リタイア賢者の猫ファーストな余生

HAL

文字の大きさ
上 下
171 / 368

第百七十一話 陥穽

しおりを挟む
 マンティコアを倒し、洞窟の奥へと進んだフローネ達は、いつの間にかスタート地点と酷似した場所に立っていた。

「無事に森林エリアを抜けた・・・・・・んですよね?」
「その筈だが・・・・・・」

 自信なさそうに言うフローネに、エストが周囲を見回しながら答える。その声色には、そうであって欲しいという願望が込められているように思えた。

「通路の先から何かが来ます」

 エストと同じように周囲を見回していたマイネが、不意に警戒を促す声を上げた。
 身構える三人。そして、彼らの前に姿を現したのは――。

「・・・・・・並ゴブリンが三匹、か」
「嫌な感じですね・・・・・・」
「ええ・・・・・・」

 向かって来たゴブリンズを一蹴し、三人は顔を見合わせる。スタート直後と同じ事を繰り返しているのだから、当然の話だった。

「四方の道の先を確認してみませんか? それで昨日と同じだったら・・・・・・」
「同じ場所に戻ってきた可能性が高い、か?」
「はい」

 フローネの言葉に従って、四方の道の先を確認する三人。結果は、海、砂漠、火山、森林で、配置まで全く同じだった。

「全部同じか。恐らくだが、ここはスタート地点だろうな」
「そのようですね。そうなると鍵になるのは・・・・・・」
「「「鉄球」」」

 期せずして三人の声が揃う。その割には、全く嬉しそうではなかったが。

「はぁ。とりあえずこの鉄球は回収して休もう。先に進もうにも、今の状態でどうにもならないからな」
「そうですね」
「賛成です」



 体力と魔力の回復の為、交代で休憩した三人が適当な道を選んで進むと、『ようこそスタート地点へ。心が折れた方はコチラ→』という看板と、矢印の先に地上へと繋がる階段、そして、売店が姿を現した。
 どうやら鉄球を持ったまま移動すると、この場所に移動する仕組みになっていたらしい。

「・・・・・・してやられたな。こっちの考える事など、全てお見通しだったわけか」
「軽く偵察する位なら、スタート地点に戻ってこれるのも質が悪いですよね」
「人の心理を上手く突いてきますよね。考えたのはお兄様でしょうか?」

 彼らがこんな話をしているのは、森林エリアに入って進む方向を相談していた時、突然入り口が消えたからである。

「誰もいませんね」
「そうですね。ん? あれは・・・・・・」
「どうした?」

 一応の警戒をしつつ売店へと足を向けていると、フローネが立ち止まって売店の陰に隠れていた建物をビシッと指さした。

「シャワー室と書いてあります!」
「本当ですか!?」

 風呂の代わりに川の水で体を拭う事はしたが、それだけでは満足出来ない体にされてしまった(注・カズキの創った【次元倉庫】には、バス、トイレ、キッチン、寝室が完備されているのだ)フローネとマイネのテンションが天元突破。そのままエストの意見も聞かず、シャワー室に突撃してしまう。

「はぁ・・・・・・」

 仕方がないので、エストもささっとシャワーを浴び(女性二人と行動しているので、何かと気を使うのだ)、二人が戻ってくるまでの間、売店で役に立ちそうな物を探す事にした。
 そして、シャワーを終えたエストが売店に足を向けようとしたところで、コエンとラクトが土下座しているところに出くわした。

「すまない!」
「ごめん!」
「どどどどど、どうしたべ突然! 二人共、頭を上げてくんろ!」

 何故かタゴサクに向かって土下座している二人の様子に興味を惹かれたエストは、情報を集める為に三人に声を掛ける事にした。
 
「嵌まった?」

 たったそれだけの問いかけに、土下座していた二人はピンときたのか、黙って頷いた。わかっていないのはタゴサクだけである。

「どこを選んだ?」
「森林だ。そっちは?」
「迷宮。最後はミノタウロス三匹。そっちは?」
「マンティコアが六匹だ。・・・・・・お互い、何の足しにもならない、無駄な時間を使わされてしまったようだな」
「へ? へ?」

 コエンとエストの問答についていけないタゴサクに、ラクトが懇切丁寧に説明する。結果的に、鉄球を持っていくつもりだったタゴサクが正解だった事まで全てをだ。
 それに対するタゴサクの返答は、

「仲間なんだから気にする必要はないべさ」

 だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...