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第百四十話 『リントヴルム』
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「「アレ?」」
ドラゴンに見つめられた姉弟が、異口同音に同じ言葉を発する。
『うむ。それはある日突然、空間に生じた裂け目より現れた』
「空間に生じた裂け目? それって・・・・・・」
ドラゴンの話を聞いて、エルザが思わずといった感じで呟く。
『む? 心当たりがあるのか?』
「ええ。私たちは『門』と呼んでいるわ」
『ふむ、言い得て妙じゃな。それはともかくとして、『門』より現れたのは、九つの首を持つ大蛇じゃった』
「ヒュドラね」
『そうじゃ。王都に突然生じた『門』より現れた奴らは、たった一晩で数千人もの命を飲み込んだ。知っているとは思うが、奴らに魔法が効かなかったからじゃ』
「それで!? その後はどうなったんですか!?」
黙って話を聞いていたフローネが、突然声を上げた。当然だが、その手にはノートとペンが握られている。
『ヒュドラに蹂躙されて、その国は滅んだ。奴らに魔法が効かないとわかったのはその時じゃたらしい。何しろ、奴らが滅ぼした国は、魔法の研究が最も進んでいた国だったからの』
「そんな事があったのですね!」
『うむ。・・・・・・国を一つ滅ぼしたヒュドラどもは、そこから一番近い国へと移動した。そこは滅びた国とは反対に、武に力を入れている国での。世界樹の実を加工した武具も豊富に取り揃えていたので、魔法が効かないヒュドラを討伐出来ると期待されておった。じゃが・・・・・・』
武に力を入れているとは言っても、クリスやカズキのような、人間を止めているとしか思えないような存在がいなかったため、やはりあっさりとその国も滅ぼされてしまったという。
唯一の戦果は首を一つ落とした事だった。だが、落とされても死なないどころか、傷口から新たに二つの首が生えてきた上に、何故か強くなってしまった事から、『倒すのが無理なら封印じゃね?』と各国の王は判断したらしい。
「・・・・・・つまり、貴方はそのヒュドラを倒せる人間が現れるのを待っていたって事?」
ヒュドラを瞬殺したカズキを見ながら、エルザがドラゴンに問いかける。
『そうじゃ、と言いたいところじゃが、残念ながら違う。そもそも普通のヒュドラじゃったら、儂らエルダードラゴンにとっては大した敵ではないからのう』
「でしょうね。なら、相手は一体なんなの?」
エルザはヒュドラと対峙した経験から、目の前のドラゴンの方が遥かに強い事に気付いていた。
『ヒュドラが進化した存在じゃ』
「進化? ヒュドラって進化するの?」
『正確には蟲毒と言うべきかの。・・・・・・散々暴れていくつかの国を滅ぼしたヒュドラじゃったが、各国の王も無策だった訳ではない。封印する魔法を開発する間、これ以上の被害が出ぬように、奴らが手出しできない空中都市に民を避難させたのじゃ。幸いと言っては何じゃが、ヒュドラによって壊滅的な被害を受けていたお陰で、生き残りの人間を収容する事が可能じゃったからな』
「空中都市! 今も残っているんでしょうか!?」
ドラゴンの話を凄まじい速度で書き留めていたフローネが、ロマン溢れる単語に手を止める。
ちなみにだが、フローネとエルザ以外のメンバーは、ドラゴンの存在感に圧倒されたのか、未だに口を開いていない。
例外はカズキとカリムである。カズキはいつも通り猫と戯れているが、カリムは一味違った。ドラゴンが大人しいのを良い事に、その体を使ってロッククライミングを敢行していたのである。
『どうかのう。儂が知っている空中都市はアレに滅ぼされてしまったが、他にも幾つかあった筈じゃから、探せば見つかるかもしれんな』
「本当ですか!? ・・・・・・あれ? アレって、ヒュドラが進化した存在って話じゃありませんでした?」
『・・・・・・話が逸れてしまったな。地上から人間がいなくなったヒュドラ共は、その場で殺し合いを始めた。元々個体の力が強いヒュドラは、群れる事はないからの』
「・・・・・・そうみたいね」
異世界を探索していた時、個体によって首の本数がまちまちだったのを実際に見ているエルザは、ドラゴンの説明に頷く。
『生命力の強いヒュドラの争いは一年にも及び、図らずも封印の魔法が完成する時間を稼ぐことになった。この事に安堵したのは王たちじゃ。というのも、封印の魔法に必要な世界樹の実は、世界樹ごとヒュドラ共に食われて、一匹封印するだけで精一杯の数しか確保できなかったからじゃ』
「そういえば、ヒュドラはオリハルコン製の『真・アーネスト号』を、私の魔法ごと食べてたわね。・・・・・・もしかしてヒュドラは、魔力を宿した物が好物なの?」
『その通りじゃ。故に、当時の人間が狙われたのじゃろう。さて・・・・・・』
頷いたドラゴンが、不意に声? を低くした。ここからが話の核心だとでも言うように。
『殺し合い、最後の一匹となったヒュドラは、他のヒュドラの屍を貪り始めた。そうして最後の肉片に至るまでを喰らい終えたその時、ヒュドラの体に異変が起こった』
その言葉に、つばを飲み込む一同。
『九つあった首は一つになり、その背からは翼が生えた。・・・・・あろう事か、奴は我らドラゴンとも言える存在に進化してしまったのじゃ』
「「「「「・・・・・・」」」」」
『そして奴は、『リントヴルム』は再び行動を開始した。奴の目的は食欲を満たす事。そして、この世界において最も魔力を多く宿しているのが、儂らドラゴンじゃった』
