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第百六十七話 第二回定期試験 開始
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「ギルドマスター! シノミヤが消滅しました!」
回想シーンに突入して三十分。未だに過去を振り返っていたギルドマスターのルノセルと秘書の元に、勇者シノミヤ終了のお知らせを届けに、レオンが現れた。
「何だと! では、アンナ(秘書の名前)が生贄にならなくてもいいのだな!? ・・・・・・ん? 消滅?」
喜びから一転、訝し気な顔をするルノセル。そんな彼に、レオンはシノミヤとカズキ達の戦いの一部始終を語って聞かせた。
「勇者の死に戻りすら無効にする魔法か・・・・・・。やはりそうだった。カズキ、いや、カズキ様こそが、予言にあったモンスターを倒す者。ならば一刻も早く、この世界のどこかにあるという第0コロニーで眠りについている、竜神様に会って頂かなければ。我々では見つけられない場所でも、彼らなら必ずや見つけてくれるだろう」
「では早速、カズキ様のパーティ―に依頼を出しましょう。彼らは今何処に?」
「・・・・・・えーと」
秘書の質問に、何故か目を逸らすレオン。
「どうした?」
それを訝しんだルノセルが追及すると、レオンは明後日の方を向いたまま、
「・・・・・・した」
ボソッとそう呟いた。
「? すまない、聞こえなかったので、もう一回行ってくれないか?」
「・・・・・・帰りました。『食材が尽きたらまた来る』と言って、魔法で『門』のようなものを創り出し、それを潜って姿を消しました」
「・・・・・・つまり、カズキ様は自由に世界を渡る能力を持っていると?」
「恐らく」
「・・・・・・各支部長に連絡だ。次にカズキ様が姿を現したら、最寄りの探索者ギルドに案内するよう、全探索者に捜索依頼を出すように、と」
「畏まりました」
カズキに関わった人間特有の、達観した表情を浮かべたルノセルの命令に、同じ表情を浮かべたアンナは頷き、執務室を退室した。
カズキ達が異世界より帰還してから二日後。ランスリード魔法学院の二回目の定期試験が行われる日になった。
「これより、第二回定期試験を開始する! 各員、担当の者からマジックアイテムを受け取り、受け取ったパーティからダンジョンの中へ入れ!」
教員の指示に従い、この日の為に用意されたダンジョンの入り口へと、学院生達が歩を進める。
ラクト、コエン、タゴサクのパーティも、それぞれにマジックアイテムを受け取り、ダンジョンへ入場。
「「・・・・・・ここは?」」
そして、いきなり遭難した。
「先に入場したパーティの姿が見えない。それどころか、作成したマップにこんな広い空間はなかった。これでは現在地もわからん」
「やられたね。カズキが教員側に回った時点で予想しておくべきだった。多分、【テレポート】でどこかの部屋に飛ばされたんだ」
「そういう事か。きっとこの部屋も、魔法で空間を広げているんだろう」
「そうだね。だからマップもそのまま使える筈だ。まずはここが何処なのか、確定する事から始めようか」
カズキの非常識に慣れているコエンとラクトは、即座に切り替えてこれからの方針を立て始める。
タゴサクはその間、周囲の警戒をしていた。
パーティを結成してからの三週間、何度か三人で依頼を受け、連携を確認していたのだが、その際にタゴサクが極度の方向音痴だという事が発覚し、それ以降、マップを見るのはラクトとコエン、タゴサクは二人の護衛と周囲の警戒という分担に決まったからだ。
「そうだな。問題は、どの方向に進むかという事だが」
そう言って広間を見回すコエン。質の悪い事に、彼らがいる部屋からは四方へと道が伸びていた。
「そこはもう勘で行くしかないね。とはいえ方角だけは調べておかないと」
ラクトはそう言って『次元ポスト』からコンパスを取り出し、そして絶句した。
「ラクト?」
「どうしたんだべか?」
それを不審に思った二人がラクトの手元をのぞき込むと、彼が絶句している理由がわかった。
「物凄い速さでグルグル回ってるな」
「これじゃあ、方角なんてわからねえべ」
「・・・・・・仕方ない。面倒だけど、マッピングしながら行こう」
このダンジョンを創った、底意地の悪い人間達の姿を思い浮かべながら、再び『次元ポスト』を開き、ノートとペンを取り出すラクト。そのついでに役に立たなくなったコンパスをしまおうとして、ラクトは再び絶句した。
「どうした?」
「・・・・・・収納できない」
「何がだべ?」
「『次元ポスト』! 取り出せるけど収納できない!」
「何だと!」
ラクト達は一つ十キロの金属の球体を運ぶにあたり、『次元ポスト』を活用しようと考えていた。
タゴサクはともかく、ひ弱な魔法使い二人には、十キロの重りを持って移動したり、まして戦闘など出来ないと考えていたからだ。
「そりゃあ、何でも持ち込み自由な筈だよ! 最初から『次元ポスト』を使用不能にするつもりだったんだから!」
「落ち着け、ラクト。ルールを見た時から、生易しい試験じゃないとわかっていた筈じゃないか」
「・・・・・・ごめん、取り乱した。そうだよね。カズキが関わってるんだもんね」
「ああ。むしろ、早い段階で気付けて良かったと思った方がいい」
