上 下
235 / 346

第二百三十五話 単眼の巨人との戦い

しおりを挟む
「状況を整理しましょうか。まず厄介なのは、あの巨体で素早く動き、神話級が直撃しても平気な顔をしていた事ね」
「攻撃力も驚異的ですね。我々が防御魔法の多重起動をしても、金棒の一撃で粉砕されるのは目に見えています」
「そうね。流石に二人掛かりで防御すれば防げると思うけど・・・・・・」
「そうなると攻撃が出来ません。前衛がいればやり様もあるのですが・・・・・・」

 ジュリアンはそう言って、魔法を使って動かしている猫じゃらしで遊んでいる、ナンシーとエリー、クレアの様子を楽しそうに眺めているカズキを見やる。

「・・・・・・」

 当のカズキは、ジュリアンの視線を受けても全く反応すらしなかったが。

「・・・・・・やはり、二人で戦うしかないようね」

 ジュリアンと同じ事を考えていたらしいソフィアも、カズキの態度を見て手助けが無い事を悟る。
 
「まああの人セバスチャンも一人でボスを倒してヒヒイロカネを手に入れたのだし。私達は二人掛かりなのだから贅沢は言えないわよね」
「はい。では具体的に、どう戦うのか考えましょう。先ずは・・・・・・」
 
 それから二人は本格的に単眼の巨人の攻略法を考え始めた。とは言っても、やらなければならない事は、実はそんなに多くはない。ただ単に、それを実行するのに覚悟が必要だっただけなのだ。



 『カズピュ~レ・ファイアドラゴンミックス』で魔力を全快にしたソフィアとジュリアンは、『次元倉庫』の扉をゆっくり静かに開けると、単眼の巨人の姿を探す。

「いたわ。じゃあ作戦通りに動くわよ」
「はい」

 ソフィアの言葉に、覚悟を決めた表情でジュリアンが頷き、単眼の巨人の正面(と言っても100メートルは離れている)に向かって駆け出す。一方のソフィアはジュリアンとは別の方向、角度的に巨人の一つ目を狙える場所へと駆け出した。
 普段の二人と違うのは、その動くスピード。それも珍しい事に、【フィジカルエンチャント】を使わず、魔力操作による身体能力強化を使っている点だ。
 現状の二人が単眼の巨人にダメージを与えるには、古代魔法を圧縮し、威力を上げるしかない。だがそれは、魔法を同時に使うよりも遥かに難しい。とても、【フィジカルエンチャント】を使う余裕などないのである。つまり二人が決めた覚悟とは、戦闘終了後の、全身筋肉痛であった。

「喰らえっ!」

 正面に辿り着いたジュリアンが、巨人の一つ目に向かって【クラウ・ソラス】を放つ。神話級の魔法の中で最速の魔法ならば、圧縮していなくてもダメージを与えられるかもしれないと思ったからだ。
 だが単眼の巨人には通用しなかった。彼? は光の剣が当たる瞬間、まるで見えているかのように単眼の前に手を翳したのである。しかもその仕草は、眩しいから取り敢えず手で影を作っておくか程度で、光の剣自体に脅威を覚えての行動には見えなかった。

「チッ! 駄目か!」

 舌打ちしたジュリアンは、攻撃された事に気付いて突進してきた単眼の巨人から距離を取りながら、多重起動した【クラウ・ソラス】を始めとした神話級を、目に向かって連発する。その際、集中しているソフィアへと巨人の注意が向かないよう、ソフィアとは反対方向へと逃げるのも忘れない。
 圧縮魔法を使うには、かなりの集中力と魔力を使う。その為、今のソフィアは魔力による身体能力強化もしていない。巨人にバレて攻撃されようものなら、その時点でアウトである。
 だからジュリアンは、付かず離れずの距離で巨人を挑発しているのだ。神話級を使って減った魔力は、『カズピュ~レ・ファイアドラゴンミックス』で補充しながら。
 
「ゴアアアアアア!」

 果たして単眼の巨人は、見事にジュリアンの挑発に引っ掛かった。【ゲイボルグ風の槍 】と【ブリューナク石の槍】を同時に発動した時、偶々【ゲイボルグ】が【ブリューナク】の表面を削り、その破片が一つしかない目に飛び込んだのである。

「また頭に血が上っていたようだ」
 
 それを目の当たりにしたジュリアンは、以前、こことは違う異世界でキマイラの群れと戦った時の事を思い出した。ムキになって神話級の魔法ばかりを使い、悉くキマイラに防がれた挙句、最後には、魔力が尽きかけたところで、カズキが全てのキマイラを倒した時の記憶だ。
 その後、再びキマイラの群れと戦った時にリベンジしたのだが、実戦を離れている間に神話級魔法至上主義者に戻っていたらしい。
 充分な量の『カズピュ~レ・ファイアドラゴンミックス』用意したと思っていたのだが、気付けば数本しか残っていなかったのがその証拠である。
 そこからジュリアンは終始嫌がらせをする事に徹した。単眼に対しては古代魔法の【サンドストーム】を使って目つぶしを行い、目を閉じジュリアンの気配を辿って突撃してきた時には【ガイアコントロール】で地面を柔らかくし、そこへ足を踏み入れたら大量の水を発生させて沼の様にし、身動きを取りずらくなった所へ【トール】をぶち込んだりと、思いつく限りの嫌がらせを実行したのだ。
 
「・・・・・・冷静さを取り戻したみたいね」

 圧縮魔法を使う為に集中しなければいけないにも関わらず、ジュリアンの様子が気になり、魔法の完成が遅れていたソフィアは、ジュリアンが冷静になったのを確認して、完全に集中モードに入る。
 それから一分後に完成した圧縮【コキュートス】は、単眼の巨人の全身を覆う形で吹雪が発生し、それが収まった後には巨大な氷像が出来上がっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...