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第二百三十三話 ラクト達の挑戦

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「ミ゛ャー」
「ニャウー」

 人が5人並んでも余裕のある道幅の、迷宮型のプラチナダンジョンへ入ってから歩く事10分。アレンとクレアが警戒を促すかのように小さな声で鳴いた。

「隊列を変えよう。きっと、この先の曲がり角からモンスターが来ているんだ」

 パーティのリーダーであるラクトが、二匹の声に従ってその場に立ち止まる。
 彼は罠などの知識があるために先頭を歩いていたが、特別に五感が優れていたり、人やモンスターの気配に敏感なわけではない。
 斥候職のいないこのパーティに、アレンとクレアがいるのはその為だった。

「隊列はどうしますか?」
「うーん」

 唯一この世界のダンジョンに入った事のあるフローネがそう聞くと、ラクトは悩まし気な声を上げてから決断した。

「エスト、タゴサクは前方を。カリムとマイネが後方を警戒。僕とコエン、フローネは真ん中で、臨機応変にどちらかのフォローを。アレンとクレアは余程の事が無い限り静観で」

 ラクトの言葉にそれぞれが返事をし、即座に隊列を変える。前方だけでなく後方を警戒するのは、この世界のダンジョンでは、不意にモンスターが湧く事があるからだった。

「オーガ2体! 魔力は温存で!」
「「「「「了解!」」」」」

 曲がり角から現れたモンスターを見て、ラクトが即座に指示を飛ばす。これが元の世界だったらラクトの指示は適当なものだったのだが、生憎とこの世界のオーガは元の世界とは別物だった。

「「グアア!」」
「「くっ!」」

 唸り声と共に振るわれた棍棒をエストとタゴサクが受け止めたのだが、その予想外のスピードと膂力に、余裕の表情だった2人の顔が歪んだのである。
 
「【ヒーリング】!」

 その様子を見たフローネが、咄嗟に二人にヒーリングを掛ける。

「「済まない!」」

 それで痛めた手首が治った二人は、そこからは慢心せず、振るわれる棍棒を時に躱し、時に受け流しながら隙を見てダメージを与える戦法に切り替え、5分程でそれぞれが相手していたオーガを倒した。

「・・・・・・ごめん。僕のミスだ」

 一撃貰えばヤバいという緊張感を持って戦った二人の様子に、ラクトが申し訳なさそうな顔で謝る。
 だが、その言葉を否定したのは、当の二人だった。

「いや、ラクトのせいではない。所詮はオーガだと、嘗めてかかった我々の責任だ」
「んだ。だから気にしないで欲しいべ」
「でも・・・・・・」

 それでも申し訳なさそうな顔をしているラクトに、後方を警戒しつつも二人の戦況を見守っていたマイネが声を掛けた。

「ラクトさん、これは貴方だけの責任ではありません。強いて言えば、私達全員の責任です。カズキさんがこのダンジョンを選んだ時点で、何かがあると考えなければならなかったのです」

 実際にはカズキは何も考えていなかったが、この世界に来るに当たって、『アビリティは融通が利かなくなるから取得は禁止で』という言葉があったために、マイネは深い考えがあるのだと信じてしまっていたのだ。

「そもそもこの世界にきたのが、私たちの実戦不足を補う為でしたからね。私もお父様と来た時は、ダンジョンには入れても、戦う事は出来ませんでしたし」

 前回、セバスチャンと一緒に来たフローネは、カズキの魔法によって強引にオリハルコンダンジョンへは入れても(魔法で保護しないと、プラチナランクの境界まで弾き飛ばされてしまうため)、モンスターと戦う事は出来なかった。そして、セバスチャンがヒヒイロカネを手に入れてからの戦闘は、フローネには視認できない速度で行われていた為、モンスターが出てもそれがどの程度の強さなのか、全くと言っていい程わからなかったのである。つまりは、フローネにとってもプラチナダンジョンは未知の領域なのだった。

「そもそもの話だが、我々はこの世界のダンジョンの事をほとんど知らない。ここは一度、仕切り直すべきではないか?」
「そういえば、ギルドで登録した時、『プラチナランク冒険者の心得』という本を貰ったな。直後にこのダンジョンに連れて来られて、勢いで突入してしまったが」

 コエンの提案にエストが頷き、他のメンバーも誰一人として反対しなかったため、一行は仕切り直しの為にラクトの『次元倉庫』へと一時避難する事になった。
 そして今はプラチナランクのライセンスを取得した時に貰った、『冒険者の心得』を開いているところである。
 因みにだがフローネは本部で登録したので、この本を持っていない。持っていれば先程のような事態に陥る事はなかった筈だからだ。
 
『プラチナダンジョンは最低でも100階層からなり、最大で200階層まである。適正レベルは200~300で、下層に行くほど強いモンスターが出る傾向が高いが、上層階から高レベルのモンスターが出る可能性もあるため、プラチナランクに上がりたての冒険者の殉職率が最も高い。慣れるまでは深入りせず、余力を残した状態で撤退するのが望ましい』

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 最後まで読んだ六人は顔を見合わせた。一歩間違えれば、パーティが全滅していた可能性があったのだから当然である。このパーティの平均レベルは250前後で、一番高いフローネでも270だったからだ。
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