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第二百六十話 最高の牛乳を求めて
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「カズキちゃ~ん。ちょっといい~?」
「なに?」
宴の翌日。カズキがいつもの様に城にいる猫たちと戯れていると、カレン見覚えのあるノートを片手に尋ねて来た。
「フローネちゃんのノートを見せてもらったんだけど~、カズキちゃんは異世界に行けるようになったのよねぇ?」
「うん」
「アル叔父さんに聞いたんだけど~、昨日の宴の料理に使ってた乳製品って、あっちの世界の物なんでしょう~?」
「うん」
この時点でカレンが何をお願いしたいのか察しはついたが、カズキは何も言わずに話の続きを促す。というよりも、エリーへのマッサージが佳境に入っている為、いつもの様に生返事になっているのだが。
「そこでお願いなんだけど~、私も異世界に連れて行って欲しいのぉ~。アル叔父さんとフローネちゃんにはもう聞いたんだけどぉ、二人共お肉の事しか教えてくれなくって~」
「だろうね」
ベヒモス討伐から一週間経った今でも、ベヒ肉フィーバーは続いている。そのせいなのか、最近のアルフレッドは朝昼晩の食事から間食にまでベヒ肉を使う始末だ。当然、昨夜の宴でもベヒ肉尽くしだったのだが、フィーバー中なので城の誰からも文句は出なかった。ベヒモスの質量を以てすれば、王様から1使用人に至るまで口にする事が出来るからだ。美味い料理を腹一杯食べられている内は、争いなんて起こらないのである。
「やっぱり昨日のクリームシチューが気になった?(マッサージ終了)」
ただ、そこまでベヒ肉に惑わされない人間も中にはいる。その一人がアルフレッドから料理を習っているカズキであり、もう一人が牛乳が生命維持に必要なカレンであった。
「そ~なのよ~。確かにシチューは今まで食べた中で一番美味しかったんだけど~、なんか違うって思っちゃったのよねぇ」
「確かに。ベヒ肉が強すぎて、調和が取れてなかった感じだったな。まあ、アルさんも気付いているとは思うけど」
この世界では昔、邪神との戦いの影響で食料が足りなくなるという時代があった。その状態は10年ほど続き、最終的には初代勇者が体を張って食べられる魔物を開拓する事で難を逃れたのだが、そんな事を経験した為に、食材を無駄にする事を悪徳とする考え方がこの世界には根付いている。要するに失敗作であろうと、食べられるなら食べるという文化があるのだ。
アルフレッドも当然そういう考え方をするので、味が微妙だからと料理を廃棄する事は無い。昨日の宴で出たクリームシチューは、正にそんな代物だったのだ。まあアルフレッドからすれば微妙な出来でも、大多数の人間にとっては普通に美味しい料理なのだが。
「カズキちゃんもそう思うでしょ~? でもアルフレッド叔父さんはドラゴン肉との組み合わせに忙しそうだったから、ベヒ肉に合う牛乳を探すのは、まだ先の事だと思うのよ~」
「成程。要は、待ちきれないんだな?」
「えへへ~」
カズキの言葉に、カレンは照れ笑いを浮かべる。どうやらシチューはシチューで少しは気になるが、あくまでも目的は牛乳の方だったらしい。
「・・・・・・まあいいか。ドラゴンダンジョンの様子も見ないといけないし、何よりまだまだ未知の食材もあるだろうしな」
「きゃあ~!」
そう言って立ち上がったカズキに、カレンが喜びの声を上げて抱き着いてくる。するとそこへ、ジュリアンがひょっこり現れた。
「なんの騒ぎだ?」
「お、丁度良かった。今から、メモリアに行ってくる。例の事件の方は手伝わなくてもいいんだろ?」
「ああ。相手が吸血鬼でない以上、この事件は衛兵の仕事だ」
「だよな。じゃあちょっくら行ってくる」
「ああ。ガストン殿によろしくな」
「わかった。ついでに創造神の件は解決したって伝えておくよ」
「頼む」
こうしてカズキは、一週間ぶりに異世界メモリアへ戻ったのであった。
「カズキ!」
取り敢えずカレンの冒険者登録をしようと思ったカズキは、いつものようにハルザーク(カズキが冒険者になった町)の冒険者ギルド近くの森へ【テレポート】した。
そして、ブロンズランクへの昇格の条件を達成するべくウルフとゴブリンをそれぞれ100匹をカレンが倒したところでギルドへ行くと、そこに見覚えのある顔が声を掛けてくる。まあクリスなのだが。
「あらぁ? クリスちゃんじゃない~。お久しぶりねぇ?」
「あっ、姉上!?」
クリスはこの世界に置いてけぼりにされた事に文句を言ってやろうと待っていたのだが、カズキの隣にいるカレンの姿を見て引き攣った顔をした。姿形がそっくりなので、てっきりフローネだと思っていたのだ。
「おっ、お久しぶりでございます、姉上。そ、それで、どうして姉上がこの世界に?」
何故か冷や汗を垂らしながら、クリスが恐る恐るカレンの様子を伺う。実はクリスは剣を集め始めた時、度々カレンにお金を用立ててもらっていたのだ。とはいえ、それだけならばここまで下手に出る必要はない。
問題は、クリスは今日に至るまで、一銭たりとも金を返していない事にある。実はクリスの人生初の土下座は、カレンに金の無心をした時なのだ。
「牛乳を探しにきたの~。ベヒ肉みたいな美味しいお肉があるんなら、美味しい牛乳もあると思って~。あっそうだ! クリスちゃんも一緒に探しましょ~?」
「ワカリマシタ」
