上 下
217 / 346

第ニ百十七話 見解の相違

しおりを挟む
「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ。・・・・・・みんな、無事か?」

 【限界突破】の反動で動く事が出来ないカトリは、荒い呼吸を整えながら仲間たちへと声を掛けた。

「・・・・・・何とか。リーダーの的確な指示のお陰で、大きな怪我もなくみんな無事だ。ただ、ポーション類の在庫が心許ないので、依頼の遂行は流石に厳しいと思うが」

 カトリの言葉にゾシムスが答える。後の二人はカトリ同様、【限界突破】の反動で倒れているからだ。

「ミスリルランクの我々が、オリハルコンランクのドラゴンを倒したんだ。そこは大目に見てもらえるだろう。いくら彼らが強くても、ドラゴンを倒すのにはそれなりのリソースを削られる筈だからな」
「そうだな。それに、ドラゴンの通った道には暫くモンスターは寄り付かない。そして、ブルードラゴンが来たのはオリハルコンダンジョンの方向からだ。それを辿っていけばモンスターとエンカウントする事は・・・・・・、何だとっ!?」

 カトリに答えながら、念のためにと索敵のアビリティを使ったゾシムスが驚愕の声を上げる。

「どうした!」

 その様子から、何か自分達にとって不都合な事が起きていると悟ったカトリは、虎の子のエリクサー(あらゆる状態異常を回復。ついでにHP、MP全快)を呷ると、ゾシムスの肩を揺さぶる。

「ど、ドラゴンだ・・・・・・。百を超える数のドラゴンが、周囲を取り囲んでいるんだ!」
「何・・・だと・・・?」

 想像(ドラゴンおかわり)よりも遥かに過酷な現実に、カトリの表情に絶望の色が浮かぶ。通常は単独行動をとるドラゴンが群れていては、オリハルコンランク以上の実力を持つカズキ達と協力しても、全滅は免れないと思ったからだ。

 一方のカズキ達はというと、

「ネタだと思ってたのに、3人が【限界突破】を使ったわね」
「うん。大体8~10倍くらいの強化率かな。それに、制限時間も大分長い。一分は持続してたしね」
「回復魔法を使ってる様子もなかったから、ヒヒイロカネの能力か。どうやらヒヒイロカネは、アビリティを強化する能力があるみたいだな。一人だけ【限界突破】を使わなかったのは、全員が行動不能になるのを避ける為か?」
「そうなんでしょうけど、ちょっと博打が過ぎるわね。ダンジョンの最下層ならコアを破壊すれば外に出られるけど・・・・・・。あれ? なんか体に悪そうな色の液体を飲んだら一瞬で回復したわね」
「成程。あの液体とヒヒイロカネ込みで考えるなら、【限界突破】もそう悪くない選択なのか。カトリしか使わなかったところを見ると、手に入れるのは難しいのかもしれんな」

 カトリ達『朱き光』が絶望しているとも知らず、のんびりとヒヒイロカネとエリクサーについて考察していた。

「俺達にも使えれば便利なんだが、ポーションが効果を発揮しなかったのを考えると、あの液体も同じだろう。使えそうなのはタゴサク位か?」
「そういえば、葉っぱを食べて怪我を治し、謎の水を飲んで魔力を回復してたっけ。確かにタゴサクになら効果ありそうね」
「じゃあ試しに幾つか買って・・・・・・。ん?」

 そんな話をしていると、動けない二人をそれぞれ肩に担いだカトリとゾシムスが近づいてくる。彼女たちは何やら深刻な表情をしていた。

「マズい事になった。我々は百を超える数のドラゴンに包囲されている」

 そして、開口一番、ゾシムスがそう言った。

「そこでお三方に頼みたい。この二人を連れて撤退してくれないか? 見ての通り、【限界突破】の反動で動く事が出来ないんだ」

 顔に決意の色を浮かべて、カトリが三人に頭を下げた。絶望的な状況下で、必死になって頭を働かせたカトリの出した結論は、自分とゾシムスが囮となり、他の5人を逃がす事だった。
 今ここで、オリハルコンダンジョンを踏破し、ボーダーブレイクを解決したカズキ達を失う訳にはいかないと思っての事だ。色々と腹黒い事を考えたりもするが、カトリとて冒険者である。世界の為に命を投げ出す覚悟は出来ているのだ。そしてそれは、彼女の仲間たちも同じだった。
 現在行動不能になっている二人ですら、いざという時にはモンスターを呼び寄せるアイテムを使い、自分達を囮にしてカズキ達を逃がす役割を負っているのだ。
 
「確かに二人が行動不能だと大変そうね。いいわ。今治してあげる」

 そんなカトリ達『朱き光』の気も知らず、エルザは【リフレッシュ】を使い、フェナとアントナを癒す。カトリの言葉を、『二人を連れて帰るのに協力して欲しい』と解釈した為だ。

「さ、これで大丈夫な筈よ。あとは私達に任せて、あなたたちは戻ってくれて構わないわ」

 エルザは(必要なかったとはいえ)彼女たちの協力に報いる為、ギルドには依頼の達成を報告するという意味で優しく語り掛ける。
 同性でさえ魅了する女神の微笑み(笑)と包容力に、カトリは全てを委ねたくなったが、そこは冒険者の使命感が上回り、激しく頭を振ってその言葉を否定した。

「駄目だ! ボーダーブレイクを引き起こす程のダンジョンの攻略は貴方たちにしか出来ない! ここは私達が囮になるから――」
「マズい! もうそこまで来ている!」

 必死にエルザを説得しようとしていたカトリの言葉が、緊迫したゾシムスの声によって遮られる。彼女たちが想像していた以上にドラゴンの足は速かったのだ。
 
「くっ! ならばあなた達は包囲の手薄なところを突破してください! 我々はここで派手に暴れて――」

 最悪の状況下でも最善の行動を取ろうと、カトリはカズキ達を逃がすために仲間たちへと合図を送る。
 それに従って、手近なドラゴンへと突撃しようとしていた『朱き光』の面々は、その時初めて、自分達が勘違いしていた事を知る事となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...