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第百三十八話 雪に閉ざされた村

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「ただいまーって寒っ!」

 デュラハンから始まった、一連の騒動を解決したカズキとエルザは、カリムとリディア、ナンシー、アレンを伴って、三か月ぶりの帰郷を果たしていた。移動は勿論、カズキの【テレポート】である。
 
「ああ、お帰りぃみんな~。どぉうしたんだい? そんな薄着で~。着こまないと風邪を引くよ~?」

 出迎えたのは、アルテミス家の長男であるカインである。彼は、この状況を異常と認識していないようだった。というか酔っぱらていた。

に薄着なのは当たり前でしょ!」

 叫んだエルザが言うように、今は夏だった。山を越えて反対側にある、デュラハンに襲われた村も確かに夏だった。ついでに言うと、ランスリードの王都も、港町リーザも夏である。なのに、このテミス村だけが冬だった。

「夏ぅ? なぁ~にを言っているんだいエルザァ。どこからどう見ても~冬じゃ~ないか~」

 一面銀世界となっているテミス村を示し、手にした酒杯を傾けながらカインが言った。

「そうだけど! ああ、もう! これだから酔っ払いは!」
「まぁまぁ~。とりあえずぅ~、寒いからあがったら~?」

 玄関先で話をしていても埒が明かないので、みんなで家に入った。中には沢山の猫――速攻でカズキに群がったが――と父親であるカイルがいて、カイン同様昼間から酒杯を傾けている。
 
「ひっく。おぉ~お帰り~みんな~。久しぶりじゃ~ないか~」

 そして、カイン同様酔っぱらっていた。

「・・・・・・この調子じゃ話を聞くことも出来ないわね」
「ん? 【キュアポイズン】を掛ければいいんじゃね?」

 父と兄の醜態を見て溜息を漏らすエルザに、カリムが不思議そうな顔をする。その疑問に答えたのは、同じように溜息を吐いていたリディアだった。

「無駄よ。この二人、冬の間は一日中お酒を飲んでいるから。酔いが醒めたからと言って、有益な話を聞けるとは思えないわね」
「それもそっか」

 言われて毎年の事を思い出したのか、カリムも納得した。



 昼食を食べた後、家の掃除を始めたリディアと、幸せそうに猫たちと戯れるカズキを家に残したエルザとカリムは、村に起こった異変の原因を探るべく聞き込みを開始した。
 
「みんな酔っぱらってるな。ねーちゃん」
「そうね。子供たちまで酔っぱらってるのは予想外だったわ・・・・・・」

 そして、早くも暗礁に乗り上げていた。
 大人たちは勿論、成人するまでは酒を禁止されていた子供たちまでもが酒を飲んでいた為、話を聞くことが出来なかったのだ。

「これからどーすんの?」
「そうねぇ・・・・・・。明日になったら子供たちに話を聞きましょうか。【キュアポイズン】を掛けたから、明日の朝には目が覚めている筈だし」
「わかった」

 結局、夕方まで粘っても成果がなかったふたりは、家へ帰ってカズキとリディアが用意していた鍋を食べ、ゆっくりと風呂に入った。
 そして、後は寝るだけとなった時、猛烈な吹雪が村に襲い掛かってきた。

「いきなり吹雪いてきたわね。全然そんな気配はなかったのに」

 ガタガタと音を立てる窓を見てエルザが首を傾げていると、寝そべっていた不意にアレンが立ちあがった。

「ミ゛ャー」
「ん? アレンはこの現象に心当たりがあるのか?」
「ニ゛ャ。ミ゛ャミ゛ャミ゛ャーニ゛ャ。ミ゛ャニ゛ャーニ゛ャ」

 カズキの問いかけに頷いたアレンが、ついでとばかりにそのまま説明をする。とは言っても、アレンの言葉がわかるのはカズキだけなので、最終的にはカズキに視線が集まった。

「カズキ。アレンは何て言ってるの?」
「休眠中のアイスドラゴンが目覚める前兆じゃないかって」
「ドラゴン! そんなのがこの村にいたの!?」
「うん。ドラゴンは覚醒する直前になると、無意識にブレスを吐くらしい」
「・・・・・・要するに、って事? それで村を雪に閉ざすんだから、なかなか迷惑な存在ね。それじゃあ、原因がわかったところで寝ましょうか」
「え? 今から倒しに行くんじゃないの?」

 エルザとカズキの話を聞く横で、何故かストレッチを始めていたカリムがキョトンとした顔で言った。

「戦うのは最後の手段よ。ドラゴンは魔物と違って意思の疎通が出来るから、まずは目覚めるのを待ちましょう」
「そっか。この村が出来る前から、ドラゴンはこの場所にいたんだもんな! わかったよ、ねーちゃん! じゃあお休み!」

 エルザの言いたい事がわかったのか、カリムは素直に引き下がる。
 翌日からは、エルザとカリムが村人たちに原因を説明したり、カズキが雪を溶かしたり、カズキが吹雪を防いだり、カズキが駄目になった畑を復活させたり、カズキが防壁を造ったり(他の村には防壁を造ったのに、故郷には造らないわけ? byエルザ)して、ドラゴンが目覚めるのを待った。
 そして一週間後、遂にその時が来た。そう、ドラゴンが覚醒したのである。
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