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第ニ百一話 カズキ、ステータスを偽装する

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「ようこそ、漂流者ドリフター達よ。私はこの国、ハルザークの男爵家当主、デブギヴースン・ヘサツだ」
「は? いきなり出てきて何言ってんだこのデブは。つか、ここ何処だよ?」

 森の中にある拓けた場所に、突然、召喚された四人。
 彼らがデブギヴースン男爵と押し問答をしているのを余所に、自力でこの世界に来たカズキは、碌に話も聞かず、この世界の様子を魔法で調べる。
 その結果は、カズキの想像以上に酷いものだった。
 
「猫がいない、だと!?」

 まあ、カズキにとっては、だが。

「するってえと何か? 俺たちは世界を救うために選ばれた人間で、あんたは国の命令に従って俺達を迎えに来たと。そういう訳だな? ならその態度はなんだ? 救ってもらおうという人間が、何で上から目線で偉そうに指図しやがるんだ? そこは跪いて、是非とも世界を救ってくださいと、遜った態度をとるのが普通なだろうが。違うか? ブタ男爵さんよぉ」

 カズキが恐るべき事実に驚愕している間にも話は進んでいた。
 デブギヴースンの上から目線の説明を聞き終えたケンジが、チンピラのような事を言って、地面を指差したのだ。
 だが、元から漂流者ドリフターを利用する事しか考えていなかったデブギヴースンは、そんなケンジの態度を鼻で笑う。

「お前たちこそ、そんな態度で良いのかね? 漂流者ドリフターと言っても、まだジョブは発現していないのだぞ? まあ、今の話をしたのも、漂流者ドリフターのジョブの発現条件を満たすためだけなので、どっちでも構わんがな。やれやれ、もう少し物分かりが良ければ、子飼いの部下くらいの扱いはしてやったというのに・・・・・・。いやはや、残念な事だ。おい」
「「「「へい!」」」」

 ちっとも残念そうに見えない顔をしたデブギヴースンが、暗がりに向かって声を掛けると、周囲に潜んでいたチンピラがゾロゾロと姿を現し、を取り囲んだ。

「押さえつけて隷属の首輪を嵌めてくれ。抵抗したら、死なない程度に痛めつけろ。ああ、女のほうは、壊さない程度に好きにして構わん」
「流石は男爵様、話が早い。ですが宜しいので?」
「なに、国とギルドには、漂流者ドリフターが現れるのは一年後だと言ってある。それまでに洗脳して、何食わぬ顔でギルドに報告すればいいのさ」

 デブギヴースンはプロフェットと言って、未来を予言する特殊なジョブを持っている。彼はその能力を使い、これまでに様々な災害や、新たにダンジョンが出現する時期、場所などを予言して、国や冒険者ギルドから絶大な信頼を置かれていると
 
「ようやく馬脚を露したな、デブギヴースン」

 だからその声と同時に、チンピラたちがバタバタとその場に倒れ、気付いた時には騎士と兵士たちに取り囲まれている状況に、デブギヴースンの理解は追い付かなかったのだ。

「な、何故・・・・・・?」
「何故だと? 今まで準備万端整えてから予言し、私腹を肥やしてきたお前が、急に1年後、漂流者ドリフターが現れるなんて言い出したんだ。ならば疑うのは当然の事。今まではそれでも被害は少なかったから黙認されてきただけだ。・・・・・・連れていけ」
「ハッ!」

 騎士隊長の命に従い、デブギヴースンとチンピラ達が連行される。残ったのは、騎士隊長と兵士数人、そして、ケンジたち四人と、騎士たちが来るまで姿を消していたカズキだった。

「さて」
「「「「ひっ!」」」」

 目の前で行われた暴力に慄き、さっきまでの威勢が鳴りを潜めたケンジたちが、振り返った騎士隊長から無意識に距離を取る。
 騎士隊長はそんな態度にも気を悪くした様子もなく、

