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第二百八十二話 蝿の王
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「さて、終わらせるか」
猫たちへの聞き込みによって犯人? が分かると、カズキは【テレポート】で人気のない郊外へ移動した。
「どうするんですか?」
「王都とその近郊のエリアに、虫しか眠らないレベルの弱い【スリープ】を掛ける」
「なるほど! それで眠らなかったのがベルゼブブ(仮)という訳ですね!」
「そういう事だ。悪魔ならそもそも魔法が効かないし、他の魔物だったとしても問題なく抵抗できるからな。そうして眠らなかったベルゼブブ(仮)をこの場に【テレポート】で呼び寄せて斃せば、今回の事件は解決だ」
カズキはそう言うと、【探知】の魔法を使ってから全ての虫を眠らる。すると狙い通り、【スリープ】を掛けても平然としている蝿と虻、合計20匹を見つけたので、即座に【テレポート】を使ってこちらに呼び寄せた。
「なっ、何が起きた!」
強制的に移動させられた事に驚いたのか、虻の姿のままで声を発するベルゼブブ(仮)。だがそんな彼? を待っていたのは更なる驚きと恐怖だった。
「きっ、貴様は!」
そう、そこにいたのは嘗て魔王として魔界からこの世界に侵攻してきた時、彼の手下諸共、圧倒的な魔法で蹂躙した魔法神だったのだ!
「知り合いですか?」
カズキを見て明らかに狼狽えている様子のベルゼブブ(仮)を見て、フローネがカズキに尋ねる。
「虻に知り合いはいないなぁ」
だが当然の事、カズキに心当たりがある筈もない。何しろ前に会った時は人型で、もっと禍々しい姿だったのだ。
「ですよね。じゃあなんで、カズキさんの事を知っていたんでしょう?」
「さあ? どうせこの後滅ぼすんだし、今のうちに聞いてみればいいんじゃないか?」
「良いんですか!?」
「ああ。他にも色々と聞きたい事があるんだろ?」
「はい! じゃあ最初に。貴方は蝿の王と呼ばれている、ベルゼブブですか?」
カズキの言葉に頷いたフローネは、広げたままのページを見て虻に声を掛けた。端から見るとシュールな光景である。
「・・・・・・如何にも」
問いかけられたベルゼブブは、この後に来る滅びを回避する為、フローネの話に付き合う事にした。
蝿の王である彼にとって、全ての蝿や虻は端末。全盛期の力を持っていれば一瞬で、今の様にほぼ全ての力を失っている現在でも、時間を掛ければ意識を移す事が可能だからだ。
現に魔法神の怒りにふれ、滅びの魔法を使われた時も、偶々『時空の歪み』に一匹だけいた蝿に意識を移す事で、辛うじて生き延びる事が出来た。
動物の死骸から始め、ようやく人から力を吸い取る事が出来るようになった矢先に見つかってしまったのは誤算だったが、座して滅びを待つよりはマシ。次からはより慎重に時間を掛けて力を取り戻し、魔法神の力が及ばない世界へと移動しようと考えたのだ。
「そうなんですね! じゃあ次は、何故カズキさんの事を知っているんですか?」
「・・・・・・この世界へ侵攻してきた時、迎え撃ったのがそこにいる男だ」
ベルゼブブは忌々しい経験を思い出しながらも、フローネの質問に素直に答える。カズキが魔法で眠らせた蝿に完全に意識を移すまで、まだ時間が掛かるからだ。
「侵攻・・・・・・。ああっ! もしかしてカズキさんの怒りに触れて、何も出来ずにあっさりと試作の【ラグナロク】で滅ぼされた悪魔のボスだったり!?」
