260 / 355
第二百六十話 最高の牛乳を求めて
しおりを挟む
「カズキちゃ~ん。ちょっといい~?」
「なに?」
宴の翌日。カズキがいつもの様に城にいる猫たちと戯れていると、カレン見覚えのあるノートを片手に尋ねて来た。
「フローネちゃんのノートを見せてもらったんだけど~、カズキちゃんは異世界に行けるようになったのよねぇ?」
「うん」
「アル叔父さんに聞いたんだけど~、昨日の宴の料理に使ってた乳製品って、あっちの世界の物なんでしょう~?」
「うん」
この時点でカレンが何をお願いしたいのか察しはついたが、カズキは何も言わずに話の続きを促す。というよりも、エリーへのマッサージが佳境に入っている為、いつもの様に生返事になっているのだが。
「そこでお願いなんだけど~、私も異世界に連れて行って欲しいのぉ~。アル叔父さんとフローネちゃんにはもう聞いたんだけどぉ、二人共お肉の事しか教えてくれなくって~」
「だろうね」
ベヒモス討伐から一週間経った今でも、ベヒ肉フィーバーは続いている。そのせいなのか、最近のアルフレッドは朝昼晩の食事から間食にまでベヒ肉を使う始末だ。当然、昨夜の宴でもベヒ肉尽くしだったのだが、フィーバー中なので城の誰からも文句は出なかった。ベヒモスの質量を以てすれば、王様から1使用人に至るまで口にする事が出来るからだ。美味い料理を腹一杯食べられている内は、争いなんて起こらないのである。
「やっぱり昨日のクリームシチューが気になった?(マッサージ終了)」
ただ、そこまでベヒ肉に惑わされない人間も中にはいる。その一人がアルフレッドから料理を習っているカズキであり、もう一人が牛乳が生命維持に必要なカレンであった。
「そ~なのよ~。確かにシチューは今まで食べた中で一番美味しかったんだけど~、なんか違うって思っちゃったのよねぇ」
「確かに。ベヒ肉が強すぎて、調和が取れてなかった感じだったな。まあ、アルさんも気付いているとは思うけど」
この世界では昔、邪神との戦いの影響で食料が足りなくなるという時代があった。その状態は10年ほど続き、最終的には初代勇者が体を張って食べられる魔物を開拓する事で難を逃れたのだが、そんな事を経験した為に、食材を無駄にする事を悪徳とする考え方がこの世界には根付いている。要するに失敗作であろうと、食べられるなら食べるという文化があるのだ。
アルフレッドも当然そういう考え方をするので、味が微妙だからと料理を廃棄する事は無い。昨日の宴で出たクリームシチューは、正にそんな代物だったのだ。まあアルフレッドからすれば微妙な出来でも、大多数の人間にとっては普通に美味しい料理なのだが。
「カズキちゃんもそう思うでしょ~? でもアルフレッド叔父さんはドラゴン肉との組み合わせに忙しそうだったから、ベヒ肉に合う牛乳を探すのは、まだ先の事だと思うのよ~」
「成程。要は、待ちきれないんだな?」
「えへへ~」
カズキの言葉に、カレンは照れ笑いを浮かべる。どうやらシチューはシチューで少しは気になるが、あくまでも目的は牛乳の方だったらしい。
「・・・・・・まあいいか。ドラゴンダンジョンの様子も見ないといけないし、何よりまだまだ未知の食材もあるだろうしな」
「きゃあ~!」
そう言って立ち上がったカズキに、カレンが喜びの声を上げて抱き着いてくる。するとそこへ、ジュリアンがひょっこり現れた。
「なんの騒ぎだ?」
「お、丁度良かった。今から、メモリアに行ってくる。例の事件の方は手伝わなくてもいいんだろ?」
「ああ。相手が吸血鬼でない以上、この事件は衛兵の仕事だ」
「だよな。じゃあちょっくら行ってくる」
「ああ。ガストン殿によろしくな」
「わかった。ついでに創造神の件は解決したって伝えておくよ」
「頼む」
こうしてカズキは、一週間ぶりに異世界メモリアへ戻ったのであった。
「カズキ!」