「この世界に来て早々、あのような愚物に関わらせてしまった事を、まずは謝罪をさせて頂きたい」

 そう言って深々と頭を下げた。因みにだが、兵士たちは頭を下げていない。森の中ではいつモンスターが現れるかわからないので、周囲の警戒をしている為だ。

「・・・・・・許せない気持ちもわかりますが、まずはこの場を離れる事を優先させて下さい。ここは魔の森と言って、危険なモンスターが棲息しているのです。いつまでも同じ場所にいると危険なので」
「「「「・・・・・・」」」」

 騎士隊長が全く反応しない四人を見て苦笑し、先に立って歩き始める。その後ろには魔法で姿を見えなくしたナンシーを抱いたカズキが続き、ケンジたちは兵士に促され、渋々歩き出した。



 騎士隊長に案内された王宮で一泊し、王族総出の歓迎会で謝罪と慰謝料を受け取った翌日――尚、ケンジたち四人がカズキに気付いたのはこの時だった――、ケンジたち四人とカズキ(とナンシー)は、冒険者ギルドで改めて漂流者ドリフターについて説明を受けた後、ジョブの鑑定に移った。

「(ステータス)」

 既にこの世界の基本的な情報を、この世界の神らしき存在を通じて知っていたカズキは、ケンジたち四人と別行動をとる為に、ステータスの偽造を行おうと考えていた。
 というのも、漂流者ドリフターは何故か血縁関係にある人間が選ばれ、一緒に行動しなければならないという、妙なルール的なものが存在すると、ギルドマスターが説明していたからだ。
 四人が足手まといになるのはわかり切っているし、なによりカズキは四人に見覚えは無い。加えてデブギヴースンとのやり取りから、四人の性格の悪さもわかっている。極めつけに、ナンシーが四人を見る度に威嚇したので、自分とナンシーの心の平穏と、彼らの生命の為にも、距離を置くのがベストだと考えたのだ。

「さて」

――――――――――――――――――――

名前:カズキ・スワ
種族:、漂流者ドリフター
ジョブ:大賢者 竜王 
年齢:16
LV :測定不能
HP :測定不能
MP :測定不能
ATK :測定不能
DEF :測定不能
AGI :測定不能
INT :測定不能
AP :99999999+α

アビリティ
【魔力操作:MAX】【剣術:MAX】
【並列思考:MAX】【料理:LV8】
【全属性魔法:MAX】


称号
 竜殺しドラゴンスレイヤー
 悪魔殺しデーモンスレイヤー
 神殺しゴッドスレイヤー
 猫の守護者ガーディアン

――――――――――――――――――――

「大まかには同じだが・・・・・・、流石にこれじゃヤバいな」

 つい最近まで関わっていた異世界で竜玉に触れた事で、家畜になったエクレールが構築したステータスシステムを知っているカズキは、慣れた様子でAPを選択する。

「おっ、【鑑定偽装】なんてお誂え向きのアビリティがあるじゃねーか。効果は? 『自分よりも下のレベルの相手からの鑑定に対し、任意の偽装したステータスを表示する』か。これならバレなそうだな。なら偽装する内容はレベルを1にして、ジョブはなし。能力値は・・・・・・、なんか叫んでる奴の100分の1位にしておくか。アビリティも無しでいいな、面倒だし。当然、称号もなしだ」

 結果、偽装したカズキのステータスはこのようになった。

――――――――――――――――――――

名前:カズキ・スワ
種族:、漂流者ドリフター
ジョブ:なし
年齢:16
LV :1
HP :30/30
MP :15/15
ATK :32
DEF :18
AGI :23
INT :15
AP :10

アビリティ


――――――――――――――――――――

「うん。これなら戦いに行けなんて言われないだろ」

 その場にいる全員がケンジに注目している間にステータスを弄ったカズキは、目論見通りにノージョブ判定を受け、ついでにケンジ達から無能判定を下された。
 こうしてカズキは行動の自由を勝ち取る事に成功したのである。
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