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第二百八十三話 蝿の王の最期

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 意識を端末である蝿に移す事に成功したベルゼブブは、夜明けを待って移動を開始した。目指したのは、次元屋の地下にある『時空の歪み』である。
 
「忌々しい事に、魔法神カズキには我ら悪魔の特殊能力である、魔法無効が通用しない。今は何の力も持たない蝿だからいいが、この世界で力を取り戻そうとすれば、今回の様に気付かれる可能性がある」

 と考えたからだ。だが――

「なんで魔法神カズキが『時空の歪みここ』にいる!?」

 何の因果か、ベルゼブブは目的地に着いた所でカズキ(とフローネ)の姿を目撃してしまったのだ。

「やっぱり来たか」

 当然だが、カズキがここにいるのは偶然ではない。フローネが所持していた『悪魔辞典』にはベルゼブブの能力が事細かに書かれていた為、ベルゼブブが滅んでいないのを知っていたからだ。
 問題は、意識をただの蝿に移された場合、一時的にベルゼブブを見失うという事。流石のカズキも無数にいる蝿の中からベルゼブブを特定するのは面倒だし嫌だったので、再び虫しか眠らないレベルの弱い【スリープ】を掛け、その中でも平然と動いている蝿を追跡した結果、『次元屋』を目指している事がわかったのだ。
 
「・・・・・・本当にこの蝿が魔王なの?」

 カズキから話を聞き、怖いもの見たさで立ち会う事を求めたラクトが、どう見てもただの蝿を見て首を傾げる。それもその筈、ベルゼブブは内心の動揺を抑え、只の蝿の様に振舞っていたからだ。

「さっき店全体に【虫よけ】の魔法を使ったんだからわかるだろ? この蝿がここにいる異常性が」
「確かにいきなり小さい虫が店の外に出て行ったのには驚いたね。母さんがあの魔法を発表しないのか気にしてたし」
「そうなのか? それなら教えてもいいが」
「ほんと!?」

 二人の会話を聞いたベルゼブブは、そこで初めて自分の失敗を悟る。というのも『次元屋』の建物に入った際、まるで逃げるように虫たちが建物の外へと移動していくのを目にしていたからだ。
 一刻も早くカズキから逃れようとした結果、異常を見逃していたのが彼の? 最大の敗因である。

「まさか魔法無効を逆手に取られるとはな・・・・・・。だが私はまだ諦めんぞ!」

 往生際の悪いベルゼブブは、再び他の蝿に意識を移そうと付近を探る。だがどんなに探しても、端末である蝿や虻は見つからなかった。

「もうその手は使えない。お前が『時空の歪みここ』に入った時点で、結界を張ったからな」
「くそっ!」

 カズキに全ての道を塞がれたベルゼブブは、せめて最後に一泡吹かせようと、魂を燃やして最盛期の姿(残り寿命10秒)になった。

「【クロックアップ】!」

 そして、カズキとフローネから離れてじゃれ合っていたナンシーとクレアに狙いを定めると、【クロックアップ】を使用し、一瞬で二匹の前へと移動した。
 前回、『時空の歪みこの場所』で蹂躙された時、使い魔を褒美にするという話をした瞬間にカズキが豹変した事を、ベルゼブブは覚えていたのである。

「死ねええええええええええっ!」

 勝ち誇った顔をカズキに向け、ベルゼブブはナンシーとクレアに向かって魔力で出来た大鎌を振り下ろす。
 数瞬後に体が崩壊するか、怒り狂ったカズキによって滅ぼされるのかは分からないが、その顔が絶望に染まるところを見るのが残念でならないと思いながら。

「ニャー」

 だが、ここでベルゼブブも予期していなかった事が起こる。カズキでもなければ反応も出来ない速度で振るわれた大鎌が、ナンシーの両前脚の肉球の間でピタリと止められていた。
 ナンシーの持つヒヒイロカネの能力である、カズキ限定のステータス共有が、猛威を振るった瞬間である。

「なんだと!?」

 予想外の事態に狼狽えながらも、ベルゼブブは反射的に【クロックアップ】を使ってナンシーから距離を取る。いや、取ろうとしたのだが、ナンシーの動く速さはベルゼブブのそれを遥かに凌駕していた。

「ミャー」

 今度はコチラの番だと言わんばかりにベルゼブブに追いつくとそのまま跳躍し、気になっていた角に向かって右前脚の爪を一閃。見事片側の角を斬り飛ばす。

「な、なんだお前は!?」

 得体の知れない恐怖に囚われたベルゼブブは、ナンシーが斬り飛ばした角に気を取られている隙に空中へと逃れると、今度は魔法を乱れ打ちしてナンシーを仕留めようとした。だが――

「ミャッ!」

 ナンシーは【アイギス】で全ての魔法を防ぐと、逆にベルゼブブを魔法で拘束。

「や、止めろぉぉぉぉぉぉ!」
「ミャー?」

 何かを感じたのか懇願する言葉に首を傾げると、容赦なく【ラグナロク】を発動し、ベルゼブブを滅ぼした。
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