「(この女いつか殺す)・・・・・・【ラグナロク】が滅びの魔法ならその通りだ」
ベルゼブブは、フローネに無自覚に煽られ、怒りを掻き立てられながらも、努めて冷静に言葉を返す。
ここで怒気を振りまいたら、フローネに危害を加えると勘違いされて、カズキに滅ぼされる可能性があったからだ。
「じゃあ次です! 何故滅びた筈なのに、あなたは生きてるんですか?」
「・・・・・・私はこの世界の様子を知るために、自分の身体の一部を、先んじて『門』を通して送り込んでいた。これだけ言えば解ると思うが?」
この質問を予期していたベルゼブブは、誤った情報(この場にいる20匹の蝿と虻がミスリード。実際には核となる虻から数メートルの範囲でしか離れることは出来ないので、他の世界に体の一部を送る事は出来ない)を与え、フローネに考えるように仕向けた。フローネの疑問を解消する時間を与えたカズキならば、彼女との会話が終わるまで、仕掛けて来ないと考えたからだ。
「・・・・・・なるほど。体の一部を送り込めば様子が分かるという事は、意識を共有しているという事にもなりますね。つまり今回は体の一部、言うなれば分身がこの世界にあったからこそ、生き延びる事が出来たと」
「その通りだ」
誤った結論を出した事を内心嘲笑しながら、ベルゼブブはフローネの言葉を肯定する。
「(ククク。これで今の私が消滅すれば完璧だ。何しろ、この世界に私の分身はもういないのだからな!)」
ベルゼブブはフローネとの会話中、カズキが範囲を広げてナニカを探している事に気付いていた。そして、フローネの推測を聞いた後、魔法を使う事を止めた事も。
「(良し! 端末との意識の共有が完了した!)」
全ての準備が整ったベルゼブブは、煽られた意趣返しにフローネを襲撃する事にした。今の力で殺す事は出来ないが、トラウマの一つも与えなければ気が済まなかったのだ。
「死ね!」
次の質問を考えているフローネの顔目掛け、20匹からなる蝿部隊が殺到する。だが――
「【ホーリーシールド】! 【ディバインアロー】!」
数々の修羅場を潜り抜けて来たフローネには通用しなかった。聖なる盾で突撃を防いだかと思うと、間髪いれず聖なる矢でベルゼブブを葬り去ったのである。
猫たちへの聞き込みによって犯人? が分かると、カズキは【テレポート】で人気のない郊外へ移動した。
「どうするんですか?」
「王都とその近郊のエリアに、虫しか眠らないレベルの弱い【スリープ】を掛ける」
「なるほど! それで眠らなかったのがベルゼブブ(仮)という訳ですね!」
「そういう事だ。悪魔ならそもそも魔法が効かないし、他の魔物だったとしても問題なく抵抗できるからな。そうして眠らなかったベルゼブブ(仮)をこの場に【テレポート】で呼び寄せて斃せば、今回の事件は解決だ」
カズキはそう言うと、【探知】の魔法を使ってから全ての虫を眠らる。すると狙い通り、【スリープ】を掛けても平然としている蝿と虻、合計20匹を見つけたので、即座に【テレポート】を使ってこちらに呼び寄せた。
「なっ、何が起きた!」
強制的に移動させられた事に驚いたのか、虻の姿のままで声を発するベルゼブブ(仮)。だがそんな彼? を待っていたのは更なる驚きと恐怖だった。
「きっ、貴様は!」
そう、そこにいたのは嘗て魔王として魔界からこの世界に侵攻してきた時、彼の手下諸共、圧倒的な魔法で蹂躙した魔法神だったのだ!
