リタイア賢者の猫ファーストな余生

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第百五十話 ラウムドラゴンの目覚め

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「いやー、豊作だな!」
「ミャー♪」
「ですね!」
「だな!」

 上機嫌なカズキの言葉に同意したのは、やはり上機嫌なクレア、フローネ、アルフレッドの三人。
 ランスリードにいた筈の彼らがここにいる理由は、カズキにも見覚えがない魔物が多数出現したためだった。
 取り敢えず捕獲したものの、それが食材なのか否かの判断はカズキには出来ない。そこで、料理人であるアルフレッドと、『魔物の匂いを嗅ぐだけで食用か否かを判別する』という特技を持つクレアを呼びにいったところ、宴会参加者全員がついてきてきてしまったのだ。
 ちなみに、最初にクリスとアーネストが遭遇した、『門』の集中的な発生からは既に一週間が経っている。
 今は休憩中で、発生する『門』を魔物毎【アイギス】で閉じ込め、新しく食材として追加された魔物の肉を食べていたところだ。
 
「お? 『門』の発生が止まったな。ロイスの時も吹雪が止まった直後だったし、ファイアドラゴン家畜の時も火柱が止まった直後だったから、そろそろ覚醒か?」
『うむ。もう間もなくであろう』

 ロイスに肯定されて、カズキが(恐らくは)最後の『門』と魔物を、【ラグナロク】で消し去る。

「・・・・・・そういえば聞いてなかったな。ラウムドラゴンのエリアっていう奴は、どんなドラゴンなんだ? 敵対する可能性はあるのか?」

 そして、今更のようにラウムドラゴンについて質問した。

『・・・・・・フレイのように、人や同族を襲って喰うという事はない。じゃが――』
「「「「「じゃが?」」」」」
「「「「ミャー?」」」」

 言葉を濁すロイスの様子に、期待の眼差しを向ける人間と猫たち。
 自身の口から一言『敵』という単語が出れば、ドラゴン肉の魅力に憑りつかれた彼らは、躊躇いもなくエリアを食材と見做すだろう。
 種の保存の為、そして、それだけは何としても避けたいロイスは、慎重に言葉を選んで説明を始めた。

『少し。そう、ほんの少ーーーーーしだけじゃが気難しい所があってな? いや、根は悪い奴じゃないんじゃ。じゃが、ちょっとばかし――いやもう、ホントにちょびっとだけなんじゃよ? 人間を見下しているところがあってな?」
「「「「「ほほう?」」」」」
「「「「ニャウー?」」」」
『じゃから、最初は儂に任せてくれんか? きちんと説明すれば、エリアもきっと協力してくれると思うのじゃ。じゃから頼む!』

 エリアを擁護する発言をすればするほど笑顔になっていく人間たちの様子から、自分の話が全く信じられていない事に気付いたロイスは、自身がエリアを説得するから、それまで手を出さないで欲しいという方向に話の舵を切る事にした。
  
「・・・・・・どう思う?」

 クリスのそれを真似たのか、キレイな土下座を決めているロイスを見て、カズキがジュリアンを振り返る。

「任せていいんじゃないか? 話を聞く限り可能性は低そうだが、どっちに転んでも我々に損はないしな」
「それもそうか。じゃあエリアの説得はロイスに任せる。勿論、俺達に手を出すような事があったら、その限りじゃないけどな」
『助かる!』

 礼を言ったロイスがフワリと浮き上がると、人間形態から本来の姿ドラゴンに戻り、『真・アーネスト号EX』の遥か頭上から海中をじっと睨んだ。

「ん? どうして海の中を見詰めてるんだろう?」
「海中で休眠していたからだ。どうやらエリアというドラゴンは水龍のようだな」
「そうなの? なんかイメージと違うなぁ」

 ラクトの疑問にカズキが答えていると、何の前触れもなく、突然海に変化が起こった。
 『真・アーネスト号EX』を取り囲むような形で、六本の水柱が天に向かって噴き上がったのだ。
 
「おおーっ!」
「これは・・・・・・、凄いな」
「そうね。水柱の一本一本から、濃密な魔力を感じるわ」
「綺麗ですね!」 
『・・・・・・むう』

 見物人が歓声を上げる中、ロイスは不機嫌そうな唸り声を上げる。事態が最悪の方向へと向かい始めた事に気付いたからだ。

「ねえカズキ。これってどう考えてもよね?」
「うん。間違いなくこの船を狙ってたな。だけどまあ、ロイスが防いだから大目に見よう。何か事情がありそうだし」

 本来ならば、六本の水柱は『真・アーネスト号EX』に直撃する筈だった。それが外れたのは、ロイスが魔法を使って『真・アーネスト号EX』を守ったからである。
 カズキはその行為に免じて、今回だけは養殖場送りを見送ったのだ。
 そんな事を知らない観客達は、突然始まったショーに大興奮している。

「あっ! 水柱が一つになっていく!」

 今は誰かが指摘した通り、『真・アーネスト号EX』を逸れた水柱が空中の一点に集まっていくところだった。

「「「「「「・・・・・・ゴクリ」」」」」」

 それはやがてシーサーペントに似た、細長い形の何かを模っていき――、形が定まった途端に爆発。
 後に残ったのは、細長い胴体に四肢と立派な角を備えた、シーサーペントとは似ても似つかない、神々しい姿をした存在だった。
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