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第二百三十六話 代償と成長

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「なんとかなったみたいね・・・・・・」

 魔力切れ寸前でフラフラになりながら、自身の使った魔法の効果で氷像になった単眼の巨人。それがジュリアンの【アース・ランス】で粉々に砕け散ったのを見て、ソフィアが安堵の余りその場にへたり込む。そして、『次元ポスト』から 『カズピュ~レ・サンダードラゴンの尻尾味』を取り出すと、封を切って中身を口にした。
 魔力による身体能力強化を使った反動で、早くも全身の筋肉が悲鳴を上げ始めていたからだ。その際にSランク(超美味い)肉を食べると、回復が早くなるのと、より狂人な肉体を作ってくれるのは、カリムが身を以て実証した通りである。

「ぐあああああああああ!」

 そして、一人で単眼の巨人を翻弄していたジュリアンは、始めに少し使っただけのソフィア以上の激痛と戦っていた。こちらは何故か、のたうち回って苦しんでいる。

「だから体を鍛えろって言ったのに」

 そんなジュリアンに近付いていくのは、二人の戦いぶりを離れた場所で猫達と共に見守っていたカズキである。
 ジュリアンが苦しみ始めた時に、彼の愛猫であるミリアが心配そうに駆け寄っていったので、様子を見に来たのだ。

「筋肉が断裂を起こしてるみたいだな」
「ミャー?」

 魔法で診察したカズキが、ジュリアンに寄り添うミリアに向かって診断結果を告げると、ミリアがどうにか出来ないか? とばかりに鳴いて、カズキを見上げる。

「外傷は治した事があるけど、筋断裂は初めてだな。確実に治すならフローネかねーさんエルザなんだけど。どうする?」
「ニャー・・・・・・」

 苦しんでいるジュリアンを見て、葛藤するミリア。カズキの能力は信頼しているが、ここは確実性を取るべきかと悩んでいると、当事者のジュリアンが慌てて口を開く。

「治すのはフローネにやってもらうから、痛みだけ何とかしてくれ!」

 ミリアがカズキに頼ろうとしているのを、雰囲気で感じ取ったからだ。いくらカズキが回復魔法を使えるとは知っていても、人体実験だけは御免被りたかったのである。

「そうなると眠らせる位しか思いつかないが、それでもいいか?」
「・・・・・・前言撤回だ。コアを破壊した後に眠らせてくれ」

 コアを破壊した際、左手の甲に浮かぶ六芒星、或いは紋様を即座に確認したくなるのが人の性だと思っているカズキが提案すると、ジュリアンは即座に苦痛が長引くほうを選ぶ。
 まあ、提案した側のカズキはそれを知らず、ハルステンに指摘されて初めて気付いたのだが。

「あっ! フィールドが変わったわ!」

 筋肉痛を堪えてエリーと戯れていたソフィアが、突然変わった視界に快哉を叫ぶ。それが迷宮を踏破した証だと知っているからだ。

「さあジュリアン、コアを破壊して」

 いつの間にか小さな部屋の中央に浮かんでいたコアを指差し、ソフィアがジュリアンを促す。
 単眼の巨人を引きつけ、ソフィアの魔法が完成するまでの時間を稼いだジュリアンには、コアを破壊する権利が与えられて然るべきだと考えたからだった。

「では失礼して」

 その気持ちを無碍には出来ないと、魔法を駆使してどうにか立ち上がったジュリアンが、滅多に使わない護身用の剣を振り降ろすと、壊されたコアが光を放ち、力の残滓がジュリアンとソフィアに流れ込む。
 そして二人の左手の甲に六芒星が現れた。

「「・・・・・・」」

 心のどこかで期待していたのに、極々普通の六芒星だった事にソフィアとジュリアンが沈黙した。そしてそれは、三人と三匹が外に放り出されても続いたのである。

「これで目的は達成したな。後はギルドに行って、ヒヒイロカネを手に入れるだけだ。あ、その前にジュリアンをフローネの所に連れていかないといけないのか」

 放心している二人が面倒になったカズキは、エリーとミリアの同意の元、ソフィアとジュリアンを魔法で眠らせて、ラクト達のいるプラチナダンジョンへと【テレポート】する。

「ありゃ、大分苦戦してるな」

 未だに一層目で戦っているのを見て、カズキは適当にダンジョンを選んだ事を反省する。どうやらこのダンジョンは、ランク以上に厳しい場所だったようだと。
 
「あ~、忙しい所悪いんだが・・・・・・」

 一向に止まない戦闘の中、モンスターを蹴散らしてフローネのの元に辿り着いたカズキは、持ってきたジュリアンの治癒を頼むと、どんな調子か尋ねる。場合によっては、他のダンジョンにした方がいいと思ったからだ。

「とにかく数が多いので大変ですけど、色々なモンスターが出てくるので対応力が上がった気がします。ほら、みんな動きが良くなっていると思いませんか?」

 フローネは『カズピュ~レ・ファイアドラゴンの尻尾と後ろ脚ミックス』を物凄い勢いで啜りながらカズキと会話をし、ついでにジュリアンに魔法を掛け、迫りくるモンスターにメイスの一撃をぶち込むという器用な事をしながら現状について答える。

「言われてみれば確かに違ってるな。普段以上の実力が出てるみたいだ」

 無意識にか『魔力による身体能力強化』を使っているラクト達の様子を見て、『もう少しこのままでもいいか』と考えたカズキは、アレンにフォローを任せてダンジョンを後にする。
 彼らの成長の為には、適度に負荷をかけた方が良いのかもしれないと、考えを改めたからだ。
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