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第二百ニ十六話 レヴィアタン
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「いやぁ、強いな、嬢ちゃん!」
「おう、その若さで大したもんだ!」
「『蒼き閃光』の奴らにはいい薬になっただろ! ここの所属になったってだけで増長してたからな!」
世界共通のルールに則り、暴力で相手を排除したフローネは、その場にいた全員の拍手喝采を浴びていた。
誰かの言葉通り、最近増長していた『蒼き閃光』。彼らにはその内、『教育的指導』が行われる予定だったが、そこに現れたのがカズキ達である。
ハルステンは元ミスリルランクの冒険者だけあって、古株の冒険者たちは彼の顔を知っていたし、その後に続いて入ってきたセバスチャンは、どう考えてもハルステンより強そうだった。その更に後ろにいたカズキに至っては、本部付の冒険者で知らぬ者はいない。
ボーダーブレイクを二度も解消した漂流者なので、何かあれば出来る限りの便宜を図るようにと、ナンシーと一緒に写った写真っぽいものを見せられているからだ。
そして最後がフローネである。彼女は身なりからして神官系で、尚且つ超が付く程の美人だった。これは間違いなく『蒼き閃光』が絡むだろうと思っていたら、案の定である。
この機会にと『教育的指導』を行う事が暗黙の了解で決定され、それを察したカズキとセバスチャンが協力した結果、『蒼き閃光』のリーダーは鳩尾に良いのを喰らって失神したのだ。
いい意味で誤算だったのは、フローネが予想外に強かった事。てっきりカズキかセバスチャンが割り込むものだと思っていたところに、まさかの失神KOである。ベテランたちは大興奮だった。
「・・・・・・手間を掛けて申し訳なかったの」
そんな風に騒ぎが起こっている最中、不意にカズキ達の近くに気配が現れたかと思うと、そんな声を掛けて来る男が一人。
「うおっ! いつの間に!?」
突然現れた気配に、驚きつつもフローネを庇うようにして身構えるセバスチャン。だがその声の主は警戒するセバスチャンを余所に、飄々と自己紹介を始めた。
「驚かせてしまったかの? 儂が冒険者ギルドのグランドマスター、ガストン・ルシュールじゃ。今日は態々足を運んで貰って済まんかったの」
そう言って男は頭を下げる。そんな彼に、カズキ達は戸惑う様な視線を向けた。台詞だけ聞けば老人のようだが、彼らの目の前にいるのは金髪碧眼の、すらっとした長身の若い男だったのだ。
「ああ、この口調か? こう見えて儂は2000年以上生きておるからの」
そう言って自分の耳を指差すガストン。見ればその耳は、人間とは異なり長く尖っていた。
「エルフさんですか! 初めて会いました!」
その耳に真っ先に反応したのはフローネである。彼女はカズキからエルフに会ったと聞いて、いつか自分も会いたいと思っていたのだ。勿論、その時はエルフが護っているという世界樹も一緒に見る事が出来るのがベストだったのだが。
「ほう。そちらの世界にも同族がいるのか。その口ぶりじゃと、滅多に会えんようだが」
「そうなんですよ! こちらの世界では普通に暮らしてるんですか?」
勢い込んで尋ねるフローネに、ガストンはこっくりと頷いた。
「ダンジョンの問題は儂らにとっても他人事ではないからの。多くの者が冒険者として活動してくれておる。その内会う事もあるじゃろうて」
そう答えながら、ガストンはカズキ達を促して奥へと歩き出す。雑談は終わりという事なのだろう。
「ここじゃ。遠慮せずに入ってくれ」
案内されたのは、支部で言えばヒヒイロカネを発現させる儀式を行う部屋に当たる場所だった。本部付き冒険者になるには、ヒヒイロカネが発現しているのが最低条件となるので、儀式の部屋は必要ないという事らしい。
「これがレヴィアタンの絵じゃ」
部屋の中に入り、奥にあったスイッチをガストンが押すと、天井から一枚の絵画が降下してくる。見れば、そこには緻密に描かれたクジラにしか見えないモノが描かれていた。
