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第ニ百十七話 見解の相違
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「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ。・・・・・・みんな、無事か?」
【限界突破】の反動で動く事が出来ないカトリは、荒い呼吸を整えながら仲間たちへと声を掛けた。
「・・・・・・何とか。リーダーの的確な指示のお陰で、大きな怪我もなくみんな無事だ。ただ、ポーション類の在庫が心許ないので、依頼の遂行は流石に厳しいと思うが」
カトリの言葉にゾシムスが答える。後の二人はカトリ同様、【限界突破】の反動で倒れているからだ。
「ミスリルランクの我々が、オリハルコンランクのドラゴンを倒したんだ。そこは大目に見てもらえるだろう。いくら彼らが強くても、ドラゴンを倒すのにはそれなりのリソースを削られる筈だからな」
「そうだな。それに、ドラゴンの通った道には暫くモンスターは寄り付かない。そして、ブルードラゴンが来たのはオリハルコンダンジョンの方向からだ。それを辿っていけばモンスターとエンカウントする事は・・・・・・、何だとっ!?」
カトリに答えながら、念のためにと索敵のアビリティを使ったゾシムスが驚愕の声を上げる。
「どうした!」
その様子から、何か自分達にとって不都合な事が起きていると悟ったカトリは、虎の子のエリクサー(あらゆる状態異常を回復。ついでにHP、MP全快)を呷ると、ゾシムスの肩を揺さぶる。
「ど、ドラゴンだ・・・・・・。百を超える数のドラゴンが、周囲を取り囲んでいるんだ!」
「何・・・だと・・・?」
想像(ドラゴンおかわり)よりも遥かに過酷な現実に、カトリの表情に絶望の色が浮かぶ。通常は単独行動をとるドラゴンが群れていては、オリハルコンランク以上の実力を持つカズキ達と協力しても、全滅は免れないと思ったからだ。
一方のカズキ達はというと、
「ネタだと思ってたのに、3人が【限界突破】を使ったわね」
「うん。大体8~10倍くらいの強化率かな。それに、制限時間も大分長い。一分は持続してたしね」
「回復魔法を使ってる様子もなかったから、ヒヒイロカネの能力か。どうやらヒヒイロカネは、アビリティを強化する能力があるみたいだな。一人だけ【限界突破】を使わなかったのは、全員が行動不能になるのを避ける為か?」
「そうなんでしょうけど、ちょっと博打が過ぎるわね。ダンジョンの最下層ならコアを破壊すれば外に出られるけど・・・・・・。あれ? なんか体に悪そうな色の液体を飲んだら一瞬で回復したわね」
「成程。あの液体とヒヒイロカネ込みで考えるなら、【限界突破】もそう悪くない選択なのか。カトリしか使わなかったところを見ると、手に入れるのは難しいのかもしれんな」
カトリ達『朱き光』が絶望しているとも知らず、のんびりとヒヒイロカネとエリクサーについて考察していた。
「俺達にも使えれば便利なんだが、ポーションが効果を発揮しなかったのを考えると、あの液体も同じだろう。使えそうなのはタゴサク位か?」
「そういえば、葉っぱを食べて怪我を治し、謎の水を飲んで魔力を回復してたっけ。確かにタゴサクになら効果ありそうね」
「じゃあ試しに幾つか買って・・・・・・。ん?」
そんな話をしていると、動けない二人をそれぞれ肩に担いだカトリとゾシムスが近づいてくる。彼女たちは何やら深刻な表情をしていた。
「マズい事になった。我々は百を超える数のドラゴンに包囲されている」
そして、開口一番、ゾシムスがそう言った。
「そこでお三方に頼みたい。この二人を連れて撤退してくれないか? 見ての通り、【限界突破】の反動で動く事が出来ないんだ」
