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第百五十四話 パーティ決定
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「事前にダンジョンの構造を確認に来たのはラクト達だけか。別に、試験前にダンジョンに入るななんて言ってないんだけどな」
学院長室で、ダンジョンの入り口に設置してあるマジックアイテムからの映像を見ながら、カズキが呟いた。
「高を括っているのだろう。目ぼしい依頼がない時は、学院ダンジョンで魔物と戦う生徒も多いからな」
カズキの言葉に答えたのは、この部屋の主であるジュリアンだ。
「内部の構造を知ってるから大丈夫だって事か?」
「多分な。ダンジョンの構造が変化しているとは、夢にも思っていないのだろう」
「性格悪いな~。この試験の為に、敢えて今まで構造を弄らなかった癖に」
「勿論、油断を誘う為と言うのはある。だが、今までとは違い、一ヵ月前から試験の情報を公開しているのだ。その事を不審に思い、ダンジョンの下調べ位はしてくれると期待していたんだがな」
その期待に応えたのは、学院でもトップクラスの実力を誇るラクトたちだけだった事に、ジュリアンは失望の色を浮かべる。
「仕方ないんじゃねえの? 今学院にいるのは、大半が貴族のボンボンなんだろ?」
「そうなんだが・・・・・・。はぁ・・・・・・」
「ため息を吐いても奴らダンジョンにはいかねえぞ? とはいえこのままだと攻略出来るのがラクト達だけになる。それだと試験をする意味もないし、なによりつまらない。いっそ、こっちからアナウンスして、ダンジョンの下調べをするように仕向けるか?」
「・・・・・・それしかないか。折角罠や魔物を揃えても、序盤でリタイアされたら苦労した甲斐がない。明日から二週間、ダンジョンを開放すると、大々的に告知するか」
告知されてからダンジョンの探索を始めた生徒たちを余所に、一週間しっかりと下調べをしたラクト達は、次の段階へと進もうとしていた。
「さて、ダンジョンの共通ルートの構造と、罠の位置は大体把握した。これ以上は告知のせいで増えた学生たちで混雑するだろうから、効率も悪くなるだろう」
「そうだね」
コエンの言葉にラクトが頷く。他の三人も異論はないようだ。
「そこで、後回しにしていたパーティ編成をしたいと思う」
「そうですね。そろそろ決めないといけません。大きな問題が一つありますが・・・・・・」
「五人しかいませんものね」
マイネの言う大きな問題。それは、フローネが指摘した通り、人数が五人しかいないという事だ。
カズキが運営側に回ってしまったので、二人組になった方は早急に残る一人を確保しなければならない。必ず三人一組で参加する事、と申請用紙に書かれているからだ。
ならば最初に一人確保しておけばいいと思うかも知れないが、現在学院に残っているのはカズキ曰くボンボンばかり。どう考えても足を引っ張られてリタイアという未来しか見えないので、学院で依頼を受けて、積極的に外に出ている人間――ボンボンでもマシな人達。主にランキング上位者――を勧誘しようと決めていたのだ。
「では始めよう。運悪く二人組になっても、恨みっこなしだ」
コエンの言葉に皆が頷き、それぞれが飛び退って戦闘態勢に移る。かと思いきや、それぞれに奇妙な事を始めた。
「「「「・・・・・・」」」」
ラクトとコエンは両手を交差させて組んでひねり、両手の隙間を覗き、エスト、マイネ、フローネの三人は、手の甲の真ん中あたりを人差し指で押し上げ、出来たシワの数を数えた。
その状態で静止したまま一分が過ぎ、二分が過ぎようとしたその時、状況に変化が起こる。
「「見えたっ!」」
「この勝負、貰った!」
「「私の勝ちは揺るぎません!」」
不敵な笑みを浮かべた五人が全く同時に声を上げ、右手を振り上げる。
「「「「「最初はグー! ジャンケンポンッ!」」」」」
