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第二百五十二話 力業で脱出

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「つまり、俺達――正確にはカズキ、エルザ、クリスの三人がこのダンジョンに入った段階で、相手の目的は達成されたという事か?」

 カズキからダンジョン内に閉じ込められたという話を聞いて、静かに口を開いたのはアルフレッドだった。

「そういう事ですね。そこら中に仕掛けてある罠はついでのような物で、本命は干殺し。つまりは餓死させるのが目的なんでしょう」
「・・・・・・」

 『ついで』で2回殺されかけたクリスが、カズキの言葉にそっと視線を逸らす。どうやら人並みに羞恥心という物があるようだった。

「確かに有効な手段かもね。相手がカズキでなければ、という注釈が付くけど」

 ラクトの言葉に皆、うんうんと頷く。閉じ込められたという話を聞いても誰一人取り乱さなかったのは、ラクトが言った通り、カズキが一緒にいたお陰だった。
 猫たちに美味い物を食べさせたいという思いから、【次元ハウス+ニャン】内に養殖場を作っているお陰で肉の備蓄には全く不安もない上に、最近では各世界の野菜や果物の栽培も始めているので、栄養面でも全く問題がない環境が整っているからだ。
 
「とはいえ、『飢え死にしないから問題ない』とも言えないだろう。ここでずっと暮らすわけにもいかないし、脱出できないのならば、結果的に干殺しと同じだ。我々には寿命という物があるからな」

 コエンの言葉に、今度はカズキが目を逸らした。というのも、竜玉に触れて歴代の竜王の記憶を見た時、神人という種族には寿命が無い事を知ってしまったからである。まあ、これから先も猫を見守っていけるので、気にしてはいないどころか、喜んでいたのだが。

「そうですね。その為にはダンジョンコアを見つけないといけないのですが・・・・・・」
「その為の手掛かりがない、と。八方塞がりだな」

 そう言いながらも、マイネとエストの言葉に絶望の響きはなかった。カズキならば、この状況でもどうにかしてくれと信じているからだ。

「ねえカズキ。こうなったら諦めるしかないんじゃない?」

 そして案の定、エルザがそんな事を口にする。その口ぶりから、脱出するだけなら、いつでも出来たという事が窺えた。

「うーん、仕方ないか。万一の事があるから、出来ればこの方法は取りたくなかったんだけど」

 カズキはそう言いながら、二人の会話をジッと聞いていたクレアとフローネに、申し訳なさそうな視線を向けた。

「ミャー・・・・・・」
「仕方ありません。それに可能性としては、外にいる方がずっと高いですから」
「そっか、二人共ありがとな」

 そんな不思議な会話を三人がしたと思った直後の事だった。突然【アイギス】の外の世界に『ピシッ』という音がしたかと思うと、空間に小さな亀裂が入っているではないか。

「「「「「は?」」」」」

 そして、未だに事情を呑み込めていない人間を嘲笑うかのようにあちこちに亀裂が入ったかと思うと、不意に『ガッシャーン!』という音を立てて粉々に砕け散り、気付いた時にはラストダンジョンへの入り口があった場所に立っていたのである。

「え? あれ?」
「・・・・・・どうやら賭けには勝ったらしいな」

 目まぐるしく変わる状況に目を白黒させているラクトを余所に、カズキが彼方を見て呟く。

「大分前に移動してたみたいね。時間的に言うと、私達が川の調査をしていた辺りかしら?」
「多分ね。あそこら辺から罠が単調になってたから」

 そして、エルザと謎の会話を始めた。

「今は、兄貴が足止めしてるみたいだな」
「万一の事を考えて、外に残しておいた甲斐があったという事か」

 更には、遅れて状況を理解したクリスとアルフレッドまでもがそんな会話を始める。

「ねえ! 話が一つも理解できないんだけど!」

 すると当然のように、理解できない者達が騒ぎ始めた。

「フローネ、お願い」
「わかりました。では――」

 その状況になって漸く説明の必要性を理解したエルザは、あろうことかフローネに丸投げする。ここでやっと、全員が状況を理解する事が出来た。それによると――

 ベヒモスはカズキ、エルザ、クリスがオリハルコンダンジョンを攻略する様子を、方法はわからないが見ていた。

 結果、自分ではとても敵わないと悟ったベヒモスは、自分を餌にダンジョンへおびき寄せた。

 首尾よく誘い込めた三人をダンジョン内で殺せばパワーアップ出来ると思い、あの手この手で罠にかけて殺そうとしたが、すんでのの所で回避されたので、今すぐのパワーアップを諦め、ダンジョンに閉じ込めて餓死させる作戦に切り替えた。
 
 それで一応の安心を得たベヒモスは、本来の目的である、世界の終末へと向けて動き出した。
 因みに、カズキが力業でダンジョンを破壊する事を躊躇っていたのは、ベヒモスがダンジョンに残っている可能性があったからである。

 誤算だったのは、世界最強の漁船である『真・アーネスト号EX』を操るアーネストの存在だった。結果、進むことも戻る事も出来ず、その場に足止めされている←今ここ。

 という事だった。
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