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第ニ百五話 ボーダーブレイク
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「あなたって、もしかして漂流者?」
同じブロンズランクなのに、常軌を逸した戦闘力を持っている人間に心当たりがあった魔法使い風の少女は、自分の考えが当たっているのかを確認すべく、謎の動物(ナンシーの事。この世界には猫がいないのだ)と戯れている少年に声を掛けた。
「ああ」
その返答で彼女の考えが正しかった事が証明された。そして、五人いる内の一人が、ノージョブであったという話も同時に思い出す。
「ノージョブだったって言うのは、嘘だったのね?」
「ああ」
ゾーンに入っているカズキが、魔法使いの質問に生返事を返す。
「まあ気持ちはわかるよ。いくら特殊なジョブを持っているとは言っても、あの四人の態度は酷いからね。君はもしかして、彼らと行動を共にしたくないからノージョブを装ったのかい?」
「ああ」
タンク職っぽい少年の言葉にも、カズキはゾーンで対抗する。
「という事は、レベルも相当高いのよね。ここの支部の鑑定機はレベル100までの【鑑定偽装】を見破るから、最低でもレベル101以上。で、デススパイダーがゴールドランクのモンスターで、それを倒せる冒険者パーティの最低レベルが大体150。それを瞬殺したんだから・・・・・・。あんたのレベルは最低でも300! でしょ!?」
「ああ」
実際には測定不能だが、そんな事が彼女にわかる筈もない。そしてカズキはゾーンに入っているので、碌に話を聞いていない。なのに何故か会話は成立していた。
「回復魔法も凄いですよね。聖騎士系なのに、司祭や水の精霊使い以上の回復能力です。ゴールドランクのデススパイダーの毒を、しかも四人纏めて回復するなんて、司教以上のジョブじゃないと無理です、よ?」
神官風の少女が、言葉の最後で身を竦ませ、森の奥を指差す。釣られた一同がそちらを見ると、先程カズキが瞬殺したデススパイダーが、群れをなしてこちらへ向かってくるところだった。
「そ、そんなっ!」
「まさか、ボーダーブレイク!?」
「きっとそうだ! ゴールドランクのモンスターがブロンズランクの領域にいたのも、ランク間の境界、ボーダーが崩壊したせいなんだ!」
「早くギルドに知らせないと! こんな事が起きたのは、漂流者を洗脳した昔の愚王の時以来よっ!」
妙に説明的な事を叫びながら、その場を右往左往する四人。そんな四人を庇うように、ゾーン状態から帰還したカズキが、デススパイダ―の群れの前へと立ちはだかる。
当たり前だが、カズキはデススパイダ―の群れが向かってきているのに気付いていた。そして、その群れの更に後方に、一回り大きな蜘蛛の群れがいる事にも。
「あんたたちはギルドへこの事を知らせてくれ。その様子からすると、何か大変な事が起こっているんだろ?」
話しながらも剣を振り、一太刀で複数のデススパイダーを屠るカズキの様子に、残っても足手まといにしかならないと悟った四人は素直に頷く。
「なるべく早く応援を呼んでくるから」
「別にゆっくりでもいいぞ」
「そういう訳にもいかないでしょ」
カズキの飄々とした物言いに肩の力が抜けたのか、四人はさっきまでのパニック状態が嘘だったかの様に、その場を駆けだす。それが功を奏したのかはわからないが、彼らはギルドまでの道程を最速で引き返す事に成功した。戻ってきた時には、全て終わっているとも知らずに・・・・・・。
「うん。大漁だな」
四人と別れた後、積極的に攻勢に出たカズキは、デススパイダーとその後続の一回り大きな蜘蛛――ヘルスパイダーというが、カズキは知らない――を一分と掛からず殲滅した。
今はクレアとアルフレッドの勧めに従って、デススパイダーの脚をトレントの炭火で炙っているところだ。
「まさか、蜘蛛の脚がそれほど美味しいなんてなぁ。確かに見た目はカニっぽいけど」
程よく焼けた蜘蛛の脚を縦に切断し、カズキは躊躇なく口に運ぶ。
「うん、美味い。トレントの効果もあるんだろうけど、カニ型クラーケンに勝るとも劣らない味だ。さすがはクレア」
そう呟きながら冷ました蜘蛛脚をナンシーにもお裾分けしていると、再びアルフレッドとクレアから手紙が届く。そこには、『デカい蜘蛛は全身毒。解毒してもクソマズい』と書かれていた。
「きっと、クレアが見向きもしなかった物を、アルさんがどうにか食べられないか試したんだろうな」
デススパイダ―の脚だけをアルフレッドとクレアの元へ全て送ったカズキは、残ったデススパイダーの胴体と、全身が残っているヘルスパイダーはギルドに持っていけば売れるかもしれないと考え、全てを【次元ハウス+ニャン】の倉庫に放り込む。
「ボーダーブレイクって言ってたっけ? 境界とやらが崩壊した今なら、もっと奥まで行けるんだよな? 折角だから行けるだけ行ってみて、モンスターの種類とか調べておくか」