取り敢えずカレンの冒険者登録をしようと思ったカズキは、いつものようにハルザーク(カズキが冒険者になった町)の冒険者ギルド近くの森へ【テレポート】した。
そして、ブロンズランクへの昇格の条件を達成するべくウルフとゴブリンをそれぞれ100匹をカレンが倒したところでギルドへ行くと、そこに見覚えのある顔が声を掛けてくる。まあクリスなのだが。
「あらぁ? クリスちゃんじゃない~。お久しぶりねぇ?」
「あっ、姉上!?」
クリスはこの世界に置いてけぼりにされた事に文句を言ってやろうと待っていたのだが、カズキの隣にいるカレンの姿を見て引き攣った顔をした。姿形がそっくりなので、てっきりフローネだと思っていたのだ。
「おっ、お久しぶりでございます、姉上。そ、それで、どうして姉上がこの世界に?」
何故か冷や汗を垂らしながら、クリスが恐る恐るカレンの様子を伺う。実はクリスは剣を集め始めた時、度々カレンにお金を用立ててもらっていたのだ。とはいえ、それだけならばここまで下手に出る必要はない。
問題は、クリスは今日に至るまで、一銭たりとも金を返していない事にある。実はクリスの人生初の土下座は、カレンに金の無心をした時なのだ。
「牛乳を探しにきたの~。ベヒ肉みたいな美味しいお肉があるんなら、美味しい牛乳もあると思って~。あっそうだ! クリスちゃんも一緒に探しましょ~?」
「ワカリマシタ」
今まで一度たりとも返済を求めなかった姉に頭の上がらないクリスは、カズキへの文句も忘れ、姉、カレンの牛乳探しに参加する事になった。
「なに?」
宴の翌日。カズキがいつもの様に城にいる猫たちと戯れていると、カレン見覚えのあるノートを片手に尋ねて来た。
「フローネちゃんのノートを見せてもらったんだけど~、カズキちゃんは異世界に行けるようになったのよねぇ?」
「うん」
「アル叔父さんに聞いたんだけど~、昨日の宴の料理に使ってた乳製品って、あっちの世界の物なんでしょう~?」
「うん」
この時点でカレンが何をお願いしたいのか察しはついたが、カズキは何も言わずに話の続きを促す。というよりも、エリーへのマッサージが佳境に入っている為、いつもの様に生返事になっているのだが。
「そこでお願いなんだけど~、私も異世界に連れて行って欲しいのぉ~。アル叔父さんとフローネちゃんにはもう聞いたんだけどぉ、二人共お肉の事しか教えてくれなくって~」
「だろうね」
ベヒモス討伐から一週間経った今でも、ベヒ肉フィーバーは続いている。そのせいなのか、最近のアルフレッドは朝昼晩の食事から間食にまでベヒ肉を使う始末だ。当然、昨夜の宴でもベヒ肉尽くしだったのだが、フィーバー中なので城の誰からも文句は出なかった。ベヒモスの質量を以てすれば、王様から1使用人に至るまで口にする事が出来るからだ。美味い料理を腹一杯食べられている内は、争いなんて起こらないのである。
「やっぱり昨日のクリームシチューが気になった?(マッサージ終了)」
ただ、そこまでベヒ肉に惑わされない人間も中にはいる。その一人がアルフレッドから料理を習っているカズキであり、もう一人が牛乳が生命維持に必要なカレンであった。
「そ~なのよ~。確かにシチューは今まで食べた中で一番美味しかったんだけど~、なんか違うって思っちゃったのよねぇ」
「確かに。ベヒ肉が強すぎて、調和が取れてなかった感じだったな。まあ、アルさんも気付いているとは思うけど」
この世界では昔、邪神との戦いの影響で食料が足りなくなるという時代があった。その状態は10年ほど続き、最終的には初代勇者が体を張って食べられる魔物を開拓する事で難を逃れたのだが、そんな事を経験した為に、食材を無駄にする事を悪徳とする考え方がこの世界には根付いている。要するに失敗作であろうと、食べられるなら食べるという文化があるのだ。
