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第三百一話 カズキ、初めての海へ その2

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「これが、海・・・・・・」

 ランスリードから馬車で一週間。道中何事もなく、無事に港町リーザに辿り着いた一行は、海を見た事がないというカズキに海を見せたくて、宿も取らずに港へ直行した。

「やっぱり寂れてるわね・・・・・・」

 そんなカズキをそっとしておくことに決めた他のメンバーは、小声でこの街の様子を話し合う。
 陸のみならず、海の魔物も活性化しているという報告が入っていたからだ。

「そうだな。特に他国からの船は殆どない。漁船も魔物に襲われるのを警戒してか、陸上げしてるのが多いみたいだ」
「屋台も出てません・・・・・・」

 悲しそうな表情をしていたのはフローネだった。この街での彼女の楽しみ方は、色々な屋台で買い食いする事だったからだ。

「アーネストがいれば話が聞けるんだが・・・・・・」

 アルフレッドがそう言いながら、キョロキョロと港を見回す。
 ランスリードの第二王子にして漁師であるアーネストは、この街で一番の漁師として名高い。海棲の魔物を何度も仕留めているという報告が何度も入っている事もあり、話を聞くのにうってつけの人物であることは疑いようがなかったからだ。

「見当たらないわね。きっと漁に出ているのでしょうから、先に宿を取ってアーネストの帰りを待ちましょうか」

 同じようにキョロキョロしていたエルザはそう言うと、未だに海を眺めているカズキに声を掛けようと彼に近付く。それで気付いたのだが、カズキはただ海を眺めているだけではなかった。

「・・・・・・それは?」
「あ、魔法です」

 そう、カズキはただ海を眺めていたのではなく、目の前の水面に沖にある船の様子を魔法で投影していたのだ。

「どうしたの? あら、これは沖の様子?」
「この港で普通に使われている漁船が一隻か。魔物が出る危険な海でそんな事をしそうな奴は・・・・・・」
「アーネストお兄様ですかね?」

 食い入る様に水面を見つめているエルザの様子が気になったのか、残りの三人もやってきて映像を見つめる。

「まず間違いないとは思うが確認したいな。カズキ、船員を移す事は出来るか?」
「はい」

 アルフレッドの要請に応じて、映像が船上にズームしていく。ややあってそこに映ったのは、青い髪を地肌が見えそうな程刈り込み、頭にはねじりハチマキをしている、身長が二メートル近くの日に焼けた筋骨隆々の男。

「「「やっぱり」」」

 ランスリード王国の第二王子アーネストであった。
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