顔に決意の色を浮かべて、カトリが三人に頭を下げた。絶望的な状況下で、必死になって頭を働かせたカトリの出した結論は、自分とゾシムスが囮となり、他の5人を逃がす事だった。
今ここで、オリハルコンダンジョンを踏破し、ボーダーブレイクを解決したカズキ達を失う訳にはいかないと思っての事だ。色々と腹黒い事を考えたりもするが、カトリとて冒険者である。世界の為に命を投げ出す覚悟は出来ているのだ。そしてそれは、彼女の仲間たちも同じだった。
現在行動不能になっている二人ですら、いざという時にはモンスターを呼び寄せるアイテムを使い、自分達を囮にしてカズキ達を逃がす役割を負っているのだ。
「確かに二人が行動不能だと大変そうね。いいわ。今治してあげる」
そんなカトリ達『朱き光』の気も知らず、エルザは【リフレッシュ】を使い、フェナとアントナを癒す。カトリの言葉を、『二人を連れて帰るのに協力して欲しい』と解釈した為だ。
「さ、これで大丈夫な筈よ。あとは私達に任せて、あなたたちは戻ってくれて構わないわ」
エルザは(必要なかったとはいえ)彼女たちの協力に報いる為、ギルドには依頼の達成を報告するという意味で優しく語り掛ける。
同性でさえ魅了する女神の微笑み(笑)と包容力に、カトリは全てを委ねたくなったが、そこは冒険者の使命感が上回り、激しく頭を振ってその言葉を否定した。
「駄目だ! ボーダーブレイクを引き起こす程のダンジョンの攻略は貴方たちにしか出来ない! ここは私達が囮になるから――」
「マズい! もうそこまで来ている!」
必死にエルザを説得しようとしていたカトリの言葉が、緊迫したゾシムスの声によって遮られる。彼女たちが想像していた以上にドラゴンの足は速かったのだ。
「くっ! ならばあなた達は包囲の手薄なところを突破してください! 我々はここで派手に暴れて――」
最悪の状況下でも最善の行動を取ろうと、カトリはカズキ達を逃がすために仲間たちへと合図を送る。
それに従って、手近なドラゴンへと突撃しようとしていた『朱き光』の面々は、その時初めて、自分達が勘違いしていた事を知る事となった。
【限界突破】の反動で動く事が出来ないカトリは、荒い呼吸を整えながら仲間たちへと声を掛けた。
「・・・・・・何とか。リーダーの的確な指示のお陰で、大きな怪我もなくみんな無事だ。ただ、ポーション類の在庫が心許ないので、依頼の遂行は流石に厳しいと思うが」
カトリの言葉にゾシムスが答える。後の二人はカトリ同様、【限界突破】の反動で倒れているからだ。
「ミスリルランクの我々が、オリハルコンランクのドラゴンを倒したんだ。そこは大目に見てもらえるだろう。いくら彼らが強くても、ドラゴンを倒すのにはそれなりのリソースを削られる筈だからな」
「そうだな。それに、ドラゴンの通った道には暫くモンスターは寄り付かない。そして、ブルードラゴンが来たのはオリハルコンダンジョンの方向からだ。それを辿っていけばモンスターとエンカウントする事は・・・・・・、何だとっ!?」
カトリに答えながら、念のためにと索敵のアビリティを使ったゾシムスが驚愕の声を上げる。
「どうした!」
その様子から、何か自分達にとって不都合な事が起きていると悟ったカトリは、虎の子のエリクサー(あらゆる状態異常を回復。ついでにHP、MP全快)を呷ると、ゾシムスの肩を揺さぶる。
「ど、ドラゴンだ・・・・・・。百を超える数のドラゴンが、周囲を取り囲んでいるんだ!」
「何・・・だと・・・?」
想像(ドラゴンおかわり)よりも遥かに過酷な現実に、カトリの表情に絶望の色が浮かぶ。通常は単独行動をとるドラゴンが群れていては、オリハルコンランク以上の実力を持つカズキ達と協力しても、全滅は免れないと思ったからだ。
一方のカズキ達はというと、
「ネタだと思ってたのに、3人が【限界突破】を使ったわね」
