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第百九十八話 『リントヴルム』の最期
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「首はいくら潰しても増えずに瞬間再生する。体は魔法金属が固くて刃が通らない、か」
宣言通り普通に戦ったクリスは、『リントヴルム最強形態』の質の悪さに舌を巻いていた。
「カズキ達がここにいなくて良かったぜ。いれば、絶対に突っ込まれたに決まってるからな」
クリスの当初の予定では、普通に戦って魔法金属を回収。その後に新技の実験の予定だった。だが、『リントヴルム最強形態』の防御力がクリスの想定を遥かに超えていた事で、その計画は変更を余儀なくされる事となった。
もしこの場にエルザやソフィアがいれば、クリスの見込みの甘さを、ここぞとばかりに追及してくるのは明白である。
「さて、愚痴っていてもしょうがない。悪いが、ここから先は手加減なしだ」
クリスはそう言って、睨み合っていた『リントヴルム』へと歩き出した。対する『リントヴルム』も、これまでの様に『時魔法』を使い、じっとその隙を伺う。
これまでの攻防の中で、クリスの攻撃が脅威にならないと判断した『リントヴルム』は、防御を捨ててカウンターを狙う事にしたのだ。
知能を獲得した『リントヴルム』の狙いは一つ。それは、自身の唯一の弱点である、体内からの攻撃を誘い、クリスが侵入してきたところで『時魔法』の遅延を発動し、動きの鈍ったクリスを嚙み殺すというもの。
その為の伏線も、随分前から張ってある。クリスへと攻撃する際、一番左の首だけは、他の首と比べて僅かに動作が鈍いように見せかけていたのだ。それも、本当に微かな違和感を覚えるというレベルである。クリスのような人間なら本能的に弱点を狙うと、何故か20000年分の記憶を持つ『リントヴルム』は知っていたのである。
だがそれも、相手が尋常であった場合の話。そしてクリスは、常識の埒外にいる存在だった。
クリスは『リントヴルム』の晒す隙などには目もくれず、スタスタと普通に目の前までやってきて、無造作に黒く染まった剣を横薙ぎにしたのだ。
「ジャアアアアアア!」
一拍遅れて、『リントヴルム』の悲鳴が響き渡る。今までに味わった事のない、不気味な感覚に襲われたからだ。
「どうだ?」
強い不快感と恐怖から錯乱し、首を無茶苦茶に振り回している『リントヴルム』から距離を取ったクリスが、自分の齎した結果を確認する。その視線の先には、中央の三本の首の半ばまでを失った『リントヴルム』の姿があった。
「・・・・・・成功か。まあ、初めてにしては、上手くいった方だな」
三本の首が再生しない事を確認し、ニヤリと笑みを浮かべるクリス。
彼が試したのは、カズキの【ラグナロク】にヒントを得て編み出した、対象を消滅させる剣。殺しても死に戻る筈の勇者をホイホイと消滅させるカズキに対抗心を燃やし、考え出した技だった。
「とはいえ、まだまだ使い物にはならないか。溜めが長すぎるし、イメージ通りに斬れてない」
クリスはそう言って、再び刀身に黒い魔力を纏わせる。溜めが長いと言った割には一瞬の出来事に見えるし、見た人間もそう言うだろう。だが、それでもクリスは不満そうだった。変態の考える事は、常人には理解できない事が多いのだ。
「さっきまでのようにデカかったら、幾らでも試し斬りが出来たんだが・・・・・・」
この調子で試し斬りをしていると、熟達する前に『リントヴルム』が消滅してしまう事に悩みだすクリス。
自分の住んでいる世界で勇者相手に試す事も考えたが、万一失敗して、世界に影響を及ぼす事になったら目も当てられないので、その表情は真剣だった。彼が魔界で試そうと思ったのは、この世界が崩壊に向かっていると聞いていたからなのだ。
「困った。こうなったらカズキに土下座でもして・・・・・・。ん?」
結局、セバスチャンよりも軽い頭を下げるという結論になりそうだった(100%通らないのだが)クリスが、ふと『リントヴルム』を見ると、妙な行動をしている事に気付いた。
「頭を失った首に嚙みついている? いったい何を・・・・・・?」
クリスの見守る中、自身の首を根元から食い千切った『リントヴルム』。異変が起きたのは、その直後の事だった。
「おおっ!? そんな手があったのか!」
再生した首を見て、飛び上がって喜ぶクリス。
「成程なぁ。新しい傷口を作れば、そこから再生できるのか。悪いなぁ。なんか気を使わせちまって」
言うなり、再び『リントヴルム』に向かってクリスは突撃した。狙いは勿論、無限に再生する首である。
しかも今回は、黒い魔力を纏った斬撃と、普通の斬撃を交互にお見舞いし、『リントヴルム』の再生能力を勝手に使って、修練を始めたのだ。
「よし、こんなもんか」
「シャア・・・・・・」
そして三十分後。遂にクリスはその手を止める。(強制的に)試し斬りに付き合わされた哀れな『リントヴルム』はというと、表皮は根こそぎ剥がされ、見るも無残な姿を晒していた。
「さて、そろそろ終わりにするか」
再生に全集中しているのか、動く気配のない『リントヴルム』に対し、近付きながら剣に黒い魔力を這わせるクリス。その刀身には、これまで以上の魔力が籠っていた。
「喰らえ。秘剣・消滅斬!」
ネーミングセンスの欠片もない技名を高らかに叫びながらクリスが剣を振り下ろすと、『リントヴルム』の巨体が一瞬にして消滅した。
