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第二百六十五話 治っていなかった
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宴会の翌日。村人達が二日酔いで倒れている中、いつも通りに目を覚ましたカズキ達は、カレンの希望でアマルテイアのハナコの様子を見にやってきた。
これからも気持ちよくミルクを提供してもらう為には、何よりもハナコの体調が安定している事が必要だからだ。
「あらおはよう。昨日あれだけ飲まされていたのに元気そうだねぇ。うちの男どもなんて、全員が二日酔いで呻き声を上げていたのに」
辿り着いた厩舎でそう声を掛けてきたのは、昨日、応接間で会った豪快な女性だ。名前はエリザベスで、おっさん達のリーダー、エグベルトの妻である。
「おはようございます~。ちょっとハナコちゃんの様子を見ようかと思いまして~」
「そうなのかい? お陰様で、今日の朝も乳を搾ったところさ。二日連続でお乳が出るなんて、何年ぶりのことかねえ」
エリザベスはそう言って、搾りたてのミルクをカレンに差し出した。厩舎に来てからずっとミルク缶を見ていたので、気付かない訳が無かったのだ。
「うわぁ! ありがとうございます~」
カレンは礼を言うと、いつもの左手を腰に当てたスタイルで一気に飲み干す。飲み干す。飲み干す。
そうして立て続けに三杯飲み干したカレンは、不思議そうな顔でエリザベスを見た。
「昨日と、いえ、初めて飲んだミルクとも味が違いますねぇ? どうしてなんでしょうか~?」
「ああ。それは体調の変化によるものさ。あんた達が最初に飲んだのは、ハナコが絶不調の時の乳。次が回復してすぐ出た乳。で、今飲んだのが一晩経って落ち着いた乳さ。後になるほど、味が濃くておいしいだろう?」
「はい~。じゃあこれから先、どんどん美味しくなっていくんですね~? とても楽しみです~」
そう言って、にこにこと笑うカレン。だがエリザベスの表情は優れなかった。
「いや。多分この先も、味が変わる事はないだろうさ。今回は病気だったからエリクサーが効いたんだろうけど、その前から立ち上がる事は困難になっていたからね。他のアマルテイアも晩年はこんな感じだったって話だから、何時お迎えが来てもおかしくないじゃないかねぇ・・・・・・」
「そんな・・・・・」
寂しそうに笑うエリザベスに、カレンは掛ける言葉が見つからない。だが、この世界の秘密に触れた経験のあるカズキは、モンスターに寿命がある事に対し違和感を覚えていた。何故なら、カズキがこの世界に来て最初に踏破したオリハルコンダンジョンのボスは、ダンジョンが出来てからカズキに倒されるまで、300年もの間存在していた筈だからだ。
「ちょっとクレアに鑑定してもらうか」
そう考えたカズキは、善は急げとばかりにランスリードへ戻るとクレアにアマルテイアの事を話した。その際、説得の材料にハナコのミルクを持っていくことも忘れない。
「ウミャー♪」
「美味しいです!」
「「「「・・・・・・」」」」
「ミ゛ャー♪」
そのお陰か、クレアは二つ返事で同行する事を了承。そして当然と言えば当然だが、クレアの主であるフローネも同行する事になった。ついでに一緒に行動していてやはりハナコのミルクの虜になった、彼女のパーティメンバー+カリムとアレンも。
「ミャー」
「うん。やっぱりそうか」
クレアを仲間に加えたカズキは、まず養殖部屋へと向かった。そこでバハムート、レヴィアタン、ベヒモスを鑑定してもらった結果、カズキは自分の考えが正しかった事を確信する。
バハムートとレヴィアタンはいずれも300歳超で、ベヒモスはまだ生まれてから2週間という結果が出たからだ。
「じゃあ頼むな」
「ミャ」
養殖部屋へいったついでだと様々な肉を堪能した後、ルテアの村に戻ってきたカズキは、早速クレアをハナコの元へと連れて行き、ハナコを鑑定してもらった。
「ニャー」
「ふんふん。年齢は507歳で味は普通。ミルクは極上。だけど瘴気不適合による衰弱状態の為、ミルクの質は落ちている、か。ありがとうなクレア」
「ミャーン」
気にするな、と言わんばかりに返事をしたクレアを撫でて、カズキは様子を見守っていたエリザベスとエグベルト、そして村長であるエーリッヒに視線を向ける。ハナコの不調を治すための手掛かりである、アマルテイアが出現するダンジョンの情報を聞く為だ。
「まさか本当に原因を突き止めるとはな・・・・・・。瘴気不適合なんて言葉は初めて聞いたが、言われてみれば納得できる」
「ああ。人間だって動物だって、故郷の空気の方が落ち着くに決まってるわな」
「でもどうするんだい? ハナコはこの通り、満足に動けない状態だ。ダンジョンに戻したからと言って、直ぐに元の様に動けるようになるとも思えない。そんなところに他所の冒険者が来たら、あっさり狩られてしまうよ?」
アマルテイアのミルクの価格は、先述した通り非常に高価だ。
理由はその暴力的なまでの美味しさに加えて、アマルテイアが滅多に出現しないレアな存在だという事が挙げられる。