今まで一度たりとも返済を求めなかった姉に頭の上がらないクリスは、カズキへの文句も忘れ、姉、カレンの牛乳探しに参加する事になった。
「なに?」
宴の翌日。カズキがいつもの様に城にいる猫たちと戯れていると、カレン見覚えのあるノートを片手に尋ねて来た。
「フローネちゃんのノートを見せてもらったんだけど~、カズキちゃんは異世界に行けるようになったのよねぇ?」
「うん」
「アル叔父さんに聞いたんだけど~、昨日の宴の料理に使ってた乳製品って、あっちの世界の物なんでしょう~?」
「うん」
この時点でカレンが何をお願いしたいのか察しはついたが、カズキは何も言わずに話の続きを促す。というよりも、エリーへのマッサージが佳境に入っている為、いつもの様に生返事になっているのだが。
「そこでお願いなんだけど~、私も異世界に連れて行って欲しいのぉ~。アル叔父さんとフローネちゃんにはもう聞いたんだけどぉ、二人共お肉の事しか教えてくれなくって~」
「だろうね」
ベヒモス討伐から一週間経った今でも、ベヒ肉フィーバーは続いている。そのせいなのか、最近のアルフレッドは朝昼晩の食事から間食にまでベヒ肉を使う始末だ。当然、昨夜の宴でもベヒ肉尽くしだったのだが、フィーバー中なので城の誰からも文句は出なかった。ベヒモスの質量を以てすれば、王様から1使用人に至るまで口にする事が出来るからだ。美味い料理を腹一杯食べられている内は、争いなんて起こらないのである。
「やっぱり昨日のクリームシチューが気になった?(マッサージ終了)」
ただ、そこまでベヒ肉に惑わされない人間も中にはいる。その一人がアルフレッドから料理を習っているカズキであり、もう一人が牛乳が生命維持に必要なカレンであった。
「そ~なのよ~。確かにシチューは今まで食べた中で一番美味しかったんだけど~、なんか違うって思っちゃったのよねぇ」
「確かに。ベヒ肉が強すぎて、調和が取れてなかった感じだったな。まあ、アルさんも気付いているとは思うけど」
この世界では昔、邪神との戦いの影響で食料が足りなくなるという時代があった。その状態は10年ほど続き、最終的には初代勇者が体を張って食べられる魔物を開拓する事で難を逃れたのだが、そんな事を経験した為に、食材を無駄にする事を悪徳とする考え方がこの世界には根付いている。要するに失敗作であろうと、食べられるなら食べるという文化があるのだ。
アルフレッドも当然そういう考え方をするので、味が微妙だからと料理を廃棄する事は無い。昨日の宴で出たクリームシチューは、正にそんな代物だったのだ。まあアルフレッドからすれば微妙な出来でも、大多数の人間にとっては普通に美味しい料理なのだが。
「カズキちゃんもそう思うでしょ~? でもアルフレッド叔父さんはドラゴン肉との組み合わせに忙しそうだったから、ベヒ肉に合う牛乳を探すのは、まだ先の事だと思うのよ~」
「成程。要は、待ちきれないんだな?」
「えへへ~」
カズキの言葉に、カレンは照れ笑いを浮かべる。どうやらシチューはシチューで少しは気になるが、あくまでも目的は牛乳の方だったらしい。
「・・・・・・まあいいか。ドラゴンダンジョンの様子も見ないといけないし、何よりまだまだ未知の食材もあるだろうしな」
「きゃあ~!」
そう言って立ち上がったカズキに、カレンが喜びの声を上げて抱き着いてくる。するとそこへ、ジュリアンがひょっこり現れた。
「なんの騒ぎだ?」
「お、丁度良かった。今から、メモリアに行ってくる。例の事件の方は手伝わなくてもいいんだろ?」
「ああ。相手が吸血鬼でない以上、この事件は衛兵の仕事だ」
「だよな。じゃあちょっくら行ってくる」
「ああ。ガストン殿によろしくな」
「わかった。ついでに創造神の件は解決したって伝えておくよ」
「頼む」
こうしてカズキは、一週間ぶりに異世界メモリアへ戻ったのであった。
「カズキ!」
取り敢えずカレンの冒険者登録をしようと思ったカズキは、いつものようにハルザーク(カズキが冒険者になった町)の冒険者ギルド近くの森へ【テレポート】した。
そして、ブロンズランクへの昇格の条件を達成するべくウルフとゴブリンをそれぞれ100匹をカレンが倒したところでギルドへ行くと、そこに見覚えのある顔が声を掛けてくる。まあクリスなのだが。
「あらぁ? クリスちゃんじゃない~。お久しぶりねぇ?」
「あっ、姉上!?」
クリスはこの世界に置いてけぼりにされた事に文句を言ってやろうと待っていたのだが、カズキの隣にいるカレンの姿を見て引き攣った顔をした。姿形がそっくりなので、てっきりフローネだと思っていたのだ。
「おっ、お久しぶりでございます、姉上。そ、それで、どうして姉上がこの世界に?」
何故か冷や汗を垂らしながら、クリスが恐る恐るカレンの様子を伺う。実はクリスは剣を集め始めた時、度々カレンにお金を用立ててもらっていたのだ。とはいえ、それだけならばここまで下手に出る必要はない。
問題は、クリスは今日に至るまで、一銭たりとも金を返していない事にある。実はクリスの人生初の土下座は、カレンに金の無心をした時なのだ。
「牛乳を探しにきたの~。ベヒ肉みたいな美味しいお肉があるんなら、美味しい牛乳もあると思って~。あっそうだ! クリスちゃんも一緒に探しましょ~?」
「ワカリマシタ」
今まで一度たりとも返済を求めなかった姉に頭の上がらないクリスは、カズキへの文句も忘れ、姉、カレンの牛乳探しに参加する事になった。
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