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第二百四十一話 馬鹿四人の末路

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 ナンシーのヒヒイロカネの能力の凄まじさに、ジュリアン達は動揺を隠せずに思わず叫んでしまう。それはつまり、実質カズキがもう一人増えたのと同じ意味だからだ。だが、彼らは致命的な事を見逃していた。それは――

「落ち着きなさい。ナンシーとカズキが別行動を取るわけが無いでしょ? だからカズキはナンシーの能力を『大したことない』って言ったのよ」

 という事だった。カズキと同じ領域に人間を止めているエルザとクリスは、当然の様にナンシーの変化に気付いていたが、エルザが説明したようにナンシーとカズキが離れる事は無いし、カズキがナンシーを戦わせる訳もない。だから二人はナンシーの変化を気にも留めていなかったのである。

「・・・・・・それもそうだな。済まない、余りの事に取り乱していたようだ」

 言われてみれば当たり前の事実に、ジュリアンを始めとする一同は漸く平静を取り戻す。
 その後、彼らは何事もなかったかのようにジズを堪能し、これから迫りくる事態に向け英気を養ったのだった。



 翌日、各地で境界が崩壊し始めた事が確認されると、各国の王、そして冒険者ギルドのグランドマスターであるガストンの連名で、世界中の人々に向けて声明が出された。
 内容は境界の崩壊とその対策――冒険者と騎士団が共同で各地の防衛施設の防衛に当たるという物だが、この事態を見越して境界近くの村や町では既に避難を始めていたので、大した混乱は起こらなかった。
 この世界の人間たちは、幼少の頃から繰り返しボーダーブレイクの危険性について教えられるというので、このような事態への覚悟があるのかもしれない。
 ラクトはそのような事を考えながら、目の前で喚いている四人組を見た。

「おい! さっさと首輪を外して、俺達を避難場所へ連れていけ!」
「そうだ! 右も左もわからない場所へと勝手に連れてきておいて、この仕打ちはあんまりだと思わないのか!」
「ていうか、アタシたちカズキの親戚なのよ? この事態でも一番貢献しているカズキの! アイツが後でこの事を知った時、どうなるか解っているんでしょうね!?」
「そういう訳だから、早く私達を開放しなさい! それと、シャワー付きの個室と温かい食事を用意して! そうすればこれまでの事は不問に付すし、カズキへの口利きも考えてあげるわ!」

 彼らは他の犯罪者と一緒に防衛施設の建造をさせられていた、カズキの親戚である漂流者ドリフターの四人組である。
 街の防衛には少しでも戦力が必要だという事で、特別に恩赦を与えて防衛に協力させようとした所、このように騒ぎ出したという話であった。
 
「・・・・・・どうしましょう?」

 いざという時のため、カズキのマジックアイテムを持たされてこの街に派遣されたラクトは、自分よりも明らかに強いのに、何故か遜ってくるこの街の冒険者ギルド長の態度に若干引きながら、改めて四人を見る。
 彼らがカズキと一緒にこの世界へと漂流(実際には神に召喚されたのだが)してきたのは事実なので、下手な扱いをすると、カズキの機嫌を損ねるとギルドマスターは思ったのだろう。漂流者が現れる時は、例外なく血縁関係の人間同士でこの世界に現れるからだ。

「にーちゃんからこいつらの事なんて聞いてないし、言う事聞く必要なんてないんじゃない?」

 四人にゴミでも見るような視線を向けてそう言ったのは、ラクトと共にこの街に派遣されたカリムだった。
 
「聞けば、こいつらはにーちゃんを襲った所を返り討ちにされたんでしょ? それで奴隷落ちになっても反省せず、我侭ばかり。恩赦なんか与えないで、このまま最前線で使い捨てればいいんだ」
「ミ゛ャー」

 カリムの意見に同意なのか、カズキからカリムの事を頼まれているアレンもコクコクと首を縦に振る。
 実力差もわからず襲撃して返り討ちに遭い、恩赦を与えられるという話を聞いた途端にカズキの名前を出して騒ぎ立てる。こんなのがカズキの血縁だなんて、ランスリードから来た人間は誰も信じていなかった。

「そういう訳なんで、この四人に配慮する必要はありません。待遇も奴隷のまま、カリムが言う通り、最前線で使い潰せばよろしいかと」
「はっ! 了解しました!」

 何故か敬礼したギルドマスターは、処遇の決まった四人を牢にぶち込むために兵を呼び寄せる。この状況に慌てたのは勿論、解放されると妄想していた四人。当然の様にまた騒ぎ出した。

「待て! 何故関係ないお前たちが俺たちの処遇を決める! いいからカズキを呼べ! カズキを!」
「そうだ! 関係ない奴は引っ込んでろ!」
「わかったわ! 恩赦を受けて戦ってあげる! だから私達だけは解放して!」
「お願い! 元々カズキを襲撃しようって言ったのはこっちの男二人なの! 私達は脅されて、嫌々従っただけよ!」
「なっ!? ふざけんな! てめーが気絶させて首輪を嵌めてしまえって言ったんじゃねえか!」
「知らないわよ! 大体あんたのせいで――」
「・・・・・・なんて言うか、醜いね」

 引き摺られながらも仲間割れを始めた四人を見て、ラクトがポツリと呟く。

「だなぁ。大人しく従っていれば、日本? に返してもらえたかもしれないのに。な、アレン」
「ニ゛ャー」

 久しぶりに他人から”日本”という単語を聞いて、その可能性に思い至った四人がピタリと騒ぐのを止める。この期に及んでようやく、心証と言うものが大事だと思い至ったらしかった。
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