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第二百四十四話 アーネストの場合

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「今日も大漁だぜ」

 ジュリアンに『異世界の魚を食べて見たいと思わないか?』と誘われたランスリードの第二王子アーネストは、今日も今日とてダンジョンに潜らず、異世界の海で漁をしていた。
 異世界メモリアに来てから、彼がダンジョンに潜ったのは一回。ヒヒイロカネを手に入れる為に、オリハルコンダンジョンへ行った時だけである。世界中でボーダーブレイクが発生していたので、カズキの様にいきなりオリハルコンダンジョンへと入る事が出来たのだ。

「おっ、またデカいのが飛んでるな」

 そんな彼が期待された役割は、世界の貿易の中心地である港町の防衛。如何に人命第一とはいえ、ここを潰されてしまうと、世界が救われても復興が遅れてしまう。それだけは避けたいと各国のトップが判断したのだが、問題はその為の人員だった。
 この港町に限らず、海辺には何故かダンジョンが少ない。その為、ボーダーブレイクの影響も比較的少ないと思われていたのだが、溢れ出したモンスターの中には空を飛ぶモノもいる。それらが町を襲った時は、偶々カズキがいたので被害はなかったが、ダンジョンの攻略を優先しないとならないカズキが常駐する訳にもいかない。そして前述の理由から、冒険者の数も全く足りていなかった。
 そんな状況をどうにかしようと考えた結果、『真・アーネスト号EX』を所有するアーネストに白羽の矢が立った。
 広域の【レーダー】と、各種神話級のマジックアイテムを搭載している『真・アーネスト号EX』なら、モンスターが町に近付く前に発見、迎撃も可能だからだ。

「しかし、このヒヒイロカネってのは凄ぇな」
 
 ただ、可能だからと言っても一人で出来るかどうかは別問題だ。いくら『真・アーネスト号EX』が凄くても、乗員がアーネストだけでは限界がある。アーネストは二日や三日眠らなくても平気なくらいに体力はあるが、流石に四六時中レーダーを起動しっぱなしには出来ない。カズキの創った【レーダー】は、魔法に長けたジュリアンを一発で気絶させる程の威力? を秘めているからだ。
 その為、当初は交代要員にタゴサクをつける(アーネストと仲が良いし、レーダーで脳が焼ききれても死に戻るから問題ない)という話もあったのだが、ヒヒイロカネを手に入れた事でその問題も解決した。
 なんと彼が手に入れたヒヒイロカネの能力は、『真・アーネスト号EX』との同調という、とんでもない能力だったのである。
 三度の飯よりも漁に出るのが好きな彼にとって、『真・アーネスト号EX』は最高のパートナーだ。だから彼は余程の事がない限り海にいたし、やむを得ず海から離れる事になっても、カズキのアフターフォローで貰った、専用の『次元倉庫』に『真・アーネスト号EX』を格納し、寝る時は必ず船の自室で寝た。そうすれば一体感が増し、自在に『真・アーネスト号EX』を操れると思ったからだ。
 そんな彼の強い思いが、オリハルコンダンジョンを攻略した時、左手の甲に船の紋様が現れるという結果に繋がったのだろうと話を聞いた人間は思ったものである。
 
「おし、【レーヴァテイン】発射!」

 『真・アーネスト号EX』と完全に同調しているので本来は必要ないが、自分が起きている時はわざわざ宣言するスタイルのアーネストは、港町へと接近しつつあるモンスターに向けて、『真・アーネスト号EX』に備え付けの神話級魔法【レーヴァテイン】を発射した。
 依頼された港町ではないのにも関わらず、彼は自主的に他の港町も守っているのは、海人うみんちゅは皆兄弟というのが、アーネストの考え方だからだ。

「命中! これで今日は丁度10匹目か? 今のは空を飛んでたが、海から来るモンスターも増えてるよな? もしかして、海にもダンジョンが出来たってのか?」

 そんな事を考えていたのが悪かったのか、『真・アーネスト号EX』の針路から少しずれた場所に、突如巨大なモンスターの反応が複数現れる。

「こりゃ確定だな」

 アーネストはそう呟きながら、モンスターが現れた場所へと針路を変更した。港の防衛という仕事があるので自分はダンジョンへは潜れないが、入り口に陣取っていればモンスターが出てきても直ぐに倒せるし、誰かがここを攻略する際の拠点にもなると考えたのである。だが・・・・・・。

「ヒュドラ! またてめえらかっ!」

 レーダーに反応していた魔物がヒュドラだと判明した瞬間、アーネストは『真・アーネスト号EX』を最大船速で突っ込ませていた。
 どうやら『真・アーネスト号EX』を創る事になった原因であるヒュドラを、アーネストは未だに目の敵にしているらしい。

「消し飛べっ!」

 『真・アーネスト号EX』の帯びる膨大な魔力に惹かれたのか、真っすぐに向かってくるヒュドラに向かってアーネストが【ラグナロク】を発動すると、最初に【レーダー】に反応したヒュドラ達は何も出来ずにこの世から消滅する。だが、アーネストはそれで満足しなかった。
 
「あーカズキか? ヒュドラが湧いてくるダンジョンを見つけたから潰してくるわ」

 【レーダー】に偶々引っ掛かったカズキに一方的にそう告げて、ダンジョンに突入。そこで全てのモンスターを蹂躙してから最下層の『リントヴルム(強制進化前)』を倒し、コアを破壊してのけたのだった。
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