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第ニ百八話 ボーダーブレイクの収束
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「さて、帰るとするか。・・・・・・ん?」
ランスリードに帰るつもりだったカズキは、二時間程前に別れたばかりの四人組の冒険者が近くまで来ている事に気付いた。
「そういえば応援を呼んでくるとか言ってたっけ」
カズキの身を心配してくれたのか、ほぼ休憩なしで多数の応援を連れてきてくれた四人には一言声を掛けた方が良いと思ったカズキは、【テレポート】を使うのを止めて、自身が創った道をのんびりと引き返す。
「地震? じゃないみたいだな・・・・・・」
途中、断続的に地面が揺れたので魔法で震源地を探すと、見覚えのある顔が双頭の犬を巨大な木槌でめった打ちにしていた。言うまでもなく、ギルドマスターのハルステンである。
「そういえば、あそこのギルドの冒険者はやけに木槌の有用性を説いていたっけ。ギルドマスターがその使い手なら納得できる話だ」
そう言いながら、ハルステンのいる場所へと足を向けるカズキ。
カズキの捜索に来たのであろう彼にお礼を言う為と、直接木槌を見せてもらう為である。まあ、目的の9割以上は、後者の方なのだが。
「すまない・・・・・・。今の俺の実力では、これ以上先に進むことは出来ないんだ。どうか無事であってくれ」
程なくしてカズキがハルステンの元に辿り着くと、彼は木槌を出しっぱなしにしたまま、誰かに向けて謝罪をしているところだった。
「何の話ですか?」
気付いていないのを良い事に、思う存分木槌を調べた(結論として、木槌は木槌だという事がわかっただけだったが)カズキが、数分後にハルステンの後ろ姿に声を掛けると、彼は振り返らずに答えた。
「この先に進んでいった、優秀な少年の話だ。史上稀にみる魔法の使い手だが、自信過剰のきらいがある。優秀な前衛がいれば、2、3年でオリハルコンランクのダンジョンも踏破できる逸材だ」
「そんな人がいたんですか? 戻ってくるまでには会わなかったところをみると、とっくに引き返したか、モンスターの餌食になっている可能性が高いのでは?」
「引き返したのであれば良いんだが、残念ながら先に進んでしまったようだ。ご丁寧に森の奥へと続く道まで作ってな」
背後にその道を創ったカズキがいるとは知らず、ハルステンは答える。カズキはカズキで、彼の言う少年が自分の事だとは思いもしていなかった。何故ならカズキは自身過剰ではないし、自身が剣を使えるため、前衛の必要性も感じていないからだ。
「「ん?」」
互いの認識がすれ違ったまま、頓珍漢なやり取りをしていたハルステンとカズキが、不意に感じた空気の変化に、異口同音に声を上げる。
「・・・・・・雰囲気が元に戻ったな。これはもしや、ボーダーブレイクが解消されたのか?」
「境界も復活している様だし、その可能性が高そうですね。あ、あっちの集団から、半分以上の冒険者が外に弾き出された」
「なら確定だ。過去の記録に、ボーダーブレイクが解消すると同様の事が起こったと記されているからな」
「それなら逸材君の安否も確認できるのでは?」
「確かにその通りだ。よし、こうしてはいられない。引き返しながら捜索隊と合流、その後はブロンズランクのエリアを捜索するぞ! ・・・・・・えっ?」
逸る気持ちを抑えきれず、ハルステンが振り返ってカズキに声を掛ける。そこで漸く、彼は自分が誰と話をしていたのかという事に気付いたのだった。
「・・・・・・俄かには信じる事が出来んな」
カズキが四人の冒険者と別れ、一人で行動していた時の話を聞いたハルステンは、そう言って首を振った。
「別に信じてもらわなくても構いませんよ」
ハルステンの言葉に、気を悪くした様子もなくカズキが答える。既にギルドに見切りをつけているカズキからすれば、必要なかったとはいえ、救助に来てくれた事に対する礼のつもりで話したのであって、信じようが信じまいが、どちらでも構わない話だからだ