ドラゴンに見つめられた姉弟が、異口同音に同じ言葉を発する。
『うむ。それはある日突然、空間に生じた裂け目より現れた』
「空間に生じた裂け目? それって・・・・・・」
ドラゴンの話を聞いて、エルザが思わずといった感じで呟く。
『む? 心当たりがあるのか?』
「ええ。私たちは『門』と呼んでいるわ」
『ふむ、言い得て妙じゃな。それはともかくとして、『門』より現れたのは、九つの首を持つ大蛇じゃった』
「ヒュドラね」
『そうじゃ。王都に突然生じた『門』より現れた奴らは、たった一晩で数千人もの命を飲み込んだ。知っているとは思うが、奴らに魔法が効かなかったからじゃ』
「それで!? その後はどうなったんですか!?」
黙って話を聞いていたフローネが、突然声を上げた。当然だが、その手にはノートとペンが握られている。
『ヒュドラに蹂躙されて、その国は滅んだ。奴らに魔法が効かないとわかったのはその時じゃたらしい。何しろ、奴らが滅ぼした国は、魔法の研究が最も進んでいた国だったからの』
「そんな事があったのですね!」
『うむ。・・・・・・国を一つ滅ぼしたヒュドラどもは、そこから一番近い国へと移動した。そこは滅びた国とは反対に、武に力を入れている国での。世界樹の実を加工した武具も豊富に取り揃えていたので、魔法が効かないヒュドラを討伐出来ると期待されておった。じゃが・・・・・・』
武に力を入れているとは言っても、クリスやカズキのような、人間を止めているとしか思えないような存在がいなかったため、やはりあっさりとその国も滅ぼされてしまったという。
唯一の戦果は首を一つ落とした事だった。だが、落とされても死なないどころか、傷口から新たに二つの首が生えてきた上に、何故か強くなってしまった事から、『倒すのが無理なら封印じゃね?』と各国の王は判断したらしい。
「・・・・・・つまり、貴方はそのヒュドラを倒せる人間が現れるのを待っていたって事?」
ヒュドラを瞬殺したカズキを見ながら、エルザがドラゴンに問いかける。
『そうじゃ、と言いたいところじゃが、残念ながら違う。そもそも普通のヒュドラじゃったら、儂らエルダードラゴンにとっては大した敵ではないからのう』
「でしょうね。なら、相手は一体なんなの?」
エルザはヒュドラと対峙した経験から、目の前のドラゴンの方が遥かに強い事に気付いていた。
『ヒュドラが進化した存在じゃ』
「進化? ヒュドラって進化するの?」
『正確には蟲毒と言うべきかの。・・・・・・散々暴れていくつかの国を滅ぼしたヒュドラじゃったが、各国の王も無策だった訳ではない。封印する魔法を開発する間、これ以上の被害が出ぬように、奴らが手出しできない空中都市に民を避難させたのじゃ。幸いと言っては何じゃが、ヒュドラによって壊滅的な被害を受けていたお陰で、生き残りの人間を収容する事が可能じゃったからな』
「空中都市! 今も残っているんでしょうか!?」
ドラゴンの話を凄まじい速度で書き留めていたフローネが、ロマン溢れる単語に手を止める。
ちなみにだが、フローネとエルザ以外のメンバーは、ドラゴンの存在感に圧倒されたのか、未だに口を開いていない。
例外はカズキとカリムである。カズキはいつも通り猫と戯れているが、カリムは一味違った。ドラゴンが大人しいのを良い事に、その体を使ってロッククライミングを敢行していたのである。
『どうかのう。儂が知っている空中都市はアレに滅ぼされてしまったが、他にも幾つかあった筈じゃから、探せば見つかるかもしれんな』
「本当ですか!? ・・・・・・あれ? アレって、ヒュドラが進化した存在って話じゃありませんでした?」
『・・・・・・話が逸れてしまったな。地上から人間がいなくなったヒュドラ共は、その場で殺し合いを始めた。元々個体の力が強いヒュドラは、群れる事はないからの』
「・・・・・・そうみたいね」
異世界を探索していた時、個体によって首の本数がまちまちだったのを実際に見ているエルザは、ドラゴンの説明に頷く。
『生命力の強いヒュドラの争いは一年にも及び、図らずも封印の魔法が完成する時間を稼ぐことになった。この事に安堵したのは王たちじゃ。というのも、封印の魔法に必要な世界樹の実は、世界樹ごとヒュドラ共に食われて、一匹封印するだけで精一杯の数しか確保できなかったからじゃ』
「そういえば、ヒュドラはオリハルコン製の『真・アーネスト号』を、私の魔法ごと食べてたわね。・・・・・・もしかしてヒュドラは、魔力を宿した物が好物なの?」
『その通りじゃ。故に、当時の人間が狙われたのじゃろう。さて・・・・・・』
頷いたドラゴンが、不意に声? を低くした。ここからが話の核心だとでも言うように。
『殺し合い、最後の一匹となったヒュドラは、他のヒュドラの屍を貪り始めた。そうして最後の肉片に至るまでを喰らい終えたその時、ヒュドラの体に異変が起こった』
その言葉に、つばを飲み込む一同。
『九つあった首は一つになり、その背からは翼が生えた。・・・・・あろう事か、奴は我らドラゴンとも言える存在に進化してしまったのじゃ』
「「「「「・・・・・・」」」」」
『そして奴は、『リントヴルム』は再び行動を開始した。奴の目的は食欲を満たす事。そして、この世界において最も魔力を多く宿しているのが、儂らドラゴンじゃった』
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