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第百四十六話 ドラゴン肉(生)の効果
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『ヒャハハハハ! 油断したな! 人間!』
これまでの恨みを晴らす為なのか、カズキがいる場所へ向けて、立て続けに魔法を打ち込むフレイが高笑いを上げる。
四肢と翼を捥がれている為、いまいち恰好が付いていないが、フレイは気にする様子もない。そんな事よりも、復讐出来た喜びの方が勝っているからだ。
『まさか、人間如きに奥の手を使う事になるとは思わなかったが、手加減した魔法では倒す事は叶わなかっただろう。唯一の心残りは喰えない事だったが・・・・・・。なに、変わりはいる』
フレイの視線の先には、彼が片手間で放った炎の檻から、必死に脱出しようとしているロイスの姿があった。
同族や魔力の高い人間を殺して喰らう事を繰り返している内に、能力が上がったり、傷を癒したりする能力をいつの間にか身に着けていたフレイは、得体の知れない攻撃で受けたダメージを回復する為に、カズキへ攻撃する傍らで、ロイスへも魔法を放っていたのだ。
ここでロイスを喰って回復できなければ、また休眠する事になってしまうからである。
『・・・・・・ちっ、体が思うように動かん』
身動きが取れないロイスを喰らおうとフレイが移動を始める。彼我の距離は精々三十メートル程だったが、四肢と翼を失ったフレイが移動しようと思えば、蛇の様に体をくねらせて這いずる位しか方法がない。
『リントヴルム』や、格上のドラゴンと戦った時でさえ、翼か四肢のどちらかは残っていたので、移動にここまで苦労したのは初めての経験だった。
『ハァ・・・・・・、ハァ・・・・・・』
端から見れば、のたうち回っているだけに見えたフレイが、炎の檻に捕らわれているロイスの許に辿り着くのに要した時間は一分。その頃には慣れない事をした疲れと、体中の傷が痛むせいで、息も絶え絶えになっていた。
『クッ!』
そんなフレイを近寄らせまいと、魔法を放つロイス。喰われるのは御免なので、ロイスも必死である。
『・・・・・・』
だが、休眠へのカウントダウンが始まっているフレイは、ロイスを喰ってダメージを回復する事だけを考えているのか、魔法によるダメージを無視して大口を開ける。
『グギャアアアアアアアアアア!』
そして、残された力を振り絞って、ロイスへ飛び掛かろうとしたその時、再び大きな悲鳴を上げた。
『なッ!』
フレイが悲鳴を上げるのと同時に魔法を維持する意思が失われたため、炎の檻が消えた。お陰で一息付けたロイスが、フレイが悲鳴を上げた原因を探ろうと周囲を見回すと、炎に飲まれた筈のカズキ達の姿を見つける。
ロイスが驚きの声を上げたのは、カズキ達が無傷だった事に対してだった。
『なっ、何故っ・・・・・・!?』
カズキを始末できたと思い込んでいたフレイも驚愕し、それ以上に恐怖していた。これ以上ない、完璧なタイミングでの不意打ちすら通用しなかった事で、ようやくカズキが普通の魔法使いではないと気付いたのだ。
「ん? 何のことだ?」
だが、当のカズキは二頭のドラゴンが驚いている理由に心当たりがなかった。
ファイアドラゴンであるフレイが目覚めた時、急激に上昇した気温に不快感を覚えたので、自分とクレア、ナンシーには熱や炎から身を守る魔法を掛けていたのだ。物凄い勢いで走ってくるフローネにも同様に。
カズキからすればフレイ渾身の魔法も気温上昇と大差がないので、フレイが魔法を使った事にも気付かなかったというのが真相になる。
尚、ロイスにもこの魔法が掛かっていれば、炎の檻に閉じ込められる事は無かったのだが、彼は気温が上昇しても平然としていたので、カズキは魔法を掛けなかった。
そのお陰でロイスは死にかけたのだが、カズキが魔法を使った事にも気付かなかったロイスの目には、フレイの魔法を間一髪防いだカズキが、喰われる直前で助けてくれたのだと映った。
