、テント泊は無しだという結論に至った。

「でも、そうなると何処に泊まるんですか?」

 テント泊を却下したカズキだが、一番大きな問題が残っていた。それは、安心して休むことが出来るの確保である。

「そうねぇ。魔物の襲撃があってもビクともしない、強固な砦のようなものが理想かしら」
「はぁ。それには同意しますが、そんな物が何処にあるんでしょう?」
「え? 造ればいいじゃない」
「造る・・・・・・?」
「そうよ。貴方が魔法で造るの」
「僕が? 魔法で?」
「ええ。出来るでしょ?」

 考えてもみなかった事を言われたカズキだったが、そこでふと、昔図書館で読んだラノベの事を思い出す。

「そう言えば、彼らも魔法で泊まる場所を造ってたっけ」

 そう呟いたカズキは、試しに三人プラス一匹が宿泊できそうな広さの家を想像した。最初から難しい事は出来る気がしないので、取り敢えずはその分のスペースを確保する事に注力しようと、静かにを開始する。

「深淵なる岩肌より石を呼び寄せ、古の秘術を以て石造りの住まいを築く。我が手に宿る力よ、大地の息吹を受け取り、石塊を重ね、家屋を形作りし者よ。その名は【岩妖の住居創造】!」

 そうして完成したのは、総石造りの頑丈そうな箱の家だった。
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