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第百八十六話 上には上が
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レットが魔法を発動すると、ロングソード程の大きさの炎の剣がレットの頭上に顕現する。
「「「「?」」」」
だが、その余りの迫力の無さに、カズキ達はそれが【レーヴァテイン】だと最初は気付かなかった。
それでも余裕を崩さないレットと、その傍らで剣を構えているリックスの様子に、自分達の知らない魔法を披露してくれるのかと、カズキ達は次のレットの行動を興味津々で見守る事にした。が、実情は違う。
レットが余裕に見えるのは、制御する事に必死で迫りくるゴブリンに気を払う余裕がないだけであり、リックスも同様に、【フィジカルエンチャント】を発動しようと必死だっただけである。
まさか知らないところでハードルが上がっているとは思いもしない二人。そんな二人が動きを見せたのは、ゴブリンが間近に迫った時だった。
「我が魔力を糧に真の姿を現せ! 【レーヴァテイン】!」
レットが高らかに叫ぶのと同時に、ロングソード程の大きさだった炎の剣が激しく燃え上がり、見る見るうちに巨大化した。
「征け!」
炎の剣に魔力を持っていかれ、その場に膝を着いたレットの意に従い、洞窟の幅いっぱいまで巨大化した炎の剣が、切先をゴブリンに向けて直進する。その後を、10秒程遅れて【フィジカルエンチャント】の発動に成功したリックスが追いかけた。
「「・・・・・・」」
自分達の知っている【レーヴァテイン】と違う事に戸惑うジュリアンとソフィア。だが、カズキの感想は違ったようだ。
「成程。発動を2段階に分ける事で難易度を下げたのか。詠唱した時に消費した魔力も、炎の剣に吸収される仕組みになってる。これをマジックアイテムにすると、威力が大幅に下がる代わりに一瞬で発動する、コエンが持ってた杖になる訳か。そこまで考えて創ったのなら、レットは天才だな」
「・・・・・・わかるのか?」
「ああ」
カズキがコエンとのランキング戦の時、追い詰められたコエンがマジックアイテムを取り出し、そこに封じられていた【レーヴァテイン】を使った事がある。
カズキはその戦いそのものを覚えていなかったが、最近、模擬戦の時にコエンがマジックアイテムを多用するので、魔法の作成者の”癖”のような物を覚えていたのだ。
「これで、終わりだ!」
そんな話をしている内にゴブリンの群れの大半は消滅し、残ったロードとキングも、リックスに斬り伏せられていた。
「よし! 今のうちに・・・・・・、なにっ!」
これで終わりだと、肩の力を抜いてレットの方へと歩き出すリックス。このような目に遭えば、流石に引き返す事を考えてくれるだろうと思っていた彼は、そこで異変に気が付いた。
【フィジカルエンチャント】によって強化された聴覚に、洞窟の奥から迫りくる、先程以上の数の足音を捉えてしまったのだ。
「マズいっ!」
振り返ったリックスの目に、先程倒したエンペラー以上の体躯を持ったゴブリンが映る。
「そんなっ! では先程倒したのは・・・・・・」
ここに至って、レットとリックスは自分達の間違に気付く。そう、彼らが相手にしていたのは、エンペラーの能力によって強化された、ゴブリンキングだったのだと。
「・・・・・・リックス。まだやれるな?」
魔力切れ寸前のレットが、ふらつきながらも立ち上がる。
「・・・・・・ええ。勿論です」
【フィジカルエンチャント】に魔力の半分以上を費やしたリックスが、レットに応えて笑みを浮かべた。
「そうか。なら、やる事はわかっているな?」
「はい」
当初の予定通り、自らが盾となって、カズキ達を逃がす算段を立て始める二人。
「ふむ。次は私の番だな」
だが、彼らが撤退を促そうとした時には、既にジュリアンのスタンバイが完了していた。
「五万な」
「ああ」
