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第二百五十九話 ランスリードの第一王女
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「吸血鬼?」
異世界メモリアから帰還したカズキは、【テレポート】を覚えてから月一で開催している、『世界中の猫に会いに行くツアー』から戻ってきたところでジュリアンに捕まった。
「ああ。ここ何日か、干からびた状態で死体が見つかるという事件が続いているんだ。いずれの被害者も、首筋に鋭い牙を突き刺したような傷跡がある事から、犯人は吸血鬼なんじゃないかと言われている」
その言葉に、カズキの開催するツアーに同行していたフローネの瞳が輝く。彼女はローラン・フリードと言うペンネームで活動しているからか、この手の不思議な話が大好物なのだ(尚、この後彼女はめちゃくちゃ冥福を祈りました)。
「ふーん。この国で確認されているのは先祖返りのあの人だけだよな? でも彼女がそんな事する筈もないし、そもそも吸血鬼って絶滅してるって話じゃなかったっけ?」
吸血鬼はアンデッドではなく、かつてこの世界に存在していた古い種族だ。外見は人族と全く同じなので、見た目からは判別出来ない。種族的な特徴としては、人族よりも長寿な事。生まれつきの魔力量が人族とは比べ物にならない事。そして、人族とは比較にならない身体能力を有している事が挙げられる。
これだけ聞くと人族の上位互換なように思えるが、その反面で出生率が異様に低く、最も繁栄していた時でさえ人口は1,000人にも満たなかったりと、種の存続には常に悩まされていた。
その上、定期的に生き血を吸わないと生きていけない事が広まり、恐怖に駆られた人族が徒党を組んで彼らを狩って回った事で更に人口が激減。今では公式には滅亡した種族に分類されている。
学者の中には、彼らを古代魔法文明時の貴族の生き残りであるという説を唱える者もいるが、真相は不明である。(魔法学院研究部刊・滅びた種族・吸血鬼より抜粋)
「その通りだ。とはいえ彼女の様に先祖返りした者の犯行かもしれんし、もしかしたら生き残りがいたのかもしれない。あるいは可能性は限りなく低いが、彼女が生き血を吸う事に目覚めたのかもしれん。そこで頼みたいのだが・・・・・・」
「お姉さまの居場所を探して欲しいのですね!?」
ジュリアンの言葉を遮って、フローネが叫ぶ。
「そういう事だ。彼女は気が向くまま、あちらこちらへと放浪するからな。先祖返りだけあって身体能力も高いし、吸血鬼族特有の魔法を使うから、今どこにいるのか、見当もつかない。頼めるか?」
吸血鬼特有の魔法には、虫やネズミや蝙蝠、更には霧に変身するなどがある。彼女はこの魔法、特に霧に変化する魔法を使って移動するので、居場所を把握する事が非常に困難なのだ。
因みに何故霧の魔法を使って移動するのかをフローネが尋ねたら、『自力で移動しなくても、風が吹けば勝手に遠くまで運んでくれるから』と言う答えが返って来たという。
三人に疑っている様子がないのは、彼女が態々人を襲うなどという、面倒な真似をしない事を知っているという理由もあるのだ。
「わかった。・・・・・・見つけたぞ」
「・・・・・・流石に速いな。で? 今は何処にいるんだ?」
頼んだ次の瞬間には発見したというカズキにドン引きしながら、ジュリアンは姉の所在を確認する。だがカズキは答えずに、ジュリアンに自分で探すように促した。その結果――
「まさか厨房にいるとはな・・・・・・」
カズキの言う事だからと、素直に応じたジュリアンが探査魔法を発動すると、果たして彼女は直ぐ傍にいたのである。
「カレンお姉さま!」
「あらぁ~? フローネちゃん~。久しぶりねぇ? 元気だったぁ?」
フローネの声に、アルフレッドと何やら話し込んでいた金髪美少女がゆっくりと振り返る。
彼女はジュリアンより2歳年上の29歳の筈だが、長寿と言う種族的な体質のお陰なのか、10代にしか見えない。その為か、フローネと並ぶと双子の様に見えた。性格は大分おっとりしているようだが。
「はい! お姉さまもお元気そうで!」
「うふふ。おねーちゃんはいつも元気よぉ? 毎日美味しい牛乳を沢山飲んでいるもの~」
そう言って幸せそうに牛乳を飲む姉を見て、ジュリアンがホッとした表情を見せる。何故かは知らないが、彼女は伝承に残る吸血鬼とは違い、昔から血が苦手で牛乳ばかり飲んでいたのである。その習慣が変わっていないという事は即ち、生き血を吸っていないという事になるからだ。
因みにだが、牛乳も人の乳も、元は血液から出来ている。この世界ではその事は知られていないので、何故カレンが牛乳で生きていけるのかは誰にも説明出来ていない。カレンが特殊なんだろうと考えられて、それで終わりである。
「お久しぶりです。姉上」
「久しぶり」
「あらぁ~、ジュリアンちゃんとカズキちゃんもいたのね~。二人共大きくなってぇ~」
「カズキはともかく、私は一年やそこらでそんなに変わらないと思いますが・・・・・・」
「え~? ジュリアンちゃんは魔力がすっごく成長してるじゃないの~」
「ああ、そういう意味ですか。というか、この年でちゃん付けはちょっと・・・・・・」
「えぇ~? ジュリアンちゃんはこれからもずっとジュリアンちゃんよぉ? だって、私の可愛い弟なんですもの~」
「・・・・・・」
こうして、ランスリードの第一王女、カレンの容疑は無事に晴れた。そしてこの後、第一王女の久しぶりの帰還とあって盛大な宴が開かれたのだが、ジュリアンは結局カレンを翻意させることが叶わず、終生ちゃん付けで呼ばれる事になったという。