アルフレッドも当然そういう考え方をするので、味が微妙だからと料理を廃棄する事は無い。昨日の宴で出たクリームシチューは、正にそんな代物だったのだ。まあアルフレッドからすれば微妙な出来でも、大多数の人間にとっては普通に美味しい料理なのだが。
「カズキちゃんもそう思うでしょ~? でもアルフレッド叔父さんはドラゴン肉との組み合わせに忙しそうだったから、ベヒ肉に合う牛乳を探すのは、まだ先の事だと思うのよ~」
「成程。要は、待ちきれないんだな?」
「えへへ~」
カズキの言葉に、カレンは照れ笑いを浮かべる。どうやらシチューはシチューで少しは気になるが、あくまでも目的は牛乳の方だったらしい。
「・・・・・・まあいいか。ドラゴンダンジョンの様子も見ないといけないし、何よりまだまだ未知の食材もあるだろうしな」
「きゃあ~!」
そう言って立ち上がったカズキに、カレンが喜びの声を上げて抱き着いてくる。するとそこへ、ジュリアンがひょっこり現れた。
「なんの騒ぎだ?」
「お、丁度良かった。今から、メモリアに行ってくる。例の事件の方は手伝わなくてもいいんだろ?」
「ああ。相手が吸血鬼でない以上、この事件は衛兵の仕事だ」
「だよな。じゃあちょっくら行ってくる」
「ああ。ガストン殿によろしくな」
「わかった。ついでに創造神の件は解決したって伝えておくよ」
「頼む」
こうしてカズキは、一週間ぶりに異世界メモリアへ戻ったのであった。
「カズキ!」
取り敢えずカレンの冒険者登録をしようと思ったカズキは、いつものようにハルザーク(カズキが冒険者になった町)の冒険者ギルド近くの森へ【テレポート】した。
そして、ブロンズランクへの昇格の条件を達成するべくウルフとゴブリンをそれぞれ100匹をカレンが倒したところでギルドへ行くと、そこに見覚えのある顔が声を掛けてくる。まあクリスなのだが。
「あらぁ? クリスちゃんじゃない~。お久しぶりねぇ?」
「あっ、姉上!?」
クリスはこの世界に置いてけぼりにされた事に文句を言ってやろうと待っていたのだが、カズキの隣にいるカレンの姿を見て引き攣った顔をした。姿形がそっくりなので、てっきりフローネだと思っていたのだ。
「おっ、お久しぶりでございます、姉上。そ、それで、どうして姉上がこの世界に?」
何故か冷や汗を垂らしながら、クリスが恐る恐るカレンの様子を伺う。実はクリスは剣を集め始めた時、度々カレンにお金を用立ててもらっていたのだ。とはいえ、それだけならばここまで下手に出る必要はない。
問題は、クリスは今日に至るまで、一銭たりとも金を返していない事にある。実はクリスの人生初の土下座は、カレンに金の無心をした時なのだ。
「牛乳を探しにきたの~。ベヒ肉みたいな美味しいお肉があるんなら、美味しい牛乳もあると思って~。あっそうだ! クリスちゃんも一緒に探しましょ~?」
「ワカリマシタ」
今まで一度たりとも返済を求めなかった姉に頭の上がらないクリスは、カズキへの文句も忘れ、姉、カレンの牛乳探しに参加する事になった。
20
お気に入りに追加
337
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
【完結】元お義父様が謝りに来ました。 「婚約破棄にした息子を許して欲しい」って…。
BBやっこ
恋愛
婚約はお父様の親友同士の約束だった。
だから、生まれた時から婚約者だったし。成長を共にしたようなもの。仲もほどほどに良かった。そんな私達も学園に入学して、色んな人と交流する中。彼は変わったわ。
女学生と腕を組んでいたという、噂とか。婚約破棄、婚約者はにないと言っている。噂よね?
けど、噂が本当ではなくても、真にうけて行動する人もいる。やり方は選べた筈なのに。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる