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第二百四十八話 魔法封じの罠
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時間は遡り、クリスが罠に嵌まって地面に呑み込まれた直後の事。
クリスの後方10メートルの所を歩いていたカズキ達は、突如現れた巨大な牛の群れに包囲された。
「おっ、今度はまんまデカい牛だな! これなら喰えるんじゃないか!?」
一斉に突撃してはナンシーの【アイギス】に阻まれる巨大な牛を見て、アルフレッドが嬉しそうな声でクレアを振り返る。だが――
「ミャー」
「アリシュタ。レベルは20000。一見するとデカい牛だが、実は悪魔。喰えない」
結果は無残なものだった。
「マジか! やっと喰えそうなのが出て来たと思ったのによぉ・・・・・・」
「・・・・・・」
『ベヒモスのいるダンジョンなら牛肉食べ放題!!』と考えていたアルフレッドとフローネは、期待も大きかっただけに激しく落胆した。特に食べ放題に備えて朝食を控えめにしていた(それでも人の三倍は食べていたが)フローネなどは、言葉も出ない程である。
「ここまで全部のモンスターに牛の特徴があるな。という事は、ここにベヒモスがいるのは間違いないと考えても良さそうだ」
一方で、特に食事を控えたりはしていないカズキは、このダンジョンにベヒモスがいる可能性が高くなった事でご機嫌だった。
ベヒモスを捕獲したら、ランスリードに帰還するつもりだったからだ。
この世界に来た目的は、ヒヒイロカネを手に入れる事と、まだ見ぬ珍しい食材を確保する事。その総仕上げがベヒモスの確保だったので、このダンジョンにベヒモスがいなければ、一から探さなくてはならない。
世界的なボーダーブレイクによって増えた、一番数の少ないオリハルコンダンジョンの攻略でさえ、クリス、エルザ、カズキの三人掛かりだったのに、それより下のランクのダンジョンの攻略なんて、面倒臭くてやってられないというのが本音だった。しかも、仮にそういう状況になった場合、エルザは間違いなく手伝わないだろうし、クリスはここぞとばかりに報酬を吊り上げようとするのが目に見えているのだ。そりゃあ上機嫌にもなる。
「さて、やる気も出て来た事だし、さっさとクリスを回収して次の層に進むか」
カズキはそう言ってナンシーの庇護下から抜け出し【アイギス】の上に立つと、どう見ても牛にしか見えない悪魔の群れを殲滅すべく、周囲を見回す。いつもなら【アイギス】の内側から魔法を使うのだが、現在は探査魔法が使えない為、全てのアリシュタを倒すには、目視でターゲッティングする必要があったのだ。だが—―。
「・・・・・・罠か?」
いざ魔法を使おうとしても、発動しなかった。
「ブモオオオオオオオ!」
「うるさい」
カズキはこの現象を、自分にだけ襲い掛かるようになったアリシュタを徒手空拳でいなしながら考える。
「ナンシーの【アイギス】が消えていないという事は、魔法そのものを阻害する罠じゃない。という事は、魔法の発動そのものが出来ないようになっているのか。そしてその範囲も大して広くはない。もしこの効果が広範囲のものであれば、これだけ高密度にアリシュタを配置する必要もないしな」
そう結論付けたカズキは、次の疑問を解消するべく、空中を歩いて包囲を抜けようと試みる。するとアリシュタは、カズキの進行方向に数を増やして対応してきた。
「やはり『身体能力強化』は問題なく使えるな。きっと、俺の事を純粋な魔法使いだと思っていたんだろう。それならクリスと分断したのも納得できる。やはりこの状況を作り出した奴がいると考えるのが妥当か」
アリシュタが壁になってそれ以上進めなくなると、そこで初めてカズキは剣を抜く。今まではこの状況を作り出した何者かに情報を与えない方が良いと考えて行動していたが、魔法の発動が出来る場所へ行ってから改めて【アイギス】を使えば、未だに帰ってこないクリスのように、無様に罠に嵌まる事もないと考え直したのである。
「・・・・・・面倒な。【アイギス】が使えるようになったら、絶対に外に出ないようにしよう」
悪魔だけあって生命力が高いのか、一刀両断しても消滅しないアリシュタを細切れにしながらカズキがぼやく。
「救いなのは、アリシュタの数が増えないところね」
そんなカズキに、ナンシーを抱っこしたエルザが声を掛ける。彼女には、【アイギス】の中で魔法を使えるのか確認してもらっていたのだ。
「ねーさん。で、どうだった?」
「あなたの推測通り、この中では普通に魔法は使えるわね。中から外への魔法は、古代魔法以外は無理なようだけど」
「そうなるとナンシーとねーさん頼みになるか。だけど・・・・・・」
「ええ。相手はその事を知らない」
「だね。まあ考えすぎだとは思うけど、相手にその情報を与える必要もないか」
「そういう事。だから悪いけど、罠発見器と合流するまでは頑張ってくれる?」
「わかった」
返事をしたカズキは、クリスの二の舞にならない様、地面すれすれの空中を歩くという器用な事をしながら、アリシュタの殲滅速度を上げる。
そして魔法が使用可能な場所へと到達したところで【アイギス】を発動し、無事、クリス以外のメンバーとの合流を果たした。
クリスの後方10メートルの所を歩いていたカズキ達は、突如現れた巨大な牛の群れに包囲された。
「おっ、今度はまんまデカい牛だな! これなら喰えるんじゃないか!?」
一斉に突撃してはナンシーの【アイギス】に阻まれる巨大な牛を見て、アルフレッドが嬉しそうな声でクレアを振り返る。だが――
「ミャー」
「アリシュタ。レベルは20000。一見するとデカい牛だが、実は悪魔。喰えない」
結果は無残なものだった。
「マジか! やっと喰えそうなのが出て来たと思ったのによぉ・・・・・・」
「・・・・・・」
『ベヒモスのいるダンジョンなら牛肉食べ放題!!』と考えていたアルフレッドとフローネは、期待も大きかっただけに激しく落胆した。特に食べ放題に備えて朝食を控えめにしていた(それでも人の三倍は食べていたが)フローネなどは、言葉も出ない程である。
「ここまで全部のモンスターに牛の特徴があるな。という事は、ここにベヒモスがいるのは間違いないと考えても良さそうだ」
一方で、特に食事を控えたりはしていないカズキは、このダンジョンにベヒモスがいる可能性が高くなった事でご機嫌だった。
ベヒモスを捕獲したら、ランスリードに帰還するつもりだったからだ。
この世界に来た目的は、ヒヒイロカネを手に入れる事と、まだ見ぬ珍しい食材を確保する事。その総仕上げがベヒモスの確保だったので、このダンジョンにベヒモスがいなければ、一から探さなくてはならない。
世界的なボーダーブレイクによって増えた、一番数の少ないオリハルコンダンジョンの攻略でさえ、クリス、エルザ、カズキの三人掛かりだったのに、それより下のランクのダンジョンの攻略なんて、面倒臭くてやってられないというのが本音だった。しかも、仮にそういう状況になった場合、エルザは間違いなく手伝わないだろうし、クリスはここぞとばかりに報酬を吊り上げようとするのが目に見えているのだ。そりゃあ上機嫌にもなる。
「さて、やる気も出て来た事だし、さっさとクリスを回収して次の層に進むか」
カズキはそう言ってナンシーの庇護下から抜け出し【アイギス】の上に立つと、どう見ても牛にしか見えない悪魔の群れを殲滅すべく、周囲を見回す。いつもなら【アイギス】の内側から魔法を使うのだが、現在は探査魔法が使えない為、全てのアリシュタを倒すには、目視でターゲッティングする必要があったのだ。だが—―。
「・・・・・・罠か?」
いざ魔法を使おうとしても、発動しなかった。
「ブモオオオオオオオ!」
「うるさい」
カズキはこの現象を、自分にだけ襲い掛かるようになったアリシュタを徒手空拳でいなしながら考える。
「ナンシーの【アイギス】が消えていないという事は、魔法そのものを阻害する罠じゃない。という事は、魔法の発動そのものが出来ないようになっているのか。そしてその範囲も大して広くはない。もしこの効果が広範囲のものであれば、これだけ高密度にアリシュタを配置する必要もないしな」
そう結論付けたカズキは、次の疑問を解消するべく、空中を歩いて包囲を抜けようと試みる。するとアリシュタは、カズキの進行方向に数を増やして対応してきた。
「やはり『身体能力強化』は問題なく使えるな。きっと、俺の事を純粋な魔法使いだと思っていたんだろう。それならクリスと分断したのも納得できる。やはりこの状況を作り出した奴がいると考えるのが妥当か」
アリシュタが壁になってそれ以上進めなくなると、そこで初めてカズキは剣を抜く。今まではこの状況を作り出した何者かに情報を与えない方が良いと考えて行動していたが、魔法の発動が出来る場所へ行ってから改めて【アイギス】を使えば、未だに帰ってこないクリスのように、無様に罠に嵌まる事もないと考え直したのである。
「・・・・・・面倒な。【アイギス】が使えるようになったら、絶対に外に出ないようにしよう」
悪魔だけあって生命力が高いのか、一刀両断しても消滅しないアリシュタを細切れにしながらカズキがぼやく。
「救いなのは、アリシュタの数が増えないところね」
そんなカズキに、ナンシーを抱っこしたエルザが声を掛ける。彼女には、【アイギス】の中で魔法を使えるのか確認してもらっていたのだ。
「ねーさん。で、どうだった?」
「あなたの推測通り、この中では普通に魔法は使えるわね。中から外への魔法は、古代魔法以外は無理なようだけど」
「そうなるとナンシーとねーさん頼みになるか。だけど・・・・・・」
「ええ。相手はその事を知らない」
「だね。まあ考えすぎだとは思うけど、相手にその情報を与える必要もないか」
「そういう事。だから悪いけど、罠発見器と合流するまでは頑張ってくれる?」
「わかった」
返事をしたカズキは、クリスの二の舞にならない様、地面すれすれの空中を歩くという器用な事をしながら、アリシュタの殲滅速度を上げる。
そして魔法が使用可能な場所へと到達したところで【アイギス】を発動し、無事、クリス以外のメンバーとの合流を果たした。
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