「いや、そういう訳にもいかん。ボーダーブレイクが理由もなく収束する訳がないからな。そして、この付近で最大のダンジョンが、君の創った道の先にある。300年前に発生して以来、数多の冒険者を退けてきた、この付近で最大最古のダンジョンだ。今回のボーダーブレイクの原因となったのは、このダンジョンと見て間違いはないだろう。・・・・・・何か、証拠になるようなドロップ品は持っていないのか?」
信じられない気持ちと、信じたい気持ちの板挟みになったハルステンは、ダメ元でカズキに質問をする。オリハルコンランクのダンジョンともなれば、雑魚敵からでも珍しいドロップ品が手に入るからだ。
「ドロップ品ですか。ショートカットした時に(巻き添えを喰らった魔物から)落ちたのかもしれないけど、態々拾わなかったからなぁ」
「・・・・・・そうか」
はぐらかすようなカズキの言葉(事実だが)にハルステンは落胆の表情を浮かべる。やはり作り話かと。だが彼は間違っていた。
「あ、でもモンスターは生け捕りにしましたよ? 今後、遭遇するかわからなかったから」
「生け捕り? それらしいモノは見当たらないが?」
「デカいからここに出すのは無理・・・・・・、でもないか。元々空を飛んでたんだし」
「空?」
カズキの言葉の意味がわからないハルステンが、カズキの言葉の意味がわからないまま空を見上げると、ソレは其処に在った。
「バハムートじゃねえか・・・・・・」
空を見上げたまま、呆然と呟くハルステン。鎖で雁字搦めになっているのは目に入っていないらしい。
「バハムート?」
「オリハルコンランクダンジョンの最奥でコアを守っているモンスターだ。数百年前に一度、漂流者によって討伐されている。ダンジョンの攻略に1年。その後のバハムート戦では三日三晩戦って、漸く倒したと記録に残っているドラゴンだ」
「ドラゴン? クジラではなく?」
「【鑑定】したと言うからから間違いはないだろう。・・・・・・それをたった1人で1000階層のダンジョンを踏破し、バハムートまで倒したというのか? 僅か1時間ほどで? あのステータスは事実だったのか?」
混乱するハルステンを余所に、バハムートを見上げるカズキ。考えるのは勿論、生肉を食べた時の効果と、十分経つと消えるかどうかである。
結果は、特に効果はなく、十分経っても消えないというもので、普通の肉と同じだった。
「ダンジョンが出来たのが300年前って話だから、そこまで育ってないのかな? リントヴルムと戦ったドラゴン達は古代竜とか言ってたし、実際に奴らよりも数段弱かったしな。いや、そもそも世界が違うんだから、肉質も違ってくるのか? まあ、手の込んだ料理にも使えるから、これはこれでアリだけど」
検証を終えたカズキがバハムートをしまう。そして、未だに空を見上げたままブツブツと何かを呟いているハルステンに、帰ろうと声を掛けようとしたその時、巨大な三つ首の犬が音もなく姿を現した。
どうやら、突然現れたバハムートの様子を見に来たところで、ばったりと遭遇してしまったらしい。不幸な事に。
「なっ! ケルベロスか!」
動揺する余り、索敵を怠っていた事にハルステンは舌打ちする。オルトロスよりもワンランク上のミスリルランクのモンスターであるケルベロスは、現役時代でさえ、仲間の協力がないと倒せない程に強力なモンスターだったからだ。
「俺が奴の注意を引きつける! お前はその間に魔法を! なっ!?」
未だにカズキを魔法使いだと思っている(間違いではないが)ハルステンが素早く指示を出す。バハムートを拘束できるなら、僅かな時間を稼げばケルベロスを倒せる魔法を使う事も可能だと判断したのだ。
まあ、指示を出した時にはカズキが剣を一閃し、三つの首を斬り飛ばしていたのだが。
「またコイツか。犬だけに鼻が利くから面倒なんだよな。肉も食えないし」
