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第二百六十七話 変な羊がいた
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「ナンシー、頼むな」
「ミャーン♪」
カズキに頼られてご機嫌なナンシーが【アイギス】を発動する。この結界の内側にいれば、例え自分のランクよりも上のダンジョンに入る事が出来るからだ。
「じゃあ行こうか。おっちゃんはこのダンジョンの事は詳しいよな? 何か違いがあったら教えてくれ」
「あ、ああ」
ラクトにナンシーがした事を説明されたエグベルトは、半信半疑ながらもカズキの言葉に頷くと、先頭を歩くカズキの後に続く。そうして突入したダンジョンは、最早エグベルトの知るダンジョンではなかった。
「・・・・・・すまん。余りにも違いすぎて、役に立てる自信がない」
以前は見渡す限りの草原だった筈の一階層目が足場の悪い岩場になっているのを見て、エグベルトは早々に白旗を上げる。
「モンスターも大半は村にいる山羊(全長3メートル)と同じ種類だったんだがな。あんなデカいシャモアなんて初めて見たぞ」
エグベルトが指差したのは、頭上100メートルの崖にいるシャモアである。そのモンスターは遠目に見てもアマルテイアより大きく、何故か角の色が金色に輝いていた。
「ニャー」
「ズラトロク。レベル450。肉が美味い、か」
早速【鑑定】を発動したクレアが、期待の眼差しでカズキを見る。と、その次の瞬間には、解体されたシャモア肉が部位ごとに切り分けられていた。
「・・・・・・は?」
「相変わらずの早業ですね! さあ、早く食べましょう!」
「ミャー!」
呆然とするエグベルトを余所に、いつもの試食会が始まった。
「因みにこっちがドロップで出た肉(10kg)と、ついでに皮だ。肉は味の違いが出るかもしれないから、これは分けて焼こう」
そんなこんなで試食会を終えると、再び探索に戻る。その道中に出てくるズラトロクは片っ端から捕らえられ、それから養殖部屋へと連行された。肉の味はドロップ品も変わらなかったので、丸ごと捕らえた方が量が取れるからである。
「ズラトロクは十分確保したな。この階層は他にモンスターもいないみたいだし、次の階層へ行こう」
魔法でこの階層にアマルテイアがいない事を確認したカズキは、【テレポート】で一気に次の階層への階段へと移動。
「ハズレか」
そうして次の階層へと移動したカズキは、そこでも魔法を使ってアマルテイアを探し、新しいモンスターがいなければ次の階層へ【テレポート】をするという事を繰り返して、11階層目まで辿り着いた。
「一層一層が他のダンジョンの10倍くらい広いから、実質的にはここからが101層目くらいか?」
「そうなの? 【テレポート】で移動したから全然実感がないや」
「でも確かに雰囲気が変わりましたね。これまではずっと岩場だったのに、この階層からは荒野になっています」
周囲を見回す仲間たちを余所に、カズキはアマルテイアを探す。
「うん?」
「どうしたの? にーちゃん」
「いや、アマルテイアは見つからなかったんだが、妙な羊がいてな」
「妙な羊?」
「ああ。木に生っている実の中に、何故か子羊が入っているんだ」
「それは本当に妙だね!」
「想像もつきません。何故、羊が木の実に?」
「さあ? 気になるなら見に行ってみるか?」
「うん!」
「美味しいと良いですね!」
カリム、フローネとそんなやり取りを交わしたカズキは、再び【テレポート】を使って謎の生態を持つ羊の元へと移動した。
「これがそうですか。一見すると普通の羊ですが、木の実の中に納まっているのは不気味ですね」
「あっ! 落ちる!」
カズキ達とは違う、完熟? していそうな木の実を覗き込んでいたカリムの声に釣られてそちらを見ると、それまでは動いていなかった羊が「ぅめー」と鳴いてのそのそと動きだし、そのまま周囲の草を食べ始めた。
「・・・・・・尻尾が茎と繋がっていますね」
ナンシーの【アイギス】に守られているという安心感からか、遠慮なく近寄って羊を観察していたフローネの言葉に、全員の視線が尻尾に集まった。
「尻尾以外は本当に普通の羊だよね」
「ですね。まあ一番の問題は味ですが」
「ニャッ!」
フローネの言葉に同意して、クレアが早速【食材鑑定】を使う。その結果はかなり予想外なものだった。
「ミャー・・・・・・」
「バロメッツ。レベル500。その肉は何故かカニの味がする。周囲の草を食べ尽くすと餓死。その際、親である木も一緒に枯れる。その後は死体を狙って狼がやってくるので注意が必要。だってさ」
クレアの言葉を通訳したカズキは、微妙な表情でバロメッツを倒すと、手早く解体した。そんな表情をしている理由は、クレアの言葉の中に『美味い』という言葉が入っていなかったせいである。
「さ、食べてくれ」
カズキの言葉に、フローネとクレア以外のメンバーが手を伸ばす。やがて聞こえてきたのは、落胆の声だった。
「うん、カニだね」
「カニだな」
「カニですね」
「なんていうか、味が薄いね。クレアとフローネねーちゃんが手を出さないから変だと思ったんだよなぁ」
「これは珍しいだけですね。口直しにクラーケンを食べましょう!」
「ミャー!」
後から申し訳程度に口を付けたフローネが、そう言って【次元倉庫】からぶっといカニ脚を取り出す。
そのお陰でダメージから回復したカズキ達は、それ以降はバロメッツには目もくれず、早々に21層目へと突入した。
「ミャーン♪」
カズキに頼られてご機嫌なナンシーが【アイギス】を発動する。この結界の内側にいれば、例え自分のランクよりも上のダンジョンに入る事が出来るからだ。
「じゃあ行こうか。おっちゃんはこのダンジョンの事は詳しいよな? 何か違いがあったら教えてくれ」
「あ、ああ」
ラクトにナンシーがした事を説明されたエグベルトは、半信半疑ながらもカズキの言葉に頷くと、先頭を歩くカズキの後に続く。そうして突入したダンジョンは、最早エグベルトの知るダンジョンではなかった。
「・・・・・・すまん。余りにも違いすぎて、役に立てる自信がない」
以前は見渡す限りの草原だった筈の一階層目が足場の悪い岩場になっているのを見て、エグベルトは早々に白旗を上げる。
「モンスターも大半は村にいる山羊(全長3メートル)と同じ種類だったんだがな。あんなデカいシャモアなんて初めて見たぞ」
エグベルトが指差したのは、頭上100メートルの崖にいるシャモアである。そのモンスターは遠目に見てもアマルテイアより大きく、何故か角の色が金色に輝いていた。
「ニャー」
「ズラトロク。レベル450。肉が美味い、か」
早速【鑑定】を発動したクレアが、期待の眼差しでカズキを見る。と、その次の瞬間には、解体されたシャモア肉が部位ごとに切り分けられていた。
「・・・・・・は?」
「相変わらずの早業ですね! さあ、早く食べましょう!」
「ミャー!」
呆然とするエグベルトを余所に、いつもの試食会が始まった。
「因みにこっちがドロップで出た肉(10kg)と、ついでに皮だ。肉は味の違いが出るかもしれないから、これは分けて焼こう」
そんなこんなで試食会を終えると、再び探索に戻る。その道中に出てくるズラトロクは片っ端から捕らえられ、それから養殖部屋へと連行された。肉の味はドロップ品も変わらなかったので、丸ごと捕らえた方が量が取れるからである。
「ズラトロクは十分確保したな。この階層は他にモンスターもいないみたいだし、次の階層へ行こう」
魔法でこの階層にアマルテイアがいない事を確認したカズキは、【テレポート】で一気に次の階層への階段へと移動。
「ハズレか」
そうして次の階層へと移動したカズキは、そこでも魔法を使ってアマルテイアを探し、新しいモンスターがいなければ次の階層へ【テレポート】をするという事を繰り返して、11階層目まで辿り着いた。
「一層一層が他のダンジョンの10倍くらい広いから、実質的にはここからが101層目くらいか?」
「そうなの? 【テレポート】で移動したから全然実感がないや」
「でも確かに雰囲気が変わりましたね。これまではずっと岩場だったのに、この階層からは荒野になっています」
周囲を見回す仲間たちを余所に、カズキはアマルテイアを探す。
「うん?」
「どうしたの? にーちゃん」
「いや、アマルテイアは見つからなかったんだが、妙な羊がいてな」
「妙な羊?」
「ああ。木に生っている実の中に、何故か子羊が入っているんだ」
「それは本当に妙だね!」
「想像もつきません。何故、羊が木の実に?」
「さあ? 気になるなら見に行ってみるか?」
「うん!」
「美味しいと良いですね!」
カリム、フローネとそんなやり取りを交わしたカズキは、再び【テレポート】を使って謎の生態を持つ羊の元へと移動した。
「これがそうですか。一見すると普通の羊ですが、木の実の中に納まっているのは不気味ですね」
「あっ! 落ちる!」
カズキ達とは違う、完熟? していそうな木の実を覗き込んでいたカリムの声に釣られてそちらを見ると、それまでは動いていなかった羊が「ぅめー」と鳴いてのそのそと動きだし、そのまま周囲の草を食べ始めた。
「・・・・・・尻尾が茎と繋がっていますね」
ナンシーの【アイギス】に守られているという安心感からか、遠慮なく近寄って羊を観察していたフローネの言葉に、全員の視線が尻尾に集まった。
「尻尾以外は本当に普通の羊だよね」
「ですね。まあ一番の問題は味ですが」
「ニャッ!」
フローネの言葉に同意して、クレアが早速【食材鑑定】を使う。その結果はかなり予想外なものだった。
「ミャー・・・・・・」
「バロメッツ。レベル500。その肉は何故かカニの味がする。周囲の草を食べ尽くすと餓死。その際、親である木も一緒に枯れる。その後は死体を狙って狼がやってくるので注意が必要。だってさ」
クレアの言葉を通訳したカズキは、微妙な表情でバロメッツを倒すと、手早く解体した。そんな表情をしている理由は、クレアの言葉の中に『美味い』という言葉が入っていなかったせいである。
「さ、食べてくれ」
カズキの言葉に、フローネとクレア以外のメンバーが手を伸ばす。やがて聞こえてきたのは、落胆の声だった。
「うん、カニだね」
「カニだな」
「カニですね」
「なんていうか、味が薄いね。クレアとフローネねーちゃんが手を出さないから変だと思ったんだよなぁ」
「これは珍しいだけですね。口直しにクラーケンを食べましょう!」
「ミャー!」
後から申し訳程度に口を付けたフローネが、そう言って【次元倉庫】からぶっといカニ脚を取り出す。
そのお陰でダメージから回復したカズキ達は、それ以降はバロメッツには目もくれず、早々に21層目へと突入した。
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