「どうじゃろう? お主が遭遇したものと同じかの?」
ガストンに尋ねられて、カズキ達は顔を見合わせる。というのも、バハムートもレヴィアタンも、ほぼ変わらない姿をしているからだ。
「似てるとは思うが、これだけでは何とも言えないな。ちょっと実物と比較してみるか」
カズキがそう言って、『次元ハウス+ニャン』を発動する。場所は勿論、いつもの養殖部屋…ではなく、新たに設置された異世界メモリア用の養殖部屋だった。
「「っ!」」
突然視界が切り替わったと思ったら、周りをドラゴンに取り囲まれているという状況に陥ったガストンとハルステンは、咄嗟に各々のヒヒイロカネの武器――ハルステンは木槌で、ガストンはエルフらしく弓だった――を発現させ、身構える。だが、いつまで経ってもそれらが動かない事に気付いて、警戒しながらも腕輪に戻した。
「どう思う?」
そんな二人を余所に、推定レヴィアタン(何故かあちこち抉れている)と絵画を見比べるカズキ達。
「似てる……とは思いますが、大きすぎるのと、後は・・・・・・」
「特徴的な部分が軒並み消失しておるな。生前? の姿は覚えてないのか?」
「アルさんに言われて色々な部位を採取したけど、一々見てなかったからなぁ。ねーさんがいれば一発で復元できるけど、俺だとこれを元通りにするのに時間が掛かる。・・・・・・今日のところは出直すか?」
いつの間にかカズキ達と並んで食い入る様に推定レヴィアタンを見ていた現地人に、カズキは仕切り直しを提案する。
「・・・・・・いや、これだけ弱っているのなら、【鑑定】出来るかもしれん」
だがガストンは首を振って、そう答えた。通常、【鑑定】はレベル差がある程精度が下がるが、相手が弱っていれば通用する可能性も出てくる。そしてガストンは永い時を生きている上に、冒険者ギルドのグランドマスターだ。当然その事も知っているし、【鑑定】のアビリティもカンストしていた。その結果は・・・・・・。
「間違いない。レヴィアタン――終末の獣の内の一体だ・・・・・・」
世界の終末が近づいている事を暗示する内容だった。
「おう、その若さで大したもんだ!」
「『蒼き閃光』の奴らにはいい薬になっただろ! ここの所属になったってだけで増長してたからな!」
世界共通のルールに則り、暴力で相手を排除したフローネは、その場にいた全員の拍手喝采を浴びていた。
誰かの言葉通り、最近増長していた『蒼き閃光』。彼らにはその内、『教育的指導』が行われる予定だったが、そこに現れたのがカズキ達である。
ハルステンは元ミスリルランクの冒険者だけあって、古株の冒険者たちは彼の顔を知っていたし、その後に続いて入ってきたセバスチャンは、どう考えてもハルステンより強そうだった。その更に後ろにいたカズキに至っては、本部付の冒険者で知らぬ者はいない。
ボーダーブレイクを二度も解消した漂流者なので、何かあれば出来る限りの便宜を図るようにと、ナンシーと一緒に写った写真っぽいものを見せられているからだ。
そして最後がフローネである。彼女は身なりからして神官系で、尚且つ超が付く程の美人だった。これは間違いなく『蒼き閃光』が絡むだろうと思っていたら、案の定である。
この機会にと『教育的指導』を行う事が暗黙の了解で決定され、それを察したカズキとセバスチャンが協力した結果、『蒼き閃光』のリーダーは鳩尾に良いのを喰らって失神したのだ。
いい意味で誤算だったのは、フローネが予想外に強かった事。てっきりカズキかセバスチャンが割り込むものだと思っていたところに、まさかの失神KOである。ベテランたちは大興奮だった。
「・・・・・・手間を掛けて申し訳なかったの」
そんな風に騒ぎが起こっている最中、不意にカズキ達の近くに気配が現れたかと思うと、そんな声を掛けて来る男が一人。
「うおっ! いつの間に!?」
突然現れた気配に、驚きつつもフローネを庇うようにして身構えるセバスチャン。だがその声の主は警戒するセバスチャンを余所に、飄々と自己紹介を始めた。