カズキに頷いて、無造作に歩みを進めるジュリアン。レットとリックスは、そんなジュリアンを止めようとして、ようやく自分達の間違いに気が付いた。
それまでは精々、レットの二倍程の魔力量だったのだが、戦闘態勢に入ったジュリアンの魔力量は、更にその十倍、つまりはレットの二十倍にまで達していたのだ。
「なんて魔力だ・・・・・・!」
「あれだけの魔力を体内に留めていたのか・・・・・・っ!? 制御をしくじれば、自分ばかりか、周囲も巻き込んで爆散してもおかしくないのにっ!」
自分達の常識が通用しないジュリアンを前に驚愕する二人。だが、それはまだ序章に過ぎなかった。
「折角だから試してみるか」
そうジュリアンが呟くのと同時に、レットよりも遥かに威圧感のある炎の剣が顕れる。
「「【レーヴァテイン】!」」
そう、それはレットが苦心に苦心を重ね、実に二十年の研究の末に完成させた【レーヴァテイン】。それをジュリアンは、より完璧な形で発動したのだ。
「しゅ、主任! あれを!」
ボーっと完成形の【レーヴァテイン】を眺めていたレットを正気付かせようと、先に我に返ったリックスが肩を掴んでガクガクと揺さぶる。レットの呼び方が研究員だった頃の肩書に戻っているのは、新たな衝撃に襲われているからだった。
「・・・・・・なっ! あれは!」
促されるままリックスの指し示す方を見るレット。そこには【レーヴァテイン】と同等の威圧感を放つ石の槍と、圧縮され、強引に槍の形を持たされた竜巻がジュリアンの合図を待っていた。
「間違いない! 【ブリューナク】と【ゲイボルグ】だ!」
レットの言葉とほぼ同時に、三つの神話級魔法がゴブリンへと放たれる。そして、瞬きする間もなくゴブリンが消滅した。
「・・・・・・主任」
「・・・・・・なんだ?」
「これ、私たちが足手まといになっていませんか?」
「言うな。私も今、それを痛感していたところだ」
元の時代で国で一番の魔力を保有し、【レーヴァテイン】を開発した事で国王からも恐れられていたレットは、この日、始めて自分が思い上がっていた事に気付いたのだった。
「「「「?」」」」
だが、その余りの迫力の無さに、カズキ達はそれが【レーヴァテイン】だと最初は気付かなかった。
それでも余裕を崩さないレットと、その傍らで剣を構えているリックスの様子に、自分達の知らない魔法を披露してくれるのかと、カズキ達は次のレットの行動を興味津々で見守る事にした。が、実情は違う。
レットが余裕に見えるのは、制御する事に必死で迫りくるゴブリンに気を払う余裕がないだけであり、リックスも同様に、【フィジカルエンチャント】を発動しようと必死だっただけである。
まさか知らないところでハードルが上がっているとは思いもしない二人。そんな二人が動きを見せたのは、ゴブリンが間近に迫った時だった。
「我が魔力を糧に真の姿を現せ! 【レーヴァテイン】!」
レットが高らかに叫ぶのと同時に、ロングソード程の大きさだった炎の剣が激しく燃え上がり、見る見るうちに巨大化した。
「征け!」
炎の剣に魔力を持っていかれ、その場に膝を着いたレットの意に従い、洞窟の幅いっぱいまで巨大化した炎の剣が、切先をゴブリンに向けて直進する。その後を、10秒程遅れて【フィジカルエンチャント】の発動に成功したリックスが追いかけた。
「「・・・・・・」」
自分達の知っている【レーヴァテイン】と違う事に戸惑うジュリアンとソフィア。だが、カズキの感想は違ったようだ。
「成程。発動を2段階に分ける事で難易度を下げたのか。詠唱した時に消費した魔力も、炎の剣に吸収される仕組みになってる。これをマジックアイテムにすると、威力が大幅に下がる代わりに一瞬で発動する、コエンが持ってた杖になる訳か。そこまで考えて創ったのなら、レットは天才だな」
「・・・・・・わかるのか?」
「ああ」
カズキがコエンとのランキング戦の時、追い詰められたコエンがマジックアイテムを取り出し、そこに封じられていた【レーヴァテイン】を使った事がある。
