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第百九十四話 『リントヴルム』復活

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「なんて大きさだ・・・・・・」

 見渡す限りが荒野の、の上空の大半を占めるソレを見て、ラクトが呆然と呟く。
 昨日、カズキから『リントヴルム』が復活すると聞かされてから僅か30分後。
 何の心構えも出来ない内に日付が変わり、直後にクロノスドラゴンの『時空魔法』の封印は効力を失った。
 それを『時空魔法』の【未来予知】で知っていたカズキは、『リントヴルム』の出現場所(第ゼロコロニーの地下だった)に巨大な『門』を開き、即座に魔界へと追放。結果、二つの世界に被害が及ぶ事はなかった。
 だから今ラクトが魔界にいるのは、単純に好奇心からの行動だった。今は心の底から後悔しているが。

「ロイス殿はよく、あんなのに立ち向かえたな」

 ラクト同様、呆然と空を見上げていたジュリアンが、戦いを見届けさせる為、カズキに連れて来られたロイスに賞賛の言葉を贈る。だが、賞賛を受けた本人は、一度戦った『リントヴルム』の威容に慄いていた。

『・・・・・・いや。儂らが戦った時はあんなに大きくはなかったし、首も一本しかなかった。精々、フレイの二倍程の大きさだったんじゃが・・・・・・』

 カズキによって生け捕りにされた、ファイアードラゴンのフレイの大きさは、全長4000メートル程。『リントヴルム』と戦ったドラゴンの中では、彼が一番大きかった。だからこそ、ロイス達は戦う事が出来たのだが、今の『リントヴルム』はどう見てもその十倍。しかも、現在進行形で成長中である。

『空中都市にあった『門』を取り込んだせいだ。奴は封印直前、悪魔から奪った『時魔法』で、体の中の一部の時間だけを通常通りに流れるようにした。そこに『門』を開いて魔物を呼び寄せ、その力を取り込むために・・・・・・』

 悔しそうにロイスの言葉の後を継いだのは、『リントヴルム』を封印していた、クロノスドラゴンの『クロノ』である。『リントヴルム』に喰われる前にと、封印が解けた瞬間にカズキがインターセプトした結果だった。

「そうして増やした魔力を、貴方の『時空魔法』に対抗する力に回したと言う事ですか?」
『そう、その結果封印は破られた。巨大化し、首が九つに増えたのは、この世界の魔力を取り込んだからだろう。悪魔を捕食したからか、この世界の魔力は、奴の肌に合うようだ』
「そんな・・・・・・!」

 二つの世界を守るため、敢えて生き物のいない世界を選んだカズキの選択が裏目に出たと知り、ソフィアが悲痛な声を上げる。
 際限なく大きくなる『リントヴルム』の魔力が、徐々にカズキのそれへと近づいているように思えたからだ。

「い、いえ、きっと大丈夫です! 魔界を決戦の場に選んだのは、他ならぬカズキさんですから! ほら、顔を見ればいつもの余裕の表情で――えっ!?」

 ソフィアの不安が伝染したのか、マイネが早口で捲し立てながら、いつもの余裕の表情を浮かべている筈のカズキを探す。だが、彼女の予想に反して、カズキは今までにない、厳しい表情をしていた。

「嘘、でしょ?」
「むう・・・・・・」
「カズキのあんな顔は始めて見たな。それ程に厳しい状況だというのか・・・・・・?」

 マイネ同様、不安を覚えていたラクト達も、カズキの表情を見て凍り付く。だが彼らは勘違いをしていた。
 それ程に厳しい状況ならば、クリスやエルザと共に『リントヴルム』に一番近い位置にいるカズキが背を向けている筈がないし、ナンシーとフローネとクレアも傍に置く筈がない。
 だからカズキの表情が厳しく見えたのは、全く別の理由だった。

「ミャウー・・・・・・」
「カズキさん。予想は付きますが、クレアはなんと?」
「可食部位はないそうだ。まあ、見た目がクソデカいヒュドラになった時点で、嫌な予感はしてたんだけどさ」
「ニャー」
「え? 気を落とすなって? ありがとう。ナンシーは優しいなぁ」
「ミャーン♪」

 既に『時空魔法』を覚えたカズキにとって、『リントヴルム』の価値など、ぶっちゃけ肉だけだった。
 勿論、今後の事を考えて倒すのはマストだが、クレアの鑑定結果を聞き、やる気を失ったのも事実である。その時のカズキの表情が、恐怖に震えるマイネ達のフィルターを通すと、厳しい表情に見えたという訳だ。

「膨張が止まったな」

 不意にクリスがそう呟く。その言葉にカズキが空を見上げると、元の大きさの数十倍にまで成長した『リントヴルム』と目が合った。
 元々、魔力を多く含むモノを好物としているだけあって、ドラゴン以上の魔力を保有しているカズキやエルザは、この上ない御馳走に見えているのだ。

「おっと、お前の相手は俺だ」

 それを察してか、『リントヴルム』の視線上に立ちはだかる酔狂な男が一人いた。まあクリスだが。

「悪魔の王とは、誰かさんのせいで戦えなかったからな。悪いが、試し斬りに付き合ってもらうぜ」

 そう言って剣を構えるクリス。だが、彼の敵は身内にもいた。

「サッサと戦わなかったアンタが悪いんでしょーが」
「そうよ。そのせいで不快な言葉を聞く羽目になったんだから」
「今度は無駄に恰好つけず、再生前に滅ぼしてくださいね?」
「もし失敗したら、次に発売する本で大々的に広めます。・・・・・・いいですね?」
「うわーん!」

 女性陣にフルボッコにされ、泣きながら空を駆けるクリス。
 『リントヴルム』との戦いは、何とも締まらない空気の中で始まったのだった。
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