「驚かせてしまったかの? 儂が冒険者ギルドのグランドマスター、ガストン・ルシュールじゃ。今日は態々足を運んで貰って済まんかったの」
そう言って男は頭を下げる。そんな彼に、カズキ達は戸惑う様な視線を向けた。台詞だけ聞けば老人のようだが、彼らの目の前にいるのは金髪碧眼の、すらっとした長身の若い男だったのだ。
「ああ、この口調か? こう見えて儂は2000年以上生きておるからの」
そう言って自分の耳を指差すガストン。見ればその耳は、人間とは異なり長く尖っていた。
「エルフさんですか! 初めて会いました!」
その耳に真っ先に反応したのはフローネである。彼女はカズキからエルフに会ったと聞いて、いつか自分も会いたいと思っていたのだ。勿論、その時はエルフが護っているという世界樹も一緒に見る事が出来るのがベストだったのだが。
「ほう。そちらの世界にも同族がいるのか。その口ぶりじゃと、滅多に会えんようだが」
「そうなんですよ! こちらの世界では普通に暮らしてるんですか?」
勢い込んで尋ねるフローネに、ガストンはこっくりと頷いた。
「ダンジョンの問題は儂らにとっても他人事ではないからの。多くの者が冒険者として活動してくれておる。その内会う事もあるじゃろうて」
そう答えながら、ガストンはカズキ達を促して奥へと歩き出す。雑談は終わりという事なのだろう。
「ここじゃ。遠慮せずに入ってくれ」
案内されたのは、支部で言えばヒヒイロカネを発現させる儀式を行う部屋に当たる場所だった。本部付き冒険者になるには、ヒヒイロカネが発現しているのが最低条件となるので、儀式の部屋は必要ないという事らしい。
「これがレヴィアタンの絵じゃ」
部屋の中に入り、奥にあったスイッチをガストンが押すと、天井から一枚の絵画が降下してくる。見れば、そこには緻密に描かれたクジラにしか見えないモノが描かれていた。
「どうじゃろう? お主が遭遇したものと同じかの?」
ガストンに尋ねられて、カズキ達は顔を見合わせる。というのも、バハムートもレヴィアタンも、ほぼ変わらない姿をしているからだ。
「似てるとは思うが、これだけでは何とも言えないな。ちょっと実物と比較してみるか」
カズキがそう言って、『次元ハウス+ニャン』を発動する。場所は勿論、いつもの養殖部屋…ではなく、新たに設置された異世界メモリア用の養殖部屋だった。
「「っ!」」
突然視界が切り替わったと思ったら、周りをドラゴンに取り囲まれているという状況に陥ったガストンとハルステンは、咄嗟に各々のヒヒイロカネの武器――ハルステンは木槌で、ガストンはエルフらしく弓だった――を発現させ、身構える。だが、いつまで経ってもそれらが動かない事に気付いて、警戒しながらも腕輪に戻した。
「どう思う?」
そんな二人を余所に、推定レヴィアタン(何故かあちこち抉れている)と絵画を見比べるカズキ達。
「似てる……とは思いますが、大きすぎるのと、後は・・・・・・」
「特徴的な部分が軒並み消失しておるな。生前? の姿は覚えてないのか?」
「アルさんに言われて色々な部位を採取したけど、一々見てなかったからなぁ。ねーさんがいれば一発で復元できるけど、俺だとこれを元通りにするのに時間が掛かる。・・・・・・今日のところは出直すか?」
いつの間にかカズキ達と並んで食い入る様に推定レヴィアタンを見ていた現地人に、カズキは仕切り直しを提案する。
「・・・・・・いや、これだけ弱っているのなら、【鑑定】出来るかもしれん」
だがガストンは首を振って、そう答えた。通常、【鑑定】はレベル差がある程精度が下がるが、相手が弱っていれば通用する可能性も出てくる。そしてガストンは永い時を生きている上に、冒険者ギルドのグランドマスターだ。当然その事も知っているし、【鑑定】のアビリティもカンストしていた。その結果は・・・・・・。
「間違いない。レヴィアタン――終末の獣の内の一体だ・・・・・・」
世界の終末が近づいている事を暗示する内容だった。
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