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第二百八十話 未解決な連続殺人事件

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「そうか、今回も手掛かりはなしか・・・・・・」
「はい。これまで同様、目撃者はおろか、犯人に関する手掛かりすら得られていない状況です」

 ジュリアンはここ二週間、何の進展もない、とある連続殺人事件の報告を、筆頭宮廷魔術師であるアレクサンダーから聞いて溜息を吐いた。
 その事件の特徴は、被害者が例外なく干からびた状態で死体が見つかるというもので、いずれの被害者も首筋に鋭い牙を突き刺したような傷跡がある事から、犯人は吸血鬼ヴァンパイアではないかと推測され、一時はランスリードの第一王女であるカレンが容疑者に挙がった事もある。
 幸い、カレンは直ぐに見つかり、彼女の嗜好が昔と変わっていない事が確認できた為、早々に容疑者からは外れたのだが・・・・・・。
 
「まずいな。姉上が吸血鬼ヴァンパイアの先祖返りだという話は広く知られている。その戦闘能力もな」
「はい。カレン様を、というより、王家の方々に隔意を持つ連中は、ここぞとばかりにカレン様を犯人に仕立て上げようとするかもしれません。事実、他国から来た商人や、その護衛の冒険者の間では、カレン様が犯人なのではないか、という話が徐々に広まりつつあるようです」
「勇者に協力していた連中の仕業か・・・・・・。散々叩いたのに、まだ残党が残っているとはな」
「どうやら、補助金を打ち切られた教会の連中が奴らを匿っているようです。まともな聖職者たちは、エルザ様が新しく建立している神殿に宿舎を与えられているので、部屋は余っておりますからな」
「神聖な筈の神殿が、我が国の騎士団が踏み込めないのを良い事に、今や悪党の巣窟になっているとはな。まあ、残党が自主的に居場所を知らせてくれているんだ。その時が来たら、一網打尽にすればいいだろう」

 ランスリードに限らず、この世界ではどの国でも教会の権威は強い。それは実際に神が存在し、司祭を通じて様々な奇跡を授けてくれることが背景としてあるからだ。更に言うと、神殿は一種の聖域となっていて、神殿で神聖魔法を行使すると、他の場所で魔法を使うよりも一段上の効果が発揮される事が知られている。
 そんな理由から、神殿が建っている土地は神の物とされているので、土地を提供している国であっても迂闊に踏み込むことが出来ない場所となっているのだ。

「確かに。今神殿に残っている奴らは、自分達が破門されるとは夢にも思っていないでしょうからな」

 それは、今のランスリード神殿上層部はおろか、大半の人間が知らない情報だ。
 ランスリードの神殿の上層部の腐敗ぶりをエルザに聞かされた総本山は、新たな神殿が出来次第、現在の神殿に所属する上層部を破門し、新たな枢機卿を派遣する事をランスリード上層部に申し入れてきたのである。
 余談だが、国家権力よりも上である神殿が、わざわざ強制力のある『通達』ではなく『申し入れ』してきたのは、『大賢者』カズキ召喚の神託を受けたフローネと、『聖女』エルザがいるからに他ならない。

「そうだな。連中はその時まで監視に留めておけばいい。それよりも今は殺人事件のほうだ。何か手はないか?」
「言っても衛兵や騎士団を出し抜けるような相手です。こちらも手段を選んでいる場合ではありません。それでも良いのなら一つだけ・・・・・・」
「何か思いついたのか?」

 言葉を濁すアレクサンダーの様子から、何かしら犠牲を払うアイデアなのだとジュリアンは表情を険しくする。
 だが、手掛かりが何もない現状、アレクサンダーのアイデアを頭から否定できないとも考えたジュリアンは、彼が思いついたアイデアを聞いてみる事にした。仮に騎士や衛視に犠牲が出るような作戦でも、何かしらの対策を打てば犠牲を最小限、或いはゼロに留める事が出来るかもしれないからだ。

「はい。私、殿下、ソフィア様の三人が、ローテーションで【探知】の魔法を使い続けるのです。現状、犯人は一日一殺を守っているようですから、事が起きれば何かしら手掛かりが掴める・・・・・・かもしれません」
「・・・・・・」

 アレクサンダーから予期せぬ提案を受けたジュリアンは、物凄く嫌そうな表情で黙りこむ。というのも古代魔法による広範囲の【探知】を行うと、副作用として頭痛が発生するからだ。これは大量の情報が一気になだれ込んでくるため、脳が負荷に耐えられない為に起こる現象だと考えられていた。
 対策としては扱う情報量を制限する事が挙げられるが、今回は広いランスリードの街中から手掛かりを掴むという目的があるので、むしろ全開で魔法を使う必要が出てくる。故にジュリアンは嫌そうな顔をしたのだ。

「如何しますか?」
「・・・・・・背に腹は代えられん。その為には、母上に協力を仰がなければならんな」

 苦渋の決断を下したジュリアンは、その勢いでソフィアの協力を取り付けると、早速ローテーションでの広域探知を実行する。
 だが彼らの健闘も空しく、翌日には再び干からびた死体が見つかったという報告が入ってしまうのだった。
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