アイスドラゴンのロイスと出会った事から始まった、『リントヴルム』に纏わる事件は、最終的に主人公であるカズキが不在のまま、解決を迎えたのである。
宣言通り普通に戦ったクリスは、『リントヴルム最強形態』の質の悪さに舌を巻いていた。
「カズキ達がここにいなくて良かったぜ。いれば、絶対に突っ込まれたに決まってるからな」
クリスの当初の予定では、普通に戦って魔法金属を回収。その後に新技の実験の予定だった。だが、『リントヴルム最強形態』の防御力がクリスの想定を遥かに超えていた事で、その計画は変更を余儀なくされる事となった。
もしこの場にエルザやソフィアがいれば、クリスの見込みの甘さを、ここぞとばかりに追及してくるのは明白である。
「さて、愚痴っていてもしょうがない。悪いが、ここから先は手加減なしだ」
クリスはそう言って、睨み合っていた『リントヴルム』へと歩き出した。対する『リントヴルム』も、これまでの様に『時魔法』を使い、じっとその隙を伺う。
これまでの攻防の中で、クリスの攻撃が脅威にならないと判断した『リントヴルム』は、防御を捨ててカウンターを狙う事にしたのだ。
知能を獲得した『リントヴルム』の狙いは一つ。それは、自身の唯一の弱点である、体内からの攻撃を誘い、クリスが侵入してきたところで『時魔法』の遅延を発動し、動きの鈍ったクリスを嚙み殺すというもの。
その為の伏線も、随分前から張ってある。クリスへと攻撃する際、一番左の首だけは、他の首と比べて僅かに動作が鈍いように見せかけていたのだ。それも、本当に微かな違和感を覚えるというレベルである。クリスのような人間なら本能的に弱点を狙うと、何故か20000年分の記憶を持つ『リントヴルム』は知っていたのである。
だがそれも、相手が尋常であった場合の話。そしてクリスは、常識の埒外にいる存在だった。
クリスは『リントヴルム』の晒す隙などには目もくれず、スタスタと普通に目の前までやってきて、無造作に黒く染まった剣を横薙ぎにしたのだ。
「ジャアアアアアア!」
一拍遅れて、『リントヴルム』の悲鳴が響き渡る。今までに味わった事のない、不気味な感覚に襲われたからだ。
「どうだ?」
強い不快感と恐怖から錯乱し、首を無茶苦茶に振り回している『リントヴルム』から距離を取ったクリスが、自分の齎した結果を確認する。その視線の先には、中央の三本の首の半ばまでを失った『リントヴルム』の姿があった。
「・・・・・・成功か。まあ、初めてにしては、上手くいった方だな」
三本の首が再生しない事を確認し、ニヤリと笑みを浮かべるクリス。
彼が試したのは、カズキの【ラグナロク】にヒントを得て編み出した、対象を消滅させる剣。殺しても死に戻る筈の勇者をホイホイと消滅させるカズキに対抗心を燃やし、考え出した技だった。
「とはいえ、まだまだ使い物にはならないか。溜めが長すぎるし、イメージ通りに斬れてない」
クリスはそう言って、再び刀身に黒い魔力を纏わせる。溜めが長いと言った割には一瞬の出来事に見えるし、見た人間もそう言うだろう。だが、それでもクリスは不満そうだった。変態の考える事は、常人には理解できない事が多いのだ。
「さっきまでのようにデカかったら、幾らでも試し斬りが出来たんだが・・・・・・」
この調子で試し斬りをしていると、熟達する前に『リントヴルム』が消滅してしまう事に悩みだすクリス。
自分の住んでいる世界で勇者相手に試す事も考えたが、万一失敗して、世界に影響を及ぼす事になったら目も当てられないので、その表情は真剣だった。彼が魔界で試そうと思ったのは、この世界が崩壊に向かっていると聞いていたからなのだ。
「困った。こうなったらカズキに土下座でもして・・・・・・。ん?」
結局、セバスチャンよりも軽い頭を下げるという結論になりそうだった(100%通らないのだが)クリスが、ふと『リントヴルム』を見ると、妙な行動をしている事に気付いた。
「頭を失った首に嚙みついている? いったい何を・・・・・・?」
クリスの見守る中、自身の首を根元から食い千切った『リントヴルム』。異変が起きたのは、その直後の事だった。
「おおっ!? そんな手があったのか!」
再生した首を見て、飛び上がって喜ぶクリス。
「成程なぁ。新しい傷口を作れば、そこから再生できるのか。悪いなぁ。なんか気を使わせちまって」
言うなり、再び『リントヴルム』に向かってクリスは突撃した。狙いは勿論、無限に再生する首である。
しかも今回は、黒い魔力を纏った斬撃と、普通の斬撃を交互にお見舞いし、『リントヴルム』の再生能力を勝手に使って、修練を始めたのだ。
「よし、こんなもんか」
「シャア・・・・・・」
そして三十分後。遂にクリスはその手を止める。(強制的に)試し斬りに付き合わされた哀れな『リントヴルム』はというと、表皮は根こそぎ剥がされ、見るも無残な姿を晒していた。
「さて、そろそろ終わりにするか」
再生に全集中しているのか、動く気配のない『リントヴルム』に対し、近付きながら剣に黒い魔力を這わせるクリス。その刀身には、これまで以上の魔力が籠っていた。
「喰らえ。秘剣・消滅斬!」
ネーミングセンスの欠片もない技名を高らかに叫びながらクリスが剣を振り下ろすと、『リントヴルム』の巨体が一瞬にして消滅した。
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