コエンはそう言って杖を構える。この広間へと続く道の一つから、物音が聞こえてきたからだ。
回想シーンに突入して三十分。未だに過去を振り返っていたギルドマスターのルノセルと秘書の元に、勇者シノミヤ終了のお知らせを届けに、レオンが現れた。
「何だと! では、アンナ(秘書の名前)が生贄にならなくてもいいのだな!? ・・・・・・ん? 消滅?」
喜びから一転、訝し気な顔をするルノセル。そんな彼に、レオンはシノミヤとカズキ達の戦いの一部始終を語って聞かせた。
「勇者の死に戻りすら無効にする魔法か・・・・・・。やはりそうだった。カズキ、いや、カズキ様こそが、予言にあったモンスターを倒す者。ならば一刻も早く、この世界のどこかにあるという第0コロニーで眠りについている、竜神様に会って頂かなければ。我々では見つけられない場所でも、彼らなら必ずや見つけてくれるだろう」
「では早速、カズキ様のパーティ―に依頼を出しましょう。彼らは今何処に?」
「・・・・・・えーと」
秘書の質問に、何故か目を逸らすレオン。
「どうした?」
それを訝しんだルノセルが追及すると、レオンは明後日の方を向いたまま、
「・・・・・・した」
ボソッとそう呟いた。
「? すまない、聞こえなかったので、もう一回行ってくれないか?」
「・・・・・・帰りました。『食材が尽きたらまた来る』と言って、魔法で『門』のようなものを創り出し、それを潜って姿を消しました」
「・・・・・・つまり、カズキ様は自由に世界を渡る能力を持っていると?」
「恐らく」
「・・・・・・各支部長に連絡だ。次にカズキ様が姿を現したら、最寄りの探索者ギルドに案内するよう、全探索者に捜索依頼を出すように、と」
「畏まりました」
カズキに関わった人間特有の、達観した表情を浮かべたルノセルの命令に、同じ表情を浮かべたアンナは頷き、執務室を退室した。
カズキ達が異世界より帰還してから二日後。ランスリード魔法学院の二回目の定期試験が行われる日になった。
「これより、第二回定期試験を開始する! 各員、担当の者からマジックアイテムを受け取り、受け取ったパーティからダンジョンの中へ入れ!」
教員の指示に従い、この日の為に用意されたダンジョンの入り口へと、学院生達が歩を進める。
ラクト、コエン、タゴサクのパーティも、それぞれにマジックアイテムを受け取り、ダンジョンへ入場。
「「・・・・・・ここは?」」
そして、いきなり遭難した。
「先に入場したパーティの姿が見えない。それどころか、作成したマップにこんな広い空間はなかった。これでは現在地もわからん」
「やられたね。カズキが教員側に回った時点で予想しておくべきだった。多分、【テレポート】でどこかの部屋に飛ばされたんだ」
「そういう事か。きっとこの部屋も、魔法で空間を広げているんだろう」
「そうだね。だからマップもそのまま使える筈だ。まずはここが何処なのか、確定する事から始めようか」
カズキの非常識に慣れているコエンとラクトは、即座に切り替えてこれからの方針を立て始める。
タゴサクはその間、周囲の警戒をしていた。
パーティを結成してからの三週間、何度か三人で依頼を受け、連携を確認していたのだが、その際にタゴサクが極度の方向音痴だという事が発覚し、それ以降、マップを見るのはラクトとコエン、タゴサクは二人の護衛と周囲の警戒という分担に決まったからだ。
「そうだな。問題は、どの方向に進むかという事だが」
そう言って広間を見回すコエン。質の悪い事に、彼らがいる部屋からは四方へと道が伸びていた。
「そこはもう勘で行くしかないね。とはいえ方角だけは調べておかないと」
ラクトはそう言って『次元ポスト』からコンパスを取り出し、そして絶句した。
「ラクト?」
「どうしたんだべか?」
それを不審に思った二人がラクトの手元をのぞき込むと、彼が絶句している理由がわかった。
「物凄い速さでグルグル回ってるな」
「これじゃあ、方角なんてわからねえべ」
「・・・・・・仕方ない。面倒だけど、マッピングしながら行こう」
このダンジョンを創った、底意地の悪い人間達の姿を思い浮かべながら、再び『次元ポスト』を開き、ノートとペンを取り出すラクト。そのついでに役に立たなくなったコンパスをしまおうとして、ラクトは再び絶句した。
「どうした?」
「・・・・・・収納できない」
「何がだべ?」
「『次元ポスト』! 取り出せるけど収納できない!」
「何だと!」
ラクト達は一つ十キロの金属の球体を運ぶにあたり、『次元ポスト』を活用しようと考えていた。
タゴサクはともかく、ひ弱な魔法使い二人には、十キロの重りを持って移動したり、まして戦闘など出来ないと考えていたからだ。
「そりゃあ、何でも持ち込み自由な筈だよ! 最初から『次元ポスト』を使用不能にするつもりだったんだから!」
「落ち着け、ラクト。ルールを見た時から、生易しい試験じゃないとわかっていた筈じゃないか」
「・・・・・・ごめん、取り乱した。そうだよね。カズキが関わってるんだもんね」
「ああ。むしろ、早い段階で気付けて良かったと思った方がいい」
コエンはそう言って杖を構える。この広間へと続く道の一つから、物音が聞こえてきたからだ。
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