カズキはその戦いそのものを覚えていなかったが、最近、模擬戦の時にコエンがマジックアイテムを多用するので、魔法の作成者の”癖”のような物を覚えていたのだ。
「これで、終わりだ!」
そんな話をしている内にゴブリンの群れの大半は消滅し、残ったロードとキングも、リックスに斬り伏せられていた。
「よし! 今のうちに・・・・・・、なにっ!」
これで終わりだと、肩の力を抜いてレットの方へと歩き出すリックス。このような目に遭えば、流石に引き返す事を考えてくれるだろうと思っていた彼は、そこで異変に気が付いた。
【フィジカルエンチャント】によって強化された聴覚に、洞窟の奥から迫りくる、先程以上の数の足音を捉えてしまったのだ。
「マズいっ!」
振り返ったリックスの目に、先程倒したエンペラー以上の体躯を持ったゴブリンが映る。
「そんなっ! では先程倒したのは・・・・・・」
ここに至って、レットとリックスは自分達の間違に気付く。そう、彼らが相手にしていたのは、エンペラーの能力によって強化された、ゴブリンキングだったのだと。
「・・・・・・リックス。まだやれるな?」
魔力切れ寸前のレットが、ふらつきながらも立ち上がる。
「・・・・・・ええ。勿論です」
【フィジカルエンチャント】に魔力の半分以上を費やしたリックスが、レットに応えて笑みを浮かべた。
「そうか。なら、やる事はわかっているな?」
「はい」
当初の予定通り、自らが盾となって、カズキ達を逃がす算段を立て始める二人。
「ふむ。次は私の番だな」
だが、彼らが撤退を促そうとした時には、既にジュリアンのスタンバイが完了していた。
「五万な」
「ああ」
カズキに頷いて、無造作に歩みを進めるジュリアン。レットとリックスは、そんなジュリアンを止めようとして、ようやく自分達の間違いに気が付いた。
それまでは精々、レットの二倍程の魔力量だったのだが、戦闘態勢に入ったジュリアンの魔力量は、更にその十倍、つまりはレットの二十倍にまで達していたのだ。
「なんて魔力だ・・・・・・!」
「あれだけの魔力を体内に留めていたのか・・・・・・っ!? 制御をしくじれば、自分ばかりか、周囲も巻き込んで爆散してもおかしくないのにっ!」
自分達の常識が通用しないジュリアンを前に驚愕する二人。だが、それはまだ序章に過ぎなかった。
「折角だから試してみるか」
そうジュリアンが呟くのと同時に、レットよりも遥かに威圧感のある炎の剣が顕れる。
「「【レーヴァテイン】!」」
そう、それはレットが苦心に苦心を重ね、実に二十年の研究の末に完成させた【レーヴァテイン】。それをジュリアンは、より完璧な形で発動したのだ。
「しゅ、主任! あれを!」
ボーっと完成形の【レーヴァテイン】を眺めていたレットを正気付かせようと、先に我に返ったリックスが肩を掴んでガクガクと揺さぶる。レットの呼び方が研究員だった頃の肩書に戻っているのは、新たな衝撃に襲われているからだった。
「・・・・・・なっ! あれは!」
促されるままリックスの指し示す方を見るレット。そこには【レーヴァテイン】と同等の威圧感を放つ石の槍と、圧縮され、強引に槍の形を持たされた竜巻がジュリアンの合図を待っていた。
「間違いない! 【ブリューナク】と【ゲイボルグ】だ!」
レットの言葉とほぼ同時に、三つの神話級魔法がゴブリンへと放たれる。そして、瞬きする間もなくゴブリンが消滅した。
「・・・・・・主任」
「・・・・・・なんだ?」
「これ、私たちが足手まといになっていませんか?」
「言うな。私も今、それを痛感していたところだ」
元の時代で国で一番の魔力を保有し、【レーヴァテイン】を開発した事で国王からも恐れられていたレットは、この日、始めて自分が思い上がっていた事に気付いたのだった。
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