上 下
221 / 363

第ニ百二十一話 最下層へ

しおりを挟む
「その様子だと上手くいったみたいね」

 カズキの笑顔を見て、結果を察したエルザが声を掛けた。

「うん。幾つかのダンジョンで試したけど、結果は全部成功だった。まあ、コアを抜き取られたダンジョンは崩壊しちゃったけど、ダンジョンは増える一方だから問題ないよな?」

 カズキに質問された『朱き光』の面々はコクコクと頷いた。ここ何百年かで加速度的にダンジョンが増えているのが問題視されているこの世界において、ダンジョンが減って喜ぶことはあっても、その逆はない。何しろ、冒険者の実力も数も、全くと言っていいほど足りていないからだ。
 因みに言葉が出ないのは、人知を超えたカズキの能力を目の当たりにしたからである。

「で、どんな感じなの? やっぱりコアに合わせてダンジョンも縮むの?」
「そんな感じ。オリハルコンダンジョンにブロンズダンジョンのコアを使ったら、そこはブロンズダンジョンになってた。面白いのはその逆で、ブロンズダンジョンにオリハルコンダンジョンのコアを使っても、オリハルコンダンジョンにはならない。多分だけど、燃料? になる瘴気の濃さが足りないんだろうな。逆の場合は、コアの能力が足りないから、処理できる範囲の大きさにダンジョンを造り替えるんだと思う」
「その考え方からすれば、この付近は特に瘴気が濃い上に、コアも処理能力が高いって事ね。だからここのダンジョンは、一万階層もあったと」
「多分ね。だから一際瘴気の濃い場所を探してコアを差し替えるのが、今後の方針になると思う」

 一聴すると世界の為になるようなカズキの言葉に、『朱き光』の面々の目が輝く。既にカズキの実力を疑っていない彼女たちにとって、その言葉は世界の救済を意味しているからだ。
 たとえそれが、『異世界に養殖場を作ろう!』という、極めて利己的な話であっても、結果的に世界の為になるならどうでもいいのである。

「それで? 今回持ってきたのはどのダンジョンのコアなの?」
「500階層クラスのダンジョンのやつ。ここと同じように、ドラゴン系のモンスターが主体のダンジョンのだ。ボスは普通の(100メートル級)のドラゴンだった。そっちには亜竜とかいたから、ボスがワイバーンだったブロンズダンジョンのコアと差し替えてある。コアによってモンスターの種類が変わる可能性もあるし」
「賢明な判断だな。それにしても幾つのダンジョンを潰したんだ? 選んだ場所が全部、ドラゴン系だった訳でもないだろう?」
「検証に5。ドラゴン系のダンジョンを探してる間に潰したのがやはり5。合計で10ですかね」
「「「「10!」」」」

 あり得ない戦果を聞いて、『朱き光』が驚きの声を上げる。とはいえカズキの常軌を逸した能力を知っているので、疑う事はない。彼女たちも段々とカズキの異常性に慣れてきたようである。

「さて、話はここまでにして最下層に向かいましょうか。コアを入れ替える前に、全種類のドラゴンを確保しないといけないのでしょう?」
「そうだね。とは言っても、ボーダーブレイクの影響なのか、殆どのドラゴンがここにいるんだけど。だから後は、ここのボスを捕獲するだけだったりして」
「バハムートよりも大きいクジラだったか? ここのボスは」

 前回カズキが捕獲したバハムートは全長4000メートル。現在養殖しているファイアードラゴンに並ぶ大きさだ。能力的にはファイアードラゴンが遥かに上だが。

「ええ。大体倍くらいの大きさですね。流石に味まではわかりませんが」

 カズキの言葉に、『朱き光』が信じられないとでも言いたげな表情をした。それは、今までに確認されている中で一番強い存在であるバハムートを捕獲し食べたと思われる会話をしている事(ダンジョンで倒すとドロップ品になるので必然的に捕獲する必要がある。そして、ただ倒すよりも捕獲の方が難しいのは自明の理だ)と、それを上回るであろうモンスターの存在を知っても、同様の対応を取ろうとしている事に対してである。

「それは行ってからクレアに鑑定して貰えばいい。その為には直接お目にかかるのが一番だ」
「それもそうですね。じゃあ移動します」

 未知の食材を前に逸っているのか、珍しく急かす言葉を口にしたアルフレッドの要望に応えてカズキが【テレポート】を使用すると、一瞬にして景色が切り替わり、そして目の前には巨大なモンスターが口を開けて待ち構えていた。

「問答無用か」

 大きく開いた口の奥から吹雪のブレスが吐き出される。それを難なく防いだカズキは、迫りくるその姿を確認しようと再び【テレポート】を使い、モンスターの全体を確認できそうな場所へと移動した。

「これはまた、随分と見晴らしのいい場所だこと」

 見渡す限り平坦な荒野にいると知ったエルザが、周囲を見てそんな感想を口にする。

「空から見下ろせば、一発で発見されるな。こりゃ」

 何しろ地面は茶色一色である。そこに違う色が混ざっていたら、発見してくださいと言っているようなものだ。

「初手でブレスをお見舞いして、防がれてもそのまま捕食。万一逃げられても、隠れる場所がない荒野だから発見は容易か。随分とまぁ、殺意の高いダンジョンだな」

 取り逃がしたのに気付いて、即座に追撃に掛かってきた空飛ぶ巨大なクジラを見上げながら、カズキは呆れたように呟いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

処理中です...