そして、新たな食材や薪材へ思いを馳せながら、森の奥へと無造作に歩き出した。
同じブロンズランクなのに、常軌を逸した戦闘力を持っている人間に心当たりがあった魔法使い風の少女は、自分の考えが当たっているのかを確認すべく、謎の動物(ナンシーの事。この世界には猫がいないのだ)と戯れている少年に声を掛けた。
「ああ」
その返答で彼女の考えが正しかった事が証明された。そして、五人いる内の一人が、ノージョブであったという話も同時に思い出す。
「ノージョブだったって言うのは、嘘だったのね?」
「ああ」
ゾーンに入っているカズキが、魔法使いの質問に生返事を返す。
「まあ気持ちはわかるよ。いくら特殊なジョブを持っているとは言っても、あの四人の態度は酷いからね。君はもしかして、彼らと行動を共にしたくないからノージョブを装ったのかい?」
「ああ」
タンク職っぽい少年の言葉にも、カズキはゾーンで対抗する。
「という事は、レベルも相当高いのよね。ここの支部の鑑定機はレベル100までの【鑑定偽装】を見破るから、最低でもレベル101以上。で、デススパイダーがゴールドランクのモンスターで、それを倒せる冒険者パーティの最低レベルが大体150。それを瞬殺したんだから・・・・・・。あんたのレベルは最低でも300! でしょ!?」
「ああ」
実際には測定不能だが、そんな事が彼女にわかる筈もない。そしてカズキはゾーンに入っているので、碌に話を聞いていない。なのに何故か会話は成立していた。
「回復魔法も凄いですよね。聖騎士系なのに、司祭や水の精霊使い以上の回復能力です。ゴールドランクのデススパイダーの毒を、しかも四人纏めて回復するなんて、司教以上のジョブじゃないと無理です、よ?」
神官風の少女が、言葉の最後で身を竦ませ、森の奥を指差す。釣られた一同がそちらを見ると、先程カズキが瞬殺したデススパイダーが、群れをなしてこちらへ向かってくるところだった。
「そ、そんなっ!」
「まさか、ボーダーブレイク!?」
「きっとそうだ! ゴールドランクのモンスターがブロンズランクの領域にいたのも、ランク間の境界、ボーダーが崩壊したせいなんだ!」
「早くギルドに知らせないと! こんな事が起きたのは、漂流者を洗脳した昔の愚王の時以来よっ!」
妙に説明的な事を叫びながら、その場を右往左往する四人。そんな四人を庇うように、ゾーン状態から帰還したカズキが、デススパイダ―の群れの前へと立ちはだかる。
当たり前だが、カズキはデススパイダ―の群れが向かってきているのに気付いていた。そして、その群れの更に後方に、一回り大きな蜘蛛の群れがいる事にも。
「あんたたちはギルドへこの事を知らせてくれ。その様子からすると、何か大変な事が起こっているんだろ?」
話しながらも剣を振り、一太刀で複数のデススパイダーを屠るカズキの様子に、残っても足手まといにしかならないと悟った四人は素直に頷く。
「なるべく早く応援を呼んでくるから」
「別にゆっくりでもいいぞ」
「そういう訳にもいかないでしょ」
カズキの飄々とした物言いに肩の力が抜けたのか、四人はさっきまでのパニック状態が嘘だったかの様に、その場を駆けだす。それが功を奏したのかはわからないが、彼らはギルドまでの道程を最速で引き返す事に成功した。戻ってきた時には、全て終わっているとも知らずに・・・・・・。
「うん。大漁だな」
四人と別れた後、積極的に攻勢に出たカズキは、デススパイダーとその後続の一回り大きな蜘蛛――ヘルスパイダーというが、カズキは知らない――を一分と掛からず殲滅した。
今はクレアとアルフレッドの勧めに従って、デススパイダーの脚をトレントの炭火で炙っているところだ。
「まさか、蜘蛛の脚がそれほど美味しいなんてなぁ。確かに見た目はカニっぽいけど」
程よく焼けた蜘蛛の脚を縦に切断し、カズキは躊躇なく口に運ぶ。
「うん、美味い。トレントの効果もあるんだろうけど、カニ型クラーケンに勝るとも劣らない味だ。さすがはクレア」
そう呟きながら冷ました蜘蛛脚をナンシーにもお裾分けしていると、再びアルフレッドとクレアから手紙が届く。そこには、『デカい蜘蛛は全身毒。解毒してもクソマズい』と書かれていた。
「きっと、クレアが見向きもしなかった物を、アルさんがどうにか食べられないか試したんだろうな」
デススパイダ―の脚だけをアルフレッドとクレアの元へ全て送ったカズキは、残ったデススパイダーの胴体と、全身が残っているヘルスパイダーはギルドに持っていけば売れるかもしれないと考え、全てを【次元ハウス+ニャン】の倉庫に放り込む。
「ボーダーブレイクって言ってたっけ? 境界とやらが崩壊した今なら、もっと奥まで行けるんだよな? 折角だから行けるだけ行ってみて、モンスターの種類とか調べておくか」
そして、新たな食材や薪材へ思いを馳せながら、森の奥へと無造作に歩き出した。
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