そう、彼らはじゃんけんでチームを決めていたのだ。
「「ああっ!」」
「「勝ちました!」」
「フッ、これが俺の実力だ」
勝負は一瞬で決まった。その結果、魔法戦士、剣士、神官戦士という攻防共にバランスの取れたパーティと、魔法使い、魔法使いという実にバランスの悪い組み合わせに分かれた。
「久しぶりだな、ブレン。良ければ私たちと一緒に試験を受けないか?」
「悪い。もうパーティを組んだ後だ」
「そうか・・・・・・」
三人体制での連携を深めようと、手頃な依頼を受けた三人を見送ったコエンとラクトは、学院のギルドで依頼の達成報告に来た、これはと思う人材に声を掛けていた。
「また駄目か。ここで待っていれば、試験の事を知らない生徒の一人や二人は見つかると思ったんだが」
出来るだけ多くの学院生に参加してもらいたかったジュリアンは、街の、生徒たちが立ち寄りそうな場所にポスターを貼りまくった。
その結果、ラクトとコエンが求める優秀な前衛は、既にパーティを組んでしまっていたのだ。
「どうする? 後は手当たり次第に声を掛けるしか手はないけど」
二人に試験を受けないという選択肢はなかった。何故なら、今回の試験は冒険者ギルドも一枚噛んでいて、結果次第ではランクが上がる可能性もあるからだ。
勿論、目指すのはSランクである。カズキが関わっている時点で、Aランクの魔物の出現も――Aランクの魔物と一対一で戦って、見事に倒す事が出来れば、Sランクに昇格する事が出来る――予想されるからだ。
「・・・・・・今日一日だけ粘ってみよう。駄目なら止むを得まい」
それからも二人は声掛けを続けるが、結果は空振りに終わる。
「駄目だったね・・・・・・」
「仕方ないさ。クリアは諦めて、Aランクの魔物の許に辿り着く方法を考えよう」
気持ちを切り替え、如何に同行者を守るかを考え始める二人。
「ん?」
「どうした?」
「ねえ、あそこを歩いてるのって・・・・・・」
だが、天は二人を見捨ててはいなかった。彼らの進行方向に、見覚えのある黒髪の少年――そう、勇者の末裔であるタゴサクが歩いていたからだ。
学院長室で、ダンジョンの入り口に設置してあるマジックアイテムからの映像を見ながら、カズキが呟いた。
「高を括っているのだろう。目ぼしい依頼がない時は、学院ダンジョンで魔物と戦う生徒も多いからな」
カズキの言葉に答えたのは、この部屋の主であるジュリアンだ。
「内部の構造を知ってるから大丈夫だって事か?」
「多分な。ダンジョンの構造が変化しているとは、夢にも思っていないのだろう」
「性格悪いな~。この試験の為に、敢えて今まで構造を弄らなかった癖に」
「勿論、油断を誘う為と言うのはある。だが、今までとは違い、一ヵ月前から試験の情報を公開しているのだ。その事を不審に思い、ダンジョンの下調べ位はしてくれると期待していたんだがな」
その期待に応えたのは、学院でもトップクラスの実力を誇るラクトたちだけだった事に、ジュリアンは失望の色を浮かべる。
「仕方ないんじゃねえの? 今学院にいるのは、大半が貴族のボンボンなんだろ?」
「そうなんだが・・・・・・。はぁ・・・・・・」
「ため息を吐いても奴らダンジョンにはいかねえぞ? とはいえこのままだと攻略出来るのがラクト達だけになる。それだと試験をする意味もないし、なによりつまらない。いっそ、こっちからアナウンスして、ダンジョンの下調べをするように仕向けるか?」
「・・・・・・それしかないか。折角罠や魔物を揃えても、序盤でリタイアされたら苦労した甲斐がない。明日から二週間、ダンジョンを開放すると、大々的に告知するか」
告知されてからダンジョンの探索を始めた生徒たちを余所に、一週間しっかりと下調べをしたラクト達は、次の段階へと進もうとしていた。
「さて、ダンジョンの共通ルートの構造と、罠の位置は大体把握した。これ以上は告知のせいで増えた学生たちで混雑するだろうから、効率も悪くなるだろう」
