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第二百六十九話 エグベルトの執念
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「「「「は?」」」」
自身の5倍以上の体高の二匹のサイクロプス。それも両側から挟み込むようにして蹴り込まれた脚を軽く受け止めたカレンの姿に、彼女の実力を知らないカズキとフローネ以外のメンバーの目が点になった。
「ゴ?」
「ガ?」
それだけではない。闖入者をプチッと潰して続きをしようとしていたサイクロプス達もまた、予想外の展開に動きを止めていた。
「・・・・・・えーと。サイクロプスって、ソフィア様とジュリアン様が二人掛かりで漸く倒したって話じゃなかったっけ?」
やがて最初に我に返ったのは、学園入学当初からカズキを始めとする三英雄の変態っぷりに一番振り回されてきたラクトだった。
「あの時はボスだったから身体が一回り大きかったが、まあそうだな。総合的にも、二匹のサイクロプスの方が強いだろう」
「カレン様の名前は存じ上げておりましたが・・・・・・。見た目や雰囲気からは想像できない戦い方ですね」
マイネの言葉に同感だったのか、うんうんと頷く他のメンバー達。オリハルコンランクという事で強さは証明されていたが、雰囲気的に魔法を使うと思っていたようである。
「え~い」
「ゴ? ゴアアアアァァァァ・・・・・・」
「グ? グオオオオォォォォ・・・・・・」
当のカレンはそんな会話があるとも知らずに、受け止めた足を掴んでポイッとそれぞれ別の方向にサイクロプス達を放り投げる。
「・・・・・・流石はアーネスト殿下のお姉さま、と言うべきなのでしょうか?」
気の抜けた掛け声で軽く投げたように見えたのに、あっという間に視界から消えた二匹のサイクロプスを見て、マイネが呆然と呟く。他のメンバーは言葉も出ない様子だった。
「ああ、それはあるかもな。彼女は先祖返りした正真正銘の吸血鬼だけど、ジュリアン、クリス、アーネスト、フローネ。それからねーさんと、発展途上だけどカリムもか。みんな魔力は平均よりもかなり高い。序に言えば、母親であるソフィア様とかーさん(実は魔力が高い)。この二人もだな。この二人辺りから、吸血鬼の血が濃く出て来たんじゃないか?」
「・・・・・・それは、物凄い説得力だね」
そんな風にアルテミス家所縁の人間の異常について話している所へ、大釜を軽々と運んできたカレンが戻ってきた。何故か千鳥足で、大釜の中身は半分になっていたが。
「ちょっと目を離した隙に半分飲んだのか。よっぽど気に入ったみたいだな」
「そ~なの~。我慢できなくって~」
カズキの言葉にほにゃっと笑ったカレンは、手にしていた大釜を慎重に地面に置くと欠伸をした。
「・・・・・・ちょっと早いが、今日はここまでにしとくか」
今にも寝落ちしそうなカレンの様子を見て、カズキが今日の探索の終了を宣言すると、メンバーから口々に賛成の声が上がる。
その後はカズキがヘイズルーン齧っていた葉っぱを木ごと回収して、アマルテイア捜索一日目は終了したのだった。
「さて、今日もやるか」
二日目。この日はアマルテイアに加えてヘイズルーンが捜索対象になった。というのも、捕獲したヘイズルーンが出す乳(蜜酒)の量が、一晩でコップの三分の一にも満たない量だったので、今のままだと需要を全く満たせない事が判明したからである。
「一日でコップ一杯の量だから、このダンジョンにいるヘイズルーンは全て捕獲だな。問題は需要を満たせるだけの数がいるかどうかだが・・・・・・。まあ少なかったらここに通って増やせばいいか」
「ミャ!」
「ニャ!」
「ミ゛ャ!」
