上 下
310 / 343

第三一〇話 カズキ、初めての野営をする その1

しおりを挟む
「・・・・・・以上で式典を終了とする。皆の者! 旅立つ三人の英雄に盛大な拍手を!」

 対邪神への方針が決定した一週間後。邪神討伐祈念の式典が開かれた。
 とは言っても今は戦時中。式典に予算を掛ける事はあまり出来ないので、集まった民衆の前で着飾ったクリス、エルザ、カズキの三人に、これまた着飾ったセバスチャン国王が大仰に声を掛け、その後に各宗派のお偉いさんが三人を祝福し、最後は飾り付けたオープンカー式の馬車に乗って三人が旅立つという演出をするだけの簡素なものだった。

「やれやれ、肩が凝ったぜ」
「ホントね」
「疲れましたぁ」
「みぃあ・・・・・・」

 街の門を出たところで場所を降りた三人とナンシー(魔法で姿を消し、カズキがずっと抱っこしていた)は、窮屈な衣装を脱いで馬車を降り、門の外の目立たたない場所に停めてあった馬車に乗り込む。
 目指すは王都から東へ三日の距離にある、草木が鬱蒼と生い茂る場所である。
 ここ最近、その周辺でオークの集団が頻繁に目撃されている事から、そこにエンペラーとクイーンがいる可能性が高いと判断されたのだ。

「今日はここまでだな」

 御者を務めていたクリスが、薄暗くなった空を見て馬車を止める。これから行く場所は一応街道は通っているが、資源に乏しく、また農地として開発しようにも他にいくらでも優先する場所がある為、付近に村などもないし、野営の為の広場すらない。その為、野営しようと思った時に停車した場所が野営場所になるのだ。

「俺は適当に動物を狩ってくるから、二人は火を熾した後、テントを組み立てておいてくれ」

 クリスはそう言うと、二人の返事も待たずに駆け出した。カズキは野営は初めてだが、エルザが付いているので問題ないだろう。と、この時はそう思っていたのだ。

「お、ウサギ見っけ」

 獲物を探し始めて1分後。首尾よく獲物を見つけたクリスは、ウサギに気付かれない程の速度で近づき剣を一閃。その際、僅かに地面が揺れたが、その程度で狙いを違える筈もなく、ウサギは綺麗に両断されていた。

「よし、次だ」

 クリスはその後も同じ要領で二羽のウサギを狩ると、三羽まとめて宙に放り、剣を物凄いスピードで閃かせる。すると次の瞬間には、可食部とそれ以外で分けられるという寸法だった。

「ま、こんなこもんか」

 常識外れの解体方法を披露したクリスは、食べられない部分を土中に埋めると踵を返す。その際、また地面が僅かに揺れた事を気にしたクリスは、馬車に戻る前に周囲の見回りをする事にした。
 もしかしたら巨大な魔物が付近にいるかもしれないと思ったからだ。

「出来れば依頼の出ている魔物が良いんだが・・・・・・」

 そう呟きつつ、期待に目を輝かせるクリス。だが彼の願いに反して、周囲に魔物は棲んでいなかった。

「ちっ、無駄足か」

 ぼやきながら馬車へと戻ろうとしたクリスは見てしまった。

「・・・・・・はい?」

 馬車のある筈の方角に、何故か石造りの頑丈そうな建物が現れているのを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...