唖然とするハルステンとは対照的に、面倒そうな表情のカズキが剣をしまう。その手の甲に今までに見た事がない紋様が浮かび上がっている事に、ハルステンだけが気付いていた。
ランスリードに帰るつもりだったカズキは、二時間程前に別れたばかりの四人組の冒険者が近くまで来ている事に気付いた。
「そういえば応援を呼んでくるとか言ってたっけ」
カズキの身を心配してくれたのか、ほぼ休憩なしで多数の応援を連れてきてくれた四人には一言声を掛けた方が良いと思ったカズキは、【テレポート】を使うのを止めて、自身が創った道をのんびりと引き返す。
「地震? じゃないみたいだな・・・・・・」
途中、断続的に地面が揺れたので魔法で震源地を探すと、見覚えのある顔が双頭の犬を巨大な木槌でめった打ちにしていた。言うまでもなく、ギルドマスターのハルステンである。
「そういえば、あそこのギルドの冒険者はやけに木槌の有用性を説いていたっけ。ギルドマスターがその使い手なら納得できる話だ」
そう言いながら、ハルステンのいる場所へと足を向けるカズキ。
カズキの捜索に来たのであろう彼にお礼を言う為と、直接木槌を見せてもらう為である。まあ、目的の9割以上は、後者の方なのだが。
「すまない・・・・・・。今の俺の実力では、これ以上先に進むことは出来ないんだ。どうか無事であってくれ」
程なくしてカズキがハルステンの元に辿り着くと、彼は木槌を出しっぱなしにしたまま、誰かに向けて謝罪をしているところだった。
「何の話ですか?」
気付いていないのを良い事に、思う存分木槌を調べた(結論として、木槌は木槌だという事がわかっただけだったが)カズキが、数分後にハルステンの後ろ姿に声を掛けると、彼は振り返らずに答えた。
「この先に進んでいった、優秀な少年の話だ。史上稀にみる魔法の使い手だが、自信過剰のきらいがある。優秀な前衛がいれば、2、3年でオリハルコンランクのダンジョンも踏破できる逸材だ」
「そんな人がいたんですか? 戻ってくるまでには会わなかったところをみると、とっくに引き返したか、モンスターの餌食になっている可能性が高いのでは?」
「引き返したのであれば良いんだが、残念ながら先に進んでしまったようだ。ご丁寧に森の奥へと続く道まで作ってな」
背後にその道を創ったカズキがいるとは知らず、ハルステンは答える。カズキはカズキで、彼の言う少年が自分の事だとは思いもしていなかった。何故ならカズキは自身過剰ではないし、自身が剣を使えるため、前衛の必要性も感じていないからだ。
「「ん?」」
互いの認識がすれ違ったまま、頓珍漢なやり取りをしていたハルステンとカズキが、不意に感じた空気の変化に、異口同音に声を上げる。
「・・・・・・雰囲気が元に戻ったな。これはもしや、ボーダーブレイクが解消されたのか?」
「境界も復活している様だし、その可能性が高そうですね。あ、あっちの集団から、半分以上の冒険者が外に弾き出された」
「なら確定だ。過去の記録に、ボーダーブレイクが解消すると同様の事が起こったと記されているからな」
「それなら逸材君の安否も確認できるのでは?」
「確かにその通りだ。よし、こうしてはいられない。引き返しながら捜索隊と合流、その後はブロンズランクのエリアを捜索するぞ! ・・・・・・えっ?」
逸る気持ちを抑えきれず、ハルステンが振り返ってカズキに声を掛ける。そこで漸く、彼は自分が誰と話をしていたのかという事に気付いたのだった。
「・・・・・・俄かには信じる事が出来んな」
カズキが四人の冒険者と別れ、一人で行動していた時の話を聞いたハルステンは、そう言って首を振った。
「別に信じてもらわなくても構いませんよ」
ハルステンの言葉に、気を悪くした様子もなくカズキが答える。既にギルドに見切りをつけているカズキからすれば、必要なかったとはいえ、救助に来てくれた事に対する礼のつもりで話したのであって、信じようが信じまいが、どちらでも構わない話だからだ