万が一遭遇できても、”アマルテイアのミルク”のドロップ確率は百分の一程度。残りは通常のミルク(と言ってもそこらのミルクよりは余程美味しいが)なのだが、その価値に目が眩んで一攫千金を狙う冒険者もそれなりにいる。そんな所にハナコを放したら、どうなるかは火を見るよりも明らかだった。
これからも気持ちよくミルクを提供してもらう為には、何よりもハナコの体調が安定している事が必要だからだ。
「あらおはよう。昨日あれだけ飲まされていたのに元気そうだねぇ。うちの男どもなんて、全員が二日酔いで呻き声を上げていたのに」
辿り着いた厩舎でそう声を掛けてきたのは、昨日、応接間で会った豪快な女性だ。名前はエリザベスで、おっさん達のリーダー、エグベルトの妻である。
「おはようございます~。ちょっとハナコちゃんの様子を見ようかと思いまして~」
「そうなのかい? お陰様で、今日の朝も乳を搾ったところさ。二日連続でお乳が出るなんて、何年ぶりのことかねえ」
エリザベスはそう言って、搾りたてのミルクをカレンに差し出した。厩舎に来てからずっとミルク缶を見ていたので、気付かない訳が無かったのだ。
「うわぁ! ありがとうございます~」
カレンは礼を言うと、いつもの左手を腰に当てたスタイルで一気に飲み干す。飲み干す。飲み干す。
そうして立て続けに三杯飲み干したカレンは、不思議そうな顔でエリザベスを見た。
「昨日と、いえ、初めて飲んだミルクとも味が違いますねぇ? どうしてなんでしょうか~?」
「ああ。それは体調の変化によるものさ。あんた達が最初に飲んだのは、ハナコが絶不調の時の乳。次が回復してすぐ出た乳。で、今飲んだのが一晩経って落ち着いた乳さ。後になるほど、味が濃くておいしいだろう?」
「はい~。じゃあこれから先、どんどん美味しくなっていくんですね~? とても楽しみです~」
そう言って、にこにこと笑うカレン。だがエリザベスの表情は優れなかった。
「いや。多分この先も、味が変わる事はないだろうさ。今回は病気だったからエリクサーが効いたんだろうけど、その前から立ち上がる事は困難になっていたからね。他のアマルテイアも晩年はこんな感じだったって話だから、何時お迎えが来てもおかしくないじゃないかねぇ・・・・・・」
「そんな・・・・・」
寂しそうに笑うエリザベスに、カレンは掛ける言葉が見つからない。だが、この世界の秘密に触れた経験のあるカズキは、モンスターに寿命がある事に対し違和感を覚えていた。何故なら、カズキがこの世界に来て最初に踏破したオリハルコンダンジョンのボスは、ダンジョンが出来てからカズキに倒されるまで、300年もの間存在していた筈だからだ。
「ちょっとクレアに鑑定してもらうか」
そう考えたカズキは、善は急げとばかりにランスリードへ戻るとクレアにアマルテイアの事を話した。その際、説得の材料にハナコのミルクを持っていくことも忘れない。
「ウミャー♪」
「美味しいです!」
「「「「・・・・・・」」」」
「ミ゛ャー♪」
そのお陰か、クレアは二つ返事で同行する事を了承。そして当然と言えば当然だが、クレアの主であるフローネも同行する事になった。ついでに一緒に行動していてやはりハナコのミルクの虜になった、彼女のパーティメンバー+カリムとアレンも。
「ミャー」
「うん。やっぱりそうか」
クレアを仲間に加えたカズキは、まず養殖部屋へと向かった。そこでバハムート、レヴィアタン、ベヒモスを鑑定してもらった結果、カズキは自分の考えが正しかった事を確信する。
バハムートとレヴィアタンはいずれも300歳超で、ベヒモスはまだ生まれてから2週間という結果が出たからだ。
「じゃあ頼むな」
「ミャ」
養殖部屋へいったついでだと様々な肉を堪能した後、ルテアの村に戻ってきたカズキは、早速クレアをハナコの元へと連れて行き、ハナコを鑑定してもらった。
「ニャー」
「ふんふん。年齢は507歳で味は普通。ミルクは極上。だけど瘴気不適合による衰弱状態の為、ミルクの質は落ちている、か。ありがとうなクレア」
「ミャーン」
気にするな、と言わんばかりに返事をしたクレアを撫でて、カズキは様子を見守っていたエリザベスとエグベルト、そして村長であるエーリッヒに視線を向ける。ハナコの不調を治すための手掛かりである、アマルテイアが出現するダンジョンの情報を聞く為だ。
「まさか本当に原因を突き止めるとはな・・・・・・。瘴気不適合なんて言葉は初めて聞いたが、言われてみれば納得できる」
「ああ。人間だって動物だって、故郷の空気の方が落ち着くに決まってるわな」
「でもどうするんだい? ハナコはこの通り、満足に動けない状態だ。ダンジョンに戻したからと言って、直ぐに元の様に動けるようになるとも思えない。そんなところに他所の冒険者が来たら、あっさり狩られてしまうよ?」
アマルテイアのミルクの価格は、先述した通り非常に高価だ。
理由はその暴力的なまでの美味しさに加えて、アマルテイアが滅多に出現しないレアな存在だという事が挙げられる。
万が一遭遇できても、”アマルテイアのミルク”のドロップ確率は百分の一程度。残りは通常のミルク(と言ってもそこらのミルクよりは余程美味しいが)なのだが、その価値に目が眩んで一攫千金を狙う冒険者もそれなりにいる。そんな所にハナコを放したら、どうなるかは火を見るよりも明らかだった。
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