上 下
259 / 346

第二百五十九話 ランスリードの第一王女

しおりを挟む
吸血鬼ヴァンパイア?」

 異世界メモリアから帰還したカズキは、【テレポート】を覚えてから月一で開催している、『世界中の猫に会いに行くツアー』から戻ってきたところでジュリアンに捕まった。

「ああ。ここ何日か、干からびた状態で死体が見つかるという事件が続いているんだ。いずれの被害者も、首筋に鋭い牙を突き刺したような傷跡がある事から、犯人は吸血鬼なんじゃないかと言われている」

 その言葉に、カズキの開催するツアーに同行していたフローネの瞳が輝く。彼女はローラン・フリードと言うペンネームで活動しているからか、この手の不思議な話が大好物なのだ(尚、この後彼女はめちゃくちゃ冥福を祈りました)。

「ふーん。この国で確認されているのは先祖返りのだけだよな? でも彼女がそんな事する筈もないし、そもそも吸血鬼って絶滅してるって話じゃなかったっけ?」

 吸血鬼はアンデッドではなく、かつてこの世界に存在していた古い種族だ。外見は人族と全く同じなので、見た目からは判別出来ない。種族的な特徴としては、人族よりも長寿な事。生まれつきの魔力量が人族とは比べ物にならない事。そして、人族とは比較にならない身体能力を有している事が挙げられる。
 これだけ聞くと人族の上位互換なように思えるが、その反面で出生率が異様に低く、最も繁栄していた時でさえ人口は1,000人にも満たなかったりと、種の存続には常に悩まされていた。
 その上、定期的に生き血を吸わないと生きていけない事が広まり、恐怖に駆られた人族が徒党を組んで彼らを狩って回った事で更に人口が激減。今では公式には滅亡した種族に分類されている。
 学者の中には、彼らを古代魔法文明時の貴族の生き残りであるという説を唱える者もいるが、真相は不明である。(魔法学院研究部刊・滅びた種族・吸血鬼より抜粋)

「その通りだ。とはいえ彼女の様に先祖返りした者の犯行かもしれんし、もしかしたら生き残りがいたのかもしれない。あるいは可能性は限りなく低いが、彼女が生き血を吸う事に目覚めたのかもしれん。そこで頼みたいのだが・・・・・・」
の居場所を探して欲しいのですね!?」

 ジュリアンの言葉を遮って、フローネが叫ぶ。

「そういう事だ。彼女は気が向くまま、あちらこちらへと放浪するからな。先祖返りだけあって身体能力も高いし、吸血鬼族特有の魔法を使うから、今どこにいるのか、見当もつかない。頼めるか?」

 吸血鬼特有の魔法には、虫やネズミや蝙蝠、更には霧に変身するなどがある。彼女はこの魔法、特に霧に変化する魔法を使って移動するので、居場所を把握する事が非常に困難なのだ。
 因みに何故霧の魔法を使って移動するのかをフローネが尋ねたら、『自力で移動しなくても、風が吹けば勝手に遠くまで運んでくれるから』と言う答えが返って来たという。
 三人に疑っている様子がないのは、彼女が態々人を襲うなどという、面倒な真似をしない事を知っているという理由もあるのだ。

「わかった。・・・・・・見つけたぞ」
「・・・・・・流石に速いな。で? 今は何処にいるんだ?」

 頼んだ次の瞬間には発見したというカズキにドン引きしながら、ジュリアンはの所在を確認する。だがカズキは答えずに、ジュリアンに自分で探すように促した。その結果――

「まさか厨房にいるとはな・・・・・・」

 カズキの言う事だからと、素直に応じたジュリアンが探査魔法を発動すると、果たして彼女は直ぐ傍にいたのである。



「カレンお姉さま!」
「あらぁ~? フローネちゃん~。久しぶりねぇ? 元気だったぁ?」

 フローネの声に、アルフレッドと何やら話し込んでいた金髪がゆっくりと振り返る。
 彼女はジュリアンより2歳年上の29歳の筈だが、長寿と言う種族的な体質のお陰なのか、10代にしか見えない。その為か、フローネと並ぶと双子の様に見えた。性格は大分おっとりしているようだが。

「はい! お姉さまもお元気そうで!」
「うふふ。おねーちゃんはいつも元気よぉ? 毎日美味しい牛乳を沢山飲んでいるもの~」

 そう言って幸せそうに牛乳を飲む姉を見て、ジュリアンがホッとした表情を見せる。何故かは知らないが、彼女は伝承に残る吸血鬼とは違い、昔から血が苦手で牛乳ばかり飲んでいたのである。その習慣が変わっていないという事は即ち、生き血を吸っていないという事になるからだ。
 因みにだが、牛乳も人の乳も、元は血液から出来ている。この世界ではその事は知られていないので、何故カレンが牛乳で生きていけるのかは誰にも説明出来ていない。カレンが特殊なんだろうと考えられて、それで終わりである。
 
「お久しぶりです。姉上」
「久しぶり」
「あらぁ~、ジュリアンちゃんとカズキちゃんもいたのね~。二人共大きくなってぇ~」
「カズキはともかく、私は一年やそこらでそんなに変わらないと思いますが・・・・・・」
「え~? ジュリアンちゃんは魔力がすっごく成長してるじゃないの~」
「ああ、そういう意味ですか。というか、この年でちゃん付けはちょっと・・・・・・」
「えぇ~? ジュリアンちゃんはこれからもずっとジュリアンちゃんよぉ? だって、私の可愛い弟なんですもの~」
「・・・・・・」

 こうして、ランスリードの第一王女、カレンの容疑は無事に晴れた。そしてこの後、第一王女の久しぶりの帰還とあって盛大な宴が開かれたのだが、ジュリアンは結局カレンを翻意させることが叶わず、終生ちゃん付けで呼ばれる事になったという。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...