「知り合いですか?」
カズキを見て明らかに狼狽えている様子のベルゼブブ(仮)を見て、フローネがカズキに尋ねる。
「虻に知り合いはいないなぁ」
だが当然の事、カズキに心当たりがある筈もない。何しろ前に会った時は人型で、もっと禍々しい姿だったのだ。
「ですよね。じゃあなんで、カズキさんの事を知っていたんでしょう?」
「さあ? どうせこの後滅ぼすんだし、今のうちに聞いてみればいいんじゃないか?」
「良いんですか!?」
「ああ。他にも色々と聞きたい事があるんだろ?」
「はい! じゃあ最初に。貴方は蝿の王と呼ばれている、ベルゼブブですか?」
カズキの言葉に頷いたフローネは、広げたままのページを見て虻に声を掛けた。端から見るとシュールな光景である。
「・・・・・・如何にも」
問いかけられたベルゼブブは、この後に来る滅びを回避する為、フローネの話に付き合う事にした。
蝿の王である彼にとって、全ての蝿や虻は端末。全盛期の力を持っていれば一瞬で、今の様にほぼ全ての力を失っている現在でも、時間を掛ければ意識を移す事が可能だからだ。
現に魔法神の怒りにふれ、滅びの魔法を使われた時も、偶々『時空の歪み』に一匹だけいた蝿に意識を移す事で、辛うじて生き延びる事が出来た。
動物の死骸から始め、ようやく人から力を吸い取る事が出来るようになった矢先に見つかってしまったのは誤算だったが、座して滅びを待つよりはマシ。次からはより慎重に時間を掛けて力を取り戻し、魔法神の力が及ばない世界へと移動しようと考えたのだ。
「そうなんですね! じゃあ次は、何故カズキさんの事を知っているんですか?」
「・・・・・・この世界へ侵攻してきた時、迎え撃ったのがそこにいる男だ」
ベルゼブブは忌々しい経験を思い出しながらも、フローネの質問に素直に答える。カズキが魔法で眠らせた蝿に完全に意識を移すまで、まだ時間が掛かるからだ。
「侵攻・・・・・・。ああっ! もしかしてカズキさんの怒りに触れて、何も出来ずにあっさりと試作の【ラグナロク】で滅ぼされた悪魔のボスだったり!?」
「(この女いつか殺す)・・・・・・【ラグナロク】が滅びの魔法ならその通りだ」
ベルゼブブは、フローネに無自覚に煽られ、怒りを掻き立てられながらも、努めて冷静に言葉を返す。
ここで怒気を振りまいたら、フローネに危害を加えると勘違いされて、カズキに滅ぼされる可能性があったからだ。
「じゃあ次です! 何故滅びた筈なのに、あなたは生きてるんですか?」
「・・・・・・私はこの世界の様子を知るために、自分の身体の一部を、先んじて『門』を通して送り込んでいた。これだけ言えば解ると思うが?」
この質問を予期していたベルゼブブは、誤った情報(この場にいる20匹の蝿と虻がミスリード。実際には核となる虻から数メートルの範囲でしか離れることは出来ないので、他の世界に体の一部を送る事は出来ない)を与え、フローネに考えるように仕向けた。フローネの疑問を解消する時間を与えたカズキならば、彼女との会話が終わるまで、仕掛けて来ないと考えたからだ。
「・・・・・・なるほど。体の一部を送り込めば様子が分かるという事は、意識を共有しているという事にもなりますね。つまり今回は体の一部、言うなれば分身がこの世界にあったからこそ、生き延びる事が出来たと」
「その通りだ」
誤った結論を出した事を内心嘲笑しながら、ベルゼブブはフローネの言葉を肯定する。
「(ククク。これで今の私が消滅すれば完璧だ。何しろ、この世界に私の分身はもういないのだからな!)」
ベルゼブブはフローネとの会話中、カズキが範囲を広げてナニカを探している事に気付いていた。そして、フローネの推測を聞いた後、魔法を使う事を止めた事も。
「(良し! 端末との意識の共有が完了した!)」
全ての準備が整ったベルゼブブは、煽られた意趣返しにフローネを襲撃する事にした。今の力で殺す事は出来ないが、トラウマの一つも与えなければ気が済まなかったのだ。
「死ね!」
次の質問を考えているフローネの顔目掛け、20匹からなる蝿部隊が殺到する。だが――
「【ホーリーシールド】! 【ディバインアロー】!」
数々の修羅場を潜り抜けて来たフローネには通用しなかった。聖なる盾で突撃を防いだかと思うと、間髪いれず聖なる矢でベルゼブブを葬り去ったのである。
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