「いや、そういう訳にもいかん。ボーダーブレイクが理由もなく収束する訳がないからな。そして、この付近で最大のダンジョンが、君の創った道の先にある。300年前に発生して以来、数多の冒険者を退けてきた、この付近で最大最古のダンジョンだ。今回のボーダーブレイクの原因となったのは、このダンジョンと見て間違いはないだろう。・・・・・・何か、証拠になるようなドロップ品は持っていないのか?」
信じられない気持ちと、信じたい気持ちの板挟みになったハルステンは、ダメ元でカズキに質問をする。オリハルコンランクのダンジョンともなれば、雑魚敵からでも珍しいドロップ品が手に入るからだ。
「ドロップ品ですか。ショートカットした時に(巻き添えを喰らった魔物から)落ちたのかもしれないけど、態々拾わなかったからなぁ」
「・・・・・・そうか」
はぐらかすようなカズキの言葉(事実だが)にハルステンは落胆の表情を浮かべる。やはり作り話かと。だが彼は間違っていた。
「あ、でもモンスターは生け捕りにしましたよ? 今後、遭遇するかわからなかったから」
「生け捕り? それらしいモノは見当たらないが?」
「デカいからここに出すのは無理・・・・・・、でもないか。元々空を飛んでたんだし」
「空?」
カズキの言葉の意味がわからないハルステンが、カズキの言葉の意味がわからないまま空を見上げると、ソレは其処に在った。
「バハムートじゃねえか・・・・・・」
空を見上げたまま、呆然と呟くハルステン。鎖で雁字搦めになっているのは目に入っていないらしい。
「バハムート?」
「オリハルコンランクダンジョンの最奥でコアを守っているモンスターだ。数百年前に一度、漂流者によって討伐されている。ダンジョンの攻略に1年。その後のバハムート戦では三日三晩戦って、漸く倒したと記録に残っているドラゴンだ」
「ドラゴン? クジラではなく?」
「【鑑定】したと言うからから間違いはないだろう。・・・・・・それをたった1人で1000階層のダンジョンを踏破し、バハムートまで倒したというのか? 僅か1時間ほどで? あのステータスは事実だったのか?」
混乱するハルステンを余所に、バハムートを見上げるカズキ。考えるのは勿論、生肉を食べた時の効果と、十分経つと消えるかどうかである。
結果は、特に効果はなく、十分経っても消えないというもので、普通の肉と同じだった。
「ダンジョンが出来たのが300年前って話だから、そこまで育ってないのかな? リントヴルムと戦ったドラゴン達は古代竜とか言ってたし、実際に奴らよりも数段弱かったしな。いや、そもそも世界が違うんだから、肉質も違ってくるのか? まあ、手の込んだ料理にも使えるから、これはこれでアリだけど」
検証を終えたカズキがバハムートをしまう。そして、未だに空を見上げたままブツブツと何かを呟いているハルステンに、帰ろうと声を掛けようとしたその時、巨大な三つ首の犬が音もなく姿を現した。
どうやら、突然現れたバハムートの様子を見に来たところで、ばったりと遭遇してしまったらしい。不幸な事に。
「なっ! ケルベロスか!」
動揺する余り、索敵を怠っていた事にハルステンは舌打ちする。オルトロスよりもワンランク上のミスリルランクのモンスターであるケルベロスは、現役時代でさえ、仲間の協力がないと倒せない程に強力なモンスターだったからだ。
「俺が奴の注意を引きつける! お前はその間に魔法を! なっ!?」
未だにカズキを魔法使いだと思っている(間違いではないが)ハルステンが素早く指示を出す。バハムートを拘束できるなら、僅かな時間を稼げばケルベロスを倒せる魔法を使う事も可能だと判断したのだ。
まあ、指示を出した時にはカズキが剣を一閃し、三つの首を斬り飛ばしていたのだが。
「またコイツか。犬だけに鼻が利くから面倒なんだよな。肉も食えないし」
唖然とするハルステンとは対照的に、面倒そうな表情のカズキが剣をしまう。その手の甲に今までに見た事がない紋様が浮かび上がっている事に、ハルステンだけが気付いていた。
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