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第話 学院、国営化するってよ

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「ランスリード魔法学院が、来年度から国営化する?」

 カズキとカレンの活躍により、ルテアの村が再び活気を取り戻してから一週間後。
 新しく設置した疑似ダンジョンコアに問題が無い事を確認したカズキたちは、アマルテイアのミルクのお裾分けに訪れたランスリードの王城で、ジュリアンにそんな話を聞かされた。

「ああ。学院は元々、邪神に対抗するための人材を育てる事を目的として設立されただろう? その邪神が倒された今、学院はその役目を終えたいのではないか? という声が各国から上がってな」
「ふーん」

 元から学院への入学に興味がなかったカズキが気のない返事をする横で、他の学院生が顔を見合わせる。ややあって声を上げたのは、パーティのリーダーを務めるラクトだった。

「あのー。それ以上の脅威が立て続けに現れたと思うんですが、それについてどう考えているんですかね?」
「うむ。当然の疑問だな。勿論、各国の上層部にも悪魔やリントヴルムの情報は共有している。そういった存在がこれから先も現れる可能性がある以上、備える事の大切さも理解はしているんだ。だが、その為に必要な物を、他国は持っていない。ラクト君ならわかるだろう?」
「ええまあ。他国はここランスリードとは違って、邪神が放った魔物の被害からの復興が遅れていますからね・・・・・・」
「その通り。要は先立つものがないから、学院の運営に回す費用を抑えたいという事さ。幸い、悪魔の件もリントヴルムの件も、表には出ていないからね。だから表向きは邪神の脅威がなくなったから、学院の存在意義は達成されたという事にしたいのさ」
「成程」

 ジュリアンの言葉に、城中の猫達にもみくちゃにされ、幸せそうな顔をしているカズキをみたラクトが頷いた。
 邪神を倒した三人が全員、ランスリードの中枢に近いだけあって、この国だけは邪神との戦いの影響が驚く程少ない。特にカズキが知らない内に騎士団の装備を魔剣にした結果、勇者の子孫であるマサト・サイトウが勝手に創設した、第四騎士団(実態はならず者の集まり)以外は、死者がゼロという驚異的な結果を残している。もしかしたら、『お前の国だけズルいぞ』と、各国の王は思っているのかもしれなかった。

「国営化の話は分かりましたが、それで何か変わるのでしょうか?」

 裏の話をぶっちゃけたジュリアンに、今度はフローネが質問する。卒業するマイネたちには関係ないが、自分達には後二年も残っているからだ。

「うむ。至極尤もな疑問だな。まずは、これまでの様にいい加減な授業は止めて、きちんとした教育を受けさせる。それに伴って、入学の条件も緩和するつもりだ。これまでは『邪神に対抗できる強さを持つ、強力な個の育成が目的のため、元から高い実力を持つ学院生同士で競わせる形を取ってきた』という建前があった」
「建前なんだ・・・・・・」

 またもぶっちゃけたジュリアンに、ラクトが呻き声を上げた。だがジュリアンはそれを無視して、話を先に進める。

「勿論、これには理由がある。初代勇者が邪神を封印した当時、世界的に人口は半減していたのに対し、魔物たちは邪神の影響で数が激増。これに対抗するためには、多くの戦える存在が必要だった。当然、彼らが学院で生徒を教育する暇などない。そこで考え出されたのが、才能ある若者同士を競わせる事だった」

 最初期の魔法学院の生徒は、入学前から魔物との戦いを経験していた。その筆頭は言うまでもなく勇者の血筋に連なる者達である。
 いつか復活する邪神を倒すという目的を持っていた彼らの士気の高さの影響もあって、この歪な体制は奇跡的に200年程機能した。だが、先人の努力の甲斐あって魔物の数が邪神が現れる前と同じ水準に達した時、突如して勇者の子孫の一人が『勇者国家サイトウ』と建国を宣言。これに若い世代の勇者達が同調してしまった事で、危ういバランスの上に成り立っていた学院の体制は崩壊した。

「その後、このままではマズいと各国の王たちが協議し、学院の卒業生たちが創設していた冒険者ギルドと提携。新たな体制でスタートしたんだが、新たな脅威となった勇者たちに対応する為、学院の運営費は大幅に削られる事となった。その結果誕生したのが、単位制度と言う名の、依頼料半分ぼったくり制度だ」
「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 聞きたくなかった学院の裏側を知らされて、カズキ以外の学院生達が絶句する。特にタゴサクは、同族がしでかした事の影響の大きさに、顔が真っ青になっていた。

「成程。魔物の調達を頼んだり、校内にダンジョンを創ったりしたのは、国営化の話が出る事を見越していたからか。復興に金を使いたい各国が、俺に指名依頼なんて出す筈ないもんな」

 猫たちに開放されて、少し寂しそうな表情のカズキが、これまでのジュリアンの行動に納得の声を上げる。
 学院で説明を受けた時から、依頼料半分ぼったくり制度に疑問を持っていたカズキからすれば、自分への指名依頼などという金の掛かる事に、学院の予算を預かる人間が首を縦に振るとは思えなかったのだ。
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