実際には、『ワイバーンの生肉で魔力が増えたんだから、ドラゴンだとどうなるんだろう?』という疑問を抱いたフローネが、カズキに頼んで生肉を確保してもらっただけなのだが。世の中には知らない方が幸せな事もあるのだ。
「【キュアポイズン】!」
カズキと二頭のドラゴンが意思の疎通を取れずに困惑している中、食欲に忠実なフローネの声が高らかに響き渡る。
「パクッ」
そして、手にした生肉を躊躇せず口に入れた。
「・・・・・・どうだ?」
モグモグと咀嚼しているフローネに、好奇心が勝ったのか、ドラゴン二頭の事をあっさりと放り出したカズキが声を掛ける。
「美味しいです!」
「そうか、それは良かったな。それで? 肝心の効果の方はどうだ? ワイバーン同様、魔力が増えたのか?」
「うーん。そうですねえ・・・・・・」
カズキに言われて当初の目的を思い出したフローネが、腕を組み、目を閉じて考えだした。何故か二枚目の生肉も口に放り込み、再びモグモグやってもいたが。
「あれ?」
その様子をジッと見守りながら、クレアが求めるままに肉を焼いていたカズキが(←見守ってない)、先にフローネに生じた異変に気付いた。
「なあ、魔力が回復してないか?」
「言われてみれば! 味に浸っていて、全然気づきませんでした!」
考える事すらしていなかったと暴露したフローネが、カズキの言葉に目を開ける。
どうせそうだろうと思っていたカズキは、その事を指摘しなかった。
「これが一口目だけの事なのか、検証する必要があるな。フローネ、適当に魔法を使ってみてくれ」
「わかりました! 【コンプリート・キュア』! 【リペア】!」
「何故か火傷しているロイスを治すのはわかるが、トカゲを治したのは・・・・・・。まぁ、物足りなかったんだろうな。冷凍だと微妙に味が落ちるし」
聞くまでもなく理解したカズキは、魔法を使った直後に生肉を口に放り込んだフローネを注視する。
その結果わかったのは、生肉を食べれば、何度でも魔力が回復するという事だった。
これまでの恨みを晴らす為なのか、カズキがいる場所へ向けて、立て続けに魔法を打ち込むフレイが高笑いを上げる。
四肢と翼を捥がれている為、いまいち恰好が付いていないが、フレイは気にする様子もない。そんな事よりも、復讐出来た喜びの方が勝っているからだ。
『まさか、人間如きに奥の手を使う事になるとは思わなかったが、手加減した魔法では倒す事は叶わなかっただろう。唯一の心残りは喰えない事だったが・・・・・・。なに、変わりはいる』
フレイの視線の先には、彼が片手間で放った炎の檻から、必死に脱出しようとしているロイスの姿があった。
同族や魔力の高い人間を殺して喰らう事を繰り返している内に、能力が上がったり、傷を癒したりする能力をいつの間にか身に着けていたフレイは、得体の知れない攻撃で受けたダメージを回復する為に、カズキへ攻撃する傍らで、ロイスへも魔法を放っていたのだ。
ここでロイスを喰って回復できなければ、また休眠する事になってしまうからである。
『・・・・・・ちっ、体が思うように動かん』
身動きが取れないロイスを喰らおうとフレイが移動を始める。彼我の距離は精々三十メートル程だったが、四肢と翼を失ったフレイが移動しようと思えば、蛇の様に体をくねらせて這いずる位しか方法がない。
『リントヴルム』や、格上のドラゴンと戦った時でさえ、翼か四肢のどちらかは残っていたので、移動にここまで苦労したのは初めての経験だった。
『ハァ・・・・・・、ハァ・・・・・・』
端から見れば、のたうち回っているだけに見えたフレイが、炎の檻に捕らわれているロイスの許に辿り着くのに要した時間は一分。その頃には慣れない事をした疲れと、体中の傷が痛むせいで、息も絶え絶えになっていた。
『クッ!』
そんなフレイを近寄らせまいと、魔法を放つロイス。喰われるのは御免なので、ロイスも必死である。