カズキの言葉にクレアとナンシー、そしてアレンが同意するように力強く返事をした。
クレアとナンシーは流石に酒は飲まないが、昨日の夕食で風味づけに使った魚の煮つけを甚く気に行ったらしく、朝からやる気満々である。
因みに最後に鳴いたアレンは、酒もいける口だった。
「一階層に一匹か。毎回、蜜酒が大釜で一つ手に入るなら、これ以上捕獲する必要はないかな?」
21から30層目までの草原エリアでは、一階層ごとに一匹のヘイズルーンが見つかった。不思議な事に、どの階層でもサイクロプスは満杯の大釜を巡って争っていたので、蜜酒の在庫の心配は当面する必要はない。
昨日は初めて飲んだことで箍が外れてしまったカレンだったが、朝になって酷い二日酔いを経験した事で懲りたのか、今日は舐める程度だったからだ。
「確かに必要ないかもな。だが、山羊乳は食わせる餌によって味が変わる。ウチの村にはそのノウハウがあるから、増やすつもりなら責任を持って請け負うぜ?」
後日に再訪し、再びヘイズルーン捕獲するかどうかを考えているカズキの言葉にエグベルトが答える。【テレポート】を駆使すればいつでもこのダンジョンに来れるカズキなら、確かにこれ以上のヘイズルーンは必要ないかもしれない。そしてカズキの性格なら、その時に蜜酒を差し入れしてくれるだろう。だが、いつでも好きな時に蜜酒を飲みたいと考えている彼は、どうにかしてヘイズルーンを大量に捕獲して貰い、世話を自分達の村に任せてもらう必要があった。その為には、カズキが溺愛する猫たちを利用するのも辞さない程に。
「ああ、それはいいな。猫達にも好みがある。色んな味があれば、その中にお気に入りが出て来るかもしれないし」
こうしてカズキから望み通りの言葉を引き出したエグベルトは、内心でガッツポーズを決めた。だが彼は、最終的にこの時の判断を後悔する事になる。
猫たちへの愛情が天元突破しているカズキにより、最終的には1000匹以上のヘイズルーンを持ち込まれるとは思っていなかったからだ。
自身の5倍以上の体高の二匹のサイクロプス。それも両側から挟み込むようにして蹴り込まれた脚を軽く受け止めたカレンの姿に、彼女の実力を知らないカズキとフローネ以外のメンバーの目が点になった。
「ゴ?」
「ガ?」
それだけではない。闖入者をプチッと潰して続きをしようとしていたサイクロプス達もまた、予想外の展開に動きを止めていた。
「・・・・・・えーと。サイクロプスって、ソフィア様とジュリアン様が二人掛かりで漸く倒したって話じゃなかったっけ?」
やがて最初に我に返ったのは、学園入学当初からカズキを始めとする三英雄の変態っぷりに一番振り回されてきたラクトだった。
「あの時はボスだったから身体が一回り大きかったが、まあそうだな。総合的にも、二匹のサイクロプスの方が強いだろう」
「カレン様の名前は存じ上げておりましたが・・・・・・。見た目や雰囲気からは想像できない戦い方ですね」
マイネの言葉に同感だったのか、うんうんと頷く他のメンバー達。オリハルコンランクという事で強さは証明されていたが、雰囲気的に魔法を使うと思っていたようである。
「え~い」
「ゴ? ゴアアアアァァァァ・・・・・・」
「グ? グオオオオォォォォ・・・・・・」
当のカレンはそんな会話があるとも知らずに、受け止めた足を掴んでポイッとそれぞれ別の方向にサイクロプス達を放り投げる。
「・・・・・・流石はアーネスト殿下のお姉さま、と言うべきなのでしょうか?」
気の抜けた掛け声で軽く投げたように見えたのに、あっという間に視界から消えた二匹のサイクロプスを見て、マイネが呆然と呟く。他のメンバーは言葉も出ない様子だった。