「そうだね」
コエンの言葉にラクトが頷く。他の三人も異論はないようだ。
「そこで、後回しにしていたパーティ編成をしたいと思う」
「そうですね。そろそろ決めないといけません。大きな問題が一つありますが・・・・・・」
「五人しかいませんものね」
マイネの言う大きな問題。それは、フローネが指摘した通り、人数が五人しかいないという事だ。
カズキが運営側に回ってしまったので、二人組になった方は早急に残る一人を確保しなければならない。必ず三人一組で参加する事、と申請用紙に書かれているからだ。
ならば最初に一人確保しておけばいいと思うかも知れないが、現在学院に残っているのはカズキ曰くボンボンばかり。どう考えても足を引っ張られてリタイアという未来しか見えないので、学院で依頼を受けて、積極的に外に出ている人間――ボンボンでもマシな人達。主にランキング上位者――を勧誘しようと決めていたのだ。
「では始めよう。運悪く二人組になっても、恨みっこなしだ」
コエンの言葉に皆が頷き、それぞれが飛び退って戦闘態勢に移る。かと思いきや、それぞれに奇妙な事を始めた。
「「「「・・・・・・」」」」
ラクトとコエンは両手を交差させて組んでひねり、両手の隙間を覗き、エスト、マイネ、フローネの三人は、手の甲の真ん中あたりを人差し指で押し上げ、出来たシワの数を数えた。
その状態で静止したまま一分が過ぎ、二分が過ぎようとしたその時、状況に変化が起こる。
「「見えたっ!」」
「この勝負、貰った!」
「「私の勝ちは揺るぎません!」」
不敵な笑みを浮かべた五人が全く同時に声を上げ、右手を振り上げる。
「「「「「最初はグー! ジャンケンポンッ!」」」」」
そう、彼らはじゃんけんでチームを決めていたのだ。
「「ああっ!」」
「「勝ちました!」」
「フッ、これが俺の実力だ」
勝負は一瞬で決まった。その結果、魔法戦士、剣士、神官戦士という攻防共にバランスの取れたパーティと、魔法使い、魔法使いという実にバランスの悪い組み合わせに分かれた。
「久しぶりだな、ブレン。良ければ私たちと一緒に試験を受けないか?」
「悪い。もうパーティを組んだ後だ」
「そうか・・・・・・」
三人体制での連携を深めようと、手頃な依頼を受けた三人を見送ったコエンとラクトは、学院のギルドで依頼の達成報告に来た、これはと思う人材に声を掛けていた。
「また駄目か。ここで待っていれば、試験の事を知らない生徒の一人や二人は見つかると思ったんだが」
出来るだけ多くの学院生に参加してもらいたかったジュリアンは、街の、生徒たちが立ち寄りそうな場所にポスターを貼りまくった。
その結果、ラクトとコエンが求める優秀な前衛は、既にパーティを組んでしまっていたのだ。
「どうする? 後は手当たり次第に声を掛けるしか手はないけど」
二人に試験を受けないという選択肢はなかった。何故なら、今回の試験は冒険者ギルドも一枚噛んでいて、結果次第ではランクが上がる可能性もあるからだ。
勿論、目指すのはSランクである。カズキが関わっている時点で、Aランクの魔物の出現も――Aランクの魔物と一対一で戦って、見事に倒す事が出来れば、Sランクに昇格する事が出来る――予想されるからだ。
「・・・・・・今日一日だけ粘ってみよう。駄目なら止むを得まい」
それからも二人は声掛けを続けるが、結果は空振りに終わる。
「駄目だったね・・・・・・」
「仕方ないさ。クリアは諦めて、Aランクの魔物の許に辿り着く方法を考えよう」
気持ちを切り替え、如何に同行者を守るかを考え始める二人。
「ん?」
「どうした?」
「ねえ、あそこを歩いてるのって・・・・・・」
だが、天は二人を見捨ててはいなかった。彼らの進行方向に、見覚えのある黒髪の少年――そう、勇者の末裔であるタゴサクが歩いていたからだ。
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