異世界メモリアから帰還したカズキは、【テレポート】を覚えてから月一で開催している、『世界中の猫に会いに行くツアー』から戻ってきたところでジュリアンに捕まった。
「ああ。ここ何日か、干からびた状態で死体が見つかるという事件が続いているんだ。いずれの被害者も、首筋に鋭い牙を突き刺したような傷跡がある事から、犯人は吸血鬼なんじゃないかと言われている」
その言葉に、カズキの開催するツアーに同行していたフローネの瞳が輝く。彼女はローラン・フリードと言うペンネームで活動しているからか、この手の不思議な話が大好物なのだ(尚、この後彼女はめちゃくちゃ冥福を祈りました)。
「ふーん。この国で確認されているのは先祖返りのあの人だけだよな? でも彼女がそんな事する筈もないし、そもそも吸血鬼って絶滅してるって話じゃなかったっけ?」
吸血鬼はアンデッドではなく、かつてこの世界に存在していた古い種族だ。外見は人族と全く同じなので、見た目からは判別出来ない。種族的な特徴としては、人族よりも長寿な事。生まれつきの魔力量が人族とは比べ物にならない事。そして、人族とは比較にならない身体能力を有している事が挙げられる。
これだけ聞くと人族の上位互換なように思えるが、その反面で出生率が異様に低く、最も繁栄していた時でさえ人口は1,000人にも満たなかったりと、種の存続には常に悩まされていた。
その上、定期的に生き血を吸わないと生きていけない事が広まり、恐怖に駆られた人族が徒党を組んで彼らを狩って回った事で更に人口が激減。今では公式には滅亡した種族に分類されている。
学者の中には、彼らを古代魔法文明時の貴族の生き残りであるという説を唱える者もいるが、真相は不明である。(魔法学院研究部刊・滅びた種族・吸血鬼より抜粋)
「その通りだ。とはいえ彼女の様に先祖返りした者の犯行かもしれんし、もしかしたら生き残りがいたのかもしれない。あるいは可能性は限りなく低いが、彼女が生き血を吸う事に目覚めたのかもしれん。そこで頼みたいのだが・・・・・・」
「お姉さまの居場所を探して欲しいのですね!?」
ジュリアンの言葉を遮って、フローネが叫ぶ。
「そういう事だ。彼女は気が向くまま、あちらこちらへと放浪するからな。先祖返りだけあって身体能力も高いし、吸血鬼族特有の魔法を使うから、今どこにいるのか、見当もつかない。頼めるか?」
吸血鬼特有の魔法には、虫やネズミや蝙蝠、更には霧に変身するなどがある。彼女はこの魔法、特に霧に変化する魔法を使って移動するので、居場所を把握する事が非常に困難なのだ。
因みに何故霧の魔法を使って移動するのかをフローネが尋ねたら、『自力で移動しなくても、風が吹けば勝手に遠くまで運んでくれるから』と言う答えが返って来たという。
三人に疑っている様子がないのは、彼女が態々人を襲うなどという、面倒な真似をしない事を知っているという理由もあるのだ。
「わかった。・・・・・・見つけたぞ」
「・・・・・・流石に速いな。で? 今は何処にいるんだ?」
頼んだ次の瞬間には発見したというカズキにドン引きしながら、ジュリアンは姉の所在を確認する。だがカズキは答えずに、ジュリアンに自分で探すように促した。その結果――
「まさか厨房にいるとはな・・・・・・」
カズキの言う事だからと、素直に応じたジュリアンが探査魔法を発動すると、果たして彼女は直ぐ傍にいたのである。
「カレンお姉さま!」
「あらぁ~? フローネちゃん~。久しぶりねぇ? 元気だったぁ?」
フローネの声に、アルフレッドと何やら話し込んでいた金髪美少女がゆっくりと振り返る。
彼女はジュリアンより2歳年上の29歳の筈だが、長寿と言う種族的な体質のお陰なのか、10代にしか見えない。その為か、フローネと並ぶと双子の様に見えた。性格は大分おっとりしているようだが。
「はい! お姉さまもお元気そうで!」
「うふふ。おねーちゃんはいつも元気よぉ? 毎日美味しい牛乳を沢山飲んでいるもの~」
そう言って幸せそうに牛乳を飲む姉を見て、ジュリアンがホッとした表情を見せる。何故かは知らないが、彼女は伝承に残る吸血鬼とは違い、昔から血が苦手で牛乳ばかり飲んでいたのである。その習慣が変わっていないという事は即ち、生き血を吸っていないという事になるからだ。
因みにだが、牛乳も人の乳も、元は血液から出来ている。この世界ではその事は知られていないので、何故カレンが牛乳で生きていけるのかは誰にも説明出来ていない。カレンが特殊なんだろうと考えられて、それで終わりである。
「お久しぶりです。姉上」
「久しぶり」
「あらぁ~、ジュリアンちゃんとカズキちゃんもいたのね~。二人共大きくなってぇ~」
「カズキはともかく、私は一年やそこらでそんなに変わらないと思いますが・・・・・・」
「え~? ジュリアンちゃんは魔力がすっごく成長してるじゃないの~」
「ああ、そういう意味ですか。というか、この年でちゃん付けはちょっと・・・・・・」
「えぇ~? ジュリアンちゃんはこれからもずっとジュリアンちゃんよぉ? だって、私の可愛い弟なんですもの~」
「・・・・・・」
こうして、ランスリードの第一王女、カレンの容疑は無事に晴れた。そしてこの後、第一王女の久しぶりの帰還とあって盛大な宴が開かれたのだが、ジュリアンは結局カレンを翻意させることが叶わず、終生ちゃん付けで呼ばれる事になったという。
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