「ああ、それはあるかもな。彼女は先祖返りした正真正銘の吸血鬼だけど、ジュリアン、クリス、アーネスト、フローネ。それからねーさんと、発展途上だけどカリムもか。みんな魔力は平均よりもかなり高い。序に言えば、母親であるソフィア様とかーさん(実は魔力が高い)。この二人もだな。この二人辺りから、吸血鬼の血が濃く出て来たんじゃないか?」
「・・・・・・それは、物凄い説得力だね」
そんな風にアルテミス家所縁の人間の異常について話している所へ、大釜を軽々と運んできたカレンが戻ってきた。何故か千鳥足で、大釜の中身は半分になっていたが。
「ちょっと目を離した隙に半分飲んだのか。よっぽど気に入ったみたいだな」
「そ~なの~。我慢できなくって~」
カズキの言葉にほにゃっと笑ったカレンは、手にしていた大釜を慎重に地面に置くと欠伸をした。
「・・・・・・ちょっと早いが、今日はここまでにしとくか」
今にも寝落ちしそうなカレンの様子を見て、カズキが今日の探索の終了を宣言すると、メンバーから口々に賛成の声が上がる。
その後はカズキがヘイズルーン齧っていた葉っぱを木ごと回収して、アマルテイア捜索一日目は終了したのだった。
「さて、今日もやるか」
二日目。この日はアマルテイアに加えてヘイズルーンが捜索対象になった。というのも、捕獲したヘイズルーンが出す乳(蜜酒)の量が、一晩でコップの三分の一にも満たない量だったので、今のままだと需要を全く満たせない事が判明したからである。
「一日でコップ一杯の量だから、このダンジョンにいるヘイズルーンは全て捕獲だな。問題は需要を満たせるだけの数がいるかどうかだが・・・・・・。まあ少なかったらここに通って増やせばいいか」
「ミャ!」
「ニャ!」
「ミ゛ャ!」
カズキの言葉にクレアとナンシー、そしてアレンが同意するように力強く返事をした。
クレアとナンシーは流石に酒は飲まないが、昨日の夕食で風味づけに使った魚の煮つけを甚く気に行ったらしく、朝からやる気満々である。
因みに最後に鳴いたアレンは、酒もいける口だった。
「一階層に一匹か。毎回、蜜酒が大釜で一つ手に入るなら、これ以上捕獲する必要はないかな?」
21から30層目までの草原エリアでは、一階層ごとに一匹のヘイズルーンが見つかった。不思議な事に、どの階層でもサイクロプスは満杯の大釜を巡って争っていたので、蜜酒の在庫の心配は当面する必要はない。
昨日は初めて飲んだことで箍が外れてしまったカレンだったが、朝になって酷い二日酔いを経験した事で懲りたのか、今日は舐める程度だったからだ。
「確かに必要ないかもな。だが、山羊乳は食わせる餌によって味が変わる。ウチの村にはそのノウハウがあるから、増やすつもりなら責任を持って請け負うぜ?」
後日に再訪し、再びヘイズルーン捕獲するかどうかを考えているカズキの言葉にエグベルトが答える。【テレポート】を駆使すればいつでもこのダンジョンに来れるカズキなら、確かにこれ以上のヘイズルーンは必要ないかもしれない。そしてカズキの性格なら、その時に蜜酒を差し入れしてくれるだろう。だが、いつでも好きな時に蜜酒を飲みたいと考えている彼は、どうにかしてヘイズルーンを大量に捕獲して貰い、世話を自分達の村に任せてもらう必要があった。その為には、カズキが溺愛する猫たちを利用するのも辞さない程に。
「ああ、それはいいな。猫達にも好みがある。色んな味があれば、その中にお気に入りが出て来るかもしれないし」
こうしてカズキから望み通りの言葉を引き出したエグベルトは、内心でガッツポーズを決めた。だが彼は、最終的にこの時の判断を後悔する事になる。
猫たちへの愛情が天元突破しているカズキにより、最終的には1000匹以上のヘイズルーンを持ち込まれるとは思っていなかったからだ。
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