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第二百三十八話 クリストファーの場合

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「知らない間にそんな事になってたのか」

 兄であり、ランスリードの第二王子であり、漁師でもあるアーネストの仕事を手伝い、無事に剣を買う為にした借金を返済する事が出来たクリスは、久しぶりに顔を出した実家王城の厨房で、叔父であるアルフレッドから異世界メモリアの話を聞いていた。
 リントヴルムと戦う前に注文した、新たに出来上がった剣に魔力を込めてもらおうと、カズキを訪ねて来たのである。対価はないが。

「ああ。俺もヒヒイロカネを手に入れたお陰で魔法が使えるようになったし、兄貴も【トール】だけだが使えるようになった。まあ、【トール】はおまけで、本命はそれを使った高速戦闘だけどな。今はベヒモスとかいう、終末の獣を探しているところだ。これがまた、絵を見たカズキとフローネ、兄貴とナンシーとクレアまでもが絶賛する程、美味そうな魔物で・・・・・・」

 ベヒモスと対を為すレヴィアタンの話まで始めたアルフレッドの言葉を聞きながら、クリスは対価になりそうな話を聞いてほくそ笑む。
 その上、ダンジョンを攻略した際の報酬であるヒヒイロカネは、所有者の実力を補う物か、それが必要ない場合は、所有者が真に望む物が具現化するのではないかという話で、それによりカズキは『カズピュ~レ』を作る能力を、ソフィアは【テレポート】を使えるようになったという話から、二人と同じく人間を止めた仲間である自分にも特別なナニカが手に入る可能性が高いと考えたのだ。

「俺に必要なのは金! だからヒヒイロカネを手に入れれば、金に困らなくなるに違いない!」

 そう信じたクリスは、いつも剣の手付金を借りている商人たちの元へ行って土下座して回り、再び借金をして、またも剣の注文を行ってから(最早病気である)、カズキからの協力要請を待った。
 ストッパー役のジュリアンやソフィアがいない上、ヒヒイロカネを当てにしているので、借金も強気に過去最高額(毎回更新しているが)の倍である。
 性能は今使っている剣と変わらないが、今回は王都の有名デザイナー、シャウ・エッセンに再び柄に装飾して貰う様に頼んだので、値段が倍に跳ね上がったのだ。
 圧縮したダマスカス鋼は固い。その為、装飾を施すのは至難の業なので、最初はエッセンは断った。だが、どうしてもシャウ・エッセンの装飾した剣が欲しかったクリスは、装飾を施す為の工具を用意させるためだけに、技術料として剣と同額の金を用意したのである。
 
「クリス。ちょっと話が・・・・・・。その様子だと、大体の所は知っているみたいだな。なら話は早い。付いてきてくれ」
「まあ待てカズキ。その前に報酬の話をしようじゃないか。俺にはそっちの世界に行く理由がないんだが?」

 それから二日後。クリスにとって待ちに待った瞬間が訪れた。が、彼は内心の歓喜を押し殺してカズキの譲歩をひきだすべく、敢えて素っ気ない態度を取る。これ見よがしに、新品のダマスカス鋼で出来た剣を素振りしながら。

「・・・・・・わかった。前金としてその剣を魔剣にしてやる。首尾よくベヒモスを捕獲し、世界が安定したら、どうせ頼んだであろうこれから出来る剣も魔剣にする。それでどうだ?」

 カズキがそう言うとクリスはピタリと素振りを止め、

「OK、交渉成立だ」
 
 ニヤリと笑ってそう言った。



――――――――――――――――――――
名前:クリストファー・ランスリード
種族:漂流者ドリフター
ジョブ:剣帝
年齢:22
LV :測定不能
HP :測定不能
MP :測定不能
ATK :測定不能
DEF :865231
AGI :測定不能
INT :2021
AP :99999999+α

アビリティ
【剣術:神】【魔力操作:神】
【土下座:LV16】

称号
 万年金欠病
 自転車操業
 悪魔殺しデーモンスレイヤー
 神殺しゴッドスレイヤー

――――――――――――――――――――

「よし、早速だがオリハルコンダンジョンに案内してくれ。さっさとヒヒイロカネを手に入れたい」

 異世界メモリアへとやってきたクリスは、カズキやエルザと同じように『ゴッドランク』のギルドカードを受け取ると、直ぐにオリハルコンダンジョンへの案内を望んだ。
 因みにクリスのステータスだが、流石に三回目ともなるとリリーも動じなくなっていて、慌てず騒がず淡々と処理していた。カズキやエルザと比べると、まだ常識的な数字が幾つ並んでいたせいかもしれない。
 【土下座:LV14】には首を傾げていたが。

「・・・・・・わかった。なら、ここら一帯のダンジョンを全部潰したらテキトーにその辺で待っててくれ。迎えに来る。あ、ボスが食べられそうだったら生け捕りな」

 土下座のレベルが上がっている事に何があったのか察しながら、呆れた様子でカズキが答える。

「わかってるって。じゃあまた後でな!」

 一刻も早くヒヒイロカネを手に入れたいクリスは、そんなカズキに気付かず、上機嫌でダンジョンに突入していった。
 そして半日後・・・・・・。

「何でだよぉぉぉぉぉぉ!」

 ヒヒイロカネを手に入れたクリスの慟哭が、冒険者ギルドの本部にある町に響き渡っていた。
 左手の甲に現れた宝箱のような紋様から、自分が望むものが手に入ったと思っていたのに、その能力は金を生み出すものではなく、彼に節制を強いる――具体的には借金が出来ない、目標金額に届くまで欲しい物が買えない。要は貯金箱――という、彼にとっては呪い以外の何物でもない能力だったからだ。
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