「うん。大体8~10倍くらいの強化率かな。それに、制限時間も大分長い。一分は持続してたしね」
「回復魔法を使ってる様子もなかったから、ヒヒイロカネの能力か。どうやらヒヒイロカネは、アビリティを強化する能力があるみたいだな。一人だけ【限界突破】を使わなかったのは、全員が行動不能になるのを避ける為か?」
「そうなんでしょうけど、ちょっと博打が過ぎるわね。ダンジョンの最下層ならコアを破壊すれば外に出られるけど・・・・・・。あれ? なんか体に悪そうな色の液体を飲んだら一瞬で回復したわね」
「成程。あの液体とヒヒイロカネ込みで考えるなら、【限界突破】もそう悪くない選択なのか。カトリしか使わなかったところを見ると、手に入れるのは難しいのかもしれんな」
カトリ達『朱き光』が絶望しているとも知らず、のんびりとヒヒイロカネとエリクサーについて考察していた。
「俺達にも使えれば便利なんだが、ポーションが効果を発揮しなかったのを考えると、あの液体も同じだろう。使えそうなのはタゴサク位か?」
「そういえば、葉っぱを食べて怪我を治し、謎の水を飲んで魔力を回復してたっけ。確かにタゴサクになら効果ありそうね」
「じゃあ試しに幾つか買って・・・・・・。ん?」
そんな話をしていると、動けない二人をそれぞれ肩に担いだカトリとゾシムスが近づいてくる。彼女たちは何やら深刻な表情をしていた。
「マズい事になった。我々は百を超える数のドラゴンに包囲されている」
そして、開口一番、ゾシムスがそう言った。
「そこでお三方に頼みたい。この二人を連れて撤退してくれないか? 見ての通り、【限界突破】の反動で動く事が出来ないんだ」
顔に決意の色を浮かべて、カトリが三人に頭を下げた。絶望的な状況下で、必死になって頭を働かせたカトリの出した結論は、自分とゾシムスが囮となり、他の5人を逃がす事だった。
今ここで、オリハルコンダンジョンを踏破し、ボーダーブレイクを解決したカズキ達を失う訳にはいかないと思っての事だ。色々と腹黒い事を考えたりもするが、カトリとて冒険者である。世界の為に命を投げ出す覚悟は出来ているのだ。そしてそれは、彼女の仲間たちも同じだった。
現在行動不能になっている二人ですら、いざという時にはモンスターを呼び寄せるアイテムを使い、自分達を囮にしてカズキ達を逃がす役割を負っているのだ。
「確かに二人が行動不能だと大変そうね。いいわ。今治してあげる」
そんなカトリ達『朱き光』の気も知らず、エルザは【リフレッシュ】を使い、フェナとアントナを癒す。カトリの言葉を、『二人を連れて帰るのに協力して欲しい』と解釈した為だ。
「さ、これで大丈夫な筈よ。あとは私達に任せて、あなたたちは戻ってくれて構わないわ」
エルザは(必要なかったとはいえ)彼女たちの協力に報いる為、ギルドには依頼の達成を報告するという意味で優しく語り掛ける。
同性でさえ魅了する女神の微笑み(笑)と包容力に、カトリは全てを委ねたくなったが、そこは冒険者の使命感が上回り、激しく頭を振ってその言葉を否定した。
「駄目だ! ボーダーブレイクを引き起こす程のダンジョンの攻略は貴方たちにしか出来ない! ここは私達が囮になるから――」
「マズい! もうそこまで来ている!」
必死にエルザを説得しようとしていたカトリの言葉が、緊迫したゾシムスの声によって遮られる。彼女たちが想像していた以上にドラゴンの足は速かったのだ。
「くっ! ならばあなた達は包囲の手薄なところを突破してください! 我々はここで派手に暴れて――」
最悪の状況下でも最善の行動を取ろうと、カトリはカズキ達を逃がすために仲間たちへと合図を送る。
それに従って、手近なドラゴンへと突撃しようとしていた『朱き光』の面々は、その時初めて、自分達が勘違いしていた事を知る事となった。
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