『・・・・・・』
だが、休眠へのカウントダウンが始まっているフレイは、ロイスを喰ってダメージを回復する事だけを考えているのか、魔法によるダメージを無視して大口を開ける。
『グギャアアアアアアアアアア!』
そして、残された力を振り絞って、ロイスへ飛び掛かろうとしたその時、再び大きな悲鳴を上げた。
『なッ!』
フレイが悲鳴を上げるのと同時に魔法を維持する意思が失われたため、炎の檻が消えた。お陰で一息付けたロイスが、フレイが悲鳴を上げた原因を探ろうと周囲を見回すと、炎に飲まれた筈のカズキ達の姿を見つける。
ロイスが驚きの声を上げたのは、カズキ達が無傷だった事に対してだった。
『なっ、何故っ・・・・・・!?』
カズキを始末できたと思い込んでいたフレイも驚愕し、それ以上に恐怖していた。これ以上ない、完璧なタイミングでの不意打ちすら通用しなかった事で、ようやくカズキが普通の魔法使いではないと気付いたのだ。
「ん? 何のことだ?」
だが、当のカズキは二頭のドラゴンが驚いている理由に心当たりがなかった。
ファイアドラゴンであるフレイが目覚めた時、急激に上昇した気温に不快感を覚えたので、自分とクレア、ナンシーには熱や炎から身を守る魔法を掛けていたのだ。物凄い勢いで走ってくるフローネにも同様に。
カズキからすればフレイ渾身の魔法も気温上昇と大差がないので、フレイが魔法を使った事にも気付かなかったというのが真相になる。
尚、ロイスにもこの魔法が掛かっていれば、炎の檻に閉じ込められる事は無かったのだが、彼は気温が上昇しても平然としていたので、カズキは魔法を掛けなかった。
そのお陰でロイスは死にかけたのだが、カズキが魔法を使った事にも気付かなかったロイスの目には、フレイの魔法を間一髪防いだカズキが、喰われる直前で助けてくれたのだと映った。
実際には、『ワイバーンの生肉で魔力が増えたんだから、ドラゴンだとどうなるんだろう?』という疑問を抱いたフローネが、カズキに頼んで生肉を確保してもらっただけなのだが。世の中には知らない方が幸せな事もあるのだ。
「【キュアポイズン】!」
カズキと二頭のドラゴンが意思の疎通を取れずに困惑している中、食欲に忠実なフローネの声が高らかに響き渡る。
「パクッ」
そして、手にした生肉を躊躇せず口に入れた。
「・・・・・・どうだ?」
モグモグと咀嚼しているフローネに、好奇心が勝ったのか、ドラゴン二頭の事をあっさりと放り出したカズキが声を掛ける。
「美味しいです!」
「そうか、それは良かったな。それで? 肝心の効果の方はどうだ? ワイバーン同様、魔力が増えたのか?」
「うーん。そうですねえ・・・・・・」
カズキに言われて当初の目的を思い出したフローネが、腕を組み、目を閉じて考えだした。何故か二枚目の生肉も口に放り込み、再びモグモグやってもいたが。
「あれ?」
その様子をジッと見守りながら、クレアが求めるままに肉を焼いていたカズキが(←見守ってない)、先にフローネに生じた異変に気付いた。
「なあ、魔力が回復してないか?」
「言われてみれば! 味に浸っていて、全然気づきませんでした!」
考える事すらしていなかったと暴露したフローネが、カズキの言葉に目を開ける。
どうせそうだろうと思っていたカズキは、その事を指摘しなかった。
「これが一口目だけの事なのか、検証する必要があるな。フローネ、適当に魔法を使ってみてくれ」
「わかりました! 【コンプリート・キュア』! 【リペア】!」
「何故か火傷しているロイスを治すのはわかるが、トカゲを治したのは・・・・・・。まぁ、物足りなかったんだろうな。冷凍だと微妙に味が落ちるし」
聞くまでもなく理解したカズキは、魔法を使った直後に生肉を口に放り込んだフローネを注視する。
その結果わかったのは、生肉を食べれば、何度でも魔力が回復するという事だった。
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